20. 96日目 洞窟探検。
「あ、ようやく雨やんだなぁ」
いつもより早く目が覚めたミノリがまだ寝息を立てている2人を起こさないように静かに起き上がって窓の外を眺めると、ここ数日降り続いていた雨がようやく上がり、晴れ間も見えているのに気がついた。
「折角だから、2人が起きてくるまでの間、軽く森林浴してみようかな」
雨の間は食料の備蓄があったため、狩りに出掛ける事もなく家の中で2人と共に過ごしていたミノリ。
家事はもちろんのこと、2人に勉強を教えたり、せがまれて歌を歌ったりと、する事はたくさんあったので特に退屈するような事は無かったのだが、この晴れ間を見て少しだけ体を動かしたくなったのだ。
そうミノリが決めると、2人がもし起きてきた時のためにとメモを残すとそのまま森林浴へと向かうことに。
「そういえばあの家に住むようになってからこの森の中を探索することは無くなったなぁ。狩りとかで森の外へ出掛ける時はいつも決まった道だし」
朝の清々しい空気を吸いながらミノリが森の中を気の向くままに歩いていると、見覚えのある洞窟が見えてきた。
「あ、私が最初寝泊まりした洞窟」
家に住むようになって以来、立ち寄ることの無かった懐かしの洞窟が見えてきた。
「そういえば、あそこの中じっくり見たこと無かったんだよね」
転生して2日目にたまたま見つけたこの洞窟を寝床代わりに使い、その翌日には家探しをしようとすぐに出掛けた為、洞窟の中までは詳しく調べていなかったのだった。
「よし、まだ時間はあるから中を探検してみよう」
そうミノリは決めると、洞窟の中へと足を踏み入れた。
「……何かで照らされているわけでも無いのに、洞窟の中がハッキリと見えるなぁ……」
光が差し込んでいるわけでもないのに明るく見える洞窟……。ゲームでも洞窟の中は松明のような道具無しで普通に見えていたのでおそらくこの世界では当たり前のことなのだろう。
そのままミノリが中を進んでいくと、すぐに行き止まりへと辿り着いた。
「あ、もう終わりか。意外と短かった……」
転生前に見た事のある遺跡や迷宮を探索するアクション映画みたいな展開があるかも? なんて淡い期待をしていたがそんな事も無く、あっさりと終わってしまった冒険に思わず拍子抜けしてしまったミノリ。
「さて、それじゃ引き返そうっと。多分今から戻るとちょうど2人が起きてくるぐらいの時間かなぁ」
そう言いながら踵を返したミノリ。
「……ん?」
振り向いた際に何かがミノリの視界に入った。それは……。
「……宝箱?」
そこには、ゲームで見たことがあるものと全く同じ形状の宝箱が置いてあった。一体中に何が入っているんだろう、とミノリはおそるおそる開けてると……。
「……」
ミノリは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。何故なら……。
「なんでこんな所に水着が入っているのさ! それも二着も!!」
仰々(ぎょうぎょう)しい宝箱の中に入っていたのはただの水着というそのギャップに思わず虚空に向かってツッコんでしまったミノリ。
なおそのサイズはミノリ用ではない。明らかに小さいのである。それはまるで……。
「なんだかこのサイズ……、ネメとトーイラにぴったり合いそうなんだよね……。そういえば湖に釣りに行った時、水遊びしたいって言ってたなぁ2人とも」
その事を思い出したミノリは、この水着が未使用であることを確認して、一応そのまま持って帰ることにした。
「しかし、なんでこうタイミング良く水着が置いてあったんだろう。まぁたまたまだとは思うけど……」
ミノリは、まるでこの日のために予め用意されたかのような宝箱に対して、色々と不思議に思ったりもするのだが、特に深く考えることもなく、そのまま洞窟を後にして家まで戻るのだった。
その後、ミノリが足早に家に着くとネメもトーイラも丁度起きた所だったようだ。
「ママ、おはようー」
「……? どこか行ってたのおね……おかあさん」
「おはよう2人とも、実はね……」
ミノリは、先程行った洞窟の話をして、2人に水着を見せた。
「……というわけでこれがその水着なんだけど……、どうする2人とも、これ着て水遊びする?」
宝箱にあった水着だからどうだろうなぁ……という思いもあったが、まずは2人がこれを着てみたいか確認することに。
「んー、ちょっと待ってー。こないだ覚えた鑑定魔法で調べてみるから」
トーイラがそう答えるやいなや詠唱を始めた。一体何を調べるんだろうと思いながらミノリがトーイラを見て暫くすると、鑑定が終わったらしい。
「うん、ちゃんと私専用だったよー。そっちの水着もネメ専用だったよー」
「ん。確かにこっちは私にお似合い」
どうやら水着にも専用という概念があってそれをトーイラは調べていたようだ。へぇ……、とトーイラが新たに覚えた鑑定魔法に感心したミノリだったが……。急にある事を思い出したが、その考えを振り払うように頭を横に振った。
(……いや、あんなスク水が私専用水着でアルハズガナイヨ?)
なんとしてでもスク水が自分専用水着であることを否定したいミノリは、すぐさまスク水についての記憶を彼方へと追いやり、なるべく思い出さないようにすることにしたのだった。
その後、朝ご飯を食べ終えたネメとトーイラは、早速水着にお着替え。2人それぞれの専用水着だけあって2人ともすごくお似合いだ。
「ねぇ、ママも一緒に水遊びしようー?」
「お願い」
2人に上目遣いでお願いされてしまうと、もうミノリは断れない。というわけでミノリも一緒に2人と水遊びに興じるのであった。
ちなみに、ミノリは普段の衣装からマントと前垂れを外しただけの格好。
「ママにも水着があったら良かったのにねー」
「あ、いや、あはははは……」
ミノリは、唯一着ることの出来るスク水があることを、思わず誤魔化してしまうのであった。
(……いや、この年でスク水は流石に恥ずかしいし。)
……普段の衣装も十分に露出度は高いのだが、着慣れている事に感覚が麻痺してしまっているのだろうか……。その事に対してツッコめる者はこの場に誰もいなかった。




