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18. 42日目 魚釣り。

「むぅ……流石に同じローテーションが続くと流石に飽きが来る……」


 ミノリがそう言ったのは料理に使う肉のことである。このあたりに出現するモンスターは、食べられるものが大半で生息数も非常に多いのだが、数が多いだけで種類自体は少なく、基本的にウマミニクジルボア、ヤワニクウルフ、ムスヤクニルドリのローテーションとなっていた。


 たまに、他の出現エリアに生息するはずのモンスターが森近くまでやってくる事があり、それらを狩る場合もあるのだが、基本的にそれは稀である。


「トロケニクジルボアとかカリカリバードがこのあたりにもいたらなぁ」


 ミノリはこのあたりには生息していない、食材になり得るモンスターの名前を思い浮かべながら、うーん……、うーん……、と考えていると……。


「あ、そうだ! 湖に行って魚を獲ってくるなんてどうだろう」


 森を抜けた北側に湖があるのを見つけていたミノリは、思いつくやいなや、いそいそと魚釣りへ行く準備を始めた。すると……、


「あ、ママどこ行くのー?」

「おね……、おかあさんが謎の道具持ってる」


 出掛ける準備をしているミノリに気づいたトーイラとネメがミノリの元へ駆け寄ってきた。


「えっとね、今日は魚を釣りに湖まで行こうと思うんだけど、2人も一緒に来る?」

「行く行くー!!」

「同行熱烈希望」


 素直なトーイラに対して、ネメは感情表現が少なめだった影響からか言葉遣いまでもが段々とおかしな方向に進み始めている。しかしそれも個性でかわいいよねと思う親バカミノリだった。


 その後、2人も家を出る準備を済ませてから、一緒に外へ。


「ねぇママ、湖って泳げるのかなー?」

「水遊びもしたい」


 2人は、どうやらついでに湖で水遊びをしたいようで歩きながらミノリに聞くのだが……。


「うーん……、でも2人とも水着持ってないから……、今日は魚釣りだけにしようね」

「うん、わかったー」

「ならば仕方ない」


 少し残念そうながらも、素直に応じた2人。


(うーん……、2人用の水着もそのうちなんとか用意しないとなぁ……)


 歩きながらそう考えるミノリなのだった


 それから暫くして、森を抜けて湖まで着いた3人は早速釣り針に餌をつけ、糸を垂らした。それから魚がかかるのを待っていた3人だったが……。


「全然釣れないねぇ……」


 竿がピクリとも動かないのである。


「ここってもしかして魚いないのかな……?」


 ミノリは不安な気持ちになっていた。このまま1匹も釣れないままだと折角ついてきてくれた2人にも申し訳ないという気持ちになっていると……。


「おね……、おかあさん。ちょっと調べてみてもいい?」


 ミノリの服をちょいちょいと引っ張ってネメが尋ねてきた。


「ん? 何を?」

「魚がいるかを」


「えーと……別に構わないけどどうやって?潜るの?」

「それはお楽しみ。なのでおね……おかあさんは離れてて」


 ミノリにそう言うとネメは湖の水面近くへと歩いていった。頭上に疑問符を浮かべながらネメを見ていたミノリだったが……。


「それじゃママは私と一緒にこっちまで来てねー」


 トーイラに引っ張られながら湖から離れた位置までミノリは移動した。


 ミノリが湖からある程度離れた位置まで移動したのをネメが確認すると、てのひらを空に向けて詠唱を始めた。

 一体何の魔法を使うんだろうと思いながらミノリが見ていると、


「かみなり」


 ネメが唱えたのは雷魔法で、ネメによって放たれたその稲妻は一直線に湖面へ落ちていき、瞬く間に湖が輝きだしたのを見る限り、かなりの電力が流れているらしい。


(ちょ……!? これ絶対危ないやつだよね!? 電気ショック漁法は日本では禁止されてるから見た事無いけどこれそれ以上の状態だよね!?)


 ビックリしたミノリが声にならない声で叫ぶのも束の間、輝く湖の中から大きな影が飛び出してきた。


「あ! あれはオオアジウオ!」


 オオアジウオは大人一人なら余裕で丸呑みできる程の大きな口を持った巨大な魚型モンスターだ。

 そのオオアジウオが、湖から飛び出して落下しようとしていたのは……ネメが立っている位置だ。明らかにネメを飲み込もうとしている。


「ネメ! 逃げて!!」


 このオオアジウオ、ゲームでもこのあたりに出現はするのだが、水棲モンスターと戦えるのはわりと後半からの為、かなり手強い部類に入る。

 そしておそらくミノリが対峙した場合、ミノリにとってもかなり分が悪い相手である。そんなオオアジウオが出たのだから、ミノリが慌てて叫ぶのも無理はない。

 そのミノリの心情を知ってか知らずか、ネメはただ余裕そうな表情のまま黙って今自身を飲み込もうとしているオオアジウオを眺めていた。そして、


「燃えろ」


 一言だけネメがつぶやいた。すると、オオアジウオは炎に包まれたかと思うとあっという間に絶命し、そのままネメ近くの地面へと墜落した。

 オオアジウオはすっかり焼きあがり、辺りには香ばしいにおいがこみ上げていた。


「すご……」


 ミノリはネメの圧倒的な魔法の強さに驚きを隠せなかった。


「ふふん、私たちは毎日成長してるんだよママ!」


 横にいたトーイラまでもが、えっへん!と言わんばかりに小さな胸を張って見せた。


(そっかぁ、2人ともどんどん成長しているんだよね)


 ミノリは感心しながら、湖面のそばからこちらに向かってVサインをしているネメの元へトーイラと一緒に駆け寄った。


「すごいねネメ、よくできました。……でもこの大きさの魚を持って帰るのは難しいなぁ……いっそここで食べよっか? 念のため調理器具も持ってきてたし」

「「やったー!」」



ちなみにオオアジウオはその名の通り、大味で食べられないことはないけど……という味だったそうな。

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