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1. 1日目① 転生してました。


 木々のそよぐ音や川の流れる音以外は何の物音もしない静かな森。その中を一人の少女がふらふらと歩いていた。



「これってあれだよねぇ……最近流行ってる転生ものの……。だって私褐色じゃないし触っただけでやたら耳が長いってわかるもん……」


 その少女は頭を抱えながら、何かしらショックを受けたような顔色で川の水音がする方を目指していた。


「まずはどんな姿になってるか確認しないと……。さっきからイヤーな予感しかしないもん……。この弓とか褐色とか長い耳とか……」


 ダークエルフを彷彿とさせる褐色の肌に長い耳、そして彼女が目覚めた時からその手に握られている大きな弓。その少女はこの姿に見覚えがあったのだ。


 そしてそのまま少女が歩き続けていると小さな川を見つけたので急いで川面をのぞき込み、己の姿を確認した。


「うわぁやっぱり……」


 川面には弓使いと思える衣装を身につけたかわいらしい面立ちの少女が映り込んでいた。どうやらこれが今の姿らしい、と悟ったような諦観したような顔をしたかと思うと……。



「……はいどうも! わたし隠塚おんづかミノリっていいます! 17歳女子高生弓道部所属でした!

 いきなりですが多分私は死んだみたいです! 寝ようとしたら大きな地震と音が聞こえてきて、もうその後の事を覚えてないので多分家の裏にある崖が崩れて土砂崩れに巻き込まれて即死したんだと思います!

 そして寝る直前までやってたゲームに転生したみたいです! だって私の見た目、そのゲームに出てきたザコモンスターまんまだもの! 倒されて終わるだけじゃん!

 はい、私終わった! 転生して即人生詰んだ!」



 転生ものの小説数ページ分を使って語られる自分が死んで新しい世界に転生するまでの過程を一台詞で収めつつ、ものすごい説明口調でミノリは虚空に向かって叫んだ。


 見た目はファンタジー作品に出てくるような赤い瞳に長い耳、銀髪のロングヘアーがよく合うダークエルフでかわいい部類に入る弓使い……なのだが、ゲームの主要キャラにそんな人物は説明書や攻略本のメインキャラページのどこを探しても出てこない。


 この少女が出てくるのは、攻略本で後ろの方でまとめられているエネミー図鑑のページ、つまりただのザコモンスターとして出現するのである。

 元々は途中まで仲間キャラとして作成していたのだが、ボツとなり、そのままザコモンスターへと流用したらしい。


 そのかわいらしい姿から一部の好事家の間では人気なものの、このエリア周辺に出現する他のモンスターと比較すると異様に強くて倒すのに厄介な部類にも関わらず、経験値がその割に低い。

 さらにそれに併せてドロップアイテムも入手できるお金も非常にしょぼく、出てきたらとっとと逃げた方が効率的にいい存在とまで言われている。


 そしてゲーム内にあるモンスター図鑑のコンプを目指そうした場合、出現エリアが今ミノリがいると思われるこの森の部分だけと、かなり範囲が狭い上に出現率も相当低い。

 森部分にはこのモンスター以外出現しないように設定されている関係上、ひたすらフィールド上の森の中をぐるぐる移動し続けてエンカウントしなければならない為、正直苦行に近い。


 四時間フィールド上の森の中をぐるぐると移動し続けても出現しなかったというプレイヤーまでいるという噂さえある。


 さらに出現する期間が、このモンスターの出現する近くにあるキテタイハという町を訪れてから近くのダンジョンに入るまでのわずかな間だけ。

 どうしてこうなってしまったのかというと、出現率や出現範囲、出現期間の全てをデバッグ作業中に下げたまま戻し忘れてしまった……でもこれは仕様である、と後に開発者インタビューで明らかにされている。



 そんな半ば隠しモンスターみたいな状態となっているため、面倒くささに拍車をかけたコンプ泣かせの権化とも言われているのだった。



 そんな今自分が置かれている現状に一通り落ち込んだミノリだったが、流石にこのままここにいても仕方ない。ミノリは森を抜けてまずはここがどこかを確認する事にした。


「この子……いや今は自分なんだけど……ゲームと同じならここはキテタイハの町周辺の森のはず……」


 ゲーム内のフィールドを思い出しながらミノリが歩いていると、どうやら森から抜け出したようで、あたりにはなだらかな丘が見えてきた。



「……うーん……。わからない」


 ゲーム上のフィールドでの目線は俯瞰ふかん的だったのだが、今の自分は地上からの目線であり、ここが同じ場所なのかいまいち見当がつかない。


「……大抵こういう転生ものって神様みたいなのがいてチート的な能力をくれたりとか、あとほら、数値や所持品が可視化できるゲームウインドウみたいなのあるじゃん? 私には無いんだなこれが。

 あるんだったら今見せてよマップとかチート的なのを!」


 再びミノリは憤慨して叫んだが、誰かから声が返ってくるわけではない。もう叫びたいだけである。しかしこれ以上喚いても仕方ないと、ミノリは即座に諦めた。


「これは誰かに聞いて確認した方が早いよね……」


 そう考えたミノリは自分の周りに誰かいないか探す事にした。


「仮に人を探しだしたとしても問題は私がモンスターである事だけど……、も、もしかしたら友好的な態度を見せながら人前に出れば敵として見なさずにいてくれる……かも?」


 杞憂だったら嬉しいな……と考えながら辺りを見回すと遠くの方に行商人と思われる男性が一人歩いているのを見つけた。


「冒険者や騎士団だったら姿を見せた途端に問答無用に斬り掛かってきたりしそうだし、盗賊とかだったら捕まってぐへへな展開になりそうだから……、うん、あの人でいいや。すみませーん!! ここってキテタイハの町近くですかー?」


 そう考えたミノリは、行商人の方へ向かって、遠くから声を掛けた。


「んぉ、そうだぞー、ここはキテタイハのmうわぁああああ!!!!! モンスターだぁああああああ!!!!!! これで命ばかりはあああ!!!」


 行商人は声のする方を向いて最初は普通に反応したものの、ミノリの姿を確認するなり顔色が恐怖で青ざめたかと思うと、唐突に背負っていた荷物を放り投げ一目散に逃げていき、やっぱりだめであった……。


「うぅ……そんな怖がらなくても……。でも、ここがキテタイハの町近くであるのは確認できたからよしとしよう……」


 いくら見た目は女の子でもやはりモンスターとして認識されるのではこれはもうどうしようもないなぁ、と予想通りの結果に心で泣きべそをかくミノリだった。


「それじゃ……急いで森に戻ろう……。あの行商人が町へ討伐隊派遣を依頼しに行ったとしたらひとたまりもないし……」


 そう思案したミノリはひとまずここを離れようと森の方へと踵を向けたが、先程の行商人が投げ捨てていった荷物があったのを思い出した。



「ま、まあこの荷物はもらっていってもいいよね? なにはどうあれ私にくれたのは間違いないし……」


 ちゃっかりしているミノリはその荷物を背負うと、そのまま森へと戻っていった。

話自体は全て書き終えていますので、双子が登場するまでは、1時間おきに投稿する予定です。

それ以降は1日1投稿の予定です。

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