12. 10日目 野菜収穫。
「一体どうしてこんなに早くできちゃったんだろう……まぁ嬉しいけど……」
目を点にしながら座り込んでいたミノリが見つめていたのは数日前にネメが耕したばかりの畑。
そこへは、ネメが植物魔法で集めた野菜や果物の種を植えていたので、おそらく数ヶ月後には収穫できるだろうとふんでいたのだが……。
「すっかり食べ頃になっちゃって……」
ネメの植物魔法のおかげなのか、たった数日ですっかり収穫の時期となっていた。
「どれもおいしそうだなぁ。まぁ、一体これらが何の野菜や果物なのかさっぱりわからないけど……。というか、どう調理するんだろこれ……」
ミノリは傍に生っていた見た目大根の謎の実を見つめながらつぶやいた。ここはゲーム内の世界、言ってしまえば異世界である。転生前の常識がそのまま当てはまるわけではない。
「あ、おね……おかあさんここにいた」
「ママどうしたのー?」
そこへネメとトーイラがやってきて、ネメは隣に座ってミノリへ寄りかかり、トーイラはミノリの背中おぶさった。あぁかわいいなぁもう……。
「えっと、野菜を収穫しようかなって考えてたんだけど、実は私、ここにある野菜や果物の食べ方とかさっぱりわからなくて……」
見栄を切っても仕方ないと考えたミノリは2人に正直に答えた。もしかしたら2人なら知っているかもしれないと淡い期待を持ったのだが……。
「ごめんママ、私もわかんない……」
「私たち、残り物とか地面に落ちたのしか食べさせてもらえなかったから……」
(しまった! 地雷を踏んでしまった!! な、なんとかしないと……!!)
2人の表情がどんよりとしてしまったのに慌てたミノリは手をぶんぶんと顔の前で横に振りながら、
「あ、あ、いいんだよ!! 気にしないで2人とも! そ、それにわからなかったら実際に試してみればいいんだよ!
こんなにおいしそうに生っているんだから万が一その野菜に合わない食べ方をしても次からは他の方法で試せばいいだけだし!」
(これからは発言に気をつけないと……)
焦りながらミノリは2人に笑顔で答えた。
「さて、それじゃ試しに全種類どんな調理法が適しているか試してみようかな。トーイラにネメ、収穫手伝ってくれる?」
「わかったー!それじゃ籠持ってこよ、ネメ!」
「承知」
暫くすると、籠をトーイラたちが家から持ってきた。
「よーし、それじゃ2人とも作業開始―! あ、とげのある葉っぱや手が切れちゃう葉っぱもあるかもしれないから気をつけてね」
「「はーい!」」
その後、太陽が斜めから真上近くまで昇る頃にはたくさんの野菜が籠一杯に埋め尽くされていた。
「あはは……すっかり夢中になっちゃった……これは採りすぎたかも?」
「そんなこと無いよー!」
「おね……おかあさんのごはんならいっぱい食べられる」
あぁこの2人の持ち上げようがすごく嬉しい……。そんな事を思っているミノリの目にはうっすらとうれし涙。
2人に見られないように天を見上げるミノリを不思議そうに見ていたネメとトーイラだったが……。
「あ、おね……おかあさん、指怪我してる」
突如、ネメが声をあげた。実は収穫の最中にミノリは手を切ってしまい、指先から血が滲み出ていたのだ。
「あー……実はうっかり手を切っちゃって……。2人には気をつけてねって言ったのに自分が怪我しちゃって……」
そう言いながら思わず苦笑いをするミノリ。
「ちょっと待っててー! 私、回復魔法使ってみるー!」
トーイラが言うと、ミノリの手に向けて何か詠唱を始めた。トーイラの体がそれに併せて光り出した……のだが……。
ポフンッという小さい破裂音がしたと思った瞬間、トーイラの掌から小さな煙が上がった。
「あ、あれ?失敗しちゃった?」
失敗したのが意外だったのか、トーイラは慌てた様子。
「あはは、大丈夫だよトーイラ。これぐらいの傷ならすぐ直るから。でも気を遣ってくれてありがとうね」
その心遣いだけでも嬉しいミノリはそう言いながら、トーイラの頭をなでた。どこか釈然としない様子のトーイラだったが、なでられる嬉しさの方が勝ったようで、すぐ笑顔に。
「それじゃ、そろそろ家に持って帰ろうか」
「「はーい」」
その後、籠を運びながら家に戻った3人は、折角だから今日は野菜パーティーにしようと、思いつく限りの調理方法で今日収穫した野菜を食べ尽くすのであった。
なお、失敗作もいくつか……しかし今回の失敗をバネに次回はもっとおいしく作る事を誓うミノリなのであった。
……ちなみに、最初にミノリが見つめていた見た目大根の謎の実。収穫中にこっそりとミノリがつまみ食いをしてみたのだが、口の中にイチゴの味が広がったそうな。
「見た目大根なのに味はイチゴ……おいしいけど……脳が……混乱する……」
……聞かれないようにポツリとつぶやいたミノリであった。
 




