海底都市
1
ここはどこだ?
カレンは周囲を見渡した。
地面は、ピンク色を白で薄めた異常な色彩で覆われていた。靴で踏みしめると、柔らかい。弾力を感じる。
カレンは、大通りに立っていた。
左右に、建物が建ち並ぶ。が、どれも地面と同じピンク色であった。龍王都ヴェルザンディに匹敵するほどの都市である。
見上げると、空は海だった。月明かりに照らされた、暗い海に似ている。龍王の背中からのぞき込んだ夜の海に似ている。
ここはガルグが仰っていた海底都市だ。ガルグの転移魔術は成功したのだ!
忌まわしい霊落子どもが、建物の間から湧き出てくる。
ターバンを頭に巻いた男、アウムハゥストラ・インドラが叫ぶ。
「ナスティ、まだ眠っているのか? 霊骸鎧に変身しろ!」
インドラはうるさい奴だ。普段のカレンであれば、言われなくても変身するところである。だが、状況の把握に手間取っていたのであって、怠けていたわけではない。
カレンは、目を閉じた。胸に隠しているペンダントに触れる。ガルグにもらったペンダントに触れると、力が湧いてくる。
自分の内部が見えた。
内部で光の玉が、額から臍に向かって連なり、柱を作っている。
上から闇、地、水、火、天、光と並ぶ。
(霊力開放!)
一番上にある闇の力から順番に、カレンの額を通って、前方に飛び出ていった。
上から、光、天、火、水、地、闇と並んだ。
カレンの内部にあった順番とは逆になる。カレンが六つの力を手で触れると、六つの玉は正六角形に配置された。
(出でよ、聖女騎士!)
心の中で叫び、カレンは一番上にある黄色く輝く、光の力を両手で挟み込んだ。
指を重ね、光を胸元に置く。
六つの力が合わさって、一つの形となった。
人型の霊骸鎧“聖女騎士”である。
霊骸鎧は意思を持っている、とカレンは気づいた。霊骸鎧“聖女騎士”もまた例外ではない。霊骸鎧“聖女騎士”は、カレンの指示を待っている。
ここでカレンは、自分の名前を唱えなくてはならない。名前には霊的な力が宿っている、とガルグから学んだ。名前は、霊骸鎧と自己を結びつける、いわば紐の役割を果たしている。
カレンは、自分の名前を思い出せなかった。
声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。
「貴様がその名を語ること自体が、失礼なのだ」
誰かに言われたような気がする。
誰だったか……。
誰だったかは覚えていない。
だが、カレンの中で記憶の回路がつながった。
(我が名は、カレン・サザード!)
カレンは聖女騎士に包まれた。
肌が、霊力で編まれた霊骸鎧と一体感を生み出し、本来の力が湧いてくるようで心地がよい。
右手のひらに、霊力を送り込む。棒状の黄色い光が現れ、槍となって具現化した。聖女騎士の標準装備“天使の槍”である。
カレンは聖女騎士のスカート部分をたくしあげ、払った。
槍を構え、柔らかいピンクの地面を蹴る。霊落子たちに突進した。
霊落子たちの動きは遅い。弓の準備をしているが、動きが遅すぎて、どこをどう撃とうとしているか、手に取るように予測できる。
当然だ、私が速いのだから!
天使の槍を重機関銃に持ち替え、掃射した。弾丸を喰らい、霊落子たちが怯む。空中に飛び、重機関銃を天使の槍に変換させた。落下中に槍を振り回す。霊落子たちの顔を切り刻んでいく。
着地して、インドラの様子を見る。
インドラは霊骸鎧“死神”で身を包んでいた。
巨大な鎌を両手に抱えた死神は半透明で、宙に漂っている。霊骸鎧自体が霊的だが、この死神はより霊的な肉体構造を持ち、物理的な攻撃を受け付けない。
霊落子が槍や剣を振っても、刃は死神の内部で空を切るばかりだった。
死神は実体化し、巨大な鎌を振りかぶる。困惑する霊落子たちの首を刎ねていった。
カレンの真横を、光線が過ぎ去っていった。光線の眩しさに、カレンは一瞬だけ身を縮めた。
光線の弾道上にいた霊落子たちは、熱されたバターのように溶けて転がった。
光線の源を目で追うと、先には白い道着の老人が立っていた。
ガルグ・ダルストーイである。ガルグが一歩進むと、霊落子たちが後ずさりをしている。恐れおののいているかのようにも見える。
ガルグは杖から霊力を収束させ、光の槍を作りだした。
道着の前掛けを手で腰の部分までたくしあげ、はらった。白い長ズボンが見えた。
ガルグが光の槍を振り払う。霊落子たちが蒸発していった。
カレンも仲間の活躍ぶりに負けまいと、霊落子たちの中に飛び込んだ。
槍を交わしていくと、とある異常に気づいた。
もう一人いるはず人物の、姿が見えない。
名前を呼んだ。
「ミント……?」
レミィ・ミンティスがいない。
2
カレンは、ピンク色に染まった丘の上で目を覚ました。眠っていたようだ。
波の音がどこからともなく聞こえる。
船での生活では、奴隷部屋で睡眠をとっていた。今朝の奴隷部屋は、やたらとピンク色である。誰かが改装したわけでもあるまい。
カレンは陸の上で眠っていた。
背後を振り返ると、巨大な船が斜め横に座礁したかのように倒れている。船体はピンク色に染まり、一部分が木造の部分が残っていた。カレンは、巨大な船が謎のピンク色に浸食されている、と想像した。
船の露出部分はかなり古く、ピンク色に浸食されてから、時間が経過している。カレンは自分が乗っていた船とは別物と理解した。
巨大な船の周囲には水分がなく、ピンク色の荒野が広がっている。
波の音が聞こえる。上空からだ。空を見上げると、雲も太陽もなく、黒い海が広がっていた。
異様な光景に、カレンは困惑した。
「なんだ、これは? 僕は夢でも見ているのか?」
正気を保つために、声を出した。そもそも僕は正気なのか?
丘の向こうから、一群の人影が見えた。
見知った顔が見える。顔の一人が声を張り上げた。
「お前は……? どこからやってきた?」
奇妙な布を頭に巻いた男、インドラであった。背後には、白い衣装に身を包んだ老人ガルグ、紺色のヒラヒラしたスカートを履いたナスティ、そして包帯姿のレミィであった。
「待ってください! 怪しいものではありません!」
カレンは腕をあげて、無抵抗の意思を表明した。片手には酒の入った革袋がある。腰巻き以外半裸で、酒袋を持った自分の姿は、明らかに怪しいとカレンは思った。
「皆さんに船長室に入っちゃたんです。入ったら、いつの間にかここに来ました」
「紛れ込んだわけか……」
インドラは首を回した。どこか疲労を感じているようだ。
「お疲れですか? お酒でも飲みますか?」
酒袋を差し出す。
「ふざけるな。俺は神の忠実な下僕だ。酒など呑まん」
インドラは鋭い目で不愉快そうに見た。機嫌を損ねたようだ、とカレンは思った。
「大人なのに、お酒は呑まないんですか? 神って誰ですか?」
都会の人たちは不思議な発言ばかりする。大人の男性は全員お酒を呑むものだとカレンは思っていた。
インドラは、カレンの相手が面倒になったようだ。ガルグに話しかけた。
「どうします? こやつを連れてきますか?」
枯れ木のような身体つきをしたガルグは、インドラの質問には応えなかった。
ガルグの内部では、何か別の問題が議論している。
カレンには、そう思えた。具体的な内容がよくわからないが、少なくともカレンに関わっている気持ちはないらしい。
カレンはレミィに目を移した。レミィは、笑っている。遊びに行く無邪気な子どものようだ。包帯でグルグル巻きの姿から想像もつかないが、実年齢は、ずっと子どもなのだろう。
ナスティは、立ち尽くしている。焦点のあわない表情で、なにか譫言を発している。
「ミント……ミントはどこ……?」
レミィ・ミンティスはナスティの隣に立っている。
「あの、すみません。ナスティが変です」
カレンは手を挙げて、皆の注意を引いた。
インドラが突き放すように応えた。
「転移魔術の影響だ。まだ眠っている。眠りながら歩いているのだ。……お前はなんともないのか?」
転移魔術? 眠りながら歩いている? 都会の大人たちは難しい話ばかりする。カレンはインドラの寄せ付けない態度が気になったが、理解できる範囲内で質問に答えた。
「はい。元気です。よく眠れました。スッキリ元気です」
カレンは元気よく体操を皆の前で繰り広げた。インドラが驚いた。
「なにっ? ……そんなはずがない。お前、転移魔術の影響を受けていないのか?」
「え。僕、何か変なことをしましたか……?」
インドラの機嫌をさらに損ねたようだ。カレンはこれ以上怒られたくない。
インドラとカレンがやりとりをしている横で、ガルグが口を開いた。
「そなたは、ナスティの奴隷だったな」
カレンに好奇の目を向けている。
いつナスティの奴隷になったかは知らないが、いちいち反論しても意味がないと感じたカレンは「はぃ」と弱々しく応えた。奴隷になってもいいとは言ったが、ナスティの奴隷は絶対にイヤだ。
「この子を支えてやってほしい」
「意外なことを仰いますね。これはまた」
ナスティを支えたら、怒られそうである。
「貴様に触られたくない!」と、平手打ちの餌食になる様子が、容易く思い浮かんだ。
ガルグが続ける。
「本来ならば、この子はここまで連れてくるべきではなかった。……か弱い子なのだ。そなたほど強くはない」
カレンは飛び上がって、驚いた。
「か弱い? 僕のほうが強いですって?」
上空の海面まで突き破るかと思った。
(平手打ちや喉輪をしてきたり、貝殻頭と大喧嘩していたり、ここまで好戦的な人が、か弱いんですか?)
と、カレンは反論したくなった。だが、隣にナスティ本人がいるので発言は控えた。
「転移魔術の副作用がナスティには出たが、そなたには出なかった。これが何よりの証拠である」
ガルグは低い声で応えた。隣でインドラが気怠そうに首を回している。カレンには、会話が噛み合っていない気がしてきた。この一団の会話は、基本的に意味不明である。
ガルグが小さな杖を突き、先に進む。インドラとレミィは従いていった。ナスティが不安げな足取りで後に続く。
カレンは遅れまいと従いていったが、不意に後ろに気配を感じた。
振り返るが、特に変わったものはなかった。
「どうした? ナスティの奴隷。置いていくぞ?」
インドラが苛立った声で叫んだ。
「僕には、カレン・サザードという名前があるんですけどねぇ」
カレンは小声で文句をつけた。誰も自分の名前を呼んでくれない。
3
丘を下ると、ピンク色の荒野が広がっていた。荒野には、壁が現れた。ピンク色に覆われている。空洞の開いたアーチがあった。門がある。槍を持った貝殻頭たちが門番をしている。
「インドラ」
ガルグがインドラに命じる。
インドラが短く返事をして、門に向かって大股に歩き出した。
「擬態者」
と、声が聞こえた。インドラの長身が黒く縮んでいく。子どもくらいの背丈になって、頭から黒い湯気を出した貝殻頭になった。頭部がどこまで実体で、どこから湯気なのか、分からない。もはや貝殻頭と呼ぶべきかどうかカレンには分からなくなった。ただ、いつもの貝殻頭と同じ雰囲気がする。
“擬態者”インドラが門に近づく。カレンは、門番の貝殻頭たちは一度警戒行動をとったが、インドラ「通れ」と身振り手振りを見せた。
門をくぐると、詰め所があった。受付には、でっぷりと太った蛙のような貝殻頭がカウンター越しに肩肘をついて座っていた。
手元には、分厚い帳簿、羽のついた筆が筆立てに立っている。
声が聞こえる。
「これはこれは、我らアポストルの民。私はイーザルトル。我が同胞よ。よくぞザムイッシュどもを連れて参った」
カレンには、蛙の貝殻頭イーザルトルの言葉が分かる。イーザルトルの表面は貝のように固くもあり、蛙のように滑らかで柔らかく見えた。瞳の焦点はあっておらず、誰もいない場所を見ている。
ガルグが弁解している口調で、イーザルトルに話しかけた。
「申し訳ない。途中で船が事故に遭い、奴隷の数を失った」
ガルグも、イーザルトルと同じ「言葉」を発している。人間の発音できる声ではない。いや、そもそも言葉なのか。カレンは、自分の頭に直接伝わってくるのだ、と理解した。
「ふむふむ、構わんよ。私イーザルトルは目は見えないが、魂は見える。目に見えるものはすべてが真実とは限らぬからな。すべてが嘘ばかり、だと言わぬが、少しは疑っても構うまい。おっと話が逸れたようだ。今回連れてきたザムイッシュは……」
イーザルトルが驚いた。
「おおっ。どれも優れた霊力を持つ素体ばかりであるな。質より量、と言ったものだが、今回は量よりも質であるな。ふむふむ、男、女、男……」
イーザルトルが太った指を折り数える。カレンは自分たちの人数を確認した。ガルグ、インドラ、ナスティ、レミィ、そして、カレン。自分を含めて五人だ。
「ふむふむ、一人は奇妙な人間がいるな。男でも女でもない者……といったところか。ま、人間であることに代わりはあるまい。男二人に、女一人、どちらでもない者一人。計四人。 ……よろしかったかな?」
(五人じゃなくて?)とカレンは思った。インドラの姿を見て、合点がいった。
(インドラは貝殻頭に化けているから、数に入らないんだ)
ガルグが恭しく返事をした。
「はい、そのとおりでございます。閣下」
“擬態者”インドラに頭をさげさせた。
「では、男二人に女一人、男でもない女でもないもの一人。この者らを工場に連れて参れ。工場で分解する」
分解?
イーザルトルの言葉で、カレンはガルグの横顔を見た。ガルグの考えを読みとれない。ガルグは何をしに、ここまで来たのか?
先導役の貝殻頭を先頭に、一行は大通りを進んだ。カレンは最後尾にいた。周囲を見渡すと、ピンク色の建造物が建ち並ぶ。
建造物の中から、貝殻頭の影が見える。
大通りには植え込みが並んでいた。どれもピンク色に染まり、元が何かなんだか分からない。
(貝殻頭の街……?)
台車を曳いている貝殻頭二人組が横を通る。台車もピンク色で、台車に載ってある壷もピンク色だった。
カレンは、柔らかい足下を見た。
(このピンク色は、なんなのだろう?)
よく分からない。何がなんだか分からない。
ガルグたちが何をしに来たのかは分からない。カレンは歩を進めながらも、情報を整理した。
ガルグたちは、貝殻頭たちとは敵対する勢力である。
現在地は、貝殻頭の本拠地である。貝殻頭に敵対するガルグたちにとって、ここは敵地で、何か用事があって来ている。ここまでは分かった。
後ろを振り返った。大通りは直線で、遙か後方にイーザルトルの詰め所に行き交う貝殻頭は豆粒程度の大きさに見える。常人ならば、識別でないであろうが、カレンの視力であれば、イーザルトルの詰め所に、人間の姿があると分かった。
カレンには見覚えがある。船でカレンを誘拐した、傷跡の男トニー・チーターだった。
目は虚ろで、足下が覚束ない。カレンの前を歩いている、ナスティと同じ症状である。ナスティの首には、ペンダントの鎖が見えた。
(トニー・チーターもガルグたちの転移魔術に巻き込まれた?)
カレンは、転移魔術が行われていた船長室の扉に鍵が掛かっていなかった状況を思い返した。
トニーが周囲の貝殻頭に何かを譫言で伝えている。
「今さっきの奴らは、俺の船を乗っ取った! 奴らは何か危険な企てをしているに違いない」
カレンには、そう聞こえる。実際、トニーを取り囲んでいた貝殻頭たちが一斉に、カレンたちを見た。
カレンはガルグに耳打ちをした。
「ガルグ、船に乗っていた人がさっきの場所にいます。きっと僕たちのことを伝えているのでしょう」
なぜ自分がガルグたちに協力しているのか自分でもよく分からなかった。自分の命が危ないからだ、と納得はしているものの、どこかガルグたちの力になりたくなっていた。
ふらつくナスティの後ろ姿を一目見て、視線を外した。
ガルグは表情を変えず、先導役の貝殻頭に「急ぎましょう」と低い声で促した。
一行は少し早足になった。ナスティが遅れる。カレンはナスティの肩に手を触れた。以外とナスティの肩は小さく細かった。肩を押して歩くと、少しナスティは早歩きになった。
カレンが振り返る。まだ豆粒の大きさに見える距離だが、武装した貝殻頭たちが戦列をつくって、こちらに向かってきている。
先導役の貝殻頭が、建物の前で立ち止まった。
「工場の入り口は、ここです」
工場、と呼ばれるには、ただの小屋であった。三階建、四階建の高層建築が建ち並ぶ大通りに不釣り合いなほど小さかった。こちらの小屋も、ピンク色に覆われているが、覆われていない部分もある。
(他の建物よりも、後の時期に建てられた)
と、カレンは分析した。
両耳の大きな貝殻頭が、腕を組んで扉の前で椅子に腰掛けている。
カレンを見るなり、立ち上がった。
「おおっ。ここまで霊力を持ったザムイッシュがいようとは!」
「史上最高記録かもしれないな! さあさあ、銀色のザムイッシュ。一番霊力が強いお前からだ」
耳の貝殻頭が、カレンの腕を曳いた。
「銀色のザムイッシュって、僕のこと? 髪の色だから? 一番霊力が強いって、どういうこと?」
カレンの質問は無視され、扉が開かれた。中は真っ暗闇だ。足下から強い風を感じた。
貝殻頭は、ここに飛び込めと言わんばかりに、カレンの肩を突っついた。
「ちょ、ちょっと待って」
カレンは、躊躇った。
実際に声は聞こえていないが、悲鳴のような苦しみのような叫び声が、下からの風となって、カレンの脚を撫でた。
背中に衝撃を喰らった。
誰かに蹴られた!
バランスを失い、闇の中にある重力に、足を取られた。
カレンは、落ちていくのかと思った。だが実際は、地面に尻を打ち、両脚を伸ばした状態で風の抵抗を顔に受け、暗黒の中を滑り落ちていく。
川に流した葉っぱのようになっているな、とカレンは思った。
カレンが背後の上方を見ると、四角い出入り口の光が見えた。ミンティスが後ろから滑って落ちてくる。
出入り口には、豆粒ほどのインドラの影が見えた。だが、すぐに扉は閉ざされ、完全な闇に包まれた。
残されたインドラたちは、敵の追っ手と接触している。
カレンは思った。
しかし、次にカレンは自分自身に危機が迫っている、と知った。
滑り落ちる先に、四角い小さな明かりが見えた。米粒程度の大きさだが、カレンの視力によると、天井から巨大な金属の物体が垂れ下がっていた。
金属の物体は、巨大な釣り針で、先端がカレンの方角に向かって尖っている。滑り落ちた先に、針が自分の胴体を突き刺さる仕組みだと、カレンは直感的に理解した。
なす術なく、カレンは空中に放り出された。
目下では、ピンク色の大地が広がる。
風を全身で受け、カレンの身体は、巨大な釣り針の軌道線上に乗った。