11. 7日目 2人のおねだり。
「ねぇ、ママ。おねだりしてもいい……?」
家事をしていたミノリのそばまでやってきたトーイラが不意に上目遣いでミノリを見つめながらのおねだり。
何をお願いしたいんだろうと思ったミノリは、屈んでトーイラと目線を同じ高さに合わせた。
「ん?どうしたの、トーイラ?」
「子供っぽいって思われそうだけど……その……」
もじもじと言いにくそうにしているトーイラ。しかし、心に決めたのか、両手を握りしめ、胸の前で構えたかと思うと……。
「そ、その……ママにおんぶしてもらいたいの! ……今まで、一度もしてもらったことなかった……から……」
恐らく町にいた頃に、どこかの親子がしているのを見ていて羨ましいという気持ちがあったのだろう。そして、それは叶うはずのない夢と割り切り、すっかり諦めてしまっていたのだが今はもうそんな事はない、ミノリならきっとしてくれる、そんな期待がこのおねだりへと繋がったようだ。
そんなトーイラの気持ちをなんとなく察したミノリは、喜んで承諾した。
「うん、いいよ。ほら、おいで」
ミノリはトーイラに背中を向けると「わぁっ」と嬉しそうな声を出したトーイラはミノリの背中に負ぶさった。
そして、ミノリが立ち上がるとさらにトーイラは感嘆の声を上げて大喜び。
「わぁ、高い! ……それにママの背中……あったかい……」
ミノリからはトーイラの表情を見ることはできないが、きっと嬉しそうな顔をしているに違いない。これで喜んでくれたなら、ミノリまで嬉しくなってしまう。
そう考えていると、近くからなにやら、ドサッという音がした。
音がした方を見ると漸く起きてきたネメが、寝ぼけて持ってきたであろう枕を床に落とした。そして、何かすごくショックを受けたような顔。その表情に思わずミノリは戸惑ってしまう。
「ちょ、どうしたのネメ?」
ミノリがネメに問いかけるが、ネメは俯いたまま。ミノリが困惑していると……。
「トーイラだけずるい。私もおね……おかあさんにおんぶされたかった……」
どうやら自分もおんぶしてもらいたかったのにトーイラが先におんぶされていたのを見て羨ましくなってしまったようだ。拗ねて泣きそうな顔になっているネメ。なんだこのかわいい生き物たち。
「あ、ごめんねネメ。私、もう満足したから降りるよ」
慌てたようにミノリから降りようとしたトーイラだったが、ネメは首を振る。
「トーイラがおんぶなら、私はだっこ」
そうネメが言うと、ミノリに向かって両手を差し出した。2人同時にできるかな……と少しは考えもしたのが、トーイラのおねだりは良くてネメのおねだりはダメというのは、不公平で良くないと判断したミノリは、なんとかネメもだっこする事に。
「……ママ、大丈夫?」
「へ、平気……だよ」
まだ幼いとはいえ、2人分の重さが同時に体へと掛かるミノリ。
思わず『ぐおおお……』という般若の咆哮とでも呼びそうな音が口から漏れそうになってしまう。しかしここでつぶれてはダメだと歯を食いしばり、なんとか心を無にしながらも笑顔でミノリは耐える。
おそらく2人同時のおんぶとだっこは、これ以上成長したら流石に出来ないので、もしかしたらこれで最後かもしれない。ならば2人が満足するまでしてあげたいとミノリは踏ん張り続けたのであった。
……その後、同時のおんぶとだっこに満足したのか2人がミノリから降りた。
「ありがとうママ!」
「おね……おかあさん最高」
ミノリは、かなり体力を消耗したのだったが、2人の喜んだ姿の前では、それすらも霞んでしまうのであった。
ちなみに翌日、ミノリは軽い筋肉痛に悩まされたそうな……。




