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ジョナァスティップ・インザルギーニの物語  作者: ビジーレイク
第V部外伝「カレン・サザード」
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戦闘経験

 地面に立つ霊骸鎧オーラ・アーマーに重なり合った。

「我が名は、カレン・エイル・サザード!」

 カレンの内側に、六つの光が並んでいる。

 その光が爆発したかのように、内側から外側に向かって、煙を吹き出した。

 煙の中にカレンがいた。

 世界が暗い……いや、星々が見えた。夜空の星が広がる世界。

 カレンは、星空の世界に浮かんでいた。

 自らが出した煙に身を包まれていく。

(身体が変わっていく……?)

 目を覚ますと、カレンは地面に立っていた。無意識に着地していた。

 視界は、より鮮明で、より遠くが見えた。澄んだ音が、耳元に鳴っている。

 ほのかに良い香りがする。

 心が落ち着く……。

 裸になったような感覚がした。

 カレンは両手のひらを見た。白を基調とした素材に、銀の刺繍が施されている。

 なにか指輪のようなものをしている。

 手で顔を触った。確かに霊骸『鎧』を身につけている。

 虫を突っついているときの棒のように、棒もまた身体の一部になったような感覚に近い。

「内側と外側が溶け合った状態……これが霊骸鎧か……」

 カレンは呟いた。

宇宙の使者(アンチグラビティ)”インドラを見た。

(僕は、インドラよりもずっと強い。インドラは一度に一人しか変身できない。僕は一度に、五人まで霊骸鎧を呼び出せる。五対一で、圧倒的に有利だ。いや、僕を加えれば六対一になる)

 負ける要素が思いつかない。

(……せっかくだから、“最終勇者ラスト・ワン・スタンディング”の性能を試してみたい)

 両手を合わせる。“星白の剣(スターライトソード)”が現れた。

 細身の剣(レイピア)ではなかった。“最終勇者”に変身すると、両刃の剣(ブロードソード)に変化していた。

(“星白の剣”は、僕の状態に合わせて変化するんだ。不思議な剣だ)

 カレンは、左の奥歯にスイッチがあると気づいた。このスイッチは“加速装置アクセラレータ”だ。

“最終勇者”は、“加速装置アクセラレータ”が、標準装備されている。

 奥歯を噛みしめ、カレンは走り出した。

 上半身は水の中を歩いているようだ。足下は走る、というよりも滑っている。

(これが加速状態なんだね……“宇宙の使者”が能力を使う前に、倒す!)

 対するインドラは、黒い煙に包まれた。動きの一つ一つが止まっているような感じだ。

宇宙の使者(アンチグラビティ)”から、黒い霊骸鎧になった。

黒衣の王子(ダークスローン)”に似ているが、違う。“黒衣の王子”は外套マントを着ているが、この霊骸鎧は、何も身につけていない。丸坊主の男性が裸でいるかのような姿をしている。

 両眼から赤い涙を流していた。涙は、煮えたぎる溶岩のようだ。

 カレンは、霊骸鎧の名前を知っている。“海底都市”でも、【異形なる存在(ザ・ビーイング)】内部でも、戦っている様子を見ていた。

「“魔王サタン”……!」

“魔王”も“加速装置”を使った。

 だが、“魔王”インドラは、攻撃はしてこなかった。カレンに背を向けて、走り出したのである。赤い土を蹴り上げて、小さくなっていく。

「逃げる気? 追いかけっこなら負けないよ」

 カレンは、一直線にインドラを追いかけた。インドラはカレンの追跡に気づき、ひたすら逃げる。

 二人は誰もいない不毛の地を駆け巡った。

 全力で走っても、カレンは息切れしなかった。まだ追いかける自信がある。

 だが、カレンは気づいた。

(だめだ、霊力を無駄遣いしている。インドラも無駄遣いしているけど、“星白の剣”を展開している分、僕の消耗が早い。……“星白の剣”よ、消えろ)

 カレンは、“星白の剣”を消した。念じるだけで消える。

 わざと反対側に走ってみたが、インドラもそれを察知し反対側に逃げる。立ち止まって、インドラを先回りすると、インドラも察して正反対の方向に逃げる。

(そうか、インドラめ。僕と真正面からやり合っても勝てないと分かっているんだな。……距離をとって、僕の消耗を待つ作戦なのね)

 インドラとしては、カレンの剣が届かない位置にいればよい。

(だったら、“これでもくらえ!(テイク・ザット!)”……!)

 両手を打ち合わせる。だが、何も起きない。

(“これでもくらえ!”は“加速状態”だと使えないんだ……)

 カレンは奥歯のスイッチを噛んで、“加速装置”を止めた。高速状態のインドラが、残像を残して左右に動きながら、カレンの的を外そうとしている。

 カレンは目を閉じた。霊骸鎧と混ざり合っている身体で目を閉じる、とは少し奇妙ではあるが。

 インドラの動きがコマ送りに見える。

 インドラの着地点を予測し、その地点に向かって、叫んだ。

「“これでもくらえ!(テイク・ザット!)”」

 両手から打ち出された霊力が、カレンの前に衝突し合った。行き場のなくなった霊力が轟音を立てて、熱線となった。周囲の空気を焦がし、インドラに向かって放出された。

 だが、インドラは加速された動きで“これでもくらえ!”の放射線をくぐりぬけ、飛び越え避けた。避けるだけでなく、向かってくる。

「出でよ、“宇宙の使者(アンチグラビティ)”!」

 印を組もうとしたが、インドラ……“魔王”の燃えたぎる顔が間近に迫るかと思うと、衝撃で後ろに吹き飛ばされた。

 衝撃のあとに、腹部から痛みが広がった。

“魔王”の膝が、カレンの腹にめり込んでいる。

(卑怯だ、呼び出しているときに攻撃するなんて……!)

 視界が歪む。

 インドラの姿が、“牛鬼ミノタウロス”に変わった。牛の角をもった、逞しい身体つきの霊骸鎧で、巨大な戦闘斧バトルアックスを抱えている。全体的に白い。

 全身をそらして、巨大な戦闘斧を横殴りにしてきた。

 横からの巨大な衝撃に、カレンは空中に吹き飛ばされた。地面に背中を叩きつけられる。

「痛い……。苦しい……」

 カレンはうめいた。

(このまま、倒れたままでいたい。インドラは仲間だった。本気で殺してくるはずがない。何がどうなっているか分からないが、許してくれるはずだ……)

 だが、そんな考えは瞬時に消えた。

 巨大な影が差した。見上げると、“牛鬼”インドラが斧を振り上げ、カレンの頭上を越えて跳躍していた。

(“加速装置”……!)

 カレンは奥歯のスイッチを噛んだ。加速状態になって、地面を蹴った。横に逃げる。

 コマ送りの動きで、インドラの大斧が大地を割る。裂けて飛び散る赤土が、ゆっくりと舞い上がった。

 インドラの殺意は本物だ。脇腹に焼けつく斧の痛みが、教えてくれる。

“牛鬼”のくぼんだ、白い眼窩がんかが、カレンを睨みつける。

 得体の知れない殺意に、カレンは身震いした。

「僕が霊骸鎧を呼ぶには、時間が掛かる。でも、インドラが他の霊骸鎧に変身するには瞬間で変身する。この差を埋めるには、距離が必要だ」

 インドラは、カレンとの戦い方を研究している。インドラは、自分に時間の優位があると知っている。

 カレンは恐怖を振り払った。戦わなければ、死ぬ。

 背を向け、インドラから距離をつくった。

 カレンは悲しくなった。

(本気で僕を殺そうとしているの? そんなに僕が邪魔だったの? 別に貴方が国王になっても反対なんかしないよ)

 恨みを買う真似はしていない。それなのに、殺されかけている。

 インドラは再び“魔王”となり、高速で追いかけてくる。今度はカレンがインドラから逃げる立場になった。

 カレンは、距離を取り、霊骸鎧を呼び出した。

 横で払うだけの簡単な印であった。

 だが、何も起きない。“加速状態”であると、呼び出しはできないのだ。

 “加速装置”を解除し、やり直す。

「出でよ! “蜘蛛糸スパイダーウェブ”! 汝の名前は、シャミィ・キューラ!」

 小型の蜘蛛を背負った、女性の身体を思わせる霊骸鎧が現れた。何故かカレンは、この霊骸鎧を知っていた。

 ガルグが何かを喋っている映像が見える。ガルグの指示通り、霊骸鎧を呼び出す動作を、カレンはしていた。

(僕は、過去にガルグから霊骸鎧を教えてもらっていたんだ……)

“魔王”となったインドラが両脚を揃えて、カレンの顔面めがけて蹴り出した。

「……そうだよね、そう来るよね。だったら、やり返す……!」

 カレンは奥歯を噛んで、“加速装置”を起動させた。

 カレンは叫んだ。悲鳴にも似た雄叫びをあげて、右の拳を振り回した。

 両脚の蹴りを避けて、拳は“魔王”インドラの顔面を捉え、打ち抜いた。

 拳から堅い物体を殴った感触が伝わる。拳を壊してしまわないか、カレンは不安になった。

 だが、痛みの代償として、“魔王”インドラを地面に吹き飛ばした。

 インドラが、すぐさま起き上がった。殴られた顔面を手でおさえ、頭を振っている。

(やっぱり……! まともにぶつかり合えば、僕が強い)

 生まれて初めて人を殴った。憎くもない相手を殴って、罪悪感が生まれてきた。だが、インドラは自分を殺しにきている。

「“蜘蛛糸”。インドラを絡め取って!」

“蜘蛛糸”は、インドラを指さした。背負っている蜘蛛が、白い糸を発射した。細い糸が束になり、インドラに絡みついた。

 インドラは、また倒れた。藻掻もがくが、糸は柔らかな見た目と違い、鋼鉄よりも硬い。インドラの身体に食い込んだ。

「さあ、インドラ。降参するんだ……。もう身動きはできないよね?」

 霊骸鎧の状態だと、口が塞がっているので、言葉が出ない。“星白の剣”を表出させて、刃先をインドラの首元に突きつける仕草をした。態度で理解してもらうしかない。

 喋られないのに、なぜ霊骸鎧には指示できるのだろう、とカレンは疑問に思ったが、この際はどうでも良かった。

 インドラは燃えがる。

 全身から大量の火と熱を発する霊骸鎧、“太陽神フレアー”となって、“蜘蛛糸”の糸を溶かした。

「そうだよね。インドラ。貴方なら、いくらでも抜け出せる」

 だが、時間は充分だ。インドラが蜘蛛の糸を燃やしている間、霊骸鎧を呼び出した。

「出でよ、“宇宙の使者(アンチグラビティ)”」

 生やした触手で腕組みをしている霊骸鎧が現れた。

「汝の名前は、エルネスト・ザーク! インドラを空高く放り上げろ!」

 意趣返しだ。

“宇宙の使者”が触手を持ち上げると、インドラは空中に吸い込まれていった。

“太陽神”となったインドラは足をバタつかせたが、重力には敵わない。

「これで終わりだ、インドラ。殺されたくなかったら、変身を解いて、ここで降参するんだ」

と、声を張り上げた。口が塞がっているので、声が出ない。

 だが、インドラは冷静だった。

 別の霊骸鎧に変身した。黒い煙の中から弓矢をもった“闇の狩人(ダークエルフ)”が現れた。

 インドラは空中で身体を反転させ、弓につがえた“魔法の矢(マジックミサイル)”を放った。

“魔法の矢”は、独自の意思を持つ、絶対必中の矢である。物理的にあり得ない軌道を描いた。まるで地上の獲物を狙う猛禽類のように、“宇宙の使者”に目掛めがけて飛んでいった。

“宇宙の使者”は胴体を貫かれた。

 苦悶の動きをして、消滅した。“宇宙の使者”は強力無比な霊骸鎧だが、打たれ弱かった。

「そんな……!」

 カレンは、“宇宙の使者”がいた場所を見た。一度倒された霊骸鎧は甦らない。

 インドラの重力が元通りになった。

 本来の重力に引っ張られ、落ちる。

 インドラは“粘液超獣ウィップスライム”に変身した。ナマコやナメクジに似た質感を持つ、不定形アメーバの軟体動物となった。

 地面に衝突をしても、軽く跳ねて前転しただけだ。どちらが頭で尻なのかカレンには分からない。鞭のような触手を生やし、ひっくり返った。

 カレンは、インドラに向かって“これでもくらえ!”を放った。

 インドラは素早く“水晶騎士クリスタルキング”に変身した。

“これでもくらえ!”の光が“水晶騎士”の内部で屈折し、跳ね返った。光の放射線が“水晶騎士”の身体から出て、近くの赤い土塊に当たって、爆発した。

 爆風が“水晶騎士”インドラの背後を襲った。だが、完全防御と評価されるほど頑丈な“水晶騎士”にとっては、そよ風でも吹いているかのようだった。

 静かに歩を進め、近くにいる“蜘蛛糸”を一刀で斬り捨てた。

「しまった……!」

“宇宙の使者”が殺されて、カレンの注意は逸れていた。

「どうすればいいんだ……? どうすれば?」

 カレンは焦って、手をこまねいた

 霊骸鎧を呼び出しても、“これでもくらえ!”を放っても、インドラに通用しない。

 インドラは不測の事態が起きても、冷静に対応して、やり返してくる。

 霊骸鎧の性能では、カレンの“最終勇者”が強いが、中身……インドラとカレンでは、戦闘経験に差がありすぎる。ガルグの元で育ち、小さい頃から戦いに身を投じていた。

 インドラは、黒い煙に包まれた。

 別の姿に身を変えているのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 次々と姿を変えて戦うインドラがすごい。 霊骸鎧だと口が塞がるのはなぜなんだろう?と疑問が湧いた。 「鎧」の文字が入っているから口にも鎧があるということなのかな・・。
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