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反乱

        1

 シグレナスの国境付近に、ジョニーたちは着陸した。

 シグレナスの国境警備隊が、集まってくる。

 アドバッシュの“竜爆神ジェットルーラー”を見ると、兵士たちは、恐れおののいていた。

 アドバッシュの肩に、鳩型の霊骸鎧……“伝書鳩ホーミングピジョン”が止まっていた。

 音を鳴らして、“伝書鳩”の胸部が開く。

 中から、セレスティナの密書が出てきた。

 ジョニーはセレスティナの密書を、兵士たちに見せた。“伝書鳩”のどこに密書を収納していたのか、ジョニーには分からなかったが、“伝書鳩”の能力だと理解した。

 密書を見た兵士たちは、安心した表情で、先を通してくれた。

(他国の霊骸鎧に怯えていては、本当にこの国は大丈夫だろうか?)

 ジョニーは余計な心配をした。

 ジョニーは変身を解き、生身の姿に戻った。

「アドバッシュ。協力、感謝する。ここからは、俺一人で行く。貴様はもう帰れ」

「いいや、シグレナスの城まで連れて行ってやるだか。歩いていては、間に合わないだか」

 アドバッシュも、変身を解いていた。

「……同盟国とはいえ、貴様は他国の要人だ。面倒な話になっては、困る。……帰れ」

「いや、はシグレナスの城まで、従いていくだか。もっと、おめぇの戦いを見てみたいだか」

 アドバッシュが、はしゃいでいる。遊びに連れて行ってほしい子どものようである。

 アドバッシュの肩に、止まっていた“伝書鳩”がアドバッシュの肩から飛び降り、人間の姿に戻った。

「それは良い考えですね! 私も楽できるし」

 メクスが、片手をあげて歌うように賛成した。メクスは、アドバッシュの肩に乗って、飛ぶ力を節約していたのだ。

「そうだか。……あ、いや、それにしても、おめ、めんこいな」

 アドバッシュが、メクスを見た。新しい玩具おもちゃを見つけた子どものようだ。

「ほえ? なんですか? じっと見ないでください」

「めんこいんだもの、それは見てしまうだか」

「なんですか、いきなり? 私は、キャリアウーマンを目指しているので、恋愛とか結婚とか興味ありません」

 メクスが顔を背けて、赤くなっている。まんざらでもなさそう、とジョニーは思った。

「“貝殻頭シェルヘッド”。おめえばかり、ずるいぞ、好きな女に会いに行くだか? 我もこの鳩ねーちゃんを嫁にもらって帰るか、“貝殻頭”とレオン・サザードの戦いをもっと見るかまで、帰らねえだかんな」

「やめてください、なんですか、もう」

 メクスが、アドバッシュの胸に左、右(ワン・ツー)と拳を叩き込む。アドバッシュは涼しい顔をしている。

「……ところで、“貝殻頭”。アーちゃんとは、ヤッただか?」

「何もしていない。そういう話をしたが、何か具体的な事案は発生していない」

「……嘘つけ、絶対ヤッただかろう!」

「……なにもしていない」

 アドバッシュが揶揄った態度で、詰めかかる。ジョニーは煩わしくなった。

 悪気はないけど、ときどき面倒である。

「……えぇ、ジョエル・リコさん。アーちゃんって、アイシャ王女ですよね? アーちゃん、じゃなかった、アイシャ王女と性行為をしたのなら、これは、セレスティナさんに伝達しないとですねぇ」

「よせ、やめろ。してもいない行為を報告するな。勘違いを招くだけだ。……俺は、なにもしていない」

「私、シグレナス親衛隊の中でも、霊骸鎧が“伝書鳩”なんで、主な仕事は、伝令なんですね。たとえ些細な事柄でも伝達する……それが、私の使命ですっ」

「もっと良い話に、使命を使え」

 アドバッシュが間に入ってきた。

「おっけー。分かっただか。アーちゃんとは何もしていないって証人になってやるだか。だから、我も連れていけ」」

 アドバッシュの提案に、メクスが顔色を良くした。

「そうですよ、リコさん。アドバッシュさんに送ってもらった方が、私が楽ですし」

「そうかそうかあ、メクス。おめえは、我を好きなんか? めんこいのう」

「わあ、セクシャルハラスメント! 性加害反対!」

 アドバッシュとメクスがもみ合っている。二人ともイヤな顔をしていない。お互いを見つめ合いながら、腕の奪い合いをしている。

「ああ、もう分かった。好きにしろ」 

 結局、アドバッシュに連れて行ってもらった。

        2

 シグレナスを囲む城門では、厳戒態勢が敷かれていた。

「ジョエル・リコ様ですね? お待ちしておりました」

 門番たちが通す。

 メクスは通され、アドバッシュは、何者か疑われるか心配したが、セレスティナの密書を全面に押し出し、ジョニーの友人として乗り切った。

「アドバッシュ。ここからは、変身はナシだ。レオンなんとかの霊骸鎧がどれほど強いか知らないが、貴様の身元がバレたら、面倒だ。あと、殺しもナシ。普通にしておけ」

「任せるだか。……こんなところに、棍棒があるだか」

 アドバッシュが、道ばたから棍棒を拾った。二本ある。一方をよこしてくれた。

 兵士たちに連れられる。

「レオン・サザードとは、何者なのだ?」

 先導する兵士に話しかけた。ジョニーより少し年上の男だ。

「それは……」

 若い兵士は言葉を濁らせた。

 この兵士はレオン・サザードなる人物を知っている。

「何故、答えない? ……貴様の親戚か?」

 ジョニーが問い詰めると、兵士が慌てて首を振った。

 だが、親戚をかばっているようにも見えない。

(レオン・サザードとは、有名人なのか……?)

 久しぶりのシグレナスは、夜の祭りのように騒がしかった。

 あちこちで火事が起きている。

「どうして火事が起きているのだ? シグレナスが荒れている……」

「略奪や暴行、放火が蔓延はびこっています。帝の崩御に乗じて、悪事を働く者たちであふれかえっておるのです」

 兵士が悔しさを表情に滲ませた。正義感のある顔つきをしている。

 丘を登った。

 途中で、人々ととすれ違った。子どもを抱えて坂を下る母親、子どもの手を引っ張って逃げる家族連れ……。

 遠くの丘で、火事が見える。炎が燃え広がり、悲鳴と、うめき声が聞こえる。混乱が混乱を呼び、炎が燃え広がるが、誰一人として広がる炎にあらがえる者はいない。

 悲鳴や怒号で、シグレナスは埋め尽くされている。

 まるで世界の終わりのようである。

 高い丘の麓に、兵士たちが立っていた。

「レオン・サザードは、城の中に立て籠もっています。手勢の者が城を扉を深く閉め、我々の侵入を防いでいます。さらに、大神殿から、“破壊の剣(デストロイヤー)”を持ち手出しているので、注意してください」

「“破壊の剣(デストロイヤー)”だと……? 聞いた記憶がある。たしか、大神殿に飾られていた武器だ」

 兵士の見送りは終わった。兵士たちが背中を見せて、丘を降りていった。

「わあ、誰も手伝ってくれないんですね?」

 メクスが驚いた。

「公務員による、民間への丸投げだか。……打ち上げでもあるんだか」

 アドバッシュが呆れたかのように肩をすくめた。

 城は、丘の上にあった。丘は四角く削り取った岩を積み上げた階段であった。

「ほうほう、これはご立派な階段だかな」

 アドバッシュが、シグレナスの建築技術に驚いた。だが、両目は笑っていない。

 まるでシグレナスの技術を敵視しているかのようだ。敵視、といっても、どこか幼い感じがする。他の子どもに張り合う、子どものようにも見える。

 階段を上り終えると、広場に出た。

 広場には建造物……シグレナス城が建っていた。シグレナス城は巨大な大理石に覆われていて、絶壁な崖の限界まで面積を及ぼしている。

 広場には、人相の悪い荒くれ者が集団で、たむろしていた。

 扉が深く閉ざされ、行く手を阻んでいる。

 冷たい目つきを、ジョニーたちに振りかざしてくる。

「あれが、レオン・サザードの手勢か……!」

 ジョニーはメクスを、下がらせた。騎士の甲冑を着ているが、どう見ても戦いが得意には見えない。

「かなりの人数だか。“竜爆神ジェットルーラー”に変身して、蹴散らしてやるだか?」

 アドバッシュが印を組みだした。ジョニーは慌てて阻止した。

「やめろ、死人が出る。それに、貴様の身元がバレるから、ダメだ」

「なら、どうするだか?」

「……決まっているだろう?」

 ジョニーは、棍棒を片手に、荒くれ者の群れに跳び蹴りを食らわした。

「簡単だか!」

 アドバッシュは棍棒で一人の頭を殴った。

 アイシャの“龍王ドラゴン”やデビアスの“悪鬼大王ゴブリンキング”、そしてチェイサーの“聖兜王ビートルロード”といった強敵と戦い続けていくうちに、街の不良など、もはや怖くもなくない。

「どけどけぇ!」

 ジョニーも、アドバッシュも竜巻のように、荒くれ者どもを吹き飛ばしていく。

 荒くれ者どもが、ジョニーたちに集まってくる。

 アドバッシュが、ジョニーの背中に、自分の背中を合わせにきた。

「“貝殻頭”、軽いウォーミングアップにもなりゃしねえだか。本当にシグレナスは雑魚ばかりだか」

「そうか? 肩で息を切らしているぞ? ヴェルザンディのアドバッシュよ」

 背中合わせのまま、お互いを守り合っている状態で少し休憩をした。

 一休みをすると、二人は、それぞれの目標を目指して、棍棒を振り回し続けた。

 メクスの脇を通り越す。

 気づけば、荒くれ者どもが地面に寝そべっている。他の奴らは、仲間を捨てて逃げ出していた。

 何者かが、ジョニーの腰回りにまとわりついていた。

 黒いとんがり帽子をかぶった、霊骸鎧であった。

 霊骸鎧にしては、力が弱い。

 頭を棍棒で叩くと、煙を出して、変身が解けた。

「あいた! 痛いよ、ジョニーの兄貴? おいらだよ、おいら」

 煙から出てきた人物は、丸顔の若者……ビジーであった。

「ビジー! どうして貴様がここにいる?」

「ジョニーの兄貴、おいらたちは、兄貴を待っていたんだよ。いつの間にか、不良の皆さんと仲良くここで待つ事態になったけどね。それにしても、遅かったね?」

「……ヴェルザンディに捕まっていたからな」

「でも、来てくれて良かった。謁見の間に、セレスティナが待っている。早く行ってあげて」

「レオン・サザードはどこにいる? いや、そもそも貴様はどうしてここにいる?」

「……セレスティナがすべて知っているから、早く行ってあげるんだ。おいらからは、それ以上は伝えられない」

「どういう意味だ? ビジー、様子が変だぞ?」

 ジョニーが問いかけても、ビジーは視線を逸らしたまま、何も答えなくなった。

        3

 ジョニーは、シグレナス城内に突入した。

 大理石の床だった。

 まっすぐの通路を進む。幅の広い、重厚な通路である。

 静まりかえり、人の気配がない。

「これが悪名高きシグレナス城だか……。思ったよりも、何もないだかな。シグレナスの皇帝は城に住まず、自分の家から出勤していると聞いているだか」

 アドバッシュが周囲を見渡した。

 畏怖を抱きながらも、どこか侮蔑の視線を送っている。

「貴様……、シグレナスが嫌いなのか?」

 ジョニーが質問を投げかけると、アドバッシュの表情が怒りに満ちていった。

「嫌いだか! シグレナスの奴らは、いつもヴェルザンディを馬鹿にしているだか。野蛮人だの、悪の枢軸だの、邪教を信じているだの……」

 アドバッシュが、唾を飛ばして怒った。まるで当然の法則を説いているかのようだ。

「じゃあ、どうして俺に従いてきた? 俺も、シグレナスの一員だぞ?」

「……それは、おめえが悪い奴じゃないって、我が知っているからだか。それに、ヴェルザンディに敬意を表してくれている。おめえが珍しいんじゃ」

「……シグレナスの人間は全員悪い奴じゃなかったのか?」

 アドバッシュは黙った。

 アドバッシュを論破するつもりも、責めるつもりはない。

 ただ、ジョニーには、アイシャやアドバッシュたちがいるヴェルザンディとは、戦争をしたくなかった。

(アイシャを含め、小ずるいだけで、悪い奴らではなかった)

 ジョニーの中では、ヴェルザンディに対して友情を感じ始めていた。特に、アドバッシュは、肩を貸せる友人だった。

(こいつらとは、戦争をしたくない……。話し合いをすれば、もっと仲良くなれる)

 右側の壁は途切れ、庭につながる空間になった。外気が吹き込んでくる。

 通路と庭の間に、柱が数本並んでいる。

 柱と柱の隙間に、階段式観客席スタンドが見えた。

 階段式観客席から徐々に下っていくと、舞台ステージが出てきた。舞台には、ほどよい数の草木が生えていて、風になびいている。

 舞台からは、シグレナスの夜景が見える。

「右手に見えますのが、シグレナスの元老院です」

 メクスが紹介した。

 元老院。

 シグレナスの元老たちが集まって、シグレナスの国政を議論している場所である。シグレナスの政権中枢である。

 シグレナスで生活をしていれば、よく耳にする言葉である。

 元老院は、なんとかかんとかを決定した……という風に帝国の報道官がシグレナス市民に報告するのである。

 市民たちは、元老院の政治判断をよく噂する。馬鹿にしたり、嘲笑したり、ときには、ごくまれに賞賛したりしていた。

 ジョニーは元老院を、生まれて初めて見た。

「“元老院”と聞いて、巨大で、いかつい建物を想像していただけどんも、町内の寄り合いみてえだかな」

と、アドバッシュが拍子抜けしている。ジョニーも同じ感想を持った。

 ガレリオス遺跡の“魔王”城が、豪華絢爛で華美であった。

 反対に、シグレナスは質実剛健、単純で素朴である。

 シグレナスの全景を見える、という点以外は、必要最低限の機能と装飾しかない。

 柱の陰から、影が見えた。

 影は、素早い身のこなし(フットワーク)”で、ジョニーとアドバッシュに向かってくる。

 アドバッシュが棍棒で、影の頭を狙い、ジョニーは影の足を、自分の足で払った。

 何の打ち合わせもせず、上手く連携が取れた。

 襲撃者が倒れる。

 襲撃者は、白い肌をした、巨体な男であった。

「クルト?」

 クルトだけではない。クルトの他にも、仲間たちが、暗闇から姿を現した。

「サイクリークス? セルトガイナー? フリーダ? ……プリムまで? どうして、ここにいる? 荒くれ者が城を占拠していると聞いたが、荒くれ者とは、自警団の貴様らだったのか?」

 ジョニーは仲間たちを見た。誰もが気まずそうな表情で、下をうつむいている。

「先に、あの人と……セレスティナが待っている」

「なに?」

 クルトが、通路の先を指し示した。通路の先は、重厚で巨大な扉があった。

「リコ。俺たちは、ここで見張っている。……あとは頼んだぞ」

「クルト、意味が分からない。ちゃんと説明しろ」

 ジョニーは疑問をぶつけた。クルトは何も返事をしなくなった。

 仲間たちは、横一列になって、ジョニーに背を向けた。

「貴様らは、何かに操られているのか? ビジーといい、どうしたのだ?」

 ジョニーは、混乱した。

 だが、クルトたちもビジーと同様、会話に乗ってこない。

「なんかヤベぇ事態になってるだか? もう何回も話しかけても、同じにしか答えないのなら、ほかっておいて、先を急ぐだか。……“貝殻頭”」

 アドバッシュが促す。アドバッシュも、仲間たちの異常さに気づいている。

「メクス、どう思う? 貴様がシグレナスから出てくるときも、あいつらの様子は、変だったのか?」

 ジョニーはメクスに質問をした。

「さっぱり、分かりません。私は、皆さんを、初めて見ました。私は、セレスティナさんに呼び出されて、密書を渡されて、元老院から飛び立っただけなので」

「……皇帝が暗殺された現場を見たか? 本当に皇帝は殺されたのか?」

「見ていません。殺されたかどうかなんて、私、伝令役なので、あまり難しい話は考えないようにしています」

 メクスが、わざとらしく頭を振った。

 だが、ジョニーには疑問が湧いてきた。 

(メクスは、親衛隊だったような……。親衛隊であれば、常に皇帝を守る立場にあったはず。どうして、親衛隊が皇帝の殺害現場を知らないのだ?)

 ジョニーは、メクスが急に怪しくなった。

(本当にメクスは、親衛隊なのか?)

 だが、これ以上、何も情報をつかめない。

(とりあえず、セレスティナの依頼通り、レオン・サザードを倒して、セレスティナを救い出す!)

 セレスティナの安全が、最大の優先事項である。

 謎解きは、後回しで良い。

「先に進むのみだ……。行こう、セレスティナの許に」

 ジョニーは、アドバッシュと肩を並べて、両開きの扉を押した。

 重厚な音が響く。

 扉の先には、幅の広い赤い絨毯が、長く敷かれていた。

 絨毯の他に、柱の列が、印象的だ。

 絨毯の左右を、太い柱が追いかけるように並んでいる。た。

 天井が高い。

「ここが、謁見の間だか……」

 アドバッシュが見上げた。

 絨毯の上を歩く。ジョニーたちが通り過ぎた柱が、明るく光った。“魔王”城の壁と同じ仕掛けだと、ジョニーは理解した。

(やはり、シグレナスは、“魔王”を滅ぼして、“魔王”の技術を取り入れたのだ)

 絨毯は、高い段を前にして終わっていた。

 段の上には、こちらを見下ろすかのような玉座がある。

「遅かったな、リコちゃん」

        4

「道が混んでいたか?」

 玉座には、体格の大きい男が座っていた。玉座の隣に、セレスティナが侍っている。

 巨大な男は、金色の長い髪をしていて、顔面は職人の手に掛かった宝石のように輝く、美丈夫であった。

 町中を歩けば、人目を一身に引くだろう、とジョニーは思った。

 美丈夫は、足を組み、巨大な剣を手にしている。剣の刃先は、大理石に向かって突き刺さっていた。

「セロン……?」

 見覚えがある人物で、近しい顔つきの持ち主を呼びかけた。

「……セロンじゃねえよ」

 美丈夫は立ち上がる。学者のように身体が細いセロンとは違い、筋骨隆々、鋼のような肉体をした、偉丈夫でもあった。

「俺は、レオン・サザード。天命に従い、シグレナスの皇帝、ゾルダー・ボルデンを弑逆しいぎゃくした。これからは、俺が、皇帝だ」

 レオン・サザードは両手を広げた。

「抜かせ。誰が貴様を皇帝と認めるか? 城には誰もいないぞ?」

「リコちゃん。お前はサザードを知らないようだな……?」

「サザード? さあな、興味もない」

「じゃあ、簡単に歴史の授業を教えてやるよ。昔、サザードは、“混沌の軍勢(ケイオス・ウレス)”の頂点に君臨していた。」

「“混沌の軍勢”だと……?」

 ジョニーは馬に乗って、矢を放ってくる北方の蛮族……“混沌の軍勢”を思い返した。

「“混沌の軍勢”は、多くの部族に別れている。北方騎馬民族の総称だな。サザードは、お互いにバラバラだった“混沌の軍勢”を率いて、“魔王”城に攻め入り、“魔王”を滅ぼしたのだ」

「なんだと?」

 ジョニーは頭が混乱してきた。過去の記憶と違う。

「俺は、レオン・サザード。サザード族の末裔だ。今度は、シグレナスの皇帝を滅ぼしてやった」

「待て、意味が分からん」

「待たないさ。ジョエル・リコ。俺はお前を倒す。俺とお前は、戦わなくてはいけない」

 レオン・サザードが玉座から降りて、一歩を踏み込んだ。

「戦う、だと? 仲間同士なのに……?」

 ジョニーから口がこぼれた。

 レオン・サザードの端正な顔つきに、曇りがかかった。

(いや、何をほざいているのだ、俺は? 仲間? こんな奴は、仲間ではない。初めて会った奴だ)

 ジョニーは動揺した。

 これまで、どんな奴の喧嘩を受けてきた。

 怖くはない。

 むしろ、相手を地面に這いつくばらせて、楽しんでいた。

 だが、戦いたくない。

 このレオン・サザードとは、戦いたくない。

(ここで戦ってしまえば、大事な何かを失ってしまいそうだ)

 ジョニーも、自分の顔が曇っている、と気づいた。

 戦ってはいけない相手と戦おうとしている。

(いいのか、ここで戦うと、あとで後悔するぞ?)

 声が聞こえる。自分自身だと分かる。

 ジョニーは、レオン・サザードの隣に侍るセレスティナを見た。

 セレスティナは眉間に沈痛な苦しみを集めていた。

(どうしたんだ、セレスティナ? いつものように、妙案を出してくれ)

 ジョニーはセレスティナに祈った。

 だが、セレスティナからは、何も反応がない。

「戦え、ジョエル・リコ。俺はお前を殺さなくてはならない。それより、この剣を見てみろ。“破壊の剣(デストロイヤー)”だ。この剣を剣を受けた者は、分子レベルで消滅する。俺を倒さなくては、お前は死ぬぞ?」

 レオン・サザードは“破壊の剣”を、床に突き刺したまま、引きずっている。“破壊の剣”が通った場所には、火花が走り、亀裂を作っていた。

“破壊の剣”は、どんな霊骸鎧でも真っ二つにするという切れ味をもつ。大理石など、卵料理のように簡単に切り分けてしまう。

(あの剣は、魔性だ。触れる者の命をすすり喰う)

 セロンの言葉を思い返した。

 レオン・サザードが段差を降り終えて、“破壊の剣”を地面に突き刺した。

 逞しい腕で、印を組む。

「“霊力超開放ハイパードライブ”! 出でよ、我が霊骸鎧“伝説レジェンド”……!」

 白い霊骸鎧……全身には、金色の装飾が施されている……“伝説”が現れた。

「待てっ。貴様は、もしかして……!」

 ジョニーは、レオン・サザードに駆け寄った。

 この戦いは、やりたくない。

 止めたい。

 ジョニーは“伝説”と一体化したレオン・サザードに手を伸ばす。

 だが、変身の爆発で、後方に吹き飛ばされた。

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