事件発生
しかし、何が起こったんだ。父さんのことだ、理由も言わずに建物に避難しろってのはよっぽどのことがないと言わない。
建物の中ってことは、考えられるのは、どこかの国からミサイルが飛んで来るとか。殺人鬼でも脱獄したとか。新種のウイルスが発生したとか。
何にせよ情報が少なすぎる。今は言われたとおり建物に入るしかないな。
「カラオケ行くか。」
「よし。今日こそ最後まで歌い切る。」優衣がやけに張り切っている。
「また90年代ばっかりか。」裕樹がため息混じりに応える。
「む。90年代だけじゃないよ。最近80年代も覚えたんだよ。しかも2曲。」
「逆に古い方へ!?」
「まあ、せっかくだしみんなで90年代メドレーでも。」その時叫び声が聞こえた。
「なんだ?何があった?」裕樹が反応する。
「とにかく行ってみよう。」そう答えて3人で声の方へ向かった。
一つ先の路地へ入ったところでうずくまっている女性を見つける。慌てて駆け寄り声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
尋ねてみても反応はない。年は三十代半ばぐらいだろうか。どこにでもいそうなOLって感じの格好だが、目を見て思わず後ずさる。目は開いているのにどこにも焦点があっていない。まるでただ開いているだけで、見るという行為はしていない。そんな目をしている。
気を取り直し、再度声を掛けるものの、ただ開いているだけの目は変わらず、声を発することもない。
「どうする?さすがにほっとけないだろう。」裕樹が問いかける。
「とりあえず救急車か警察を呼んだ方がいいんじゃない。」優衣が答える。
「そうだな。とりあえず警察に電話しよう。」そう言って携帯を取り出す。
「おかしいな。圏外だ。どっちか携帯を貸してくれないか。」
「いいよ。」優衣が自分の携帯を取り出すが、画面を見て顔が引きつる。
「私のも圏外。」
「俺のもだ。」動揺を隠せずに裕樹が言う。
「おかしい。何かが起こってる。」