亡き友
ラングル鉱山への道のりは比較的遠回りでも緩やかな道を選んだ。
王都のような完璧に舗装された導線とまではいかないが、それでも砂漠や道なき道を行くよりかはよほど良い。
今から山に登るというのに何もスタートラインに立つまでの道程で体力を消耗することも無いだろう。
さすが冒険者というべきか。
馬車に乗り込んでからクラブに任せきりだったリックだがどうやら正解だったようだ。
「で、証拠とやらはどこなんだ?」
「…っつあ~その事なんだが…」
馬車の中から顔を出してリックはおもむろに聞いた。
そもそもその証拠があるからという前提で馬車に乗り込んでいる。
手綱を握るクラブに一筋の汗。
なんだか歯切れの悪いクラブにリックはため息を吐いた。
「…ないんだろ。証拠なんて」
「いやいやいやいや…待ってくれ! 確かに物的証拠はないが話しを聞いてくれ!」
「やっぱり…」
手綱を放して慌てふためくクラブに再び溜息を吐く。
しかし不思議と騙されたという考えはなかった。それどころか手綱が無くとも真っ直ぐに走る馬を見て安心すら覚えていた
馬は頭がいい。
こうして主の言う事を命令が無くとも真っ直ぐ歩けるという事は信頼している証。少なくとも悪い奴という訳ではないだろう。
「まあいい。話せ」
「そういってくれると助かる。…では本題に入るがさっきの店でラングル鉱山の謎を解きたいと言ったのを覚えてるか?」
「ああ。世紀に残る何かを残してる…だったか」
「そうだ。実はな…アレはウソだ」
「殺すッ!!」
「おい止めろ! 首を絞めるな!!」
怒りに身を任せ、首を締め上げ両手で吊り上げる。
誰も居ない荒野で大の大人が組んず解れつ。第三者視点ならば相当みっともない姿であろう。
しかし有に百キロはありそうなクラブを軽々と持ち上げるリックもリックだがそれに耐えるクラブも相当な猛者である。…それはともかく。
「…ったくこのオッサンは」
「仕方がないだろう! こうでもしないとお前さんは着いて来てはくれないと思ったのだから。俺には強い護衛が必要だったんだ」
「なんでお前がキレてんだよ。…つーかその口ぶりだと俺のこと知ってたみたいだな。誰から聞いた?」
「…ホリック・マウセンだよ。あの英雄の…」
「あの爺さん…。また余計なことを…」
ホリック・マウセン。
その名が示す通りルナの祖父に当たる。
ただ都民や王都からすれば彼の名はただの爺さんなどという無礼には当てはまらない。
なぜなら代々より王宮魔術師として王都に仕え王国と都民に尽くしてきた英雄なのである。
この世界で生れ落ちたのが浅いリックもホリックの名は再三に渡り耳にしていた。
「そのホリック・マウセンがアンタのことを褒めちぎってたんだ。頼らなかったらそれこそウソつき以下のバカだよ」
「開き直るなバカが。私事で利用したいんなら他を当たってもらえるか。俺も忙しいんだ」
「いやそれは困る。それにアンタは今利用してるって言ったが事実は違う。今回の依頼は私事では決してない」
「どういうことだ?」
言葉以上にリックの眼が語る。
お前には信用が無い―――と。
しかしそれでも、その視線を受け止めるクラブにはウソ偽りは無いように見える。
その眼は古書店で見せた比類なき想いを詰めたあの眼だった。
「この依頼は俺の為じゃない。俺はただ亡き友の悔いを晴らしたいだけなんだ。頼む、協力してくれ」
すいません遅くなりました。
またちょくちょく更新していきます。
宜しくお願い致します。