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143. 11年目のある日③ ぶらーりカツマリカウモ散策。

 カツマリカウモへ旅行に来て、宿の手続きを済ませたミノリ達は従業員さんの案内で裏口から外へ出た。

 従業員さんから話を聞いていたように、村の入り口付近の混み具合と比べると裏口側はかなり落ち着いていて、比較的スムーズに村の中を歩くことが出来ているので、ミノリ達はホッと胸をなでおろしていた。


「よかったぁ。あんな殺人的な混み具合が村のどこでもだったらどうしようかと思ってたよ……」


 安堵のため息をつきながらそうつぶやくミノリだったが、その一方、ミノリには一つだけよくわからない事があった事をふと思い出した。それは先程のネメの不可解な行動だ。


「そういえばネメ、さっき何で従業員さんの後ろから出てきたの? 直前まで私の隣に腰掛けていたはずだよね?」

「確認のため。ろくでもない宿におかあさんを泊まらすわけにはいかないから」

「ねー」

「確認……?」


 トーイラがネメと顔を見合わせながらその言葉に同調しているあたり、どうやらネメが何故背後から出てきたのか、その理由も知っていて、且つその理由はトーイラ自身も共感する内容らしい。


(一体何を確認……前々から自覚はしているけど、トーイラもネメも私に対して異常なまでに過保護な気がするから、2人の話しぶりから考えると私と宿に関係がある事なのは間違いなくて……。えっとそれはつまり……)


 あれこれ思案した先に、ある一つの仮定へと思い至ったミノリはそれが正しいか確かめるべく2人に問いかけた。


「……もしかして、従業員さんが提案している間にネメが使える壁すり抜けを使って宿に不審な箇所が無いか確認でもしてた?」

「もちのろんろん。ぼったくり宿だったり人さらい目的の宿だったりする可能性も否めないから確認が必要。なので帳簿を見たり地下牢や不審人物がいないか確認していたけど問題無かったのでOKを出した。今日の宿は普通オブ普通」

「ネメの壁すり抜けはこういう時に使えるから本当に助かるなー。万が一ママの身に何かあったら私たち気が気じゃ無いもん」


 ミノリの予想は当たっていたようだ。しかし……。


「……うーん」


 ミノリの反応はいまいちであったがそれも仕方の無い事である。確かに2人の行動はミノリのためを思ってであるのは間違いないのだがあまり……というか全く行儀のいい行動では無い。ミノリは歩きながら腕を組み、眉間に皺まで寄せてしまった。


「えーっとね2人とも……危険が私に起こらないように未然に防ぐ目的でこうして安全を確認してくれたのはとってもありがたいけれど……お店の人にもプライバシーとか守秘したい事とかあるに違いないからそれはあんまりやらないでね……?」

「むぅ……お母さんがそう言うのなら」


 ミノリに釘を刺された結果、少し不満そうではあったがネメは納得してくれたようだ。そしてトーイラも納得し……。


「ちぇー。……まぁでも私たちにかかればいくらでもできるしね。それこそママに危害を加えようものなら村中を全て破壊しちゃうよねこの腕一本で」

「当然。跡形も無くめっす」


 残念ミノリさん! トーイラもネメもそれで済むはずがなく、過激派筆頭である事をただ露呈させてしまっただけであった!!


「できたら穏便にね2人とも!?」


 ミノリの事を想うからこその行動である事はわかっているので、できるなら無碍むげにはしたくないけれど、少しくらいはたしなめた方がよさそうと軽く注意してみたものの……それ以上に娘たちは自分がきっかけで暴走したら非常にまずい事になると逆に思い知らされてしまったミノリ。


(……もしかして私って、娘という大きな爆弾についた導火線みたいなものなのでは? 多分、私の身に何かあれば村一つ……どころか世界を滅ぼすぐらいしてのけそう)


 ある意味世界の命運を握っていると言っても過言では無いと少しだけ顔が青くなるミノリなのであった。



 ******



 そんなある意味日常的で他愛の無い会話をした後は露店で軽食をったり、海を眺めたり、土産物を買ったり博物館などの施設を満喫したりと、カツマリカウモ観光を楽しみ、少しずつ傾き始めたところで、宿のそばにある展望台に向かう高台へミノリ達は向かう事にした。


「それにしてもこんな感じの観光だとトラブルに巻き込まれるんじゃないかって少し不安もあったけど何も起きなくて良かったね」

「そうだねーママ。……あ、ほらママ見てあっちの方!」

「え? なになに?」

「……あ、ごめんねママー。鯨が見えたような気がしたんだけど気のせいだったよー」

「なんだ、そっかぁ。残念だね……ってあれ? ネメはどこにー……ってあんな所にいた。……どうしたのネメ? 少し遅れてるけど歩くの疲れちゃった?」

「否、ちょっとボーッとしていただけ」

「そっかぁ、でもあと少しで展望台に着くからもうひと踏ん張りだよ」

「いえっさ」


 展望台への道すがら、平穏に観光が出来た事もあってミノリはそう口にした。確かにミノリからすれば何のトラブルも起きなかったのだが、それはあくまで表面上の話。

 実はミノリが気づいてない水面下ではミノリ達に不埒な目線を向け、人攫ひとさらいやその手の犯罪を企てようとする者も当然いたのだ。


 しかしそれらは全て悪事として露呈する前に、ミノリ第一の娘たちの手によって、娘の片方がミノリの注意を会話で反らすなどしてミノリが見ていない隙を作り、その間にもう一人が適切に『処理』して未然に防いでいたおかげで、『一人何も知らない隠塚ミノリさん』状態となっていた事にミノリは最後まで気づかなかったのである。


「わぁ……すっごい綺麗……」


 それはさておき、展望台の階段を登りきって頂上から町を一望したミノリは思わず感嘆のため息を漏らした。

 夕日に照らされて赤く染まった家々と、それらの家たちがつくりあげた影の中に光る灯火。

今の時間しか味わうことの出来ない光と影の調和という美しい景色。これらはミノリ達が生活する森の中や、近くにあるキテタイハでは味わうことは到底出来ない。


「……とっても綺麗……来てよかった」

「……うん、そうだねママ」

「……全くもって」


 トーイラとネメもミノリの言葉に同調したのだが、彼女たちは『風になびいた髪をかき上げながら町並みを眺めている夕陽に照らされたミノリの姿』にうっとりして言っているだけなので少しどころか全くといっていいほどピントが合っていないわけだが、その事にミノリが気づくことはなかったのであった。


 その後、展望台から降りてきたミノリ達は宿のチェックインの時間まで、暮色蒼然ぼしょくそうぜんとした村の中をふらふら散策していたのだが……。


「あ」


 トーイラは視界に何かを捉えたようで驚いたような小さな声をあげた。


「……どうしたのトーイラ?」


 トーイラが声を発した原因が全くわからず、不思議に思ったミノリが声を掛けた。


「えーと……別に気にする程の事じゃないんだけど……こうして見てみると案外いるものなんだねーって」

「成る程、確かにいる。驚き桃の木」

「え、え? 何がいるの?」


 トーイラの言葉を理解できなかった上、ネメまでもがトーイラの言葉に頷いたのでミノリがトーイラ達に一体何がいるのか尋ねてみると、トーイラは周りの人間にそれを聞かせたくなかったらしく、ミノリにこっそりと耳打ちしながら見つけたモノについて小さく指さしながら教えてくれた。


「大きな声で言っちゃうと多分騒ぎになっちゃうから小声で言うね。……ママやシャルさんのような、見た目が人間の女の人に近いモンスターがいるの。あそこにいるフードから深くかぶった長い金髪の髪の毛が出ているローブを着た人。あの人モンスターだよ」

「えっ、そうなの?」


 トーイラの言葉に軽く驚いたミノリがトーイラの指さした方向を確認してみると、確かにトーイラの言うようにフードで顔を隠した人物が露店の前で顎に手を当てながら何を買うか悩んでいる姿が見えた。


 遠巻きだった事とフードやローブのせいではっきりとは確認できなかったのだが、フードからはみ出ている、先端がロール状になった長いもみあげやローブ越しからも確認の出来る胸の膨らみから何かしらの女性型モンスターであるのは間違いないようだ。


「そういえばシャルもおしゃれしたい時は変装して町に買い物に行っていると話していたから……おしゃれしたいという気持ちはモンスターといえどやっぱり女の子であるのには変わらないからそういう事なのかな……と思ったけど……んん?」


 昔のシャルの発言でてっきり彼女もおしゃれをしたいが為に町に忍び込んで装飾品を買い込んでいるのだろうと思いこんでしまったミノリだったが、よくよく見てみると、モンスターであるらしい彼女がいる露店に並んでいるのは干し肉や乾パンと言った非常食、それと薬のようなものでおしゃれとはほど遠いような品揃えだった。

 その上自分がモンスターである事がばれてしまわないか不安で怯えているのが一目でわかるほど異様におどおどしているのがミノリにも見て取れ、その様相は不審者そのものであった。


「……あれでよくバレないなぁ」


 自身がモンスターだと認識されていた頃も、確かに急いで買い物を済ませようと足早になっている事はあったが、あそこまで挙動不審ではなかったはずだ。だからこそ、今ミノリたちの視界に入っているあまりにもあんまりな彼女の不審者っぷりに、無意識でミノリの口からはついそんな言葉が出てしまった。


「ママの言うように確かにびっくりするほど挙動不審だけど……多分そのモンスター本来の衣装と顔が一致しなければ誰も気づかないし、ましてや町の中にモンスターが入り込んでいるなんて夢にも思わないんじゃないかなー。

 昔のママもそうだけどフードで顔を隠してるだけで誰もモンスターだって気づかなかったぐらいだし。まぁ私やネメの場合は、索敵魔法も使えちゃうし、視界に敵一覧がのってる透明な板……ゲームウインドウって言うんだっけ? それが見えているからいくら変装してもすぐに気づけちゃうんだけど……」


 余談だがこの数年後ネメの魔力が体内に入っていた事とでモンスターと認識されない状態になっていたシャルが、変装までしていたにもかかわらず、ゲーム本来の主人公であるザルソバに正体がばれ、あわや討伐されかかってしまう事態が起きてしまうのだが、ザルソバが変装したシャルをモンスターだと見抜いた原因は、彼女が先祖代々受け継ぎ、燃やす前でもあったモンスター図鑑で顔をキッチリ覚えていたからである。


 その一方、ミノリの正体がモンスターであるとフラグを切り替えるまで全く気がつかなかったのはミノリのフラグが仲間フラグに切り替わっていたこと、そしてミノリの種族であるダークアーチャーが図鑑未登録だった事で顔を確認できていなかったからだ。

 以上の点を踏まえると、顔を完全に把握し、さらに視界にゲームウインドウが見えているような相手でなければ、基本的に最低限顔さえ見られなければモンスターだと気づかれないのは間違いないようだ。


 それはさておき、トーイラの言葉に黙って頷くミノリだったが、ふと目の前の彼女に対してある疑問が湧き上がり出していた。


「……あれ、でも待って。私、もみあげがロール状態になっているザコモンスターって全く記憶に無いんだけどあれは一体誰なんだろう……って、そうだった。最近意識してなかったから忘れていたけど私にもゲームウインドウで敵一覧が見られるんだった。えーっと……あ、確認する前に行っちゃった……」


 ミノリの記憶にあるゲームの知識と彼女と外見が一致するザコモンスターが思い当たらなかったのだ。


 その為、彼女の正体が誰なのかミノリは確認しようとしたのだったが、見ようとした瞬間、敵一覧から彼女と思しき名前が消えて見えなくなってしまっていた。

 慌てて彼女の姿を目で追うと、既に買い物を済ませてしまったようで、町の外に向けて小走りで去っていく姿が見えたことから、ある程度距離が離れてしまうとゲームウインドウの敵一覧も認識できなくなってしまうようだ。


「……まぁ、いっか。あの子が私たちに危害を加えるようには見えなかったし、何か企んでるわけでもなさそうだし」


 怯えているといっても過言ではない程のあの挙動不審っぷりから推測するに、彼女が何かしらの悪だくみを企てているとはミノリには微塵みじんも思えなかったし、万が一何か企んでいたとしても別に正義の味方でもないのでわざわざ追いかける必要もないと判断したミノリは、娘たちに敵一覧の先程まで載っていたはずの彼女の名前を見たかどうかを確認することも、彼女を深追いすることもなく、そのまま宿に向かって歩き出したのであった。

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