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17. 28日目② 提案するミノリさん。

間接的な表現ですがR15要素があります。

苦手な方はご注意ください。

「えっと……シャル……さん? どうしたの?」


 その豹変したシャルの様子にミノリが戸惑うのも束の間……。


「……食らえ!!」


 突如シャルは火の攻撃魔法をネメとトーイラに放った。どうやらぶつぶつとつぶやいていたのは呪文の詠唱だったようだ。


「あ……! 逃げて2人とも!!」


 突然の攻撃魔法にミノリは体がついていく事が出来ず、2人をかばおうにも既にミノリの足では間に合わない。ミノリは咄嗟とっさに叫んだ。


 その魔法は一直線に2人へと向かい、微動だにしない2人に向かって牙を剝こうと……。


「はい防御」


 一瞬で詠唱を終えたネメが防御魔法を唱えると、2人の目の前に土の壁が立ちふさがり、シャルの魔法をいともたやすく防いだ。残念、シャルは牙を剝けられなかった。


「こ、このぉ、それなら次の……」

「えへへ残念、魔封じ♪」


 次の詠唱を始めようとしたシャルに対して、ネメと同じく一瞬で詠唱を終えたトーイラが、シャルに対して魔封じの魔法を唱えた。


「え、ウソ!? 魔法が使えない!?」


 魔封じを掛けられたシャルは慌てふためき、暫くすると顔色を青くした。


 ……青くなってしまうのも当然である。ゲームでのウィッチも魔封じの魔法を掛けられてしまうと、一切の行動が出来なくなり、哀れただのサンドバッグになってしまうのだった。

 その為、ゲームをするプレイヤーからは『経験値稼ぎ用のサンドバッグ』という相当不名誉なあだ名で呼ばれているが勿論その事実を知っているのは、この場ではミノリだけだ。


(あー……本当に何もできなくなっちゃうんだ……)


 ミノリは、この後シャルがどうなってしまうかをハラハラとしながらもひとまず静観している。


 一方、一切の抵抗ができなくなったシャルはその場にペタンと座り込んでいる。すっかりこの世の終わりを迎えてしまったような表情だ。

 そんな完全に戦闘意欲が失われたシャルの眼前で、ネメとトーイラは立ち止まった。2人の目は完全にシャルを倒そうという殺意に満ち溢れている。


「さてどうしてくれよう」

「なにか弁解あるのかなー?あっても許さないけど」


 どす黒い何かが渦巻いた状態でシャルを取り囲んだ2人が、辞世の句を聞くかのようにシャルに尋ねた。


「ご、ごめんなさい……でもモンスターとしての本能には逆らえなかったのよ!」


 ガタガタ震えながらシャルは涙を流して2人に謝罪と弁明をした。

 ゲーム上では、戦闘が始まるとモンスターは、明らかに戦力差があろうとも、どちらかが倒されるまで攻撃を続けようとする。

 先程、ミノリとの会話途中だったにもかかわらず突如人間であるネメとトーイラに敵意を向けて攻撃を仕掛けた事。それがシャルの言った『モンスターとしての本能』の事なのだろう。


(……あれ、でも私そういうの起きた事無いなぁ……。元人間だからかな?)


 ミノリは、転生前の人間としての自我が強いのか、その『モンスターとしての本能』と呼べるものがいまいちわからなかった。


「お、おねがいします……。どうか命だけ……は……」


 命乞いを始めたシャルだったが、どうやらネメもトーイラもシャルの事を許す気はないようだ。


「そう言われてもそっちが先に攻撃してきたんだしねー」

「慈悲という言葉は生憎非掲載」


 その2人の言葉から、ここで死んでしまうことを悟ってしまったシャルは完全に生気を失った顔で、壊れたロボットのようにひたすらごめんなさい……許して……とつぶやいている。

 そんなシャルの姿を沈痛な表情で見ていたミノリは、思ってしまったのだ。



『あのシャルの姿は、2人に出会えていなければ起こっていたかもしれない自分の姿では』と。



 確かに、元はといえば先に攻撃したシャルが悪いし、これで倒されても仕方ないといえば仕方ない。

 しかし、転生してすぐの頃、友好的な態度を見せて挨拶あいさつしたり、モンスターに襲われていた人を助けたりしても、ミノリがモンスターだとわかった途端、相手は恐れてしまって逃げてしまった。


 その反応から考えると、恐らく戦闘力のある人間と対峙たいじしてしまった場合は、いくらミノリには戦意も敵意も無いと示しても、恐らくミノリは攻撃されるだろうし、シャルと同じように命乞いをしても許してはもらえない。


 そう考えてしまうと、今のシャルの姿が自分と重なってしまうのだった。


(正直、自分でも甘いとは思うけど……)


 ミノリは意を決した。


「待って2人とも」


 ミノリは、今まさにシャルを断罪しようとしていた2人を止めた。


「攻撃された2人には悪いんだけど……その子、許してあげられないかな……?」

「いいよー」

「おね……おかあさんのおおせのままに」


 先程までの殺意はどこへやら、ビックリするほどの即答である。


 ミノリの鶴の一声によって、死の恐怖から解放されたシャルは、一気に力が抜けてしまったようで、


「あ……ありがとうございます……、ありがとうござ……います……」


 くたっとへたり込みながらそうつぶやいた。 ……なんだかシャルの下腹部あたりから謎の水音がするけどミノリは聞かなかったことにした。

 とりあえず一連の騒動は収まったようなので、さてこの後どうしようかと考えていたミノリ。


「んー……。あ。そうだ」


 何かをひらめいたらしいミノリは、それをシャルに提案してみることに。


「ねぇ、許す代わりに、シャルには一つやってもらいたい事があってね……」

「……は、はい! なんでしょう! ミノリお姉様!!!」


 突如シャルがミノリを『お姉様』と呼び出した。出会った直後の不遜ふそんな態度から一変、ミノリのことを自分の窮地を救ってくれた女神とでも思っているのか、その瞳にはハートの模様まで浮かんでしまっている。


「……いやその呼び方も私個人としては別に悪い気はしないけど……ネメとトーイラがその『お姉様』という単語にすっごく反応して睨んでるからやめてほしいなぁ」

「それは出来ない相談です! だってお姉様はお姉様ですもの! あぁ……こんな卑しい私などに慈愛の精神で手を差し伸べてくれたミノリお姉様……。お慕い申し上げております……」


 あぁこれはもうダメだ、完全に頭が浪漫飛行している。


(うーん……面倒だからもうこのままでいいや。)


 ミノリは触れない事にした。


「それで、やってもらいたい事なんだけど……」


 ミノリがシャルにやってもらいたい事。それは町への買い出しと森までの宅配だ。

 元々ミノリがここをうろついていたのは、キテタイハの町に買い出しへ行くのがイヤで何かいいアイディアがないか考えていたからだ。


 その事を告げるとシャルは意外にも二つ返事で了承した。本能的に人間の町へ行くのは抵抗があるのではないのかと思ったのだが、話を聞くと変装をした上で結構な頻度で町に行っているらしく、よくアクセサリーを買い漁っているのだとか。


 モンスターと一口にいってもおしゃれを気にしているのはやっぱり女の子だなぁ、とシャルに対して感心したミノリだったが、その一方でそんな部分が微塵みじんも無く、ただ母親らしさだけを求めてしまっている今の自分については考えないようにした。


 そんなわけで森までの宅配係となったシャルは、定期的に森の入口へやってきてはミノリから依頼された荷物を届けに来るようになった為、ミノリはキテタイハの町へ行く悩みが解消されたのだった。


 だが……。


「ママの悩みが解決されたのは嬉しいけど、あいつがお姉様って呼ぶのは納得できないー!」

「すこぶる同感」


 どうにもそこだけは我慢が出来ないトーイラとネメなのであった。

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