シラスダンス
財布と携帯だけ持って、自転車で街の中心部にある前袋公園に向かう。待ち合わせまで後20分。早めに着きそうだ。
公園に到着して自転車を適当なところに停める。近くのベンチに腰をおろす。しばらくすると優衣がやって来た。
「早いね。裕樹はまだ?」
「まだ。でもすぐ来るでしょ。」
「今日どこ行く?」
「私シラスバー見つけたんだ。」
「またマイナーな所を。」
「シラスの踊り食い出来るらしいよ。」
「ちょっと怖いけど、興味あるな。」
「普通にシラスサラダとかシラスの載ったピザとかも美味しそうだったし。」
「いいね。そこで決まり。」
シラスに話をしているうちに裕樹も到着した。
「お待たせ。みんな早いな。」
「さっき来たとこだよ。」優衣が答える。
「それじゃあそろそろ行きますか。踊り食いに。」そう言って歩き出す。
「何?踊り食いって?」裕樹が不思議そうに尋ねる。
「着くまでヒミツ。」意地悪そうに優衣が答える。
「でも昌も場所分かるの?」
「いや、分かんない。シラスの匂いのする方に向かってる。」
「もう。私に着いてきなさい。エスコートしてあげる。」得意げに優衣が少し先に行く。
五分ほど繁華街を歩き、路地に入ったところに目的の店を見つけた。看板に魚のマークが描かれている。
「シラスバー?なにここシラスばっかりなの?あ、踊り食いってそういことか。」裕樹が納得したような表情を浮かべる、
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」入り口を開けると若い店員さんが声を掛けて来た。
「3人です。予約はしてないんですけど、大丈夫ですか?」優衣が聞き返す。
「大丈夫ですよ。こちらへどうぞ。」案内されながら店内を見渡す。小さな店だが、内装が木目調で統一されており、雰囲気が良い。
席に着くと、いつものように生ビール二つとカシスオレンジを頼む。
食事のメニューを眺めている内にお酒が運ばれて来た。
「それじゃあ乾杯しようか。」
「優衣。」そう言って促す。
「仕方ないなー。えー、本日はご多忙のおりお集まりいただき誠にありがとうございます。昨今の社会情勢の変化は目まぐるしく」
「長いって。」俺が突っ込む。
「ふっふっふ。それじゃあかんぱーい。」優衣が満足した様子で言う。
「乾杯。」俺と裕樹の声が重なる。