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ジョナァスティップ・インザルギーニの物語  作者: ビジーレイク
第V部外伝「カレン・サザード」
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名前

 ナスティは毛布を身体に巻き付け、立ち上がった。

「言っておくが、霊骸鎧(オーラ・アーマー)に変身できない奴もいるからな。それは承知しろ。……リコ。まず、目を閉じろ」

 自分の腰に手を当てる。もう片方の手で、カレンの額に指を押しつけた。軍人から教師に転職したようである。

 カレンは目を閉じた。いつもやっている作業だ。

「次に、自分の首を斬り落とせ」

 ナスティは真面目な口調で、おかしな発言をする。カレンはナスティの思考を疑った。

「馬鹿ッ。イメージをしろ、と言っているのだ!」

 ナスティは顔を赤らめた。

 カレンは映像を思い浮かべた。自分自身の頭を(なた)で横に斬り飛ばす。カレンの頭は転がって消えていった。

「首の中をのぞき込め。中は真っ暗で、空洞になっているか?」

 頭を斬り落とされた首は、切り株のようだった。ナスティの指示通り、切り株……身体の中を(のぞ)きこむと、闇であった。

「へその奥側に、なにか光が見えないか……?」

 暗闇の先には、光が複数あった。いくつもの光が回って、円を描いている。追いかけっこをしているかのようだ。

 ナスティの問いに、カレンが「うん」と首肯(しゅこう)した。

 ナスティは、さらに訊いてきた。

「光は何色に光っている?」

 ナスティの質問に、カレンは戸惑った。色は、数の分だけあって、どれを答えてよいか分からない。

「黄……」

 正確な表現ではなかった。ナスティが想像してする質問と、カレンの見えている映像に差がある。

「すると、貴様の属性(タイプ)は『光』なのだな。私と同じ」

 ナスティが意外そうな口調で反応する。カレンは嘘をついていても、意味はないと悟った。

「違うよ。他にも光が五つ見える。白、赤、青、緑、黒……。六つの光がグルグルと回っているんだ」

「ちょっと待て。目を開けろ」

 目を開くとナスティが驚いている。動揺した顔を寄せてくる。

「リコ、貴様はおかしい。普通ならば、光は一個しかないはずだ」

 息が顔にかかって、カレンは恥ずかしくなった。思わず顔を逸らした。

「いや、僕には六つ見える」

 ナスティは眉にしわを寄せ、首を傾げた。しゃがんで、地面の砂に指を入れた。何か図を描いている。

霊力(オーラ)には、それぞれ属性がある。全部で六つだ」


  光

火   天

水   地

  闇


「光っている色には、それぞれ自然の現象を表現している。黄色は『光』、赤は『火』、白は『天』、青は『水』、緑は『地』、そして黒は『闇』だ。これを属性と呼んでいるのだ。普通は、一人一つしかないんだぞ」

 霊骸鎧は六つの属性に分かれている! 

 カレンの理解が飛躍した。

 (ナイト)の(・オブ)()(ファイヤー)を思い返した。完全に『火』属性である。

 ナスティが口を開く。

「貴様のように、全部、という奴は初めて見た。私はずっと、貴様を『水』属性だと思っていた」

「なぜ僕が『水』だと思ったの……?」

「『水』属性が唯一変身しなくても、能力を使えるからだ。貴様は変身をせずに、霊骸鎧を操っていた。霊骸鎧を操る能力が貴様の能力なら、『水』タイプでないとすると、一回霊骸鎧に変身しなくてはならないからな。……ちなみにミントも『水』属性だ」

 確かに、レミィは変身をしなくても、カレンの怪我を治していた。

 『水』以外の霊骸鎧は、変身しなくては能力を使えない。

「言われてみると、レミィは『水』のイメージにピッタリだね。穏やかで癒し系の性格だし……。ナスティは、何属性なの?」

「私か? 私は『光』だ」

 カレンは納得した。ナスティは、黄色くて暖かい霊力を放っている。

「霊力の属性と、性格は関係があるのかもしれないね。……ちなみにインドラは?」

「インドラか? 奴は『闇』だぞ。奴の性格も霊骸鎧も、なんとも面倒臭い奴だ」

 インドラの話をすると、ナスティの表情が(くも)る。あまり友好的とはいえないらしい。

「僕はインドラと絡みがないので、なんとも言えないな。……ちなみにガルグは?」

「もういい、きりがない。続きをやるぞ」

 ナスティは会話を遮断され、カレンは目を閉じた。

 内部で光の玉が、額から臍に向かって連なり、柱を作っている。

 上から闇、地、水、火、天、光と並ぶ。

「光の玉が見えるのだな? ……『霊力開放(オーラドライブ)』をしろ」

「『霊力開放』……なにそれ?」

「額から霊力を外に出すことだ。イメージしろ。大切なことは、イメージをすることだ」

 言葉は知らないが、やった経験はある。これまでの手順は、カレンが霊骸鎧を呼び出す手法と似ている。首を斬り落とす発想はなかったが。

 カレンは額から六つの霊力を放出する様子を想像した。

 一番上にある闇の力から順番に、カレンの額を通って、前方に飛び出ていった。

 上から、光、天、火、水、地、闇と並ぶ。

 カレンの内部にあった順番とは逆になる。カレンが六つの力を手で触れると、六つの玉は正六角形に配置された。

「すごい……。本当に六つあるのだな」

 ナスティがまたも驚いた。カレンが目を開いて、確認すると、目の前に六つの玉が空中に浮いている。

 目の前の光の玉が、お互いに光る線を放った。

 カレンは線をなぞった。

 これまでの霊骸鎧とちがって、手順が複雑すぎる。

 だが、玉が揺れるだけで、何も起きない。

 玉は元の正六角形の形に戻った。

 カレンは、変身に失敗したのである。

 ナスティは、手助けしようと手を出したが、すぐに取りやめた。

(僕自身でなければ、解決できない問題なんだよね)

と、カレンは理解した。

 ナスティが助言をくれた。

「時間をかけすぎているのかもしれんぞ。早くやってみろ」

 変身にも制限時間があるらしい。

 他の霊骸鎧を呼び出すときは、何も感じなかったが、自分の霊骸鎧を呼び出すには、苦労している。

「違いは、なんだろう?」

 玉と玉の間に線が走っていて、途中で線が切れている箇所がある。

 線が切れているというよりも、お互い独立した動きが必要だと、カレンは理解した。

 両手をつかって、別々の動きをする。

 カレンは、目の前にある玉から離れて、手の動きを練習した。

「……落ち着いてやれば、できる」

 カレンはたった一回の練習で、線の動きを修得した。

 次は上手くいった。

 六つの力が、中央に集まって、まぶしい光を放った。

 光は通路の闇を吹き飛ばすように照らした。同時に、強い風が吹きつける。この風は身体で受けると、心地よかった。

 カレンは、懐かしくも暖かい気持ちに包まれた。

 ナスティの叫ぶ声が聞こえた。

「霊骸鎧の名前を呼べ。出てこい、と命令しろ」

 自分の霊骸鎧なんて知らない、とカレンは思った。

 いや、知っている!

 カレンは、すでに知っている。 

「出でよ、“最終(ラスト・ワン・)勇者(スタンディング)”!」

 自然と口から出た。

 光の中から、人型が見えた。すべての光が、人型に集まり、集約されていく。

 光の輝きは収まった。霊骸鎧“最終勇者”は、暗闇の中でも、小さく音を立てていた。

「すごい……」

 ナスティが息を呑んだ。

「リコ、“最終勇者”は、貴様の指示を待っているぞ。ここで貴様は、自分の名前を唱えなくてはならない」

「……我が名は、カレン・サザード!」

 カレンは高々と宣言した。

 だが、何も起きない。

 “最終勇者”は、何も反応をしない。

「僕は、シグレナスの皇帝、カレン・サザードです!」

 いつもの奴である。だが、それでも何も起きない。

「この手順、間違っていない?」

 すがりつくように、ナスティに質問した。間違いであってほしい。ナスティは腕を組んで、首を振った。

「間違っていないぞ。私たちには、それぞれ名前がある。生まれてきたときの名前がな。名前には霊的な力が宿っている、とガルグが仰っていた。名前には、霊骸鎧と自己を結びつける、紐のような力がある、と」

 カレンは、論理の隙間に気づいた。

「生まれてきたときに名付けられなかった人は、どうするんだろう?」

「知ったことか。必要になった時期で自分の名前を決めればいいだろう」

「適当な設定だなぁ」

「一つだけ分かったことがある」

 ナスティは腕を組み、眉間にしわを寄せた。

「貴様は、カレン・サザードではない」


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