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203. 17年と3ヶ月4週目① 準備のさなかの。

 ノゾミの異世界へ渡るドロン術を使ってミノリが前世過ごしていた世界へ渡った日から1週間が経過し、オンヅカ家の面々たちは来週に控えているミノリの前世での妹である秋穂の結婚式に出席するための準備を着々と進めていた。


「この『()()』というのがこっちの世界でいう乗合馬車……」

「そうだよネメ。こっちでは馴染みが薄いけど機械と燃料で動いているんだよ。こっちの世界で例えるなら魔法を動力にする事で馬を使わずに動かせる鉄の馬車……みたいな感じかな」

「成る程、合点がてん


そして今日はトーイラたちが結婚式当日に着ていく服を別室で仕立てている間、先に服を完成させたネメを相手にミノリが秋穂から借り受けた道具を用いてあちらの世界について練習がてら先行して色々教えているまっただ中。


 例えばあちらの世界には魔法が存在しないこと、人は自力では空を飛べないこと、人を襲うモンスターもいないので武器は不要だけれど、田舎なので熊やイノシシのような危険な動物はいるから気をつけなければならないということ。


 それ以外にもバスの乗り方やトイレの使い方など多岐に渡ったが、ネメが特に驚いたのは魔法が存在しないことであった。


「それにしてもお母さんが住んでた世界では魔法が存在しないことは意外だった。危なかった、お母さんにそれを聞かなければ私は絶対に恥辱の限りを尽くしてお母さんの顔に泥を塗りたくった結果、お母さんの悲しみと怒りと泥でお母さんの顔からドロタボウを生み出してしまう所だった」

「……ドロタボウって妖怪の泥田坊? いや、昔確かに読み聞かせで泥田坊の話をした事あるけど、泥田坊はそんな事で生まれないからね……? まぁそれはいいとして次は道路の渡り方ね」


 このようにこちらでは当たり前な魔法があちらの世界では非日常になるものも多く、そういった文化の違いによってみんなが困ったり恥ずかしい目に遭ったり、何かしらの事故や事件に巻き込まれたりしてほしくないという思いがあったからこそミノリは懇切に教える。


 そして今道路の渡り方について教えたところでミノリが考えていた最低限教えるべきことは全て教えたので、ネメにどうだったかを確認する。


「えっとネメ。というわけで私が考えていたみんなに教えるべき事の説明をし終わったんだけど……理解できたかな?」

「もちのろん。お母さんの教え方が丁寧でわかりやすかったというのもあるけど、この『みにかー?』みたいな見本があったのも大助かり。視覚情報の存在は理解の深度を高めるのに大いなる貢献」


「そうだね。私もあってよかったと思うよ。ただでさえみんなはあっちの世界について知らないからイメージしにくいのに、それを私の口頭だけで全て理解するとなったら教える私含めてかなり大変だったかも。秋穂には感謝しとかなくちゃ……」


 また、秋穂が持たせてくれたミニカーやマナー事典、クマ出没注意のチラシに絵入りの百科事典などは、あちらの世界についての情報を視覚的に捉えることができるのもあってミノリも教えやすく、手始めに教わっているネメもミノリの説明に併せて絵や見本があるからこそすんなりと理解できているようであった。


「よし、それじゃ今ネメに説明したようにみんなにも説明すればよさそうだね。ネメ、協力してくれてありがとうね」


 ネメの太鼓判を受けて安堵したミノリ。するとネメは一つ気になった点を思い出したようでミノリに注文をつけた。


「あ、待ってお母さん、一つだけ意見。あっちの世界の常識についてはそれで十分だと思うけどそれ以外にも数字について教えた方いいと思う。今お母さんが説明するのに使ったものにも数字が書かれているのがあって、あっちの世界の数字を私は知っているからこそ理解できたという面も少なからずあるから、みんなにも教えた方が無難」


「そっか。確かに……。こないだノゾミと言った時は違う世界のはずだったのにノゾミはちゃんと秋穂の言葉を理解してたのを考えると話す言葉自体には問題ないみたいだから、数字についてはみんなも読めるように教える事にするよ」


「数字を教えるのだったら私も協力できるからお母さんが困ったら遠慮なく助手に私を起用すべし」


「うん、ありがとうネメ。そういえば今日はシャルが手を離せないからこれから一人で買い出しだったよね? 気をつけて行ってきてね」

「了。飛空魔法の安全飛行励行。遠雷の行方にも注意を張り巡らせる」


 ネメは飛行タイプのモンスターや突然の天候の変化に気をつけながら飛空魔法で行ってくる趣旨の事をミノリに伝えるとそのまま買い出し用のバッグを携えて外へ駆けだしていった。

 相変わらず言葉遣いが独特なネメだが、彼女の母親になってからもう17年のミノリにはネメが何を言っているかぐらい瞬時に理解できるのだ。


「そういえば、服を仕立てているトーイラたちの進捗はどんな感じになったのかな。ちょっと様子を見に行ってみよう」


 そしてミノリは出かけていったネメを見送った後、今度は今も服作りに奮闘しているトーイラたちの様子を見に、作業部屋へと向かう事にしたのであった。



 ******



「トーイラ、リラ、シャルー。服の方はどう、進んでるー?」

「あ、ママ。見てみて、シャルさんはあと少しみたいだけど私とリラはさっき出来あがったから試着してみたところで、これからママに見せようと2人で話していたんだけど……どうかな? 何か変な所があったら言ってね」


 ミノリがトーイラたちの進捗を見に行くと、トーイラとリラは無事に作り終えたようでミノリにチェックをお願いしてきた。


「わぁ、トーイラのドレス、大人っぽくてとても似合うよ。リラのワンピースもかわいくていいね。頭の角もヘッドドレスと花のアクセサリーで上手に隠してあってそれなら気づかれないと思うよ。それにしても2人とも裁縫の腕あがったね。お店開いても大丈夫なくらい」


 2人の衣装のあまりの出来の良さに思わずべた褒めしてしまうミノリ。ちなみにリラの背中は羽がある為に大きく開いている為、肌の露出を避けた方がいい結婚式ではあまり推奨されない格好ではあるのだが、上からケープを羽織れば問題はないだろうというのがミノリなりの判断である。


 それはともかくとして、先に衣装を作り上げたネメも含めて裁縫の腕前がかなりのものになっていると感じたミノリがそのことについて褒め称えたのだが、それに対して2人から返ってきたのはミノリにとっては少し意外な言葉であった。


「えへへー、それはママがいたからだよー。私とネメがまだちっちゃかった頃にママが私たちの服、作ってくれたでしょ? 私たち、そんなママの裁縫の腕に憧れてうまくなりたいって思うようになったんだよ。そしてこれは私たちだけじゃなくてネメもおんなじ気持ち」


「トーイラおねーちゃんの言うとおりだよかーさま。あたしの場合は羽があるせいで普通の服を着られないあたしの為にかーさまが作ってくれたから……あたしは最初不器用でうまく作れなくて失敗もいっぱいしたけど、かーさまが『何回でも失敗してもいいから』って布をいっぱいくれたから、あたしもこうして不器用なりに服を作れるようになったの。

 だからあたしが裁縫上手になったのはかーさまのおかげ。ありがと、かーさま」


 トーイラとリラはそれぞれの想いを込めてミノリにお礼を述べる。布に関してはこの家にミノリが最初に住み始めた頃から大量に色あせもせずにずっと保管されていたものをミノリも利用していただけではあったが、それでも、自分ががんばってみんなの母親になろうと奮闘していたからこそ、そんな自分の姿に娘たちが憧れた、という2人の想いを改めて知って、ほんの少し面映おもはゆそうな表情でミノリは頬を掻く。


「そうまっすぐに褒められると少し照れくさいけど……でもみんなの母親としてとても嬉しく思うよ。……それにしてもネメもだけどみんなよく短期間で作れたね。大変じゃなかった?」

「それはママが持ってきてくれたこの『ふぁっしょんし?』という本のおかげだよー。この本があったから見た目だけはそっくりに作れたんだよ。ただある意味私たちの服は見様見真似だから、細かくチェックしちゃうと私たちが作った服にはきっと変なところがあったりすると思うけど……」


 そしてここでも秋穂が持たせてくれたものが役に立ったようだ。


 こちらの世界の常識のまま、あちらの世界では非常識な服を作って結婚式へ着ていったとしても、ミノリたちオンヅカ家の面々は外国人という設定で結婚式に出席することにはなっているので、自国の文化だと強調すれば誤魔化すことはできるかもしれないが。


 しかしそんな事をしてしまえば悪目立ちするのは必至であろうし、第一、秋穂に迷惑をかけるわけにはいかない。郷に入っては郷に従えなのである。


(うん、やっぱり秋穂には感謝しないと……これ絶対秋穂が色々持たせてくれなかったら惨憺たる結果になっていたよ……)


 準備として色々持たせてくれた秋穂の英断にミノリが改めて脳内で感謝していると……。


「お姉様、私も今作り終えました! ちょっと着てみるのでチェックしてもらってもいいでしょうか!」

「あ、シャルもできたの? うんわかった。チェックしてみるから試着してきて」


 シャルもちょうどドレスを作り上げたようで、試着のために部屋から離れていった。


 そして数分後……。


「ど、どうですかお姉様……変じゃないですか?」

「わぁ……すっかり忘れていたけど、シャルってものすごくスタイルいいんだったよね……」


 ドレスで着飾ったシャルの姿にミノリは思わず圧倒されてしまう。


 普段はブカブカした服を好んで着ているせいで気づきにくいがシャルはオンヅカ家で一番胸が大きい為、スタイルがよりハッキリするドレスを身につけた途端、そのスタイルの良さが顕著けんちょとなり、結婚式に着ていく服なので肌の露出は少なく華美さも無いはずなのに、どういうわけだか不思議とシャルからは妖艶さがにじみ出してしまっている。


 これで一児の母なのだから驚きである。


「すごくいいと思うよ、シャル。主役を食うような派手派手しさや白色メインでも黒一色でもないから問題ないと思う……妙な色気が出てる気がするけど多分大丈夫……なはず。

 というかコルセットを使っているわけでもないのに腰回りがキュッとしてて、それによって胸の大きさが余計に強調されて……いやシャルって結婚済みなのにそういったスタイルの良さを強調していいのかなと思わない事もないけどまぁいいか……」


「ありがとうございますお姉様。それじゃ私の服はこれで完成という事にしますね」


「うん。あ、でも一応忠告しておくけど、結婚式当日まで絶対にその服をネメの前で着ない方がいいと思うよ。あの子絶対今のシャルを見たら感情がたかぶって何するかわからないから」


「わかっていますよお姉様。……()()()()()()は全て結婚式後にしますから。それじゃノゾミちゃんの服取りかかりますね!」

「あはは……まぁ仲がいいのはいいことかな……。ノゾミの服もがんばってねシャル」


 明らかに結婚式後に『何か』をするという含みを持たせたシャルの言葉に、少し苦笑いを浮かべるミノリではあったが、ふうふの()()()()()()()に関しては深入りする気は毛頭無いのでそれ以上何も言わずにノゾミの服に取りかかるシャルへ声援を送る。


 さて、結婚式に着ていく服はそれぞれが作る中でただ一人、ノゾミだけは自分で作らずに母親であるシャルが作ることになったのだがそれには理由がある。


 といってもノゾミの針仕事の腕が壊滅的だとかそういった理由ではなく、ただ単に幼いノゾミにはそういった作業をさせるのは早いからというだけである。


 まるで大人並に知能が発達していて、受け答えもしっかりとしているだけでなく、体格も6歳ぐらいには成長しているノゾミではあるが、実際の年齢はまだ2歳。

 いくらなんでもそんな幼いノゾミに針を使わせる作業をさせるわけにはいかないというミノリとシャルの判断により、こうしてシャルが作ることになったのだ。


 そういった事情もあってノゾミの服作りにシャルが取りかかり始める中、実は先程からずっとこの作業部屋に同席しているというのに珍しくひたすら黙ったままのノゾミはというと……秋穂から貰い受けた水中輪投げゲームをひたすら遊んでいた。


「……ねぇノゾミ、私気になったんだけど……あっちの世界から帰ってきてからほとんどの時間、それでずっと遊んでない?」

「ん……」


「たまにはそれで遊ぶのを休んでね?」

「ん……」


 ノゾミにとって、こういったおもちゃが存在する事が衝撃的だったのであろうか。いつもならニンジャになる修行に励んでいたノゾミがまるで取り憑かれたように遊び続けていて、いくらミノリが声をかけても生返事しか返ってこない。


 一応型紙を作るために採寸した時だけはゲームから手を離してくれたが、食事や入浴、睡眠の時以外はずっとノゾミは水中輪投げゲームを遊びっぱなし。


 このまま策を講じなければ延々と遊び続けるのではないかと流石のミノリも不安になる。


(なんだろう……テレビゲームとかなら熱中してやり続けようとするのはわかるんだけど……あれ、ただの水中輪投げゲームだよね? ただ、横のボタンを押して水流を動かすことで輪っかを棒に通すだけの……。それを延々とやり続ける姿がちょっと怖く感じるんだけど……)


 そんなノゾミの姿が妙に恐ろしく思えたミノリは、ノゾミがこの先もやりこみ続けるようでであったら取り上げることも視野に入れた方がいいかな、と悩みかけたその時だった。


「ミノリさまー、こんにちはですのー」

「……あ、クロムカの声だ。はーい」



 外から聞き慣れた声が聞こえてきたので、玄関に向かったミノリが扉を開けると、そこにはクロムカだけでなく黄緑色の髪の女の子の人形のような何かを抱えたザルソバも一緒に立っていた。


「クロムカ……と、ザルソバさんも一緒だったんだね、こんにちは」

「こんにちはですの」

「こんにちはミノリさん。といっても私は付き添いだけですぐに鍛錬に戻るのだが……」


 見慣れたはずのクロムカたちであったが、この一週間の間にクロムカの体にはある大きな変化が起きていた。


「クロムカ、それにしてもすっかり前みたいな体型に戻ったね。こないだまでお腹が大きかったのが嘘みたい」

「実はワタシもびっくりしてたりするんですの……。お腹の皮は元に戻るまで時間がかかるって聞いていたですのに……」


 それはクロムカのお腹で、一週間前は出産間近だった事もあってお腹がかなり大きかったのだが、今では出会った頃のようなスリムな体型に戻っていたのだ。


 さらにザルソバが抱えている人形らしきものは瞬き一つしないので、パッと見では人形以外には見えないのだが、注意深く観察してみると呼吸をするかのように胸元が膨らんだり縮んだりしている事から人形のように小さく幼い少女である事がわかる。


 そこから導き出されるの答えはつまり……。



「ホプルちゃん!!!」



 先程まで水中輪投げゲームに夢中になりすぎていたはずのノゾミがすっ飛んできた。するとその声に反応してザルソバが抱えていた少女がザルソバに向けて声を出した。


「ザルママ、降ろしてー」

「うん? ホプル、降りたいのかい? 足下に気をつけるんだよ」

「ん、わかったー」


 ノゾミよりも遙かに小さい少女に間延びした声で降ろすようお願いされたザルソバが屈んで少女をゆっくり降ろすと、その少女は駆け寄ってくるノゾミに向かって右手を高く掲げる。


「……ノンちゃん、おはー」

「ホプルちゃん!!! むぎゅー!! 今日もかわいいねー!!」

「ノンちゃんむぎゅー。えへー」


 ノゾミが元気いっぱいに、しかし割れ物を扱うかのように慎重に少女を抱きしめると、ノゾミの事を『ノンちゃん』と呼ぶこの少女も嬉しそうな顔でノゾミを抱き返す。


 この少女こそザルソバとクロムカの間に生まれた娘『ホプル』である。


 この『ホプル』という少女が誕生したのは、丁度ミノリとノゾミがあちらの世界に行っていた時間帯で、洗濯物を畳みながらついうたた寝をしてしまっていたクロムカが目を覚ますと、クロムカの目の前で洗濯物にくるまりながら横になった状態でじっとクロムカの顔を無表情で眺めていたのだとか。


 知らない顔が目の前にあったので一体誰なのかと驚いてしまったクロムカであったが、少女の顔つきがザルソバと自身の顔によく似ていたこと、そして自身のお腹がいつの間にかへっこんでいるのに気づくと、すぐにこの少女が自分の娘だと気がついたそうだ。


「やっぱりホプルちゃんもノゾミと同じように生まれた時から喋っていたんだね」

「そうなんですの。ただ、ホプルちゃんは無口なのか必要以上に言葉を発そうとしないんですの」


 ノゾミと同様にホプルもまた魔法生物のような存在であるからか、ノゾミの時と同じように生まれた時から知能が発達しているのかたまに辿々(たどたど)しくなる時もあるが基本的には流暢りゅうちょうに言葉を話す。


 ただ元々無口な性格なのかノゾミと違ってあまりしゃべらない。しかしそれでもホプルはクロムカのお腹にいた頃から共鳴し合うようにノゾミとお互いに認識し合っていたらしい事もあってか、2人は顔を初めて合わせたその日から大の仲良しとなっていた。

 ちなみに初めてクロムカが聞いたホプルの言葉は「ノンちゃんどこ……?」だったらしい。


 そういった事情もあって先ほどから仲睦まじく抱き合うのも頷けるノゾミとホプルであったが……。


「おばーちゃんおばーちゃん! えとね、アキホおばちゃんの結婚式が終わったらノゾとポプルちゃんの結婚式お願いね!」

「!? さすがに気が早すぎるよノゾミ!?」


 あまりにも早すぎる結婚式を所望しだす2歳児ノゾミ。思わずミノリもツッコミを入れるのだが、ノゾミが結婚相手として生後1週間のホプルもはまるで生まれる前から決まっていたことだと言わんばかりにそれを受け入れようとする。


「……イェーイ。今すぐノンちゃんとけっこん。クロムカママ、ホプのこと、生んでくれてノンちゃんと巡り会わせてくれてありがとう。ホプ、しあわせになるね」


「だ、だめですのホプルちゃん! まだワタシ、ホプルちゃんの母親として何もやってないんですの!! せめて16歳になる時までお嫁さんに行かないでほしいですの!!」

「そ、そうだよホプル。いくらなんでも気が早いよ。気持ちはわかるけどもう少し私とクロムカと親子として生活してくれないかい?」


 本人としては最上級のご機嫌っぷりなようだが、表情筋が固いのか無表情のままダブルピースをつくるホプルに対し、母親らしいことをさせてほしいからまだ嫁に行かないでと涙目で訴えるクロムカと低姿勢でお願いするザルソバ。


 確かに母親として娘の成長をこれから楽しみにできるはずだというのにいきなり嫁に行かれては2人が泣きそうになったり困惑したりしてしまうのも仕方ない。


「んー……わかったー。ごめんねノンちゃん。ノンちゃんとの結婚はホプが16歳になるまでおあずけー。それまでホプはクロママとザルママとなかよしこよしかぞくー」


 空気の読める0歳児ホプルは結婚式の先延ばしを約束した。


「うん、わかった! それまではノゾとホプルちゃんは婚約者同士だね!!」

「いえーい」


 そして再び抱き合う2歳児ホプルと0歳児ノゾミ。ちなみにだがこの2人、ミノリが転生したこのゲームの世界において、続編の主人公とメインキャラにあたる存在なのだが、本来の性格が見事に真逆まぎゃくだったりする。


(それにしてもこの2人、ノゾミが持ってきたゲーム雑誌の特集記事に書かれた性格が完全に逆になってるような……本来寡黙なはずのノゾミがおしゃべりになったつじつま合わせでホプルちゃんは無口になっちゃったのかな? ……まぁそれは今はいいか)


 きっとこの世界のことわりというか根幹的な部分ではノゾミとホプルの性格がどちらが、おしゃべりで、もう片方が無口でないと都合が悪いのだろうと適当に解釈したミノリは、そういえばクロムカたちが何の目的で自分たちの所へやって来たのか聞いてなかったことを思い出す。


「あっと……そういえばクロムカ、今日はどうしたの?」


 基本的にミノリはクロムカたちも家族のような関係と内心で思っているので、理由があろうとなかろうと来ても構わないというスタンスではあるのだが一応尋ねることにしている。


「えっと……実はミノリさまにお願いがあってきたんですの」


「お願い?」


 やはりクロムカは用事があったからミノリたちの元へやってきたようで、一体何をお願いしたいのだろうかとミノリは頭に疑問符を浮かべながらクロムカのお願いを聞くことにした。

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