16. 28日目① 買い出しうんざりミノリさん。
「あー……やっぱりあの町に行くの、もうやだなぁー……」
キテタイハの町への買い出しから帰ってきたミノリは変装用のローブを脱ぐなり、ため息まじりにつぶやいた。
調味料や牛乳、卵などの食品や日用品などは狩猟と畑からでは入手が困難な為、週に一度、ミノリはキテタイハの町まで買い出しに行っているのだが……。
「町の人の態度とかあれ本当に行くたびにげんなりするわ……。流石途中で滅亡しても誰にもなんとも思われない町……」
キテタイハの町は、逆から読んだら『排他的』になるように、よそ者への態度が非常に冷たく、さらにネメとトーイラを捨てた腹立たしい町でもある。
しかしそれでもこの周辺には他に町がないため、仕方なくそこへ買い出しに行く以外の選択肢が無いのだが、ミノリにはそろそろ限界だったようだ。
「おね……おかあさん大丈夫?」
「……ママ、それなら私たちが代わりに行こっか?」
家に帰ってきたミノリを迎えたネメとトーイラが、心配した様子でミノリに話しかけた。しかし、ミノリはうーん……、と唸るだけだった。
「それはちょっとねぇ……。だって2人はあの町から追い出されたんだから、行くのはやめた方がいいって思うんだ」
双子が忌み嫌われるキテタイハの町から追い出されたネメとトーイラ。そんな2人が町に舞い戻ったとなったらおそらく町中大混乱するに違いないし、2人へ危害を加えようとする輩が出る可能性も非常に高い。危険な火種には近付かせない方が無難だ。
結局何の解決策も浮かばないまま、ひとまずミノリはごはんを作ることにしたのだった。
明くる日、キテタイハの町へ行かずに食料や日用品を確保する方法を再び考えながら、森の中を散策していたミノリ。
「うーん……行商人を襲う……。それは死ぬ可能性が飛躍的に上がるからダメ……。別の町に行く……。いやぁそれも厳しいなぁ……。かなり距離あるはずだしそもそも二人を置いて行けない……」
などと考え事に夢中になったまま歩き続け、いつしか森まで抜けていた事にミノリはようやく気がついた。
「あ、しまった。ついうっかりここまで来ちゃった。急いで戻らなきゃ」
2人を家に起きっぱなしにしていたミノリは慌てて家に帰ろうと森の方を振り向くと、突如、上の方から声が聞こえてきた。
「そこの方ー、こんにちはー!」
急な呼び声に驚いてミノリが空を見上げると、空から箒にのったピンク髪の少女が降りてきた。
「えっと……あなたは……?」
ミノリは降りてきた少女に尋ねた。
「私、シャルって言います。種族的にはウィッチかな?」
それを聞いてミノリはこの少女の事を思い出した。確かこの子はゲーム後半に出現するモンスターだ。しかし出現するエリアは全く違うはずだが……。
「あ、どうしてこんな所にいるんだろうって顔してますね? ふふふ、それは私が一箇所にとどまるような小さい器ではない、大きな存在だという事なのですよ!
いやぁでもこうして意思疎通できそうなモンスターに会えたの、すっごく久しぶりなので嬉しいのです」
随分と不遜な気持ちになっている子だなぁ……とも思ったが、自分と同じ人型、それも女性型モンスターという立場同士の会話に少し嬉しくなっていたミノリ。
「それであなたは……見た目からしてダークアーチャーっぽいですけど、あなたこそなんでここにいるのです?」
ミノリはすっかり忘れていたが、今のミノリの体であるこの弓使いのモンスターは、種族名をダークアーチャーという。
この周辺に出現するウマミニクジルボアのようなやたらと美味しそうな名前を持つ他のモンスター達とは一線を画してなんとも魔物らしい種族名の持ち主なのだ。
なお、ミノリにとっては『ネメとトーイラの母親である』という感覚の方が遥かに強いため、種族名についてはかなりどうでもいい事という認識だったりするのだが……。
「えっと、子育てをしてて、今はたまたまここに……」
「は!? 子育て!? あなたが!?」
ミノリの口から出た『子育て』という単語が予想外だったのか、シャルが目を見開いた。
(そういえばこの世界って人型モンスターだったら人との間に子供はできるのかな……?)
などとミノリが考えていると……、
「あ!ママいたー!」
「おね……おかあさん勝手にふらふらしちゃだめ」
森の茂みからネメとトーイラが顔を出した。急にふらふらと出掛けていったミノリを心配したのだろう。
「あ、ごめんねネメ、トーイラ。それではまた。シャルさん」
そうシャルに告げてミノリは森へ戻ろうとしたが、そのシャルの様子がどうもおかしい。
先程まではあんなに友好的な雰囲気だったはずが、今はこちらを睨んでいる。いや、正確にはミノリの先にいるネメとトーイラに敵意を孕んだ視線を向けながら、何かをぶつぶつとつぶやいている。
一体どうしたというのだろう……ミノリはただ困惑せざるを得なかった。




