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“黄金爆拳”

 スパークは身を潜めて、洞穴の出入り口から、顔を出した。

「あれは何だ……? 光? 二つの光だ。光が……。光が兵士たちを殺していくぞ。喧嘩とか戦争とか、そんな話じゃねえ。一方的な殺しだ。虐殺だ……」

「ガルグはどうした? どこにいる?」

と、クルトが横から、興奮気味のスパークに質問した。

「分からん。ただ、嵐は止んでいる。ガルグの姿は見えん」

「嵐は、ガルグの攻撃方法だぞ……? ガルグがなんらかの理由で戦えないのか? まさか、ガルグがやられた……?」

と、クルトは自分の顎を触った。普段は脂肪分が豊富な顎だったが、今夜の顎はどこかけているように見えた。

「どうする? 外に出て、調べるか? 明らかに異常事態だ」

と、スパークがクルトに同意を求めた。声に焦りと恐怖がこもっている。陽気なスパークにしては珍しい態度だと、ジョニーは感じた。

「待て、少し様子を見ろ。どこのどいつかは知らんが、とんでもなく強い奴だ」

 クルトは冷静だった。いや、冷静にならざるを得なかった。

 外で行われている虐殺に、洞窟内に押し込められたクルトたちは為す術がなかったのである。

 外からの悲鳴は、聞こえなくなった。

「おい、クルト。外はどうなっているんだ? ……終わったのか?」

と、ボルテックスが叫んだ。苛立った声に、恐怖が混じっている。苛立ちは、恐怖の産物で、攻撃の的はクルトに向けられていた。

「クルト。お前、ちょっと外に出て見て来いよ。なにがどうなっているんだ?」

「しかし……」

「しかし、じゃねえよ。てめえ、何ビビってんだよ。外の奴らは、もう全員死んだんだろ? さっさと行けや。それとも、リコちゃんと同じく、袋だたきに遭いたいか?」

 ライトニング・ボルテックスは、がなり声でわめいた。洞穴の中に稲妻ライトニングが落ちたかのようだ。洞穴の内部では、稲妻が落ちた後のように、恐怖で静まりかえった。

(頭のおかしい命令だ……。クルトの奴ら、よく我慢しているな)

と、熱にうなされながら、ジョニーは呆れた。

 ボルテックスは恐怖に駆られ、正常な判断ができないでいる、とジョニーは分析した。

 クルトを見ると、目を伏せている。

 大人しく聞いている様子だが、よく見れば、口を歪ませている。

 ジョニーには、クルトが理不尽な命令に怒りを噛み殺しているのだ、と推測した。

(自警団の絆がどうだとか、そんな話があったが……。こいつらは、自分たちが謳っているほど強い信頼関係は、ないのだな)

 理不尽な暴力と圧力が、金のやりとりといった打算に合わさって、支配関係が成り立っているに過ぎない。

 スパークが、クルトの手に触れた。

「クルト。俺も行こう。……ちょっとハジけてくるぜ」

と、スパークは小躍りして、外に出た。わざとふざけて、クルトをなだめているつもりだと、ジョニーには分かった。

「おい、どうした。お前らもさっさと行ってこいや!」

と、ボルテックスは蹴る仕草をして、サイクリークスとセルトガイナー、フリーダを外に追い払った。愛人のフリーダまで仕事をさせるとは、ジョニーにとって意外だった。

「口ばかりで、役に立たねえ奴らだよ。本当によ……」

と、ボルテックスは、覆面の隙間から唾を吐いた。飛沫が、床に跳ねる。

「理想的な上司だなぁ」

と、ビジーが小声で呟いたが、慌てて手で口を押さえた。ボルテックスの顔色をうかがった。ボルテックスに聞こえていないか不安になっているのである。

 スパークたちが外に出たおかげで、外の景色をジョニーの位置からよく見えた。

 嵐が過ぎ去ったかのようだ。

 普通の嵐と違って、木の葉や枝ではなく、兵士たちの死体が散らばっていた。

 身体の一部が引き千切られて、流血が雨水と合わさり、赤い沼を作っていた。

 スパークは、屈んで兵士の死体を調べている。

 顔を上げ、クルトに意見を求めると、クルトは首を振った。

 サイクリークスは、現場に取り残された被災者のように呆然としていた。セルトガイナーは、血の恐怖で目を見開いている。フリーダは生存者がいないか、赤い沼を避けて死体を見て回っている。

 人間の影が現れた。

 一斉に影を見る。どの視線も、恐怖で凍りついていた。

「誰だ、お前ら……?」

 男が立っていた。

 顔つきは細く、黒髪を肩まで長い。さらに、シグレナスでは見かけない顎髭を伸ばしている。

 クルトも、スパークも誰も声が出なかった。

 顎髭の男から、異様な迫力が噴出していたからだ。とてつもなく危険な存在だと、誰もが理解していた。

「ガルグは、どうなった……?」

と、スパークが口を開いた。

「ああん? ガルグだと? 誰だそいつは?」

と、顎髭の男が面倒くさそうな口調で返事をした。どこか異国の訛りがある。髭は、シグレナスの人間にとって野蛮人の証だった。

「空を飛ぶ霊骸鎧だ。お前がやったのか?」

と、クルトがスパークの質問を言い換えた。 

 クルトの質問に、顎髭が足下を見た。足下には短い白髪の老人が伏せていた。

「ああ、さっき空を飛んでいて、今、俺様の足下に転がっているこのジジイの話か? コイツを落とした奴は、俺様じゃない。……俺様の仲間だ。……で、お前らはなんなんだ?」

と、ガルグの頭部を足で転がした。ガルグは血を吐いて、何かうめいている。

 ガルグはまだ生きている。

「馬鹿な、ガルグは空を飛べる。嵐を自在に操れて、あらゆる飛び道具を無効化できるのだ」

と、クルトがまくし立てた。明らかに動揺している。

「知るか。こんな奴の話など、なんの興味もねえ。俺様が、気になるのは、お前らだ。シグレナスの正規軍でもなければ、ただの夜盗にも見えねえ。答える気はねえのか。なら、俺様の靴底を舐めさせて欲しいのか? さっきのジジイみたいにな」

 顎髭は、乾いた笑いをした。森の中で、不気味さが充満し、不気味さは感じる者たちを恐怖させた。

 クルトは恐怖に怯えた表情で、印を組んだ。銀色の霊骸鎧、“鉄兜アイアンヘルム”となった。

「おっ。やるのか? いいだろう。俺様はセイシュリア公国、“七鋭勇セブン・ソード”の一人、スターム・ストジャライズ様だ。霊骸鎧は、“黄金爆拳ゴールデンボンバー”よ」

 顎髭の男スターム・ストジャライズは、印を組んだ。輝く黄色の煙から霊骸鎧が現れた。クルトの“鉄兜”とは対照的に、金色の全身をしていた。頭部は高く伸び、変身前の顎髭が更に強調されている。顔面を横から見れば、三日月に似ている。

 両手は球体に近い手甲グローブに覆われ、指を隠している。

 両方の手甲を打ち鳴らした。手甲から金色の霊力オーラが包み込む。

「“七鋭勇セブン・ソード”だって?」

と、ビジーが驚きの声をあげた。恐怖と好奇心が入り混じった響きがある。

「シグレナスとヴェルザンディが海で分かれているって、知っているよね? セイシュリアは、シグレナスとヴェルザンディの間にある孤島なんだ。シグレナスとヴェルザンディが同盟を組んで、攻め込んだ時期があったんだ。そのときの戦争で活躍した霊骸鎧が、“七鋭勇セブン・ソード”って呼ばれているんだ。たった七体で“七鋭勇セブン・ソード”は、シグレナスとヴェルザンディの連合軍を寄せ付けなかった。……あの“黄金爆拳”は、その七人の一人だ」

“黄金爆拳”は 足腰の効いた構えから、金色に輝く拳でクルトの腹をえぐるように殴った。

 クルトは、爆発にあったかのように吹き飛ばされていった。後方の大木に背中を打ち付け、地面に沈んだ。

 黒い煙を出して元の姿に戻っていく。

「……クルトを一撃で? 想像以上だ……!」

と、ビジーが大声を上げて叫んだ。どっちの味方か分からないほど興奮している。

蔦走り(アイビィランナー)”となったサイクリークスが、拳銃を構えた。手にする拳銃は、セルトガイナーの霊骸鎧、つまり“火散(ファイアーガンナー)”である。

 だが、“黄金爆拳”は意に介さない様子だった。動揺したサイクリークスが、発砲した。発砲と同時に、“黄金爆拳”は金色に輝く掌で弾丸を弾いた。

 サイクリークスが慌てふためいて連発するが、“黄金爆拳”はすべてを見切り、両の手甲で弾丸を消滅させた。

「銃が効かない? ありえないよ。銃弾の軌道をすべて計算するなんて、なんて凄い動体視力なんだろう。それに、あらゆる攻撃を無効化させる、あの拳。スパークが見ていた二つの光とは、“黄金爆拳”の両手を指していたんだね」

“黄金爆拳”は大股で近づき、サイクリークスの腕を叩き折った。サイクリークスはのたうち回り、緑色の煙を出していった。

 巨大な犬が、“黄金爆拳”の背後から、首筋に噛みついた。フリーダの霊骸鎧“猟犬ハウンドドッグ”である。

“黄金爆拳”が振り払おうとしたが、フリーダは噛みついて離さない。鋭い牙を突き立てて、首を捻って食い込ませている。

“黄金爆拳”はしゃがみ、首投げの要領でフリーダの背中を地面に打ち付けた。

 フリーダは、あまりの衝撃に“黄金爆拳”から口を離した。

「エリート中のエリート。“黄金爆拳”は、最高級トップクラスの霊骸鎧だよ……!」

と、ビジーは息を呑んだ。

“黄金爆拳”は、フリーダの腹を踏みつけた。長さが特徴の顎をしゃくり、勝利を確信したかのように、夜空を見上げた。

 フリーダが緑色の煙を出している中、電気を帯びた“鬼火ウィル・オ・ザ・ウィスプ”が、“黄金爆拳”の頭に命中した。スパークの霊骸鎧である。

“黄金爆拳”がよろめく。よろめいた“黄金爆拳”の顎を、スパークが体当たりをした。

“黄金爆拳”の反撃を、スパークは小さい身体で掻い潜り、攻撃を与えている。

「やった。スパークの霊骸鎧は、“黄金爆拳”とは相性が良い。このまま霊力を削りとってやれ」

と、ビジーは殴る仕草をして、スパークを応援した。

 スパークが一方的に攻撃を加えていたが、“黄金爆拳”は両腕で盾を作って、自分の顔面を守っていた。腹や背中を攻撃されても相手にせず、顔面だけを防御に集中している。

(まずい、スパークの霊骸鎧は、長期戦に向いていない……)

と、ジョニーは次なる事態を予測した。“黄金爆拳”は、“鬼火”の弱点を見抜いている。

 スパークの攻勢は、長くは続かなかった。

 黄色い煙を出して、人間の姿に戻り、着地した。

“黄金爆拳”は、一瞬の隙も与えずスパークの背後を貫いた。生身のスパークは血を吐き、フリーダに向かって何かを喋っている。フリーダも、変身が解除されていた。

「逃げて、姐さん……。逃げて……」

 スパークの黒目は裏返り、黒い土埃となって、“黄金爆拳”に飛びかかった。

“黄金爆拳”は呆れたように肩をすくめて、蠅でも払うかのような手の動きで、フリーダを吹き飛ばした。フリーダは木の幹に顔面を打ち付けた。

“黄金爆拳”は一仕事を終わらせたかのように、自分の首を鳴らす動きをした。

 伸びをしながら、黄色の煙を出して、人間の姿に戻った。

「まったく、霊骸鎧だと力の調整が難しくてありゃしねえ。変身していない奴だと、ついつい殺してしまう。……俺様は優しいんでね。殺しはなるべくしない方針なんだが……」

“黄金爆拳”ストジャライズは、自分の顎髭を撫でた。フリーダを蹴り上げて、自分に向かせた。

「さっきの火の玉野郎は思わず殺しちまった。まあ、生かしておくと、なかなか面倒な奴だったからな。……おい、犬女。殺されたくなかったら、俺にあまり手を掛けさせるなよ」

 ストジャライズは、フリーダの脇腹を、つま先で蹴った。フリーダは女とは思えないほど、鈍い悲鳴を上げた。

「肋骨が折れているな。いや、折れているか折れていないか、中途半端な折れ具合だな。身体を動かすたびにグラグラするから、これは完全に折れるよりも痛い奴だ。……よっと」

と、フリーダの髪を掴んで、起き上がらせた。木に叩きつけ、首を絞めた。

「助けて……。助けて……」

と、フリーダは繰り返した。顔は血まみれで、流す涙と泥が混ざっている。

「まずい……! どうしよう。このままだと、スパークの次に、フリーダも殺されちゃう……!」

と、ビジーは、ボルテックスを見た。

 愛人の危機である。ボルテックスなら助けるに違いない、とジョニーは考えた。

 だが、当のボルテックスは、巨体を洞穴の隅で縮こませていた。

「お助けくださいまし、全能の神よ。どうか救いの手を差しくださいますようお願いいたします。救世主様、光の軍勢を率いて、私をこの窮地からお救いください……!」

 両手の指を交互に組んで、不思議なお祈りをしている。

 セロンは腕を組み、視線を落としていた。手の打ちようがないのである。

 ナスティは姿勢を伸ばして、外の惨状に対して向き合っている。だが、身体の細い少女では対処できない状況である。

 フリーダたちに視線を戻すと、“黄金爆拳”ストジャライズは片方の眉を神経質に動かした。

「面倒くせぇな。俺様は、お前らが帝国の兵士か夜盗か、なんなんのか訊いているんだよ。お前らが何者か気になって仕方ねえ。仲間たちなら、お前らを全員殺せ、あるいは無視しろ、って言うかもしれないけどな。俺様はこう見えても繊細デリケートなんだよ。道端に唾を吐く奴とかいるだろ? 俺様はな、そんな奴の名前と住所を突き止めて、ボコボコに殴らなきゃ気が済まないんでね。だからよ、このままお前らを殺したら、俺様は気になって、気になって、夜も安眠できねえだろ?」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

と、フリーダは手で自分の顔を隠して守った。子どものようにすすり泣いている。

 ジョニーは跳ね起きた。

 いや、気づけば、洞穴の外を出ていた。

 さらに、いつの間にか、自身の霊骸鎧“影の騎士(シャドーストライカー)”に変身をしていた。

 ジョニーは自身の内部から、溢れる怒りを抑えきれなかった。

 怒りが自分を変身させたのだ、とジョニーは勝手に解釈した。

 ビジーが、背後から何かを叫んでいる。

「無理だよ、ジョニーの兄貴。そんな身体で勝てるはずがないよ。相手は、シグレナスとヴェルザンディが戦っても勝てなかったくらい強い奴らの一人なんだよ? 現にガルグも殺されてるし……」 

 だが、ジョニーは無視した。“黄金爆拳”ストジャライズがどう強かろうと、一発殴らないと気が済まないほど、ジョニーは怒っていた。

(武器が欲しい)

と、ジョニーは自分の左腕を見た。“小型円盾バックラー”が標準装備されている。脱着可能の小さな盾で、手に持つ形態も可能だが、普段は左の前腕に装着されている。

(これだけでは足りん)

 兵士の死体から、剣を拾い上げる。

 熱病患者のようにふらつく足取りで、“黄金爆拳”ストジャライズに近づいた。

「なんなんだ、お前……」

“黄金爆拳”ストジャライズは、フリーダから手を離し、神経質そうに眉を動かした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴールデンボンバーは武器の名前なのにゴールデンボンバーの文字をみるたび、歌手が頭に浮かびましたがゴールデンボンバーは強い武器ですね。 思わず外に出ていったジョニーとの対戦が楽しみです。
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