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リック=ヴァン・キーエンス

 荒野で対峙する二人の男。


 その内の一人、リック=ヴァン・キーエンスは口元だけで薄く笑った。


 誰もいない荒野でひとりの男と対峙する。

 古びた甲冑、使い古された長槍に筋骨隆々の男だ。


 〝どこの世界にもいるんだな…こんな奴が〟


 心の中で独りごちる。


 リックはこの男との面識は無い。それどころか顔を見たのは今日が初めてだろう。


 ならばこの男の目的はなにか?


 男は嗤う。

 嘲笑や嘲りといったところか。


「バカな男だ。金さえおいてきゃあ手出ししないって言ってんのによ」

「そう怒るな。おいてく程の金がねーんだ」


 男の正体は所謂〝賊〟というものだ。


 彼らのやることといったら単純にして明快。

 人を脅して金を得る。


 荒野で実行するのも自警団や国の兵士に捕まらない為だろう。



 しかし、この場合―――



 ―――相手が悪かったというべきだろう。



「どうせ最後には力尽くだろ? 良いからさっさとかかってこい」

「殺さないとでも思ってるのか? ――嘗めるなよ。武器や魔術も持たない小童が…!」


 その言葉を合図にお互いが半歩退いた。

 長槍を構える男にリックは両の腕を上段に構えて応戦する。


 ―――!


 始めに動いたのは長槍の男だった。


 一歩踏み込むと同時に七尺以上はあるだろう長槍をリックに向けて解き放つ。


 剣や斧との大きな違いは獲物を捕らえる長さそのもの。


 距離を取り一撃必中に徹すれば素手のリックには手も足もでないことになる。

 一(そう)、二槍、三槍…数え切れない程の突きがリックを襲う。


 こうも初速と引き手が早くては反撃に転じるのは至難の業だ。


 賊とは思えないほど冷静な攻撃。


 それは、むやみに襲いかかってくるだろうことを考えていたリックには予想外の動きだった。


 〝まあ…だから何だって話しだけどな〟


 リックが引き手に合わせて前に出る。


 ―――いや、引き手に合わせるという表現は些か間違いか? その踏み込みは明らかに長槍が賊の懐に入るよりも速かった。


 なら――今の形勢は?


 リックは賊の懐に入り込むと鳩尾に深々と一撃を見舞う。


 苦悶の表情を浮かべ痛みに賊が腰を折ると同時に両足で相手の身体をホールドする。両手で相手の片一方の腕を絡めると地面へと引きずり込む。


「多少やるようだが血迷ったか? この状態からなにができる!? 槍で突いてしまいだな」

「なにも出来ないのはお前の方だ。この形〝腕がらみ〟っていうんだぜ?」

「は! なにを言っ―――!!」


 〝ベキベキベキッ!〟


 リックが腕を締め上げると絡みとっていた賊の腕が小気味いい音色を奏でる。


 反対方向へと曲がった腕を賊は信じられないといった表情で見つめる。


「別名〝キムラロック〟。極まれば肘がぶっ壊れる。武器や魔術に頼り徒手での戦闘を忘れたテメーらにゃ出来ねー芸当だろ?」


 ようやく自分の腕が折れたことを悟ったのか賊が悲鳴を上げる。


 痛みからというより自分の現状を悟っての悲鳴だろう。普通じゃなければ自分の腕が反対方向へむいてるなど直視できるものではない。


 悲鳴を上げる相手をよそにリックはそのまま相手の顎を蹴り上げた。

 賊がそのまま後方へと倒れる。


 リックは自分の服についた土を払うとゆっくりと立ち上がった。


「二度と絡むんじゃねーぞ。オレは今の生活が気に入ってんだ」


 賊からの返事はない。気を失っているようだ。


「にしても先は長いな…」


 荒野を照り付ける太陽に伸びをするとリックは自分が住む街、マニラの方に視線を向ける。

 マニラまでおよそ三十キロ。道のりは決して楽ではない。


「この世界にも車や飛行機があればなあ…」


 そんな無意味なことを考えてる自分に苦笑しながら、リックは再び歩き出した。

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