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134. 15年と3ヶ月目 祖母と孫と娘たちと。

 ザルソバのモンスター図鑑の件から数ヶ月が経った。


 ゲーム本来の主人公であるザルソバ・シャリオンがミノリを自分が信奉していた神と認定した上ミノリに惚れてしまった結果、一族に代々伝わるモンスター図鑑を焼却した事でミノリは何事も無く再び安寧の日々を送る事ができている。

 なお、その際ミノリの失言によってトーイラ達が大暴走して、ミノリを監禁したり堕としたりしようというヤンデレ化が再び起きてしまったが、ミノリが謝りながら走って逃げたことで落ち着きを取り戻したようでなんとかヤンデレ化の気配はなりを潜めた。


 さて、そんな平和な日常を隠塚おんづか家に数ヶ月前、ある大きな変化があった。それはもちろん……。



 ******



「はぁ……あの子本当に元気だねぇ……」

「あはは、お姉様お疲れ様です」


 ミノリの家の庭先。汗だくになってしまったミノリは、シャルが先に座っていたベンチの空いている側に腰かけた。

 ちなみにこのベンチはここ最近新たに庭に設置されたもので、ミノリが座ってからしばらくすると、ミノリが汗だくになってしまった原因を作った張本人の声が聞こえてくる。


「おばーちゃーん!! シャルママー!!」


 ミノリとシャルの名を呼びながら、笑顔で元気に手を振りながらネメと一緒にいるのはネメとシャルとの間に生まれたミノリの孫娘、ノゾミ。


 ノゾミはネメのようなジト目にシャルのようなピンク髪。それでいて性格はハキハキとした明るい女の子で、普通の胎生と違うとシャルから聞いていたミノリは、ノゾミの容姿は2人に似ないのかなと思っていたのだがそんな事は無く、ネメとシャルの容姿を足して2で割ったような非常に愛らしい顔立ちをしている。


「はーい、ノゾミ―。おばあちゃんはここで休んでいるからネメと遊んでていいよー」

「転ばないでくださいねー」


 そんなノゾミにミノリとシャルが声をかけながら手を振り返すと、ノゾミとネメはまたどこかへ駆け出していった。

 先程までミノリも2人と一緒に遊んでいたのだが、ノゾミもネメも体力が無尽蔵にあった為に体力人並みのミノリは先に体力が限界に達してしまったのだ。


「……いやぁ、シャルから成長が早いと聞いてはいたけど、まさかノゾミが生まれて数ヶ月で3歳児ぐらいの大きさになるなんて思わなかったなぁ私……びっくりするほどベラベラしゃべられるほど脳が発達しているし体力も魔力もネメ並みにあるし……」


「あはは……魔力で生まれてきた子ですからやっぱり普通の胎生とは違うみたいですね。私もあんなに成長が早いとは思ってもみませんでした」


 汗だくのミノリがポツリとつぶやくと、横で聞いていたシャルが軽く苦笑いをしながらミノリの言葉に反応した。


「あ、ママこんなところにいた」

「かーさま、どうしたの庭にいて」


 すると今度は先程まで家の中にいたはずのリラとトーイラも庭にやってきた。どうやらリラに血を飲ませ終わったので屋外に出てきたようだ。


「うん、ノゾミが外で遊びたいって言ったから一緒に遊んでいたんだけど……ちょっと休憩中。あの子、体力が無尽蔵にあるから私が先に体力無くなっちゃってね。

 それでノゾミはネメと今一緒にどこかへ走って行っちゃった」


ミノリが椅子から立ち上がってトーイラにその事を説明しだしたその時だった。


「おばあちゃんのおへそにー、アタック宣言!!」

「あひ……ゃんっ!」


 いつの間に戻ってきたのだろうか。ミノリの気づかれぬうちにミノリの真下に隠れるように走りながらやってきたノゾミがミノリの臍をいきなり触ってきたのだ。

 ノゾミはどういうわけだかミノリのへそを執拗に狙う謎の悪癖があり、おへそを露出している割に意外とそのおへそが弱いミノリは孫の突然の攻撃に対して無意識に変な声を出してしまった。


「ママってば相変わらずえっちな声……それ私たちに襲ってって言ってるようなものだよね?」


 顔を少し赤くしてしまったトーイラから非難するような声が挙がる。


「おかあさんの性的嬌声に、私の感情が昂揚を感知」


 ノゾミを追いかけてきたネメも近くにいたようで、ミノリの変な声を耳にした途端ネメの中の何かに引っかかってしまったようだ。


「そんなぁ、トーイラもネメも。私そんなつもりじゃないってば」


 ミノリが釈明するもさらなる援護射撃がミノリを襲った。


「……かーさまって、えっち女神さま?」

「ひ、ひどいよリラぁ! そんなはずないでしょー! 第一私、神様じゃないよ!?」


 純真無垢だと思っていた三女のリラにまで言われてしまい、軽くショックを受けてしまったミノリ。声を大にして否定したのだが、リラはその姿勢を崩そうとはしない。


「でも、かーさまがえっちじゃないならなんでいつもお臍出してるの?」

「うぐっ、だってこれ、私のデフォルトの姿でこれが普通で……」


「ローブは昔から羽織れて、今は他の服も着られるようになったっておねーちゃんたちから昔聞いた事あるのにずっとその格好なのって……やっぱりえっちな証拠? ……かーさまやっぱりえっち」

「うぐぐぅ……」


 最近リラの態度がちょっと冷たい事に悲しみを感じるミノリ。ミノリの事をトーイラを取り合うライバルだと認識してしまった以上、そんな態度になってしまったのもある意味仕方ないのかもしれないが……。

 ちなみにそんなリラの心の中では『でも、かーさまのそんな所も好き』と口に出さずにそのように思っていたりするので実はただのツンデレなのかもしれない。


 しかし、そんな事を知るはずもないミノリが冷たいリラに軽く打ちひしがれていると……。


「それでさーママ……どうするのあの人」

「あの人って……あぁ、ザルソバさんの事か……」


 トーイラから不満が込められた質問をぶつけられたミノリ。


 その後のザルソバだが、ミノリたちが住む森の中へ入る事ができないようなので、近くのキテタイハの町に宿を取ろうと訪れた際に、ミノリを褐色耳長臍出し女神様として崇める町長の老婆ことハタメ・イーワックと意気投合し、現在はキテタイハの町に居を構えている。


 近場に拠点ができてしまった事もあって、それからというものミノリにプロポーズをするために定期的に周辺を徘徊していて、ミノリを見かけるとその都度ミノリにプロポーズをしている。


 ちなみにこの数か月の間で18回もザルソバはミノリにプロポーズをしたのだがその度にトーイラやネメが邪魔してきているのだが未だに諦めようとしないのを考えると根気だけはかなりあるようだ


 そんなザルソバの告白が頻発した事もあり、ミノリは3日前、トーイラとネメからザルソバが諦めるまで森の外に出る事をついに禁止されてしまった。

 ……とは言うものの森の中は自由に歩けるし、そもそもミノリは元々狩りや買い出し以外では滅多に森の外に出ないような生活を送っていたので禁止された子をおあまり気にしている様子は無いようだ。


(でも本当にどうしようなぁ……あの人が私を神として崇めるだけでなく恋愛対象としてまで見るようになってしまったのって、私に少なからず原因があるようなんだよなぁ……)



 ミノリが思い返したのは、森の外へ出る事を禁止される数日前、最後にザルソバに会った時に尋ねた、彼女が世界を救った時のパーティ内での恋愛の事。



 ******



「───えっとザルソバさん、私に何度も告白ずっとしていますけれど、世界を救った際にパーティメンバーと付き合おうとは思わなかったんですか? 聞いた話ではパーティ内にいた魔術師は男性だったそうですが……」


 ゲーム本編では主人公が女性だった場合、パーティメンバー内にいた幼馴染の男性メインキャラとエンディング後に結婚するはずなのだが、ザルソバがミノリを今も追いかけているところを考える限り、彼女はどうやら独り身のようだ。

 ゲームストーリー本来の展開と異なる状況にどういうことなのか不思議に思ったミノリが尋ねたところ、ザルソバはなんとも微妙な顔をしながらミノリの問いに応えた。


「あぁ……彼か。

彼はパーティにいた回復術士と結婚したよ。光属性マニアだったからね、彼は。

 光の巫女から光の祝福を授かっていれば私も光属性になり、もしかしたら彼と結ばれたのかもしれないが……光の巫女に会えずじまいだった私は結局土属性のままでな」


 話を聞く限り、ゲーム本編で本来恋人になる男魔術師とは全くそういった関係にならなかったようだ。

 本来なら光の巫女となったトーイラから光の祝福を与えられることで、回復術士よりも強い光属性になり、その結果光属性マニアである男魔術師はザルソバに惹かれるという展開だったようだが、光の祝福はこの世界ではトーイラの妹のリラに与えられてしまった。

 結果的に光の祝福を与えられなかった彼女は誰とも恋仲にならないまま……ぼっちとなった。


 ミノリが起こした行動が結果的にザルソバにしわ寄せが及んでしまっていたのだ。


 ******



「──いや、ホントどうしよう……やっぱり私、責任取った方がいいんじゃ……」


 その事を思い返したミノリは再び頭を抱えてしまった。


「だめ!! あんな奴にママはやらない!!」


 普通なら娘と結婚したい男性に対して娘の父親が言うようなことを、何故か娘の方が母を嫁にはやらないと言い出す始末、あべこべである。


 トーイラからすれば、ミノリが『ザルソバ』というこの世界ではありふれた名前を聞く度に申し訳ない顔をしながら責任取ると言い出す意味自体全く分からないのだ。

 どうやらミノリが前世、この世界を外から見ていた時の事と関わっているのだと薄々感じているようなのだがそれを教えてくれないのでトーイラは非常にやきもきしてしまっている。


 この先、ミノリがザルソバと付き合うようになるのか、それとも娘たちとこのまま仲良く過ごしていくのかは現時点では誰にもわからないが、ミノリが娘を恋愛対象として見ないと既に宣言している上、何故かザルソバには責任を取る発言。それを踏まえるとミノリと恋人になりたいトーイラは明らかに不利な状況だ。


 しかしトーイラは決して諦めたりはしない。トーイラにはある作戦があるのだ。


「ママ、私考えがあるんだ」

「え……なに突然? 考え……って?」


 突然企み顔になったトーイラが話しかけてきたので、思わずドキリとしながらミノリはトーイラに尋ね返した。


「えっとね、もしもママの恋人になりたいって私の気持ちを受け入れないままザルソバさんと恋仲になったら私は絶縁状を叩き出してこの家を出て行くって……なんてできるわけないー……やだー!

 ママの恋人は私になるのー!! 私ママのお嫁さんになってママを幸せにするんだってずっと決めてたのにー!! うわぁーんやあだぁーー!!!やだやだやだーー!!」


 自分の発言で自分の首を絞めてしまった気分になったトーイラはその辛さから逃げようとしたあまりに幼児退行してしまったのか、地面に寝転ぶと駄々をこねるように手足をジタバタとさせ始めてしまった。


「ちょ、トーイラ!?」



 自爆してしまったトーイラに対して慌てたミノリが駆け寄ろうとしたが、それよりも先にトーイラの事を一途に想う少女がトーイラに駆け寄り、優しく抱きしめた。その少女とは勿論三女のリラだ。


「だいじょーぶだよ。トーイラおねーちゃん。トーイラおねーちゃんにはあたしがいるよ。だからほら、あたしがトーイラおねーちゃんの事、全部受け止めるから、だからあたしにいっぱい甘えていいんだよ。ほら、おうちにはいろ」

「うぅ……リラぁ……」


 成人しているのにまるで子供のようにだだをこねてしまったトーイラを、幼い少女であるにもかかわらず、まるで聖母のようにトーイラを優しく抱きしめたリラはトーイラを起こすとそのまま家へと戻っていった。


 ……一見すると姉を一途に慕う心優しい妹のように見え、大変微笑ましい光景のはずなのだが、そんなリラの笑顔の裏にどことなく歪んだ愛情が見え隠れしているような雰囲気があるのは何故だろうか。


 それはともかく、そんなトーイラとリラの背中をミノリが見送っていると、今度はネメがミノリと一緒に座っていたシャルに声を掛けた。


「ところでシャル、ちょっといい?」

「はい、どうしましたネメお嬢様?」


「実は今日の夜……」

「あ、はい……それじゃ今日はノゾミちゃんを……」


 ネメに呼ばれたシャルが席を立ち、何かを話しながらミノリたちの側から離れていった事で、今この場にいるのはミノリとノゾミだけになった。


 ノゾミは母親2人がこそこそと話しだす姿を見て何かを察知したらしく、ミノリの腕をちょいちょいと触ると母親2人に先んじてあるお願いをした。


「おばーちゃんおばーちゃん、なんかね、今日はネメママとシャルママ、2人で寝たいみたい。だから今日はおばーちゃんと一緒に寝ていーい?」

「あ、そうなの? うん、いいよノゾミ。今日はおばあちゃんと一緒に寝ようね」


 ノゾミは2人の夜のある行為についてお腹にいた頃から何かしているらしいと察し、その行為の意味まではわからないけれど2人きりにさせた方がいいと理解しているようで、2人がこのように夜の事で相談し始めると決まってこうして自分の方から気を利かせてミノリと一緒に寝たいと言ってくれる。


 変に気のきく幼児であるがそもそもノゾミはまだ生後3ヶ月だ。そんな事もうっすら理解できてしまうのは魔法生物という括りに入る存在だからなのだろうか。


(……まぁ、ノゾミが生まれた後でもこうして夜は2人きりになりたがるのは仲がいい証拠って事だよね)


 そしてネメとシャルはがノゾミをミノリたちに預けて2人きりで寝室に入る度に常人より聞こえのいいミノリのエルフ耳が2人の寝室から漏れ聞こえる甘い声を拾ってしまう事から考えると、それだけでふうふ仲が相変わらず良好である事がわかる。


 ……そしてノゾミが生まれる前と比較するとある変化が起きている事をミノリのエルフ耳は聞き逃さなかった。


(そういえば前まで聞こえてきたのはシャルの声だけだったけど、ノゾミが生まれてからはネメの声も……)


 女性同士でも妊娠できる体質を持つシャルがネメとの間に子供を授かる方法はネメから魔力を与えてもらうというネメからシャルへの一方通行の行為だった為、ミノリに孫の顔を見せるという願いが叶った今、今までできなかったそれ以外の事もしだしたらしい。


(仲がいいのはいい事ではあるけれどいつまでも続きそうだなぁ……まぁ2人が幸せなら別に構わないか)


 少しだけ心の中で呆れながらも、ふうふ仲が良好ならそれで結構だと考えるミノリ。


「それはともかくとして……ほんとにもううちのたちときたら……たはは」


 先程のリラとトーイラの姿や、孫に気遣われるネメとシャルの姿にミノリが思わず苦笑しながら無意識のうちにそうつぶやくと、空いた椅子に腰掛けたノゾミがミノリの言葉を聞いて不思議そうにミノリの顔をのぞき込んだ。


「おばーちゃん、なんだか楽しそう。なにか楽しいこととか嬉しいことあったのー?」


「うん、そうだね……楽しい事も嬉しい事もいっぱいあったよ。そしてこれからももっとたくさんの楽しい事や嬉しい事がやってくるんだよ。もちろんノゾミにもね」


「んー、そっかー」


 孫のノゾミにそうミノリが微笑みかけると、その微笑みに釣られてノゾミもまたミノリに相槌を打ちながら笑いかけたのであった。




 ……これはミノリが転生してから15年すぎて6人家族となったばかりのある日のお話。



 ミノリたちの賑やかで幸せな日々はきっとこの先も続いていくに違いない。



今回予定していた2章本編はここまでです。お読みいただきありがとうございました。

1日空けてあさってから取りこぼしてきた話などの番外編を数回投稿する予定でそれをもって再び一旦完結とする予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編完結おめでとうございます! 異種族間、ヤン百合、母娘百合に百合妊娠と色々性癖にぶっ刺さり最高でした! 間違いなく自分の中でトップ3に入る尊さです。 このような百合小説をありがとうござい…
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