星空の下で
1
ナスティは、ジョニーと一緒に個室に入った。木造の内部で、木製の寝台が備え付けられている。殺風景である。板を倒す形式の窓があり、光源となっていた。
ジョニーが、荷物を下ろしている。
(二人きり……。チュウをする機会かも……)
ナスティは、ジョニーを見て、胸が高鳴った。ジョニーはナスティの奴隷なのだから、二人きりになっても、決して不思議な事態ではない。
「姫。ごめんね」
ジョニーが作業をしながら、謝った。
「なんの話?」
「シグレナスまで従いて行けないって、断っちゃって」
「ええ、怒ってないよぉ」
「姫を傷つけたかなって、ずっと反省していたよ。姫だけを行かせるなんて、俺って、馬鹿みたいだった。……本当にごめん」
ジョニーが頭を下げる。
(素直に謝る人って初めて見た……)
ナスティは、未知の生物を見ているかのような気持ちになった。
母親ナディーンは、自分に非があっても、決して謝らない。
謝らないどころか、こちらが悪いと決めつけ、証拠をねつ造してくる。決して退きさがらない。
(本当に強い人って、心から謝れるんだ……)
ナスティの気持ちが晴れた。
自分の胸にある固いしこりが、ほどけた気がする。
「ジョニー。住み慣れた場所から、いきなり連れ出されたら、びっくりするよね。ボクのほうこそ、ごめんね。ジョニーの気持ちも考えずに」
ナスティも素直に謝った。いつも怒られて、いやいや謝っていた。辛かった。だが、ジョニーに謝っても、辛くない。
「でも、嬉しかった。また姫といられるなんて……」
ジョニーは頭を掻いた。照れている。
(ボクも……)
ナスティは声が出なかった。ジョニーの口から出てくる言葉すべてが幸せになる。
「俺は、何が何でも、姫を幸せにする。姫のためなら、姫が幸せになれるなら、なんでもする。それが、俺たちの決まり、いや、俺が俺に課した決まりだから」
ジョニーが提案した。いつもの眩しい笑顔であった。
ナスティは、よろけた。船が揺れているせいもある。
(幸せすぎて、死んじゃうよぉ。いかん、いかん、負けてられないぞぉ)
ナスティは、ジョニーを見た。
「ボクも。ボクもジョニーが幸せになるなら、なんでもする」
今度は、ジョニーがよろける番だった。顔が真っ赤になり、汗をかいている。激しく動揺している。船は揺れていない。
(可愛すぎるぅう。吸い寄せられちゃうよお……)
ナスティの全身から、蕩けそうな甘さに包まれた。
脚が勝手に動く。小刻みに近づいた。
(ジョニーは、どうしてこんなに可愛いんだろう? そうだ、気づかれないうちに、ジワジワと近づくんだ。甲板での抱きしめアタック、からの、チュウをするのだ……!)
と、ナスティは作戦を立案する。目標は、ジョニーの唇である。
「猫が暴れてるよ?」
ジョニーが指を指した先には、 籠の中でポコチーが暴れている。
「ぽこぉん……。外に出してぽこぉ。ここは窮屈ぽこお」
ポコチーは顔を縦にして、格子に噛みついている。
「あ、ぽこちー。ごめんごめん」
籠の蓋を外すと、ポコチーは辺りを窺いながら、這い出てきた。
ナスティの脚にすり寄って甘える。
「なすちー、狭かったぽこぉ、怖かったぽこぉ……。あ、怪しい奴がいるぽこ!」
ジョニーを見ると身を低くして、毛を逆立てた。
「ジョニーは怪しくないよ。何回か会っているでしょう?」
ナスティが笑った。
「……なんか怪しい奴ぽこぉ」
ポコチーがジョニーを警戒している。身を低くしている。
「ここは変だぽこー。揺れているぽこぉ。取り急ぎ、隠れるぽこッ!」
小走りで、荷物と荷物の隙間に隠れた。
「ぽこちー、出ておいで。誰も意地悪をしたりしないよ」
ナスティが隙間に手を差し入れた。
「やめろぽこー。ここには、ぽこちーはいないぽこ。何人たりと入れはさせないぽこぉ~」
ポコチーは、ナスティの手を殴り、噛みつくふりをして拒否した。
「もう、ぽこちー!」
ナスティは手を引っ込めた。
「猫は怖がりだからね。船なんか分からないよ。……俺、疲れたから、ちょっと休ませてもらうよ」
ジョニーが、寝台に腰掛ける。
ナスティも、負けじとジョニーの隣に腰掛けた。
肩が触れるか触れないかくらいの距離だ。
ジョニーの困惑した視線を感じる。
(やばいやばい、チュウしたいのバレちゃうかも……)
ナスティはジョニーの視線から熱くなった。動揺をごまかすつもりで、話をする。
「……ぽこちーと初めて会ったとき、まだ子猫だったのね。ぽこちーのお母さんや兄弟は冷たくなっていたの。ぽこちーだけが生き残って、どうしても飼いたいってお母さんにおねだりしていたんだけど、お母さんがダメだって。……けど、結局、家で飼うようになって、今はお母さんが一番面倒見ている」
ナスティはポコチーを見た。荷物の隙間で、硬直している。ナスティを怯えた表情で見ている。飼い主であると忘れているのだ。
「俺も、捨て子だったんだよ。どこで生まれて、親が誰なのか記憶がない。気づいていたら、村で物乞いをやっていた。親方が俺を拾って、ここまで育ててくれた」
ジョニーが、自分の埃を払う仕草をした。ジョニーは腰巻きしか身につけておらず、“耐火外套”を着ていなかった。
「そうなんだ。ジョニーってお父さんもお母さんを見た記憶がないのね……。ボクもお父さんが病気が亡くなったの。王家なのに、畑で働いていたんだけど。お金がなくなったところをボクの結婚話が舞い込んできたの」
「そうなんだ……。大変だったね」
ジョニーが暗い表情で、俯いている。
(ボクのお父さんが死んだって、一緒に悲しんでくれているのかな?)
ナスティには、ジョニーの心理が見えなかった。
「でも、遠いシグレナスから、よく姫を見つけたね。その結婚相手さん」
ジョニーが投げやりな態度を取った。
不機嫌である。
「どうしてボクが選ばれたのか、よく分からないんだ。でも、シグレナスの、いや世界で一番の金持ちと結婚できるって、お母さんが凄く喜んでくれたの。これって、ボクにとっても名誉ある話なんだって。……ちょっと自慢できる話かなって思っていた」
「そっか」
「どうしたの? ジョニー? どこか体調が悪いの?」
ジョニーは、応えない。態度がどんどん暗くなり、沈みこんでいる。
(ボクの結婚に反対……してくれるんだ? ボクの結婚が嫌なんだ……)
ナスティはジョニーの気持ちが分かり始めた。
(可愛い。……チュウしたい)
ナスティの瞳は熱くのぼせ、涙で視界が揺らぐ。
(どうすれば、ジョニーはボクにチュウをしてくれるんだろう。……そうだ!)
ナスティはジョニーの胸を強く掴んだ。
「痛っ……! どうしたの? いきなり?」
ジョニーが痛がる。
(ふっふっふ……。男の人は、女の人のお胸を触るのが好き。何かの本で知った)
ナスティは考えた。読書で得た知識を実践する時期が来たのである。
(とすれば、ボクがジョニーのお胸を掴むことによって、ジョニーもボクのお胸を触りたくなるにちがいない! そのままチュウだ!)
ナスティは掴む力を強めた。
「痛たた、どういう状況?」
ジョニーが悶え苦しんでいる。抵抗しようにも、ナスティには反撃できないのである。
(うりうり! どんどんボクのお胸を触りたくなーる)
扉が開いた。
「おおい!」
タダラスが入ってきた。
ナスティは、素早くジョニーから手を離した。
(いいとこだったのに! タダラスの、おたんちん!)
タダラスを睨む。
「あ、なんだか知らんがすまん」
タダラスが口ごもった。
「どうしたの? タダラス」
ジョニーが真っ青な顔をして汗をかいている。ナスティに理由なき虐待を受けていたので、当然であった。
言葉を詰まらせているタダラスをどかして、ジガージャの子ども、白いナドゥが話しかけてきた。
「お姫様に、ジョニーさん。一緒に釣りをしませんか? ……楽しいですよ」
ナスティは、ナドゥに対しては怒りを感じない。だが、タダラスだと腹が立つ。
「いいね、やろうやろう!」
ジョニーは年相応の子どもらしく、釣り竿を振り上げた。
「ちぇっ。チュウはお預けかぁ」
ナスティは肩を落として、甲板に出る。
他にも船乗りたちが釣りをしている。
「ここは絶好の釣りポイントですからね。一時停止しますよ!」
ジガージャがナスティに話しかけてきた。
すでに釣り竿の準備をしていてくれている。
「二手に別れて、どっちがより多く釣れるか勝負するだか! 俺とアギ、残りはお前らだか!」
タダラスが組み分けをする。
ナスティが、同じ組になったジョニーとナドゥを見た。
(ジョニーと一緒で嬉しいな、でもナドゥがお邪魔虫なんですけど……)
ナスティはナドゥを見た。
ナドゥは涼しい顔で、タダラスに話しかけた。
「……タダラスくん。三チームに分けませんか? タダラスくんが一番釣りの名人だと聞いたので、タダラスくんは一人だけで充分だと思いますよ。ボクは、アギくんと同じ組になります」
ナドゥが笑って、アギの手を引く。
(ナドゥ……。すごい、気が利く……!)
ナスティは手を合わせて感心した。
ナスティとジョニー、ナドゥとアギ、タダラスの三組で釣り対決が始まった。
すぐにナスティの竿に、魚が引っかかった。
「姫、今だ、引き上げるんだ」
「待って待って、どうするの?」
思ったより、魚が引く力が強い。船の外に引きずり込まれそうになった。ジョニーと力を合わせて、引き上げた。
「網だよ、ほらほら」
釣った魚を、ジョニーが網で掬う。
「すっごく大きい……。これ、ボクたちが釣ったんだよね?」
ナスティは、ジョニーの腕にしがみついたまま、唾を飲み込んだ。人生で初めて魚を釣った魚が、甲板の上で跳ねている。
「どんどん釣っていこう!」
ナスティとジョニーは、魚を釣りあげていく。
ナドゥとアギも大騒ぎしながら、魚を釣っている。
だが、タダラスだけは魚が引っかからない。
「あれ、おかしいだか。釣り名人のタダラス様に魚が引っかからないとかおかしいだか」
ナスティとジョニーは、魚を大きい魚を三匹、小さな魚を五匹、合計八匹も獲った。
ナドゥとアギは大小合わせて六匹、タダラスは三匹だった。
「もう魚釣り奴隷に行けねえだか」
タダラスが、桶に入れた魚を見て、悔しがった。
「もうお嫁に行けない、みたいな言い方やめて?」
ジョニーが励ましているのかどうか分からない言葉をかけていた。
2
船が動き出す。
大きな島が見えてきた。
辺りは夕焼けになってきた。
「あれは?」
「トルケ諸島です。今夜はあそこで停泊します」
ジガージャが説明する。隣で息子のナドゥが顔を出した。
「トルケには昔、天馬が大量に生息していたそうです」
「天馬? 食えるだか?」
タダラスが首を捻った。
「食べられません。翼の生えた馬、妖精の仲間です。人間たちと友好的だったのですが、人間の文明が発達して、島の開発が進むと、姿を消してしまいました」
船は、入り江に入った。入り江には、無人の桟橋があった。
ナスティたちは船から下りた。
砂浜に出ると、浜辺の熱に騒いだ。タダラスは頭に布を巻き付け、アギとナドゥは手をつないで歩いている。
ナスティはジョニーと並んで歩いた。
大人たちは、何人かに別れ、ある者は船を繋ぎ止め、ある者は天幕を設置し、ある者は料理を始めた。先ほど釣った魚を料理するつもりだ。
タダラスやアギ、ナドゥは、料理の手伝いを始めた。
辺りが暗くなってきた。
(二人きりになりたいな……)
ジョニーが暇そうにしている。
(ぐへへ……)
ナスティはジョニーに躙り寄った。
ジョニーはナスティの視線に気づいて、驚いている。
「ねえ、ジョニー。あそこに行ってみようよ」
ナスティは、ジョニーに、向こうの入り江を指さした。
「うん、いいよ? でも、どうして?」
ジョニーは不思議がった。
(ジョニーの馬鹿。どうして察してくれないの?)
ナスティは頬を膨らませた。
だが、星明かりの綺麗な浜辺である。
二人で歩くと、ナスティの機嫌は良くなった。
静かで優しい波の音が、耳に心地よい。
ジョニーが横を歩いている。
(ジョニー、今日も格好いいよぉ……)
ナスティの胸がはち切れそうになった。走り出して大声で叫びたくなる衝動を抑える。
入り江に岩があった。
二人は肩を並べて座った。
「どうしたの? 姫? ちょっと普通じゃないよ……?」
ジョニーが困惑している。
(ジョニーは子どもだなぁ。本当に分からない奴ぅ)
ナスティは、ジョニーの顔に、自分の顔を寄せた。
「ジョニー、チュウしよう」
ナスティが提案すると、ジョニーが顔を真っ赤にした。
「どうしたの?」
ナスティは、腹が立ってきた。
「あ、いや……」
ジョニーが下を向いている。
「……なによ。はっきりしなさいよ。したくないの?」
ナスティはジョニーを問い詰めた。わざと厳しめな口調をした。
ジョニーが口ごもる。
「……赤ちゃんができちゃうよ」
「できません」
ナスティは、きっぱりと否定した。笑いを噛み殺した。
(ジョニーって賢いんだけど、赤ちゃんの作り方を知らないんだね。……教えてあげたい。教える? ……えっ?)
赤ちゃんの作り方を想像して、今度はナスティが動揺する番だった。
自滅である。
自分の動揺をごまかすために、話題を変えた。
「ねえ、トルケの次は、セイシュリア、セイシュリアの次はシグレナスだよね?」
「駅情報みたいな言い方やめて?」
「シグレナスには、パンがあるんだよ。パンに蜂蜜をかけて食べるんだって。ボク、食べてみたーい」
異国の食文化に思いを馳せると、自然と唾液が溢れ出てくる。
「ねえ、ジョニー。ぽこちーは、シグレナスに行って何をするか知っている?」
「猫の気持ちまでは分からないなぁ」
「ぽこちーはね、ぽこちーのお嫁さん……ぽこ美を探したいんだって」
「お嫁さん? あの猫って、雌だったよ」
「ジョニー。キミは、シグレナスに行って、何をしたい?」
「猫の話は? いきなり俺の話に切り替わっちゃったけど、大丈夫なの?」
「いいから。キミは、シグレナスで何をするの?」
ナスティは質問をジョニーに投げかけた。
ジョニーは星空を見上げた。
ジョニーの首筋や肩の張り方に、ナスティは見蕩れた。
「……星空を見てみたい」
ジョニーは呟いた。
「今ここで、見ているよね」
「違うよ。親方に聞いたんだ。シグレナス、いや、シグレナスのもっともっと北に、とてもとても寒い場所があって、“星降る大地”って呼ばれているんだけど、その“星降る大地”には、たくさんの流れ星が降るっていう話。……俺、そこを見てみたいなあ」
と、ジョニーは、空を見上げて、空想を楽しんでいる。
ナスティはジョニーの横顔を見つめた。
急に自分の胸が膨らんだ気がしてきた。
(ああ、ジョニー。愛している……。ボクにとっての星空は、キミだよ……。空に散らばる宝石たち。全部が全部、キミそのものだ。星空を見たいだなんて、なんて素敵な願いなんだろう……)
と、ナスティは眼を細めて、内側から溢れ出てくる感情に浸った。
これほど、幸せな気持ちになれた時間が、これまで生きていてあっただろうか?
「“星降る大地”で星空を見ているときに、もしも姫が隣にいてくれたら、どんなに素敵だろう……」
ジョニーが、呟いた。自然と出てきた言葉である。
「ひぐっ」
ナスティは泣きそうになった。
(ボクの心を見抜いたの? それとも、本当に心からそう思っているんだ?)
「どうしたの、姫?」
「なんでもない……」
ナスティはジョニーの胸に垂れ掛かった。
(泣くなんて、恥ずかしい。悲しい話じゃないよね、楽しい話だから)
ナスティは、ジョニーの胸に顔を埋めた。ジョニーは腰巻きしか身につけておらず、素肌が直接、ナスティの頬に当たった。
(ジョニーの肌って、きめ細かい。すべすべしてるぅ)
「姫……?」
ジョニーが動揺した声を出している。
「いいよ、見に行こう。絶対だよ」
眼を閉じた。
ジョニーの心臓音が激しくなる。ジョニーの心臓の鼓動と、呼吸を直に感じ取れて、心地よい。
「やっぱり、マークカス王子との結婚、やめようかな」
「どうして? 急にどうしたの?」
「でも、もう結婚しなくても良くなってきちゃった」
ナスティが、声を出して笑った。
ジョニーが黙ってしまった。
「どうしたの?」
「俺、最低だ。姫が結婚をしないって決めたら、すごく嬉しいって思っちゃった。俺って悪い奴だね」
対照的に、ジョニーの声は、暗くなった。
「じゃあ、執政官になってよ」
ナスティが提案した。
「ええ? 執政官って何? どうしてそんな話になったの?」
「シグレナスだと、皇帝の次に偉い人だよ。ボクは、シグレナスの皇帝になるから。ジョニー、キミは皇帝を補佐する執政官になるんだ!」
「……どうやってヴェルザンディから来た女の子が皇帝になんかなれるの? それだったらさあ、二人でトルケの天馬を探そうよ」
「ボクと違って、ジョニー、キミは浪漫が溢れる提案をするねぇ。でも、悪くない。トルケの天馬。ボクも乗ってみたいな。絶滅したみたいだけど」
「じゃあ、姫。天馬を探す旅に出かけかないとね。見つけたら、俺たち二人で天馬に乗るんだ」
「うん……」
ナスティは想像した。
(星の降る、北の大地で、ジョニーと一緒に天馬に乗る……)
お互いを見つめ合っていた。
自然と唇を交わしていた。
(あれあれ、おかしいな……。チュウしよう、うん、みたいな展開じゃなかったんだ。……言葉なんて必要なかったんだ……)
ナスティは、唇から、甘美な味が広がった。
(たまんねぇ、うほおおお! うぉおおおおお、ぐりぐりぐりぐり!)
全体重をジョニーに自分の唇を押しつけた。
「待って、待って!」
ジョニーから引き離される。
「え? 嫌だった?」
「違うよ。姫って、基本的に何事にも容赦しないよね? ぐいぐい来すぎだよ」
「じゃあ、ジョニーから来てよ。いつもボクばかり仕掛けているの、分からないかなぁ? キミが力加減ができるなら、してみて。ほらほら」
ナスティは、眼を閉じて、自分の唇をジョニーに差し出した。
ジョニーの唇が触れる。
(早いよ、ジョニー。もっと気持ちの準備が……!)
抗議をしようにも、ナスティは、ジョニーとの時間に抵抗できなかった。
(ジョニー、誰も見ていないよね、二人の秘密。……あ、星空だけが見ているよ……)
……それから、時間が過ぎた。
波を打つ音が、ナスティの耳を優しく撫でた。
「ねえ、姫」
「なあに?」
「そろそろ皆のところに戻ろっか。皆、心配しているかも」
「うん……」
ナスティは絡め合った指をほどいた。
起き上がって、遠くの焚き火を見た。
二人は手を握り合って、走り出した。
(ボクは、ジョニーと、この世界を旅したい。ずっと一緒に……! このまま、ずっと……!)