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15. 21日目 勉強。

 今日は雨が降っているため外には出ず、家の中で過ごすことにした3人。本棚に置いてあった本を読もうとミノリは手を伸ばしたのが、ここで重大な事実に今更ながら気づいた。


「……あれ、そういえば私、なんでこの世界の文字普通に読めるの?」


 キテタイハの町で買い物をしたり、立て看板に書かれている内容にへこんだりしたミノリだったが、今更になってとある疑問が浮かんでいた。それは文字のことである。

 今手にしようとした本は、明らかに転生前に見知っていた言語の文字とは異なる未知の文字だ。しかし、ミノリは今までそのことを特に意識することもなく、スラスラと読めている。


「この世界の人間……さらにはモンスターの識字率なんて全く知らないけど……とりあえず読めるものは読めるからラッキーって事にしよう。そんな事で悩んでても仕方ないし」


 基本的にミノリは楽天家なので深くは考えないのだ。


 その後、手に取った本を暫く読んでいたミノリだったのだが、何かに気づいたのか本を閉じると、同じ部屋で二人仲良く手遊びをしているネメとトーイラの方を振り向き、2人に尋ねた。


「そういえば2人は読み書きとか計算はできる?」


 ミノリの問いかけに、2人は首を横に振りながら同時に答えた。


「「ううん。できない」」

「そっかー。……うん、それじゃ今日は私が2人に勉強を教えます」


 その答えを聞いたミノリは、今日は2人に読み書きを教えることに決めた。キチンと読み書き出来る方が、将来2人が困らないだろうと考えたからだ。


 そんな感じでまずは読みから……だったのだが、

「……そうだよね、よく考えたら難しい呪文の詠唱ばっちりだもんね。それが出来るほどに地頭がいいからそりゃあっという間に覚えるかぁ。すごいねぇ2人とも」


 一文字一文字の読み方から順番に2人へ教え始めていたミノリだったのだが、全ての文字の読み方について説明し終える頃には2人ともほぼ完璧に覚えてしまったようだ。ミノリはよくできました、とばかりに2人の頭をなでた。

 2人ともミノリに褒められた事がすごく嬉しくて、とても満足そうだ。


 一方、書きの方はというと……。


「あ、ネメ。ペンの持ち方はこうだよ。トーイラは……、右だと書きづらい?もしかして左利きなのかな?それじゃ左手で鉛筆持ってみて」


 書くための道具が、もしも筆や万年筆、さらには石だったらどうしようかと若干の不安があったミノリだったが、家の中を探してみると幸いにも転生前の世界にもあったようなペンや鉛筆が普通にあった。これなら教えやすい、とミノリはまずは持ち方から教えることに。

 初めて持つペンに、2人ともまだまだ慣れていないようだったがこの2人なら徐々に慣れるだろう、と安堵するミノリ。


 ちなみに、計算の方はというと、2人は教わらなくても足し引きぐらいなら元々出来るようだった。どうやらそれを計算と呼ぶ事を知らなかっただけのようで、これなら近いうちにかけ算や割り算も教えられそうだねと、2人の頭の良さに嬉しくなる、すっかり親バカなミノリである。


 それから引き続き、文字の書き方や足し算引き算を教えていると、ネメのお腹から『くぅ~』とかわいらしい音が響いた。気づかないうちにもう夕飯の時間近くになっていたようだ。


「あ、もうこんな時間だったんだね、今日はここまでにしようか」



 ミノリはここで今日の勉強を切り上げることに。勉強熱心な2人はまだ教わりたい様子だったが、空腹には勝てないようで……。


「うむぅ……。もっと勉強したい……でもご飯食べる……」

「私も残念ー……。でも明日頑張るね。ママのご飯楽しみー!」


 すっかり食欲にシフトチェンジしたようだ。


「それじゃ、ご飯作るから待っててね」


 そう言うなり、炊事場に向かおうとするミノリ、その背中に向かって、


「明日も教えてね、おね……おかあさん」

「今日はありがとうね。ママ!」


 2人は嬉しそうに答えたのであった。



 その後、夕飯を食べ終えて、一緒にお風呂も済ませた3人は、今日の余暇をのんびりと過ごし、眠気が出始めてから揃ってベッドに入った。

 頭をフル回転させて疲れたのかネメとトーイラはあっという間にスゥスゥと、かわいらしい寝息を立て始めている。


 その寝姿を見ながらミノリは2人の頭を優しくなでつつ……、


(しまったなぁ……前世でもう少し勉強頑張っていたらもっと難しいことも教えられたんだけど……)


 などと自分の転生前の不勉強さを若干後悔していた。


 でも、この2人なら私が教えたことを糧にしてもっと賢くなれるはず。それまで頑張って自分が教えられることをなんでも教えてあげよう、そう決心したミノリであった。




 ──そしてその決心には……、


『今、2人に教えられる唯一の存在である自分がいつかいなくなってもいいように……』


 そんな思いも少なからず含まれていた。

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