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140. 15年と4ヶ月目 のぞみ。(2章終)

番外編含めて、今回予定していた最後のお話です。

 ノゾミが生まれた日から4ヶ月が経った。

 ノゾミは順調に成長しているようで、生後から4ヶ月で既に人間でいう4歳児ぐらいの大きさにまで育っていた。


 このまま1年後には末娘リラの身長まで追い抜いぬくのではとミノリは軽く思ったが、シャルから話を聞く限りではそういうものではないらしく『ノゾミが生まれてくるのに必要だった魔力の余剰分が今の成長速度を加速させているだけで、それが無くなると帳尻を合わせるようにゆっくりとした成長速度になる』そうで、10歳をすぎるころには普通の人間と大差なくなるそうだ。


 それは兎も角としてネメが一人で買い出し、トーイラとリラは家の中で家事、シャルが寝室でお昼寝をするノゾミに添い寝をしようと居間から出ていったので、一人残ったミノリが縫物をしていると、ネメたちの寝室への戸が勢いよく開かれたと同時にミノリの元へとノゾミが駆け寄ってきた。


「あれ、どうしたのノゾミ?」

「おばーちゃん、読み聞かせしてー!!」

「んー、読み聞かせ?」


 するとノゾミに遅れて申し訳そうな顔をしながらシャルもまたミノリの元へやってきて説明を始めた。


「すみませんお姉様……お昼寝する間読み聞かせをしてほしいとノゾミちゃんに頼まれたんですが、私には魔術とかの専門的な知識しかなくて、そういった子供に聞かせるようなお話がサッパリだったので……」

「あーそっかぁ……。まぁ仕方ないよね。それじゃ私が代わりにノゾミに読み聞かせするからシャルはあっちでゆっくり休んでて。ほら、ノゾミおいでー」

「わーい!」

「はい、お姉様。ありがとうござます」


 シャルの説明を聞いたミノリも、モンスターであるシャルがそういった読み聞かせのネタがあるとは確かに思えなかった。しかし誰かができないことを補い合い、助け合うのが家族の役目だと、シャルに代わってノゾミに読み聞かせをする事に決めたミノリは自分の寝室にノゾミを連れて行くのであった。



 ******



 寝室でミノリのベッドに横になりながら期待に満ちた顔でミノリの顔を見つめるノゾミ。さてミノリは何を読み聞かせるのか。


「それじゃ読み聞かせをするけど、ノゾミはなんのお話が聞きたいかな? 前に読み聞かせたアガリパトルマ若按司わかあじでも夕影山ゆうかげやまぬしでもなんでもいいよ」


 前世でもあまり知名度のないお話の名を口にするミノリ。ちなみにアガリパトルマ若按司わかあじは沖縄の伊良部島の民話で夕影山の主は対馬の民話である。


 この世界にミノリが転生してから既に15年。前世の記憶が段々朧気になってしまっていたミノリだったのだが、前世のミノリの忘れたい置き土産とも言うべきザルソバと会ってしまった事で恥ずかしい記憶が呼び起こされたことでシナプスが活性化され、結果的に記憶から消えてしまっていた前世の事を色々と思い出したようで、上記の民話もその際に思い出せた記憶の一部だ。


 さて、そんなミノリから無数の選択肢を与えられたノゾミの口から出た、今一番読み聞かせしてほしいお話はというと……!!


「後味悪いお話!!」

「そ、そう……」


 ……ノゾミは意外と悪趣味だった。



 ******



「──というわけで読み聞かせはこれでおしまい」

「ありがとおばーちゃん、とっても楽しかった!」


 ミノリの読み聞かせをベッドの上で満足そうに聞いていたノゾミ。読み聞かせが楽しすぎたせいか昼寝だったはずなのに全然眠気が湧いてこなかったようだ。


(……絶対にめでたしめでたしって言えない『三本枝のかみそり狐』を笑顔で聴くノゾミもそれはそれでどうかと思うけど……)


 嬉しそうな顔をするノゾミに笑顔で応えつつも、先程まで読み聞かせていた民話に、内心どうなんだろうとミノリが思っていると、ノゾミは何かミノリに聞きたいことがあった事を思い出したらしく『あっ』という顔を見せた。ちなみにだが三本枝のかみそり狐は福島の民話である。


「おばーちゃんおばーちゃん」

「んー、なーに、ノゾミ?」

「そーいえばノゾの名前の『ノゾミ』ってどーゆー意味―? シャルママもネメママにも聞いたけどわかんないって」


(あーそっか。こっちの世界には『望み』という言葉が無いから意味が分からないのも仕方ないか)


 ウマミニクジルボアの『ウマミニクジル』が『旨味肉汁』という言葉通りの意味ではなく『怒り狂う真っ赤な目』という意味にこの世界では置き換えられているように、前世での言葉と同じような言葉であっても違う意味となっている語句が殆どの中、実はこの世界には『ノゾミ』に置き換えられる言葉が存在しない。

 その為、自分の名前には一体どういう意味が込められているのか疑問に思ったのだろうと判断したミノリは、ノゾミに名前の意味を教えることにした。


「えっとね、『ノゾミ』というのは私の生まれた所の言葉で『願い』とか『希望』という意味があるんだ」

「希望?」


 ミノリに聞き返すノゾミを見てミノリはさらに言葉を続ける。


「そう。この先ノゾミにはたくさんの夢や希望、願いがどんどん生まれてくるに違いない。そういった希望をどんどん叶えていける子になってほしくて私はあなたに『ノゾミ』という名前を付けたんだよ」

「そうなんだー、なるほどなるほどー!!」


 ミノリに名前の由来を聞いて、意味を噛みしめるようにしきりにうなづくノゾミ。小さい声で『ノゾミ』と自分の名前を何度もつぶやいている事から、名前と共に意味を反芻はんすうしているらしい。その状態をしばらく続けたのち、やがてノゾミは顔をあげて満面の笑顔をミノリに見せながら宣言した。


「おばーちゃん、ノゾ、おばーちゃんが名前つけたみたいな子になれるようがんばるね!!」

「うん。あなたはたくさんの可能性を秘めているから、少しでも多く願いが叶えられるといいね。……あ、それとノゾミという名前にはもうひとt」

「ママたちに教えてくる!!」


 ミノリは続けてノゾミに何かを話そうとしたのだが、それよりも先にノゾミはベッドから飛び起きるとそのまま寝室から出ていってしまった。


「あ、待ってノゾミ! 名前にはもう一つ意味が……あれ、もういない」


 急いでノゾミの後を追いかけて居間へやってきたミノリだったが、生後4か月で既に韋駄天いだてんなノゾミはシャルを探しに外へ出てしまったようで誰も居間にはいなかった。


「……うーん、ノゾミは本当に生後4ヶ月にして言葉遣いもはっきりしていて足も速くて魔力も非常に高い規格外すぎる子だなぁ……。でもそれは元気な証拠って事だよね」


 ノゾミの後を追いかける事を断念したミノリが、向かったのは近くにある引き出し。実はここにノゾミの名前の由来がわかるものが隠されている。


「でも、もう一つの理由を言うタイミング逃しちゃったけどどうしようかな。

 そもそもノゾミには……いや、ノゾミだけじゃなくて私以外にはその意味を理解するのは難しいかもしれないんだよね」


 そう独りちながらミノリが引き出しを開けて中から取り出したのは一枚の紙で、

それはシャルの妊娠が判明した日にネメとシャルから頼まれて名付け親となったミノリが孫の名前をノゾミと決めて記したものだ。


 ノゾミが生まれてくるまでの間に自分の身に万が一何か起きてしまった時の為にという保険の意味合いで書いたものだったが、ミノリはノゾミが生まれた後で、その紙に書いたノゾミの名前の横に文字を2文字ほどこっそりと書き足しており、それこそがノゾミの名前の由来となるもう一つの意味であった。


 そしてこの2文字だが、この世界ではミノリ以外実は誰も読む事が出来ない前世で使用していた文字で、その文字が一体何かというと……。


「まぁ……これを思い出したのはあの人に会った後だからちょっと後付けっぽくはあるけど……きっと私は『漢字』を思い出せなかった中でも無意識のうちにノゾミの名前にはこの意味も込めていたと自分では思うんだ」


 漢字である。ちなみにあの人というのはミノリが対面した直後から数か月前まで、死ぬことを覚悟した人物で、ゲーム本来の主人公であるザルソバ・シャリオンの事だ。


 彼女に出会でくわしてしまったせいでひと騒動起きてしまったわけだが、そのおかげで前世の恥ずかしい記憶とともに色々思い出す事が出来たミノリは、先程ノゾミに読み聞かせをした民話以外にも前世で使用していた漢字も偶然思い出す事が出来たのだ。


 ミノリはその紙にこの世界でのノゾミという表記と共に記された漢字でのノゾミの名前を見ながら、誰にも聞こえないような声で一人、つぶやいた。


「ノゾミは『生』まれてくれる事を家族みんなから『望』まれた幸せな女の子。これからもみんなから生きることを望まれてずっと愛されていってほしいという意味も込めて私は『望生のぞみ』と名付けたんだよ。

 さっきノゾミは、願いを叶えていける人になれるように頑張るって言ったけれど……大丈夫だよノゾミ。

 あなたが生まれてきてくれた事こそ私たち家族のノゾミだったんだから……なんてやっぱり後付けっぽく聞こえちゃうなぁ……たはは……ん、あれ? 誰か窓を叩いてる?」


 紙を見つめたままのミノリが自分で言った言葉に対して軽く苦笑いを浮かべていると、どこからともなく窓を叩く音が聞こえてきた。ミノリがその音がする窓の方を振り返ると、ミノリを探すように窓を叩いているシャルの姿がある。


「どうしたのシャル?」


ミノリが窓を開けてみるとどうやらシャルはミノリを呼ぼうと窓から離れて玄関に向かおうとしていたところだったようで、ミノリの声が聞こえたのに気がついたシャルは再び窓の傍まで戻ってきた。


「お姉様よかったー、そこにいたんですねー。

 実はさっき買い出しから戻ってきたネメお嬢様から、家族全員が集合した写真をまた撮りたいという話が出てきまして、それでお姉様も外に来てもらえないかなーなんて思たのですが……どうでしょうか?」


「そっか、写真かぁ。……そうだね、家族が6人になったわけだから家族写真は新たに撮った方がいいよね。うん、わかった。私も急いで庭に出るからみんなと待ってて」


「わかりました、お姉様♪ それじゃ皆さんと待ってますねー」


 シャルが窓から離れる姿を見たミノリは窓を閉めると、手にしていたノゾミの名前が記された紙を大事そうに再び引き出しにしまった。


「……まぁもう一つの意味についてはまた別の機会に話せばいいかな。まだまだわたしにはノゾミと……ノゾミだけじゃなくて、トーイラとも、ネメとも、リラとも、シャルとも家族として一緒に過ごす時間はこれから先もいっぱいあるんだもの。……っていけないいけない、みんな待ってるんだった。急がないと」



 誰にともなく一人静かに微笑んだミノリは、家族が待っている事を思い出すと玄関で靴に急いで履き替え、ミノリが来るのを庭で待つ大切な家族たちの元へと駆けていくのであった。




というわけで、4月から再開しましたミノリさんですが、今回のお話で予定していたお話全てとなります。


現時点で書く予定だった話は全て書ききった為、一度ミノリさんたちの話は完結設定とさせていただきますが、またミノリさんたちでの書きたい話がまとまった時、第3章として再び続きを投稿したいと思いますのでその時はどうぞよろしくお願いします。


感想や誤字報告なども本当にありがとうございました。大変励みになりました。

最後になりましたがここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!



(2022.2.4追記)

現在続きを準備中です。早くて今月下旬、遅くとも3月中には再開できればと。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れさまでした! どこまでもほのぼのとしてて安心感のある物語でした! 一旦これで完結となるのは寂しいですがそれは仕方のないことですね。再開があるかしれないのを心の片隅で楽しみにしています!…
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