21. 127日目 星空を眺めて。
「おね……おかあさん。今日の夜、お外に出てもいい?」
ミノリが夕飯の準備をしていると、ネメがそう尋ねてきた。
「夜?何かあるの?」
まだ幼いネメを夜に外出させるのは少し心配だったミノリは、どうして外出したいのかネメに確認した。
「ん……と。私、闇魔法使えるけど下手だからもっとうまくなりたい。闇魔法は星の力を使うけど、どの星がどこにあるか覚えなくちゃダメで、だから実際に星見て覚えたい」
ネメの話によると、闇魔法を使うには、星の力が必要になるため、位置を正確に把握しなくてはならないそうなのだが、キテタイハの町にいた頃は、夜空を見る余裕すらなく、ミノリに保護されてからも夜に外出して星を見た事が殆ど無かったため、今のネメの闇魔法は非常に弱いものなのだそうだ。
「それなら別にいいかな。ただ、一人じゃ危ないから私も一緒に行くけど大丈夫だよね?」
「ん、それでいい」
闇魔法自体はゲームに出て来た他の仲間キャラも使っていたので、ネメがそれを強化したとしても闇の巫女になる可能性への直接的な影響はないだろうと判断したミノリは、ネメのお願いを聞いて一緒に星を見に行くことに。
「トーイラはどうする? 一緒に行く? それともお留守番してる?」
「私も星空眺めたいから一緒に行くー!」
「それじゃ、トーイラも支度しといで」
「はーい!」
ちなみに、トーイラの光魔法は太陽の力を使うため、日中なら全く問題ないが、夜になると威力が弱まるそうだ。訓練すれば日中と同様の力が使えるらしいのだが、今日はただ単に一緒に星を見に行きたいそうで。
そんなわけで家を出たミノリたちは、森を抜けて普段狩りによく来る草原までたどり着くと、周囲にモンスターがいない事を確認し、草原の中でも小高い丘の上で腰を下ろして、空を見上げた。
「うわぁ……、すごい……」
ミノリは、満天の星に思わず感動のため息を漏らした。ネメもトーイラも同様に感激しているようだ。
実はミノリも、転生してきてから夜空をちゃんと眺めたのは初めてだったりする。転生してきて初日や2日目の夜は野宿ではあったが森の中にいた為、その木々の隙間からしか空が見えず、さらに生きることで精いっぱいで夜空を眺める余裕もなかったのだ。
(転生前とは違う世界だから、どれも全く知らない星々だけど、こうやって眺めるのいいなぁ……。あ、月に似た星もある。異世界のお話だとよく月に似た星が二つ三つあったりするけど……この世界にはそれは無いかぁ)
そんな風に思いながら、ミノリが眺めていると……。
「むー……、星がいっぱいあってどれがどれかわからない……」
ネメが、星の描かれた図と空を見比べながら悩んでいるようだ。チラリとそれをミノリが見ると、どうやらこの世界も地球と同様に、四季や場所によって見える星が違うらしい。
ミノリにとっても、この世界の星々は転生前のものと全然違う為、アドバイスがが非常にしづらい。せめて、オリオン座の三つ星や北極星の代わりになるような星があれば……。
「……星座があれば、わかりやすいんだけどねぇ」
「星座……?」
星座という言葉を知らなかったらしいネメが、ミノリに尋ねた。
「えっとね、星と星を線で結んだ形で、そこから似た動物とか人に連想したもの……と言えばいいのかな……」
生憎ミノリには星座に関しての専門的な知識が無かった為、かなりざっくりとではあるが、ネメに星座について説明した。
「だから例えば、あの赤くて大きな星。あれを何かの動物の目として考えて、それに合うような星を繋いでみて。それが星座になるよ」
ネメが『ふむ……』と一言発すると、自分なりの星座を考えようと星空とにらめっこを始めた。
「ママー。それならその赤い星に、あの星とあの星とあの星を結んでー……。ウマミニクジルボア座?」
トーイラが、指を空に向けながらミノリに話した。なるほど、確かにウマミニクジルボアの目はあんな感じの赤い色をしているし、ちょうどいい具合に骨格や手足となる星もある。ただ……。
「言われてみればウマミニクジルボアに見えてくるね。ただそれをそのまま読むとちょっと長いような……」
なによりウマミニクジルボア座だと語感的にどうも言いにくい。もう少し短くできたらなどとミノリが思っていると、それを横で聞いていたネメが口を開いた。
「じゃあウマミ座」
語呂はよいが猪成分が無くなり、ただの味覚成分しか残らなくなってしまった。
その後も、3人は星空を眺めながら、いくつもの星座を新しく作り出して、星の位置を把握しあったのであった。
ちなみに、この世界には星座という概念が実は無かった。それをミノリが持ち込んでしまい、星の位置をこの世界の誰よりも正確に把握出来るようになったネメ。
その結果、ネメの闇魔法の能力が飛躍的に延び、この世界で一番の闇魔法の使い手となるのだが、それはまた別のお話。




