114. 14年目③ 目の前解決策。
「えっと……今までこっそりリラに私の血を飲ませていたの。
ママが狩りに出かけてる時に血を飲みたがっていた時があって、その時にこっそりリラに私の血を飲ませてみたらとてもおいしそうに飲んでいたから、それ以来何度も……」
「あー……もしかして、前に私に血をいっぱい作る方法聞いたのって……」
「うん、それ」
本来ならもう衰弱しきって寝たきりになり、死を待つだけだったはずのリラが、今日も元気でいられたる理由、それは魔力に置換させやすい光属性を持つ者の体液を光属性であるトーイラがリラに吸血させるという事で分け与えていたおかげだったようだ。
「ありがとうトーイラ……トーイラのおかげで最悪の危機は脱していたみたいだよ……」
ミノリは安堵のため息をつきながらトーイラに感謝の意を述べた。
「吸血鬼は自身の肉体と同じ属性を持つ肉体の血を好むそうですし、吸血行為をした際に得られる回復量も大幅に増えるとの事なので、トーイラお嬢様とリラちゃんは最高の組み合わせだったようですね。
普段はお姉様がリラちゃんに血を飲ませていたのも幸いでした。属性無しのお姉様の血はリラちゃんにとっては喉を潤すしか効果がなかったようなので……」
吸血鬼にとって血の味は、相手の肉体の属性に左右されるもののようで、属性の無いミノリの血を『水を飲んでいる感覚と同じ』だとリラが話していたのも、今となっては頷ける。
「……もしかして、私やシャルの血だと危なかった?」
その一方、顔を青ざめながらシャルにそう尋ねたのはネメ。
確かにここまでの話を総合すると光属性のトーイラの血はリラと相性が良いのなら、その対極に位置する闇属性のネメの血はリラにとっては毒だったかもしれなかったのだ。
「そうですね……普通の吸血鬼が光属性の人間から吸血した場合、その血を不味く感じ、さらにそれでも飲み続けてしまうと体調まで悪化するそうなので、それを踏まえると闇属性である私とネメお嬢様の血をリラちゃんにトーイラお嬢様と同じように飲ませていた場合、危なかったかもしれません」
「……わぉ」
「ただお姉様やトーイラお嬢様の血にリラちゃんが慣れてしまった以上、私たちの血を飲む事はおそらく無いのでその点はもう心配はいらないと思いますが……」
「でも……すごくギリギリだったと思う。私、もしも目の前でリラが血を飲みたがっていたら、多分腕を差し出して飲ませていたと思う」
シャルは顔を青ざめさせたネメをフォローしようとしたが、ネメは顔色を青くさせたままだった。
それもそのはず、リラが今日まで無事だったのは本当に全て紙一重だったのだ。
もしもリラに血を飲ませるのが全員の当番制だったとしたら……。
もしもトーイラがミノリの不在時に気まぐれでリラに血を飲ませていなかったら……。
もしもネメやシャルがトーイラと同じように気まぐれでリラに血を飲ませていたら……。
『リラは死に近づいていた』
綱渡りのように全ての危機を回避していた事に、冷や汗を流すミノリたち。しかしこれでまだ終わっていない事を、続けて話したシャルの言葉で思い出した。
「……だけど、これでまだリラちゃんを救えたわけじゃ無いんです。先程もちょっとだけ話しましたが、リラちゃんを救える手がかりがあるものの、おそらく実現不可能な事だったんです」
今までのは全て、あくまで応急処置的な方法であり、根本的な解決にはなっていないのだから。
「それで、その具体的な方法って一体何なの?」
「はい、リラちゃんを救う唯一の方法なんですが……リラちゃんの魔力を全て光属性に置き換えるという方法です。
この技を使ってリラちゃんの魔力と肉体の属性を同属性にすると、以後はどちらも光属性で安定する状態になり、リラちゃんを救う事が出来ます」
「そんな技があるの!?」
「はい、ただし、この技を使えるのは人間だけ、それも世界に一人いればいい方いいというような秘術で……」
「え、何その特殊すぎる技……それじゃリラを救えないじゃないの……」
悲痛そうに顔をゆがめ、泣き出してしまったトーイラ……いや、トーイラだけではない、ミノリも、ネメもシャルも同じように悲しそうに顔をゆがめていた。全員、リラを救う方法はもう残されていないと悟ってしまったから。
「……もういいよ、トーイラおねーちゃん、かーさま、ネメおねーちゃん、シャルおねーちゃん」
泣いてしまっているトーイラの服を掴むと、もう泣かないでと言わんばかりにリラはせいいっぱいの笑顔をトーイラに向けた。
「あたしね、幸せだったよ、誰にも愛されないまま贄になるだけだったはずのあたしが、こうしてみんなと家族になって、あたしの事をみんな愛してくれて。あたし、あと少ししかみんなと生きる事は出来ないけれど、どうか、あたしが死んじゃった後でも、時々は、そんな妹がいたねって、思い出して……ね?」
その笑顔は強がってはいるけれど悲しみの色が非常に濃い……諦めの笑顔だった。
リラのその悲しい笑顔によってますますお通夜ムードに包まれる室内。もう全員が諦めの境地に陥ってしまっている。そんな中ミノリは……。
「……ちなみにシャル、その技ってなんという技なの?」
せめてどういう技なのか聞いておきたいとシャルに尋ねた。
「……あ、はい、その技の名前は『光の祝福』と言います」
「「「……は?」」」
その技名を聞いた途端、ミノリだけでなく、トーイラとネメも目が点になった。
何せその技は……。
「……あ、あれ? お姉様どうしたんですか? 鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔をして。トーイラお嬢様とネメお嬢様まで……」
みんなが口をあんぐりとさせる一方、一人その理由がわからず、困惑するシャル。
「いやぁ、だってねぇ……。一応聞くけど、ちなみにその技が使えるのって……『光の巫女』となった者だよね?」
「はい、そうです……って、あれ? なんでお姉様知ってるんですか!?」
「……やっぱりかー」
シャルの答えを聞くやいなや、ミノリは気が抜けてしまったように床に座り込んでしまった。
「どうしようネメ、私、今すっごい拍子抜けしちゃったよ」
「わぁぉトーイラも? 実は私も……」
さらにネメとトーイラも『なんだそんなことでいいのか』と言わんばかりの態度で顔を見合わている。それに対してミノリたちがそんな態度を見せた理由がわからないシャルは珍しく怒りだしてしまった。
「ちょ、なんでみんなしてそんな間の抜けた顔してるんですか!? リラちゃんの命がかかっているって言うのに!!」
リラの生死が関わっているというのに突然気の抜けた顔になったミノリたちにシャルが怒るのも無理は無いのだが……ミノリたちが拍子抜けしてしまったのも仕方ない。なにせ……。
「えーっと、トーイラだよね……光の巫女になれる子……」
「うん、私だねママ……。えっとね、シャルさん……私なのそれ……光の使いを撃退しちゃったから実際にはなってないけど素質はあるはず……」
「家庭内自己解決疑惑……」
すぐに解決策が見つかってしまったのだから。
「…………え?」
万策尽きたとシャルが思っていたリラを救出する方法が、まさかそれを解決できる人物が目に前にいたという思いもよらない展開に、シャルもまた思考回路が止まってしまったかのように目を点にさせてしまったのであった。




