研究
1
朝になった。
屋敷の中央には中庭がある。光源を確保するために、天井がない。雨水をためる水槽があった。ジョニーは、水槽に自分を顔を映し出していた。
水面に映る自分の顔を、パルファン直伝の方法で整えていた。
「おはよう、兄貴。最近、朝が早いね。いつも一番最後に起きていたのに……」
と、寝間着姿のビジーが、通りかかった。肥満体の腹を掻いている。
「今日も、図書館に行きたいのかな?」
ビジーが、からかった。
ジョニーの図書館通いは、始まって数日が経った。数日前までは、図書館にまったくの興味がなかった。
だが、今では行きたくて、仕方がない。
目的は、セレスティナである。
セレスティナがいる日といない日があった。いる日は思う存分、セレスティナを眺め回し、いない日は読書をしていた。
「……当たり前だ。次の戦いに備えて、準備が必要だからだ」
ジョニーは、ビジーの推測を否定した。
あながち、嘘ではない。ビジーに、セレスティナ目的であると悟られないため、当初はセレスティナがいない日には、字面だけ追って、読書をしているふりをしていた。
ジョニーは、瞑想を奇妙な異国の老人や、骨と皮ばかりの中年女性がやる趣味だと思っていた。
だが、読むふりをしながらも、とある一つの文に、興味を持った。
『瞑想の本質は、霊力の制御そのものである。』
生身の殴り合いでは、身体の制御は重要である。
霊骸鎧とは、霊力を物質化した存在なのである。霊力の制御は、霊骸鎧の制御に他ならなく、霊骸鎧同士の戦いにおいて重要であった。不可分の関係と断言できる。
戦闘狂のジョニーとしては、見逃せない情報だった。瞑想とは、異国の老人や意識の高い中年女性だけの所有物ではなかったのである。
書き込まれた哲学や理論が、ジョニーの実体験に、重なり合い、大きな軸となっていた。
気づけば、ジョニーは、セレスティナのみならず、読書にも没頭し始めたのである。
朝食を口に詰め込み、足早に図書館に向かった。
図書館の本は、図書館から持ち出してはならない決まりになっていた。図書館が閉まる夕方まで、ジョニーは少しでも読み進めたかった。
「待ってよ、兄貴。早いよ」
ビジーが後ろから追いかけてくる。
ジョニーは、セレスティナの顔を思い浮かべると、胸が高鳴った。霊力に対する理解を深めたい、知的好奇心が混ざり合っていた。
図書館に辿り着いた。
図書館の中に入ると、痩せた女が受付をしている。白い肌の中、隈で黒ずんだ眼窩が目立っている。
「やあ、セルデ。今日もお邪魔しますね」
と、ビジーが、白い肌のセルデに手を振った。黒くて長い髪をしたセルデが、静かに頭を下げた。
だが、ジョニーは興味がなかった。足早に館内を歩き回り、目的を探した。埃が舞い上がり、かび臭い本棚の奥に、読書をする場所があった。
セレスティナが背筋を伸ばした姿で、机の前に座っていた。
一字一句、丁寧に目を通している。
セレスティナは全身から、煌めく光をせせらぎのように放出している。セレスティナ自身が光の源流のようだった。
ジョニーがセレスティナに見とれている間、ビジーがセレスティナに挨拶をする。セレスティナが優しく微笑んでいた。
ジョニーは狼狽えた。もし、セレスティナに笑顔を見せられたら、三日三晩寝込む恐れがある。
セレスティナは、尊すぎる。
ビジーは、セレスティナの手伝いを始めた。
セレスティナはジョニーに見向きもしなかった。
(何故だ。何故ビジーには、あんな笑顔を見せるんだ……? 俺には微笑まないくせに)
と、ビジーを恨めしく思った。
ジョニーもセレスティナの手伝いをしようか考えたが、中に入れる自信は無い。拒絶されるだろう、とすぐに判断した。
ビジーが本を探してくれないので、ジョニーは“世界瞑想”と“霊力基礎講座”を探し出した。何度も読んでいる本なので、本の所在は、把握している。
本を机の上に置いた。セレスティナの対面にある机が定位置だった。
今日は、“霊力基礎講座”を読む。途中で飽きたら、本を変える、とジョニーは決めていた。二冊の本を併読しているのである。
霊骸鎧について書かれていた。
『霊骸鎧には属性がある。
霊骸鎧は、霊力の具現化である。
霊力とは、魂の六大要素、すなわち、闇、地、水、火、天、そして、光から成り立つ。
それぞれの霊力は、色彩を伴って発現する。
闇は黒、地は緑、水は青、火は赤、天は白、そして光は黄色となって発現する』
ジョニーは本を閉じた。
ジョニーの“影の騎士”に変身するとき、黒い霊力が出てくる。黒は闇を意味するので、ジョニーの“影の騎士”は、属性が“闇”となる。
『霊骸鎧の中で地属性のが、もっとも多い。統計調査に寄れば、霊骸鎧の大半が地属性となる。六大属性の中で、地属性の特殊能力は千差万別である。他の属性と比べて、耐久力が高い傾向にあるとする説がある』
ビジーの“執筆者”、サイクリークスの“蔦走り”、フリーダの“猟犬”も緑色の霊力、すなわち地属性であった。
たしかに、地属性は多い。ただ、ビジーもサイクリークスもフリーダも、どれも頑丈な印象はない。たまたま、紙装甲の霊骸鎧が三体揃っただけなのかもしれないが。
ジョニーは頁をめくった。火属性について説明があった。
『次に、火、水となる。火と水は相克関係にある。火は焼き尽くす性格から、変身者に高い攻撃力が付与される。その代わり、消費する霊力が多く、変身が解除する速度が他の霊骸鎧と比べて、行動持続力に劣る傾向にある』
セルトガイナーの“火散”を思い返した。ボルテックス商会の中でも、高火力の主砲である。
前回の戦いで、お世話になった。
「いろんな意味でな……」
と、ジョニーは、自分の脇腹をさすった。燻っていた痛みと怒りが湧いて出てきた。
銃創は、一生残る。
『火属性の中には、耐火性能に優れる個体が存在する。実験によると、火中で長時間活動し、変身解除をした変身者になんら火傷の痕が見られなかった』
ジョニーは、拳銃に変身したセルトガイナーを焚き火に放り込んでやろうかな、と仕返しを画策した。
次は、水属性である。
『水属性の霊骸鎧は、他の霊力と比べて、運動性能や耐久力に劣る傾向がある。だが、特筆すべき事項として、変身を経ずして、能力を発現できる。水属性のみ生じるこの事象について、決定的な説明がなされていない。通説では、水が最も霊体に近いため、水属性の変身者は、変身時と無変身時の境目がなくなる、と説明している。有力説は、一度も変身した経験のない変身者は、無変身での能力を発現できないとして、通説とは反対の立場にある。変身を経験してから、能力を発現できるとする実験があるため……』
ジョニーは読む気を無くした。
学者の書いた本には、いつも通説とか有力説とかといった学説の対立が紹介されている。
通説が説明すると、有力説が実験により否定している。有力説の説明をしているが、他の学説が有力説を、論理性がないと批判している。
「学者たちは、こんな喧嘩をしているのか?」
学者たちは、理論と実験を武器に、紙面上で喧嘩を繰り広げている。ジョニーは、自分が知らない場所で喧嘩が行われていたと驚いた。
ジョニーは、喧嘩と聞いて興味が出てきた。ジョニーの興味は、どの学説が、どのようなやり方で、勝利をしたのか、であった。だが、読み進めていくと、細かい理屈ばかりが紹介されていて、結局は、どの学説が勝ったのか、正しいのかまでは書いていなかった。
飽きてきた。
通説だの有力説だの、結論がよく分からない記述が、読書の妨げとなっていた。
ジョニーは本を閉じ、伸びをした。
頭に大神官セロンが思い浮かぶ。ビジーがセロンの霊骸鎧を水属性と看破していた。
セロンが無変身で、プリムや“無花果の騎士”に能力を使い、戦意を喪失させていた。
水属性の霊骸鎧は、変身をせずに、相手を油断させておいて不意打ちができる。それだけでも、有利な特殊能力である。水属性は他の霊骸鎧と比べて、力が弱く、運動能力が低いが、お釣りが出るほど有用な特性である。
(水属性の敵は、不意打ちができる分、手強いな。……いずれにしても、水属性は優遇されている)
ジョニーは、セロンの気取った態度を思い返して、苦笑した。鼻につく振る舞いをする男である。
2
ジョニーは、セレスティナを見た。
通説と有力説の争いよりも、セレスティナが気になる。
セレスティナは、頁を捲ると、ただでさえ大きい瞳を、さらに大きく開く癖があった。
視界を広げている、とジョニーは分析した。
飛ぶ鳥が地面を俯瞰するように、セレスティナは新しい頁を捲るたびに、一度だけ全体像を掴んでいるのだ。
セレスティナは、一度俯瞰したあと、丁寧に読んでいる途中で、急激に視線を移動させている。
セレスティナは、読み飛ばしている、とジョニーは感じ取った。
必要な情報だけを取り入れている。ビジーがセレスティナを情報の整理が得意だと評価していた。
ジョニーはセレスティナ流の読書法を自分も真似できないか、と考えた。
頁を開くと、天の説明がされていた。
『天の中には白い霊力、または青い霊力となって発現する場合がある。水と天が混同されがちだが、両者の関係を説明する上で、通説は……』
またしても、通説である。通説に対して、有力説が負けじと出てくる。
ジョニーは、学者の喧嘩を読み飛ばした。
『水と天の大きな違いは、飛行能力にある。天属性の霊骸鎧は空を飛ぶが、弓矢といった射撃武器に弱い。たとえ、攻撃する者が無変身者であっても、射撃を受けると、他の霊骸鎧と比べて重症を負う結果になる。この事象を説明するについて、通説は……』
「天属性は、弓矢や拳銃に弱いのだな」
ジョニーは、学説の対立を読み飛ばした。
すぐに通説、有力説が出てくる。学説が乱立している話題は、学者たち自身もよく分かっておらず、自信がないのだと、ジョニーは思った。
興味のある部分だけを拾い読みする、とジョニーは決めた。
「俺は学者になる気はない。理論上の喧嘩よりも、実際の喧嘩に役に立つ情報だけを知れば、充分だ」
ガルグの“強風”やプリムの“螺旋機動”といった天属性の霊骸鎧は、空を飛んでいるので、槍や剣が届かず、基本的には攻撃を受けない。
空を飛べるだけで、天属性は優遇されている。だが、飛び道具を持った敵がいる場合、敵が霊骸鎧に変身しなくても弓兵がいれば倒される可能性がある。
ジョニーは読書をしながらも、頭の中で情報を整理していった。
頁を捲る。
ジョニーはセレスティナ風に、全体を俯瞰した。
学説の対立が、見開きに三カ所もある。ジョニーは三カ所を読み飛ばす、と決めた。
『光の霊骸鎧が、最も優れている。光は稀少な霊力で、純粋な魂を持った者のみに宿る。この点、通説、有力説、どちらの学派ともに意見は一致している。すなわち、光こそ霊力の源であり、魂そのものであり、光が霊力となって発現する事象は、魂の純化を意味するからである』
ジョニーには説明の意味が純粋に分からなかったが、通説と有力説が一致している状況に、笑いを噛み殺した。
「俺の知り合いに光属性の霊骸鎧は、いたか……?」
ジョニーは首を捻った。知り合いの中で、誰かいた気がするが、思い出せない。
『光と相克関係にあるのが、闇である。光よりも、さらに稀少である』
ジョニーは、つい前のめりになった。自分の霊骸鎧“影の騎士”が闇であるので、興味がある。
『闇は、霊骸鎧の中で、もっとも力が弱い。もっとも霊力とはほど遠い存在であるため、と説明されている。闇は、霊力の源である光とは対極的な存在であり、いわば“無”に近い霊力だからである。これに対して、学説の対立は見られない。ただ、闇属性には、他の属性にはない独特で特徴的な能力を持っている傾向にある』
ジョニーは、肩を落とした。
闇属性が一番、弱い。
(通説と有力説は、どうした? 何をやっている?)
闇属性の弱さについては、学者は対立していない。異論すら無い。
“影の騎士”は“気配を消す”能力があるが、相手に自分を見失わせる程度の能力だ。独特で特徴的な能力ではあるものの、強力だとは思えない。
スパークや“黄金爆拳”ストジャライズをして、“影の騎士”は最弱の霊骸鎧、弱い、と評価された過去がある。
ジョニーはスパークや“黄金爆拳”が負け惜しみを並べているだけだ、と気にもしていなかったが、学者たちからも弱い、とお墨付きをいただいた。
(ただ、“影の騎士”の“気配を消す”は、“落花流水剣”との相性がよい。せめてもの救いだろう)
ジョニーは思考を巡らせていると、視線を感じた。
視線の持ち主を探すと、机の向こう側で、セレスティナが目を伏せていた。頁を捲らず、筆も動かさず、ただ動きを止めている。
周りには、ビジーの他に、身なりの良い老人や中年らが忙しく仕事をしている。いつの間にか、セレスティナを手伝う者が増えていた。
ビジーは、慌ただしく資料をめくり、筆を走らしている。
車椅子に乗った中年の男が、セレスティナの隣で、涎を垂らし、虚ろな瞳で、頁を見つめている。
ジョニーは、この車椅子に見覚えがある。
(たしか、涎おじさんと呼ばれていた……。ビジーが優れた読書家と褒めていたな)
ジョニーは、またも落胆した。
ビジーのみならず、涎おじさんですら、セレスティナに必要とされている。
ジョニーには、ビジーと比べて、自分には男としての魅力があると、内心、自負があった。 だが、セレスティナと関係を構築している点で、ビジーに負けている。いや、涎おじさんにすら負けているのである。
憎しみと恨みを込めて、涎おじさんを、もう一度観察した。
自由に動かない指を、紙の端に引っかけて、緩慢な動きで、一頁を捲った。
胸や腹は涎で濡れているが、この人物の所作には、どこか気品があった。よく見れば、服には、金の刺繍が施されている。
車椅子は、樫の木で作られた、丈夫で立派な代物であった。腕の良い職人にでも頼まなければ、作成は不可能だとジョニーは思った。
障がいを持っていて、職人のしつらえた車椅子に乗っていて、金の刺繍を施された服装を身にまとっている、図書館で読書に明け暮れるような人物である。
只者ではない。
涎おじさんが、青い霊力に包まれた。
(なんだ?)
ジョニーは目を凝らした。だが、青い霊力は消えていた。
ジョニーは目を閉じた。
瞑想の本を思い返す。本に書かれていた指示通り、臍の奥側に意識を集中させる。ジョニーの中に、黒い霊力が灯火のように燃えていた。
図書館の中が暗転する。
涎おじさんだけが見える。いや、正確に言えば、輪郭のみが見えた。
涎おじさんの腹の底には、青い霊力が揺らめいていた。
(青い霊力……水属性か?)
ジョニーは目を開いた。涎おじさんが、涎を垂らしている。
ジョニーが目を開いているときは、もう霊力が見えなくなった。目を閉じると、青い霊力が見える。
ビジーに試してみると、ビジーは緑色だった。ビジーの“執筆者”は地属性なのだから、当然だ。
「館内での変身は、ご遠慮ください」
と、受付の女セルデが、ジョニーの背後に立っていた。腕を組み、口を曲げて、文句をつけているのである。青白い肌に浮かび上がる、目の下の隈が不健康さを強調していた。
(この女、もしや闇属性か……?)
確認したくなった。目を閉じる。
(属性を教えろ……)
と、臍の奥側に指示を出した。
だが、何も見えない。
目を開くと、顔色が悪いセルデが立っているだけだ。
本物の闇属性であるジョニーは、自分自身を思い浮かべた。
暗闇の中に、ジョニーの姿が現れる。黒い煙が、腹の底で揺らめいている。
(俺は、闇属性だから、間違いない。セルデは、まったく何も霊力が存在していないのだ。おそらく、セルデは、変身できないだろう)
と、ジョニーは仮説を立てた。
(変身できるかどうか確認してみるか?)
と、実験をしたくなった。
「また変身しようとしましたよね」
と、セルデが怒りを隠さずに注意してきた。
「よく見ろ、俺は変身はしていないぞ。今の俺は、霊骸鎧に見えるか?」
「見えません」
「だから、俺は変身はしていない。……ところで、セルデ。貴様は変身できるか?」
セルデが眉をひそめた。ジョニーは、我ながら、唐突な切り出し方をしている、と反省した。
ただ、セルデが変身できるかできないかを確認したかった。
セルデは眉をひそめ、怪訝な表情をした。沈黙が雄弁な回答である。
「変身ができない貴様には、分からんのだ。これは変身ではない」
と、ジョニーは自分の仮説が正しい、と確信した。変身できない者には、ジョニーは霊力が見えない。
「ですが、煙を出しましたよね。周りの利用者さんたちが迷惑です。変身したのかは知らないけれど、たとえ変身しなくても、煙を出したら、出入り禁止になりますからね」
セルデが厳しい口調で捨て台詞を吐いて去って行った。
(瞑想と、霊骸鎧は、霊力の制御をしている点で、どちらも根源は同じだ。……霊力の煙が出ている状況が証拠だ)
と、ジョニーは腕を組んで、考察した。瞑想中に自分で煙が見えない状況が惜しい。
(瞑想は“星幽界”なんちゃらと往復する作業だと本に書いてあった。だとすれば、霊骸鎧は、“星幽界”から連れてきたのか……?)
と、仮説を立てた。根拠はないが、ジョニーには、通説や有力説の対立よりも自信がある。
ジョニーは、また視線を感じた。
周囲が嵐のように働いている中、セレスティナは巻物を前に手を止めている。
伏せられた長い睫毛を、ジョニーは胸が締め付けられるほど愛しく感じた。
ジョニーはセレスティナの顔をもっと見たかった。固い鍵をこじ開けるように、ジョニーはセレスティナの瞳をのぞき込んだ。だが、セレスティナは頑として、動かない。
ジョニーはセレスティナを俯瞰しながらも、視線を外した。すると、セレスティナは動き出した。
(なんなんだ……? 俺が見ている間は動けないのか?)
ジョニーは首を捻った。セレスティナの考えが理解できない。
だが、ジョニーは閃いた。
(セレスティナの霊力は、何色なのだろうか?)
と、興味が湧いてきた。霊力が分かっても、セレスティナの考えが分かるか知らないが、少しでもセレスティナの個人情報を収集したい。
ただ、瞑想をすると、煙が出る。自分で煙を出している自覚はないのだが、霊力のない受付のセルデにすら知られている。セレスティナに不審がられても困る。
(煙を出さない。……出すな)
と、ジョニーは臍の奥側に指示をした。
黒い霊力に意識を集中する。
だが、何も起きなかった。図書館は暗転せず、セレスティアの輪郭も見えてこない。
(やり方を間違えている……? それとも、煙を抑えると、瞑想はできないのか?)
煙を出さない瞑想をやりたくなった。さらなる研究が必要である。
ジョニーはセレスティナを見た。セレスティナはジョニーの視線を避け、書類をビジーに渡している。
(それとも、セレスティナが、俺に見せない何か壁を作っているのか?)
通説に対して、有力説が思い浮かんだ。




