13. 14日目① 一緒に狩り。
ミノリがこちらの世界に転生してから二週間が経っていた。
「あ、そろそろお肉なくなっちゃうかー……。狩りに行かないと……」
朝食の準備をしていたミノリは貯蔵庫の中の肉があと数回分しか残ってない事に気がついたので、今日は森の外へ出て狩りに行くことに決めた。
幸いにもこのあたりのモンスターは、ミノリよりも弱い上に食べるとおいしい存在だらけとかなり絶好の狩り場なのだ。
「ウマミニクジルボアとヤワニクウルフと……あ、あと今日はムスヤクニルドリも狩りたいな。まだ見かけてないし」
そのムスヤクニルドリという名前のモンスター。名前の通り蒸しても焼いても煮ても美味とゲーム内で語られている鳥型のモンスターである。
ただし、一度こちらに向かって攻撃を仕掛けるとそのまますぐに走って逃げてしまう習性があり、ゲームのプレイヤーからは『ザ・チキン野郎』という異名で呼ばれている程のチキンオブチキンである。
「よーし、今日の目標はムスヤクニルドリに決定! でも必ず狩れるとも限らないから、念のため他のも見かけたら狩る事にしよう」
本日の獲物を定めてから再び朝食の準備に取りかかっていると、ネメとトーイラも目が覚めたようで、目をこすりながら炊事場にやってきた。
「おね……、おかあさんおはよう」
「うん、おはようネメ、トーイラ」
「ママおはようー、どこか行くの?」
「そうだよトーイラ。今日は狩りに行こうと思うんだ」
先程の独り言が聞こえていたのか、トーイラの問いにミノリは答えた。
(それにしてもまだ言い間違えちゃうのが直らないんだねネメ、おねえさんって思ってくれているのもそれはそれで嬉しいけどそろそろお母さんって言い間違えないで呼んでほしいなぁ)
ニコニコしながらミノリがそのように考えていると、
「私もついてく」
「私もー。ママのお手伝いしたいー」
ネメが右手を、トーイラが左手をほぼ同時に上げながらミノリにそう答えた。
(……うーん……、2人を連れて行くのは大丈夫かな、危なくないかな……)
そんな不安が刹那、ミノリの脳裏を過ぎってしまったが、2人は問題なさそうな様子でさらに言葉をつづけた。
「おね……おかあさん心配してるけど大丈夫。今日は魔力いっぱい」
「初めてママに助けられた時、私たちは魔力切れだったからモンスター相手にどうする事もできなかったんだけど、今日なら大丈夫だよー。それに、こういう事は早めにお手伝いして覚えた方がいいと思うの」
確かに2人の言う通り、将来的には、2人ともそれぞれ単独で狩りをしなくてはならない時がくる可能性もある事を考えると、一緒に連れて行って狩りのお手伝いをしてもらった方がいいのかもしれない。
そのように結論づけたミノリは、
「それじゃ、朝ご飯を食べたら一緒に行こうね」
と、森の外へ2人を連れて狩りをする事にしたのだった。
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朝食を食べ終えてから家を出た3人は、町の人間などに見られると何かしら面倒なことになりそうだからと、森を抜けるとキテタイハの町とは反対の方向へと向かった。
こちらの方向には人々が通りそうな街道も無ければ冒険者が好みそうなダンジョンもなく、ただただ草原と山が広がるだけである。町の人間などがこのあたりで狩りをしている姿も見かけなかったので、今のところミノリにとっては絶好の狩り場なのだ。
狩り場に着くなり、ミノリは真っ先に一番近くにあった木に登り、周囲で狩れそうなモンスターがいないか捜し始めた。すると、遠くの方で動く何かを見つけたミノリだったのだが……。
「えっと、あそこにいるのは……、うーん、シンシスライムだなぁあれ」
シンシスライムとは、このあたりに出没するモンスターの中では唯一食べるのには全く向かないモンスターである。移動が遅い上に攻撃と呼べる攻撃もしてこないのでかなり倒しやすいモンスターなのだが厄介な性質があり、それは……。
「あれはなぁ……服溶かしてくるから近づく事すらイヤだもんなぁ……」
ゲームでのシンシスライムは戦闘に入ると、プレイヤーキャラ、特に女性キャラを捕獲しようと襲いかかり、ここで捕獲されてしまうと防御力が下がってしまうのである。そしてその防御力を下げる方法なのだが……防具だけを溶かしてくるのである。
防具は一度溶かされてしまうと、倒してももう元に戻らないため、シンシスライムに出くわしたら防溶効果のある防具や道具が無いかぎり、逃げるのが正解とも言われている。
ちなみに、このシンシスライムの通称は『紳士という名の変態』だ。理由は言わずもがなである。
「うーん……。ネメとトーイラをそんな目には遭わせたくないからあれはスルーしよう」
シンシスライムを見なかったことにして、ミノリは別の方角を探す事に。すると……。
「あ、お目当てのムスヤクニルドリが2羽も! それに少し離れたところにウマミニクジルボアもいる!」
そう言うとミノリは登っていた木からうっかり落ちないように慎重に降り、下で待っていた2人を伴って獲物のいる方へと静かに歩き出した。




