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転生者

陸奥 九十九(つくも)


彼が転生以前に名乗っていた名だ。


九十九は何不自由ない家庭に生まれた。


親に愛され友に恵まれ、学業にも秀でた才ある人物だった。

そして、そんな彼をもっとも夢中にさせたのが格闘技だった。


父親の祖父が古流武術の達人だったのが切っ掛けだ。

幼少より連日連夜の稽古が続いた。


普通ならば遊びたい盛りだっただろうがしかし、稽古に次ぐ稽古にも九十九は音を上げることはなかった。そればかりか、自主的に技術の習得に励み元々あった才能を飛躍的に開花させていった。スポンジが水を吸収するように。才能に実力が追いつくのにそう時間は掛からなかった。


稽古を初めて十年。

九十九は祖父より免許皆伝を得る。


この時、九十九はまだ十五才の若さであった。


「…で、そこから闇討ちする犯罪者に成り下がったのよね?」


本に目を通しながら相づちを打つ。面倒くさそうな態度が『その話しはもう聞きました』と訴えていた。


「のよね? じゃないわバカ。他流試合で自分の腕を更に磨きにいったんだよ。道場破りってやつだ」


至極当然のように返すリック。

ルナは呆れた様子を隠しもせずに、


「道場破りって単語がもうすでに不穏なんだけど…」


「まあ実際あまり褒められた行為じゃないのは確かだな。でもそこは弱い奴も悪いんだぜ?格闘技者を名乗るならな」


「勝手な言い分ね。そんなことばかりしているから変な戦争に巻き込まれるのよ」


「だから変な戦争じゃねえーって。あの時は国中が大変だったんだよ。俺のせいじゃない」


「でも覚えてないんでしょ?」


「…覚えてないんじゃない。あまり思い出したくないだけだ」


ふと顔に陰がさす。それも無理のないことだった。


戦争とはまさに地獄だ。

国は荒れ、食料はなくなり、水すらもろくに飲むことが出来ない。


目の前で友人が殺されたかと思えば次の瞬間には自分の半身が吹っ飛ばされる。


そんな非日常が日常となる世界で九十九は必死で戦うこととなる。


銃があれば銃で、ナイフがあればナイフで、それらが無くなれば己が鍛えた拳脚で。


九十九は知る。

人を倒すのが格闘技であって人を殺める為の技ではないのだと。機関銃や戦車の前では赤子同然なのだと。


最強という自負が瓦解する中、しかし生死の境目でそれを理解した時、九十九の中で何かが弾けた。


神の導きを聴いたが如く彼は誰にもたどり着けない境地へと達する。

〝究極の他流試合〟が彼を飛躍させたのだ。


一撃必中。

一撃必殺。


九十九の放つ拳脚は殺人術へと進化していた。

後に九十九はこう呼ばれることとなる。


〝鬼人〟

〝災いの九十九神〟


―――と。


「…そう。でも、じゃあどうしてこっちの世界に?」


「それが俺も記憶にないんだって。目が覚めたらここにいたっていうか…」


首を左右に傾げてみる。記憶の片隅が落ちてくるかなとも思ったがリックの表情を見るに現実は中々厳しそうだ。


「つーかお前、俺の言ってること妄想だとか言っておきながら結構信じてるじゃねえか」


「バカ言わないで。なかなか聴いたことのない設定だからその話しに()()()()()()()だけよ。勘違いしないで」


「はいはいそうですか」


「ええそうよ。だからバカにしないでくれるかしら、()()()()()?」


「お前こそバカにしてるだろッ!!」


狭い建屋で言い争う二人。しょうもない小競り合いにほこりが舞う。

年齢でいえば十歳以上は年が離れているはずだが、精神年齢は些かほども変わらないようである。


そんな時だ。


〝トンットンットンッ〟


外壁をノックされ二人は気まずそうに見つめ合うとケンカを止め二人して身なりを直す。どうやら客人みたいである。


ルナは客人を招き入れると間髪入れずにリックのもとへ案内する。


なぜかと思ったが、なるほど。


客人の身なりが古書を買いに来たそれではなかった。

リックにとっては実に二週間ぶりの客人だった。


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