167. 16年と5ヶ月目⑤ ハタメ・イーワックと懐かしい人。
「これはこれは臍神様ーーー!!! よくぞおいでくださった!!!!」
相も変わらず一体いつその情報を得ていたのかミノリたちが着くなり町を挙げて盛大に歓迎しだしたキテタイハの町長ことハタメ・イーワックと町民一同たち。
「あ、はい……どもです……。いや毎回言ってますけどこんなに大歓迎しなくていいんですからね……?」
「なにをおっしゃる臍神様!! こんなちっぽけな歓迎、むしろまだまだ足りないほどですぞ!! 今回は時間が無くてせいぜいこれぐらいしかできなかったのが悔やまれますな!!」
そう話すハタメ・イーワックの背後には、無数の町民とともに『歓迎!臍神様!!』という横断幕や幟までもがあり、ミノリはそれだけで立ちくらみが起きてしまった。
そして今回はそれだけでなくザルソバがこの世界の危機を救った英雄である事も把握していたのか臍神様の文字に混じって『英雄ザルソバ』の字まで一緒に並んでいた。
「……一体これはなんなんだい……ミノリさん」
「……気にしちゃダメです、これが私が来た時の平常運転なんですから……」
英雄であるザルソバでも、流石にこの異様な雰囲気に呑まれてしまっているようで、狼狽した様子でミノリにこの光景について尋ねたが……むしろその疑問の答えはミノリの方が知りたい。
「そ、そうか……」
「……ちなみにザルソバさん、一時期ここに住んでいましたけれどあんな風に歓迎されていました?」
「いや、そんな事は無かったよ。……森の近くに移り住んでからミノリさんと接触する機会が多くなったのでそれで気づかれたのだと思うが……なんだか圧倒されてしまうなこの光景は……」
「……慣れですよ……なれたらどうってことないですよあはははは……」
乾いた笑いしか出ないミノリ。
そして森のすぐ傍に住み始めた後とはいえ、ザルソバが世界を救った英雄である事にも気づいたあたりハタメ・イーワックは情報収集能力も相当、長けているようで……一体なんなんだろうあの町長……。
「それで今日は一体何の用事ですかな?」
「あ、えーと今日はこの子の事で……クロムカ、フードを取って」
「!? で、でも……」
やはりクロムカはフードを取るのに抵抗があるようだ。
「大丈夫、私がいるから」
「私もいるから安心して外してほしい、クロムカ」
「は、はいですの……」
ミノリの力強い言葉とクロムカを支えるように背中から優しく包むように軽く抱きしめたザルソバ。
そのおかげでクロムカは安心したのかゆっくりフードを外してハタメ・イーワックに素顔を見せた。
「ほぉほぉ、この娘っ子……なるほど……。臍神様、この者をわざわざ連れてきたのは……そういう事ですかな?」
モンスター化してしまった人間、つまり元人間である事に気づいたかまではわからないが、やはりハタメ・イーワックもクロムカの顔を見た途端、彼女がモンスターである事に気がついたようだ。
しかし、そこは目の前にいる臍神様ことミノリを信奉していたが為にモンスターだとわかっていても表情には出さず、普通にクロムカと接してくれていて、それどころかミノリが言いたいことは既に伝わっている、とでも言いたそうな顔ぶりだ。
以心伝心過ぎて内心恐怖を感じているミノリだが、それを顔には出さずに言葉を続ける。
「察しが良いようで助かります。この子……クロムカというんだけど、間接的ではあるんですが私の庇護下にあります。つまり……そういうことです」
ミノリは恐らくハタメ・イーワックもわかっているだろうと思いながらそれを口にすると、やはりわかっていた老婆もすぐに承諾した。
「ふむふむなるほど……もちろんですじゃ!! 臍神様の願いとあれば、我らキテタイハの民はその意向に従い、彼の者も神の御使いとして丁重に扱うまでですぞ!!! ちなみに世界を救った英雄のザルソバさまもご一緒のようじゃが……もしや要件は同じじゃろか」
「ああ、クロムカは私のよき友でもあるので、町に来た場合はぞんざいには扱わないでくれると助かる」
「なんと!? この世界を救った英雄の庇護下でもあると!? それは一大事にせねば!!
我らが臍神様と世界の英雄、そんな二柱が住まうこのキテタイハ周辺部はもはや神の住まう土地といっても過言じゃありませんな!!」
一人で興奮したように仰け反りったかと思うとその勢いで地面に頭をくっつけてしまったハタメ・イーワック。年の割に驚くほど体が柔らかい……というか一体何歳なんだろうこの人か。
「えーと……ザルソバさんまで神扱いされたからか『柱』呼びになっていますけど……」
「はは……ま、まぁ別に悪くはないさ……ちょっと仰々しい気もするけど」
そして現人神であるかのような神扱いを受けたことに流石のザルソバも苦笑いである。
それはともかく、これによってクロムカはキテタイハの町中なら今後はフードが外れて素顔が露わになっても気にすることなく買い物ができる事になりそうだ。
「ミノリさま、ありがとうございます。これでワタシもゆっくり町で買い物ができそうですの……ところで臍神様ってなんですの?」
「聞かなかったことにしてクロムカさんそれだけは!!!」
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さて、とりあえずそこの日を以て、クロムカはフードを被ること無く自由にキテタイハへ入れるようになったのであったのだが、ちょっとした問題もその直後に起きた。まぁ、ハタメ・イーワックいつもの発作なのだが……。
「それではこれから臍神様と世界を救った英雄を称えた宴を……!」
「ちょ、そんな事しなくて良いから!!!」
またもやミノリを歓迎した宴を開こうとしたのだ。
普段ならこうなってしまった場合、ハタメ・イーワックの熱量に押さるがままミノリはそれを受け入れざるを得なくなり、町を出る頃にはすっかり真っ白に燃え尽きてしまうのだが、今日は珍しくミノリ側に助太刀をする者が現れ、ハタメ・イーワックの凶行を阻止してくれたのだ。
「ちょっと母さんなにしてるの!? 恥ずかしいからやめてよ!!」
大騒ぎする町長ハタメ・イーワックの背後にやってきては手慣れたように羽交い締めにした女性。その彼女の顔を見たミノリはどこかで会ったような、そんな既視感を覚えた。
「いやほんとごめんなさい私の母が……」
「これメーイ!! 何をするんじゃ!!! 折角ワシが臍神様へのささやかな宴を…」
「わかってるよ私! 母さんのささやかって言ったら豪勢って意味だって事ぐらい!!」
「……メーイ? あ、もしかして……!」
名前が出た瞬間ミノリは思い出した。それは5年以上前に家族旅行した際にカツマリカウモで出会ったあの……。
「メーイさん……ってもしかしてカツマリカウモの宿屋で働いていた……?」
「あれ、私名前名乗りましたっけ……いや、言われてみれば確かにあなたどこかで見たことあるような……」
「えっと、名前はタガメリアさんから……。カツマリカウモの喫茶店兼宿屋の人ですよね? 5年ぐらい前に娘たちと一緒に泊まったことがあります」
「あー……なるほどなるほど。なんだか見たことあるなーって薄々思っていたけど、そうだった! 私がこないだまで働いていた宿に泊まりに来たことがある人だ!
ダブルベッド1つに3人でいいと言った娘さん2人と困惑した褐色肌のお母さんの3人! ……すごいね、あの頃と外見全く変わってないや、お肌も綺麗だし……」
「あはは……その節はどうも……」
3人いるのだからシングルベッド3つでいいだろうと思っていたら何故かベッドはダブル1つでいいなどといった素っ頓狂な事を言い出した義理の関係らしい母と娘2人のご一行。ある意味珍妙なトリオだったのでメーイの中にもバッチリと記憶に残っていたようだ。
「とりあえずうちの母がごめんなさい。私が母を抑えつけている今のうちに、急いで帰ってください」
「あ、すみません、ありがとうございます。ザルソバさん、クロムカさん。ほら、急いで帰ろう。これ以上残っていたらとんでもない目に遭うよ!!」
「う、うむ……」
「は、はいですの……!」
まるで死亡フラグのような言葉を口にするメーイに羽交い締めされながらもまだ抵抗しようとジタバタするハタメ・イーワックをよそに、ミノリ達はその場から逃げるかのように急いで帰路についたのであった。
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「ぐぬぬ、うちのバカ娘のせいで臍神様が帰ってしまわれた……」
「母さん落ち着いた? 恥ずかしいからやめてよねそれ! ……あの人めっちゃ困っていたじゃん!!」
「なんでじゃ!! 臍神様が町へ降臨されたら崇めるのが世の道理というものじゃ!!」
「なわけないでしょ! 何がどうなったらそんな思考回路になるの!?」
どうやらメーイ・イーワックはこの町で唯一の良心になってくれたようだ。しかし、それが今後も続くかはわからないが……。
「そういえばメーイ、何故いきなり帰ってきたんじゃ? カツマリカウモの宿屋だったか喫茶店だったかで働いておったろ?」
「いやーそれがさー、昨日、急に仕事クビになっちゃったんだ。
ほら、何年も前に母さんが前の町長追い出したでしょ? あの前町長が、実は経営者と知り合いだったんだ。
何年も前に泊まりに来たことがあって、その時はお互い気づかなかったんだけど、昨日やってきた時はうっかりオーナーが、私が母さんの娘だって口を滑らせたらあっという間。それですぐにクビになっちゃったの。
なんでもこのあたりに棲息しているらしい人型モンスターにとてつもない恨みがあるから復讐する為に準備しにきたんだってさ。
モンスターだから駆除しようとしたら巡り巡ってそのモンスターのせいで何故か安定した役職の地位まで追われた事に対する恨みを晴らすとかなんとか言ってたなー」
……何やらよくない事が起きそうな気配がするのだが、ミノリたちはまだその事を知らない。




