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人型モンスター転生少女『ミノリさん』の義娘子育て記録【本編完結済】  作者: OPK
番外編2 もう一人のミノリの家族計画。
201/251

番外編2-7. 今度こそ、違う世界で救えなかったあなたに。【黒ネメ視点】

前回に続き、今回も長くなりましたので2回に分けての更新です。

 リラを救う為に、私たちの姿を見たモンスターは全て始末するという方針を転換してあっさりと魔女を見逃すことにした私たち。

 だけど実はこの魔女に対して私たち……いや、正確には『人間である私』にはどうしてもやらなければならないことが一つあって……それは何かというと、彼女の中にある『モンスターとしての本能』を可能な限り目覚めさせないこと。


 どうしてわざわざそれをするのかというと、人間とモンスターという相容あいいれない存在同士であるはずの私とミノリがカップルである私たちの関係をうらやましがっていたから。


 人間同士、モンスター同士なら特に問題ないから放っておいてもいいのだけれど、人間とモンスターという組み合わせなら話は別。この魔女がいくら人間と仲良くしようとしてもモンスターは基本的に『モンスターとしての本能』が原因で人間を見るととりあえず襲いかかってしまう。


 さっきはたまたまこの魔女はあいつに殴られて動けなかった上、私の圧倒的な力を見せつけたからその本能が一時的に引っ込んでしまっているだけだけど、きっと数日も経てば再び本能が目覚めてしまい、人間を見かけたら襲ってしまうはず。

これではいくら人間と仲良くなろうとしても厳しい。いきなり攻撃を仕掛けてくるような輩と誰が仲良くしようと言うのか。だって私がその立場だったら襲ってきたモンスターは間違いなく殺すもの。


というわけでやることは一つ……。


「そんなわけで死なない程度には力は調整するからこてんぱんに叩きのめさせてね? 安心して。これさえ乗り越えればあなたの中にある『モンスターとしての本能』が10年単位で湧き出さなくなるに違いないから」


 私は笑顔でそう魔女に告げた。これを乗り越えれば彼女の夢への実現が一歩近づく、そう思っての提案だったのに……何故かしら? 魔女は顔を蒼白させながら首を横に降り続けた。


「ひいいっ!! お願いしますそれはやめてください! 私もう本能湧き出しません! あなたからなんだか強者のオーラがやばいぐらいに噴出してる気配を凄く感じるし、そんなあなたに殴られたらどこの部位だろうと関係なく私死んじゃう! 絶対死んじゃうから! それとその笑顔もやめて怖い!!」


 何故か思いきり怖がっている……おかしいわ、怖がらせないようにわざわざ笑顔になったというのに笑顔を怖いというこの魔女……。


釈然しゃくぜんとしないわね……私だって加減ぐらいするしわよ。そもそも元々あなたもまとめて殺すはずだった所をこうして見逃してあげるという温情に切り替えてあげたんだから、私に殴られるぐらい我慢してもいいんじゃないの?」


「言ってることはわかりますけど! いくら手加減すると言ってもあなたの攻撃食らったら私、死んじゃう可能性のほう高いと思うんですよ!!」


 そう言いながらじりじりと座ったまま後退していく魔女。どうやら腰を抜かしているみたいで立ち上がれないみたいだというのにそれでもなんとか逃げようとしている。

 うーん……あまり時間かけたくないからとっとと済ませたいんだけどなぁ、なんて思っていると私の考えを読んだみたいにミノリが先回りして魔女の背後に回り込むとを羽交い締めにしてくれた。


「逃げちゃだーめ。おとなしくネメに殴られなさい。大丈夫大丈夫、ネメもちゃんとわかって加減してくれるわよ。だから万が一あなたが死ぬなんてことはないわ……多分……失敗するのは……6割ぐらい」

「6割!? ここはせめて嘘でも絶対大丈夫とか言って安心させてくださいよ!!」


「ごめんね、私嘘つけないの。それに回復薬もたくさん準備しているからネメの殴りが強くてあと30秒で死んじゃうような大ダメージをくらっても安心よ」


……あれってちゃんとフォローなのよね? フォローだと思いたいけど……うん、きっとフォロー。ミノリが言うことは何でも受け入れちゃう私だから素直にそう思う事にしよう。


 それに、まだ素直に殴らせてもらうための秘策があるんだから。


「……私だって少しはあなたに対して申し訳ないとも思っているのよ……だけどこうするしかないわけ。あなただって誰かと結ばれたいんでしょ? これはその始まりの一歩を踏み出すためにどうしても必要な事……だからこれだけ我慢してくれないかしら」

「……」


 私の秘策、それは『私も表面上だけでも申し訳ないようにすれば渋々ながらも承諾してくれるはず』というある意味卑怯極まりない作戦。私がそんな顔で魔女を見るようにしながらお願いすればきっとうまくいくはず。


 その言葉を聞いた魔女はまんまと私の秘策に乗ったようで、私の顔をしば逡巡しゅんじゅんするかのように黙っていたけど、やがて背に腹は代えられないと覚悟を決めたのか、意を決したような表情で私の瞳をまっすぐに見つめた。


「わ、わかった! でもお願いね私そんなに守りが強いわけじゃ……へぐげぇっ!!」


……あ、しまった、わりと強めに脇腹殴っちゃった。見事に作戦に乗ってくれたわって内心浮かれてしまったのがいけなかったかも。


「ちょっとネメ、その殴打は流石に強すぎじゃない!? この子動かなくなったわよ!?」

「しくじったわ……加減を間違えて……ねぇ、生きてる?」


「し、死ぬ……このま……まじゃ……た、たすけ……やだ、しにた……くない……」


 ……なんとか生きてるみたいだけどこれ虫の息だわ。これ、内臓破裂とか複雑骨折とかしてるのかも……。


「ミ、ミノリ急いでこの子に回復薬を飲ませて!」

「わ、わかったわ! ほら、飲んで!」



 ……ちょっとしたヘマはしたけれど、魔女の『モンスターとしての本性』の件についてはこれで片付いた事にしよう。



 *******



「──というわけで暫くモンスターとしての本能が湧き出さなくなったはずだけど……どう?」

「も、もうほんのうわきだしきません……これいぢょうわたしをいぢめないでください……しにたくないです……」


 あちゃー……目がうつろになっちゃってる……悪いことしたわね。

 ただ鑑定魔法をかけて確認してみる限り、先ほどまではあと10秒で死ぬぐらいだったこの魔女の生命力もすっかり全快しているみたいだからとりあえずよし、ということにしておこう。


 さてと、これでもうこれ以上ここにとどまる必要性も無くなったわね。さっさとミノリとリラを連れて拠点としている洞窟まで引き返そうっと。


「それじゃ、私たちはあなたたちが連れてきたこの子を連れて行くから、あなたももう自由にしていいわよ。あなたにかけられていた隷属魔法の呪いもあの動物顔が燃え尽きた時に契約書も一緒に燃えたからそれで消滅したはずだし。ミノリ、帰りましょうか」


 そう魔女に告げて私たちがきびすを返そうとしたその時だった。


「あ、ちょ、ちょっと待ってください、えっと、ネメさん……って言ったわね。あなた本当に強いのね……。それに本来的である私のことをこうして見逃してくれた上に、隷属魔法の呪いから解き放してくれたり、モンスターとしての本能が起きないようにしてくれたりと、私のためにいろいろしてくれたのよね……死にかけはしたけど……」


……あれ、なんだかこの魔女、さっきまで顔色が蒼かったのに今度は何故か顔を赤くしながら私のこと見てる。


 あ、確か『あっちの世界のネメ』の話ではこの子みたいな女性型モンスターは見逃してくれた相手や助けてくれた相手に対して好意を抱くようになるって聞いたわね。

 そんな事もあって『あっちの世界のネメ』は襲ってきたシャルを最終的にお嫁さんにしたみたいだし……。それを踏まえると、もしかして私は今この子の恋愛対象に入りかけている? 


 まずい、それは絶対不味いわ! だって私はミノリ以の外誰とも恋人関係になりたくないのに……というかミノリもそれに薄々気づいたのか眉間にしわを寄せながら私と魔女の顔を交互に見ているし! な、なんとか諦めさせなくちゃ!


「……そういえばあなたの名前聞いてなかったわね。なんて言うの?」

「えっと、私は、スーフェ。スーフェって言います……ネメさま……」

「……」


 うわぁ、名前を聞いただけでこの子すごくもじもじしながら私を見てるし、今『さま』ってつけたわよね!? これ絶対私に惚れている状態……ってまずい! ミノリの視線がすごく突き刺さってくる!

 違う、違うのよミノリ! これはきっぱりと断る為に必要な事だったの! この子とも仲良くしてハーレムを築こうとかそんな事を考えたんじゃないってば!! だから無言のままでそんな目で私を見ないで!!


「え、えっと、スーフェ? 結果的にあなたの事を助けたことになるから、今のあなたは一時的に私に魅了されているような状態になっているのよ。だから急いでここから離れて再び本能が目覚めて人間を襲わない内に気になる相手を見つけなさい。私にはミノリという先約があるし、ミノリ以外の誰とも恋人になりたくないからダメよ。悪いけどほかをあたって」


 私はそう言いながらミノリのそばまで歩み寄り、そのままミノリを抱き寄せた。


「あ、もうネメってば……そんなわけで悪いわねスーフェ。ネメは私のものだし、私もネメのものなの」


 あーーー良かったぁああ! さっきまで険しかったミノリの表情も私の言葉と行動で一気にやわらいだわ! ……あぁ、本当にミノリを怒らせずに済んで助かったわ……。私、ミノリに嫌われたら生きていけない自信があるもの……。


「あ……あはは、やっぱりそうよね……。ええ、確かにネメさまの言うように、本当はネメさまの姿を見ているとすごくキュンキュンしているけど……あきらめるわ……」


 それに魔女……スーフェも私のことをすんなり諦めてくれたようでほっと一安心。


 そして魔女は踏ん切りをつけたかのような表情を私たちに見せてから、ほうきを取り出してそれにまたがると、ふわっと宙に体を浮かせた。


「はぁ……フラレちゃった事だし、私ももう行くわね。いろいろ助けてくれて感謝するわ、ネメさま、それにミノリ。2人ともありがとうね。

 ……あと最後に一つだけお願いがあって……その吸血鬼の女の子が目を覚ましたら、私が謝っていたって伝えてくれないかしら。それじゃまたどこかでね」

「わかったわ」


 私がうなづくとその言葉に安心したのか魔女はそのまま上空へと飛び上がるとそのままどこかへ飛び去り、そして現在この場にいるのは私とミノリ、そして私たちの旅の目的でようやく助け出すことに成功したリラの三人だけとなった。


「ねぇミノリ、そういえばリラはまだ目覚めてない?」

「えっと……ええ、まだのようね。呼吸は安定しているからそのうち目覚めると思うけど……」


「そっか……」


 スーフェの件であれこれと騒がしくしていたので、ちょっと離れた場所に寝かせていたリラの元にミノリの元へ向かってもう一度様子を見たけれど、リラはまだ意識を取り戻す気配が無い。


 できたらリラが意識を取り戻してから移動したかったのだけれど、これ以上ここに留まり続けるのは誰かに見つかるリスクが高まるだけ。特にこのあたりはリラをここまで連れてきたやつらの本拠地に近いから余計にまずいわけで……仕方ないか。


「ミノリ、リラが目覚める様子はまだ無いけれど……そろそろここを離れた方がいいと思うわ。悪いけどリラの体をあまり動かさないように抱きかかえてくれる?」


 私はリラが目覚める前に移動するという事に決め、ミノリにそうお願いした。


「そうね……わかったわ」


 私の言葉を受けてミノリが横にさせていたリラを優しく抱き上げた……その時だった。


「……んぅ……」


 リラが少しだけ反応したの! ……ということは意識が戻りかけてる?


 その事に気がついた瞬間、私は自分の気持ちが押さえられなくなって……あまりにも自分が駄目な奴だとここで実感してしまった。


「……リラ、リラ! ……ごめんね……今まで本当にごめんね……」


 ……何でこのタイミングだったんだろう。ミノリが抱きかかえているリラの元へ駆け寄った私は、本来ならリラの意識がハッキリしている時にこそ言うべきだった謝罪の言葉を次から次へ口にしていた。


 それを言うのは絶対にこのタイミングじゃない、自分でもそれがわかりきっているというのに……何故か口から出てくる言葉を止めることができない。


「私は何回も、本当に何回もあなたを苦しめてきた。痛かったよね、苦しかったよね? 全部私のせい。許してくれって言って許してくれるはずがないし、あなたであってあなたじゃないリラにしてきたことだから謝られても困るってことぐらいはわかってる。だけどどうしても、あなたに……リラに謝りたかったの。今までの私があなたにしてきたこと……本当にごめんなさい」


 リラが目覚めている時に言うはずだった大切な言葉たち。そんな大切な欠片かけらたちがせきを切ったかのように次々と私の口から溢れ出してくる。


……わずかに意識が戻り始めているといえ、そんな状態のリラに謝罪の言葉を次々とつむぐ私は相当な卑怯者だ。だってそれは面と向かって謝れないって意味だから。


 その上、私の胸中で小さくくすぶっていた『今世のリラが覚えているわけもない事をいきなり謝られたって困惑するだけ』という思いもそれに拍車をかけてしまっている。


 だからこの謝罪は結果的に私の自己満足として終わるだけ……そのはずだった。


「……いいよ……だって……『今回は』助けて……くれたから……」

「!!」


 目を閉じたままで意識もまだ朦朧もうろうとしているはずなのにハッキリとそう口にしたリラ。そしてその反応は確実に『私が言っていることの意味を理解した上で出てきた言葉』だった。


「リラ、もしかして記憶が……!?」


 私は咄嗟とっさにリラに尋ね返してみると、そこでようやくリラの意識が完全に戻ったみたいてゆっくりと目を開けた。


「……ぅぅ……あれ、誰、おねえちゃんたち……? それにあたしの名前まで……。……えっと、確かここまで連れてこられて、怖い方に殴られそうになってからどうなったんだっけ……」

「え……ということはさっきの言葉は……?」


 しかしさっきの発言については全く覚えていない様子できょとんとした表情を私たちに見せている。


「……なんだか変なこと言っちゃったあたし? ……ごめんね、よく覚えてない。

 えっと、誰だか分からないけれど助けてくれてありがと……あれ、なんで泣いてるの?」

「ううん……なんでもない、なんでもないの……」


 どうやらさっきの言葉は無意識のうちにリラ口から出ただけだったようで、リラは自分でそう言った事すら覚えている様子はなかった。

 ……だけど私はその言葉を聞いて今までの行いを全てゆるされた気分になってしまって、涙が止まらなくなった。


「そう……よくわかんないけど泣かないでお姉ちゃん。よしよし……」


 そう言いながら私の頭を優しくなでてくる幼いリラの小さな手。そこから伝わってくるぬくもりを感じた時、私は謝罪とかそういった感情抜きに心の底からやっと思う事ができた。



──リラとも、ちゃんと家族になりたいと。



 そんなリラの優しさに触れたおかげで、目を腫らしながらもやっと私の涙が収まりかけてくると……どこからともなく『くぅ……』とお腹の鳴る音が小さく聞こえてきた。


「あう……おなかすいた……」


 どうやらその音の発信源はリラのお腹だったようで、私の頭をなでるのをやめて自分のお腹に手を当てながら困ったような表情を私たちに見せた。


「もしかしてお腹すいてるの?」

「うん……ここまで連れてきた魔女の方にはご飯を食べさせてもらっていたんだけど、もう一人の方がそれを見つけると横取りしてきたからあんまり食べられてなかったの」


 うわぁあの動物顔、そこまで意地も汚かったんだ。……やっぱり滅して正解だったわ。

だけどどうしようかしら……リラのお腹を空かせたままでいさせたくはない。


「そうなのね……でも今私たちは食べられるものは何も持っていないし……。あ、そうか! リラは吸血鬼ヴァンパイアだから私の血を飲ませれば……」

「それは駄目よネメ」


 吸血鬼ヴァンパイアは血を飲む者。だから私はリラのために自分の血を差し出そうとしたのだけれど何故かそれを制止するミノリ。どうして止めたのかその理由がわからなかった私は思わずミノリに聞き返してしまった。


「え、なんでなのミノリ?」


 すると私の質問が意外だったのか、ミノリは一瞬だけきょとんとした顔を私に見せながらもその理由を教えてくれた。


「あれ、もしかしてネメの方は聞いてなかった? えっと……『あっちの世界のミノリ』に聞いたんだけど、リラは光属性の吸血鬼ヴァンパイアという特異体質が原因で、闇属性の血と非常に相性が悪いみたいで、その闇属性であるネメの血を飲ませてしまうのはリラの体にはとても悪いみたいなのよ……そして私の血も。

 『あっちの世界のミノリ』はリラに自分の血を飲ませていたみたいだけど『あれ』は『モンスターは全て闇属性である』という常識に反して無属性というわけのわからない存在だからできた芸当みたいだし」


 そうだったのね、危ない危ない……確かにその話はあっちの世界のネメには聞いてなかったわ。はぁ、ミノリが聞いていてくれて助かった……けどそうするとリラはお腹をすかせたままよね……?


「でも、それじゃリラはお腹すかせたままじゃ……」

「大丈夫よ、さっきのリラの話にもあったように魔女……スーフェからご飯を分けてもらっていたと言ったぐらいにリラは普通のご飯も大丈夫なのよ。吸血鬼にとっての血はあくまでデザートみたいなものらしくて、血は必ず飲まなくてはいけないものじゃないみたい。ね、そうなんでしょ?」

「うん、血を飲みたい衝動が押さえられない時もたまにあるけど、長耳のおねえちゃんの話で合ってるよ」


 なるほど、そうだったのねと私が独り合点していると、その横でミノリは微笑みながらその胸元に抱き上げているリラに向けて優しく語りかけた。


「というわけで、私たちの血はリラには向かないの、ごめんね。あなたに血を安定して飲ませられるのは家へと戻って今は私たちと別行動をしているトーイラって子と合流してからになっちゃうけど……その間少しだけ我慢してくれるかしら?

 それまでの間はリラに血を吸わせても大丈夫な動物を探してあげるから」

「そこまで知ってるんだ……うん……それで大丈夫。気遣ってくれてありがと」


 ミノリの言葉を聞いて安心したようにミノリに向けて笑顔を向けるリラ。


 そしてその笑顔を見て再び微笑んだミノリの表情は、恋人という補正でよく見えているからというのもあるけど聖母そのものとしか思えなくて……『あっちの私やトーイラたち』がミノリを母として慕うのも頷ける。


 ミノリにリラという、私にとってとても大切な存在同士がお互いに柔和な表情で見つめ合っている姿は、あまりにも尊くてもっと見ていたかったけれど……生憎ここは敵の本拠地と言っても過言じゃない場所だった。すごく後ろ髪引かれる思いだけど……早くここを離れなくちゃ。


「ミノリ、リラ、話がまとまったのならひとまずここを離れましょう。流石にこれ以上長居するのは危険で他のモンスターに気づかれてしまうかもしれないわ」

「あ、そうね。それじゃリラ、着くまでの間私の腕の中で大人しくしていてね」

「うん」


 ようやく私たちはこの場を離れることにした。


その移動の最中さいちゅう、ミノリのマントに包まれた状態でだっこされているリラがぽつりと「……あったかい」と嬉しそうにつぶやいたのが私の耳に入って……つられて私も嬉しくなったのはここだけの秘密。

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