緊急事態
それから俺たちはいつものようにバカ話をしながらお酒を酌み交わした。そろそろ生ビールはひと段落し、焼酎に入ろうかなと思ったところで時間を確認する。まだ7時過ぎだった。
「やっぱり明るいうちから飲むといいね。まだ7時だ。」
「確かにね。このまま飲んでたら日が変わる頃には倒れそうだ。」優衣が笑って言う。
その時通りの方から微かな悲鳴が聞こえた気がした。気になって外を見るが特段何も見えない。
しばらく耳を傾けていたが、店内の賑わいしか聞こえなかった。
他の2人は特に気にしていないようなので、気のせいだと思い。そのまま焼酎を注文した。
そしてそろそろみんな足元が怪しくなった頃。
「そろそろお店変える?」優衣が切り出した。
「そうだな。このまま飲んでたら潰れそう。」俺も賛成する。
「潰れちゃえばいいじゃん。」優衣が笑いながら言う。
「無事に帰るまでが、シラス会だから。」
「何それ面白くなーい。」優衣は酔うと辛口になる。
「まあスベるのが昌の良さなんだから。じゃあお店変えて飲み直そう。」裕樹がそう言って会計を頼んだ。
支払いを済ませ外に出た途端、まるでタイミングを図ったように携帯がなる。父さんからだった。
「もしもし。父さん?どうした?」
「昌。今どこにいる?」焦ったように尋ねる。
「今友達と飲みに出てる。」
「分かった。事情はあとで説明するからすぐに建物の中に入れ。とりあえず夜があけるまで居れる場所だ。「局長危機管理会議が始まります。」理由は後で話す。いいな。とにかく建物中だ。」
「どういうこと?」
「父さんはこれからすぐ臨時の危機管理会議だ。とにかく大変なことになっている。カラオケでも何でも良い。夜が越せる場所だ。とにかく頼んだぞ。もう行かなきゃ。」
「どした?」裕樹が不思議そうな顔で尋ねる。
「父さんから。切羽詰まった感じで、すぐに建物の中に入れって。」
「昌志のオヤジさんって、確か県の偉い人だろ?」
「県の職員で、今は危機管理部門にいるらしい。」
「それって何かヤバイことが起きてるってこと?」優衣も心配して尋ねる。
「詳しいことは聞けなかった。とにかく建物の中で夜が越せる場所にいろって。」
「冗談を言うタイプじゃないもんな。従った方が良くないか?優衣は帰らなくても大丈夫か?」
「はっ。裕樹に口説かれてる。私はそんなに軽くないよ。」
「ちょっ。何言って」
「裕樹。まさか俺がいる前で・・・。」
「いいだろ。なんなら3人でも。」
「「それはない。」」
二人の声が重なって、裕樹に白い目を向ける。
「ちょっ。ノってやったのに・・・。」
一拍置いて3人共笑いだす。
「なんか一気に緊張感なくなったね。」優衣がため息と共に話しだす。
「誰のせいだ。」
「さあ。でも、頼りにしてるよ?お二人さん。か弱い女子を守ってね。」
「あいよ。何があっても無事に帰しますよ。」何気なく答えた。
何か気になったのか優衣はそのまましばらく俺を見ていた。