表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/9

魔術師

「なによじゃないよまったく。これだから街で噂の悪役令嬢様は」


「…その呼び方やめて」


ルナは本から視線を離さず語気を強める。


その表情は窺い知れないものの今にも本を投げてきそうな雰囲気を醸し出している。というか気付けば構えていた。


「おい投げんなっ! ったく…そういう短気なところ直さねえと噂もなくなんねーぞ」


「アナタが変なこと言うからでしょ」


「それはこっちのセリフだ。お前ら魔術師が魔物だって? 笑わせるな、お前らの大半は怠け者だろ」


「まあ否定はしないけど」


この世界において魔術師は唯一無二の天才。その考えは何処へ行っても揺らぐことのない事実である。

だがしかし、近年争いが無かったため研究を怠り、日々の鍛錬さえ怠ける魔術師が急増している。


この現状、向上心がないといえばそれまでだが一番の要因は国が与える特別手当に他ならない。


事実、マニラにおいての平均月収が二十万に対し国が抱える魔術師というだけで三十万を優に超える。しかも魔術学校の生徒にまで二十万近く払われるというからその扱いは別格である。


何もしなくても裕福に暮らせるのなら努力も怠るというものだろう。


「魔術師が特別なのは分かるが、やり過ぎると内乱がおこるぜ?」


マニラでは売り上げや月収の一部を王都へと上納している。


無論、マニラ市民への見返りはあるもののその見返りは微々たるもの。見返りを見返りと感じてる市民はほとんどいないだろう。心情だけで問えば理不尽さが増している。


なぜなら当然、魔術学校の運営費やら給料は市民の上納金で賄っているからだ。


「ま、このボロ屋も火をくべられない様に気を付けた方がいいな」


「私に言うの止めてくれる? それに火を点けられて困るのはアナタも一緒でしょ。全力で気を付けなさいよ」


「困るから忠告してんだろ。この店が無くなったら俺の仕事もなくなるもんな」


言いながらリックは向かいの椅子へと座る。小さな机を引っ張りだすとボードを立てかける。そこには『どんな依頼でも引き受けます』とだけ書かれてあった。


「一応ここは古書店なんだけれど…知ってたかしら?」


「やっかましいわ。文句があるならお前の爺さんに言え。こればっかりは俺のせいじゃない」


「ホント…お爺様にも困ったものね」


ルナは呆れたように溜息を吐く。


あれはほんの一ヶ月前。

砂漠で放浪していたルナのお爺様を偶然助けたのがリックだった。


まあ実際は水やら食料を分け与えただけだったのだが、お礼をせがまれ冗談交じりで店をやりたいから土地を探していると言ったのが事の発端で、ルナにとっては終わりの始まりだった。


かくして浮浪者にも間違えられるような恰好のリックと街で噂の悪役令嬢の共同店舗がここに設立されたのである。


「はあ…アナタのせいで店の雰囲気が台無しだわ。私はひとり気ままにやってたのに」


「そういうな。また今度お伽話を聞かせてやるからさ」


「ふん…。またバカにして……」


半眼で呟くルナを見てリックは笑った。


古書を嗜み、ファンタジーの世界に身を投げるのが好きな彼女にとって彼が時折りするお伽話は至高の長物。


素知らぬ顔を取り繕っても彼女が浮足立ってるのをリックは分かっているのだ。


「アナタってホント良い性格してるわよね…。まあだからこそ、突拍子も無い話しを思いつくんでしょうけど」


「ハハッ…そらどうも」


少しだけ語尾が濁る。

リックは図らずも苦笑いするしかなかった。


―――なぜか?


彼のするお伽話しとは、本当の意味でのお伽話にあらず。


それはただの思い出話しなのだ。


彼、リック=ヴァン・キーエンスは日本からこの異世界へとやってきた転生者だった。


読んで下さりありがとうございます。

週一ぐらいで更新していきたいと思います。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ