101. 13年と3ヶ月半 リラの見た夢怖い夢。
新しく登場したリラのキャラデザをこの話の後書き部分に入れました。
「……そういえばリラって、『モンスターとしての本能』起きたことないのかな」
ミノリ一家にリラが加わって2週間が経過した。リラは家族全員との仲もすっかり良好で、時折体調が著しく悪い時があることを除けば不安な要素は今のところ無いミノリだったが、ふと『モンスターとしての本能』が、リラには一度も湧き上がっていない事に気がついた。
「私相手に吸血攻撃自体はできたから、湧き上がってもおかしくないと思ったんだけど……」
最初ミノリがリラと出会った時に噛まれたのは吸血攻撃だったから、攻撃方法が無いわけではないはずだ。
「一応、本人に聞いてみようかな、近くにいるし」
ミノリはそれとなくリラに尋ねる事にした。
「ねえリラ、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「かーさま、なーに?」
ミノリお手製のクッキーをおやつに食べていたリラにミノリは尋ねた。
「リラはトーイラやネメと一緒にいる時に、変な感情湧いたりする事ある?」
「変な感情?」
変な感情ってなんだろうと言わんばかりに首をちょこんと傾げるリラ。無意識のうちにやっているのだが、あまりにもかわいい仕種だ。
「うん、自分の気持ちとは関係なく2人に攻撃しよう、倒そうと思ったりするような……」
リラはミノリの言葉を聞いて暫く腕を組みながら『うーん』と考え込んでいたが……、
「ううん、一度も無いよ。トーイラおねーちゃんもネメおねーちゃんもやさしくて、あたしだいすきだから、そんな気持ちになっちゃたらやだなぁ……」
「そうなんだね」
どうやら『モンスターとしての本能』は起きた事がないようだ。
(あ、もしかしてリラはモンスターであると同時にイベント用のモブキャラだからなのかな? その状態が干渉し合ってる為に出ない……みたいな)
脳内でミノリがそんな風に推測していると……。
「それってシャルおねーちゃんにもあったりするの?」
『モンスターとしての本能』について、もう少し知りたかったのかリラがシャルにもそれが起きるのか尋ねた。
「うん、今は抑えられているみたいだけど、前までは大変だったみたいだよ。
私と初めて会った時もネメとトーイラにそれが原因で襲いかかったことがあって……」
「あれ、かーさまには? なんでシャルおねーちゃんはかーさまには襲いかからなかったの?」
「え? なんでそんな風に……って、あー、そっか、なるほど……」
リラの質問で、今の自分を第三者が見た場合について漸くミノリは気がついたが、リラからすると、『ミノリは人間側でモンスターを相手に戦う側だから姉2人と同じようにシャルに襲われないのは変だ』と思ったのだろう。
「えっとね、昔はシャルと同じ側だったからシャルに襲われなかったんだよ」
「そうするとかーさまも『モンスターとしての本能』で最初おねーちゃんたちに襲いかかったの?」
「ううん、私にそれが出たのは、3人で過ごすようになってからずっと後で、その時も私は2人を襲わないようになんとか鎮めることができたよ。そして今はもうそれが出ることは無くなったよ」
「ふーん……。かーさまも大変だったんだね」
『本来切り替えられないはずの仲間フラグのONとOFFで切り替えた』というゲームシステムのデバッグモード的な面や、『自分は転生者で、人間だった頃の自我が強く残っていたからそれが起きなかった』事についてどう説明すればいいかわからず、ミノリは言葉を濁して説明したが、リラはなんとか理解してくれたようだ。
「だけどかーさま、なんでそれをあたしに聞いたの?」
「えっとね、リラにはそれが湧き上がらなかったと話してくれたから問題ないんだけど、もしもリラにもそういった事が湧き上がる事ってわかったら、私たちはその事でリラを傷つけたり、見捨てたりするなんて事は決して無いから安心してって言おうって思ってたんだ」
「そうなんだ……ありがと、かーさま」
ミノリの説明を聞いて、口角を上げるリラ。家族の一員として大切に想われている事が改めてわかったことで喜びの感情が気づかぬうちに滲み出たようだ。
「さーて、正直に教えてくれたリラにはごほうび。チョコチップクッキーも追加しちゃうよ」
「やった、ありがと、かーさま!」
そんなかわいい反応を見せるリラをついついミノリは甘やかしてしまう。
過保護にならないようにすると心に決めていたはずなのに既にその決意もぐだぐだとなっているミノリなのであった。
しかし、その夜の事だった。モンスターとしての本能は出なかったのだが、リラにあったある問題が湧き上がってしまったのであった。
「う……うぅ……やめて……たすけて」
ミノリとトーイラと共に同じ部屋で眠っていたリラが突如、苦しむような声を上げ始めた。ちなみにリラはミノリの上で寝ることをすっかり定位置としてしまっている。
「え、リ、リラ? どうしたの、大丈夫!?」
リラのうなされ声で目を覚ましたミノリが慌てたようにリラに声を掛けた。同室で眠っていたトーイラも心配したのか起き上がってリラの様子を窺っている。
「……ぇ、あ、かー……さま? よかった……夢だった」
「怖い夢でも見たの?」
黙ったままこくりと頷くリラ。
「あのね、あたしが捕まってた北のお城みたいだったんだけど……あたし、羽を捥がれて、手首も縛られてたの。
それで、目の前にローブ着た女の人があたしを冷たい目で見てて、その人が変な呪文を唱え始めたら体が燃えるように熱くなったと思ったら、体の内側がボコボコって動き出して、あたしの皮膚が裂けて破れて、中から何かが出てきて、あたしがあたしじゃなくなって……」
「もういい、もういいよリラ……、無理しないで、そんな悪い夢は思い出さなくていいんだよ」
青ざめながら夢の内容を話すリラをミノリは抱きしめ、リラが落ち着きを取り戻すまでずっとその姿勢のままでいた。
(……きっと、ゲーム上のリラも、こんな気持ちだったんだろうな……。それにしてもリラが気がつかなくてよかった……夢に出てきたローブを着た女の人がネメ……リラのお姉ちゃんになった人だって事に)
リラはこの世界ではラスボスとなっていない為、その事が記憶にあるはずが無いのだが、この家に来たばかりの頃にネメの事を無意識に怖がっていたようにやはり根底では繋がっているようで、結果として悪夢を見てしまったようだ。
それでも、リラが夢の中に出てきたローブを着た女性の正体に気がつかなかった事だけは不幸中の幸いだったとミノリは思った。
もしもその正体がネメだと気がついてしまったら……きっとリラはネメに対して不信感と嫌悪を抱いてしまい、折角築き上げてきた姉妹の仲まで崩壊してしまう可能性があるから。
「リラ、私がいるから大丈夫だよ。あなたを傷つけるやつなんてここにはいないから安心して眠って大丈夫だよ」
ミノリはリラをあやすように抱きしめがら背中をポンポンとしていると、次第に落ち着いてきたのかリラは再び瞼を落とし始めた。瞼が重くなる中でリラはというと……。
(なんでこんな夢見ちゃったんだろうあたし……。でもなんでだろう、あたしはもしかしたら本当はこうなる運命だった気がする……どうしてだかわかんないけど、そんな気がするの)
直感的に先程見た悪夢が事実になるはずの事だったのではと思いながら、再び夢の中へと誘われるのであったがその最中……。
(でも、夢の中で見たあの女の人……ネメおねーちゃんに似ていたような……)
ミノリの想いに反して、薄々とリラは夢で見たローブの女性の正体に感づいてしまったようだ。




