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互角

        1

 鳥たちが、競争路トラックに集まっている。餌がないか、地面を突っついていた。

 群れの中から、一羽の鳩と、ジョニーは目が合った。鳩は、首を傾げている。

「位置について……。よーい、どん!」

 アドバッシュの号令とともに、ジョニーは、一気に飛び出した。

 鳥たちが、ジョニーに驚いて、羽ばたいていく。

 足で地面を蹴って、手で空を切る。足の動きと同じくらい、腕の動きも大切だ。

「速い……!」

 ヴェルザンディの兵士たちから、ため息が漏れる。

 ジョニーは、短距離走で負けた記憶が無い。観客の感想など、耳を傾ける価値はない。

 無心。

 ただ、ひたすらに、空気にあらがうのみだ。

 だが、ジョニーの隣で、チェイサーが追い抜いてきた。

 ジョニーは足をひねった。整備不良の箇所に足を踏み入れたのだ。チェイサーの肩に、自分の肩がぶつかる。

 チェイサーが肩で押し返してきた。一瞬だけ見た表情に、怒りがこもっている。

(わざとではない!)

 ジョニーも肩で押し返す。チェイサーも押し返してきた。

 肩で押し合い、お互いの進路妨害をする。問答のような、ぶつけ合いの中、ジョニーは走り抜けた。

「同着!」

 中年の兵士が旗を振った。

 ヴェルザンディの兵士たちから、歓声が沸いた。

 ジョニーが肩で息を切らしていると、隣で、チェイサーが、息を切らしていた。

「次は、弓矢で勝負しろ」

 アイシャが指示をした。中立の立場だが、ジョニーを見る目つきが、ガレリオス遺跡で向かい合った時点とは別人のように優しくなっている。

 積み上げられた土嚢に、的が置かれていた。

 飛び道具には、自信がある。むしろ、接近戦よりも得意である。

 ジョニーは手短に済ませたかった。

 精神集中などいらない。

 ほぼ機械的に撃つだけだ。

 弓を引き、連続して十本撃つと、すべてが当たった。

 ジョニーはチェイサーを見た。チェイサーも終えていた。

「結果、“貝殻頭シェルヘッド”殿、十本、チェイサー殿、十本! ……同着!」

 年老いた兵士が結果を読み上げる。

「チェイサーも弓の名手なのか……!」

 続く種目、走り幅跳び、走り高跳び、垂直跳び……すべてが同着だった。

 どちらかが、もう一人を追い抜くが、最終的には、同じ位置に収まるのである。

 槍投げですら、二人が投げた槍が、それぞれ弧を描き、同じ位置に突き刺さった。

「これはおかしい、どうして同着が続くのだ?」

 兵士たちが、ざわついた。

(チェイサーは負けようとしている? それとも、わざと同着にしようとしているのか?)

 ジョニーには違和感があった。

 だが、当のチェイサーも当惑している。

「では、剣術による勝負を始めるぞ?」

 アイシャが指示を出す。

 ジョニーは受け取った、木製の剣を眺めた。訓練用の剣で、たとえ木製でも、本気で殴られると痛い。

 だが、ジョニーにとっては、物足りない。

「いらない」

「いらなお」

 ジョニーとチェイサーは、同時に木剣を拒否した。

「真剣をよこせ」

「しb県をくだしあ」

 ジョニーにはチェイサーの言葉が理解できなかったが、同じ要求をしたと理解した。

鋼の剣(スティールソード)だ。文句あるまい?」

 兵士たちが持ってきた剣を目にして、ジョニーとチェイサーは同時にうなづいた。

 充分な重量である。

 当たれば、怪我をする。わざと引き分けに持ち込む細工はできない。

「はじめ!」

 構えて向かい合った瞬間、分かった。

(強い)

 ジョニーの持論であるが、強さは、構えで分かる。

 構えは、攻撃、防御……次の動作に直結するからだ。

 あとは、間合い、タイミングである。

(だが、どんな奴にも、得意な間合い、不得意な間合いがある……!)

 ジョニーが距離を詰めて、まずはご挨拶代わりに、剣先でチェイサーの剣先をつつく。この距離はお気に召さないかのように、チェイサーが払った。

(そうか、気が合うな。俺も嫌いな間合いだ)

 ジョニーは敢えて後退した。チェイサーを誘い出す。チェイサーを誘い出し、斬りかかる作戦だ。

 だが、チェイサーが乗って来なかった。読まれている。

 チェイサーが攻撃してくるとき、読みやすい。予知能力が備わったかのように、ジョニーは回避した。

 相手の裏を掻こうとすると、見破られ、相手がこちらの裏を掻こうとすると、一瞬で見破る。

 こちらが焦って、余計な動きをすれば、斬られる。

 相手が焦れて、無謀な攻撃をしてくるのを待つしか無い。

(心の問題だ。心に乱れがある側が負ける)

 チェイサーは一切、軽率な行動には出なかった。

 チェイサーがフェイントを仕掛けてくるが、ジョニーにはチェイサーの思考が良く読める。ジョニーはジョニーで簡単には挑発に乗らなかった。

 妙な疲れ方をしてきた。全身を動かすより、思考を使うと体力の消耗が多い。

 意を決し、距離を詰めた。

 距離を詰める瞬間も同じである。

 イヤな距離……お互いの攻撃が当たる間合いで、攻撃を繰り出す。

 ジョニーの攻撃は、すべて受けきられてしまう。反対にやり返されても、チェイサーの意図は分かりやすく、すべてをいなした。

 お互いが、足を止め、斬り合う。

 思考は必要いらなかった。

 ただ、本能の思うままに剣を振れば良い。

 チェイサーの剣が来れば、避ければ良いだけだ。

 それでも、お互いの剣は、一切、お互いに当たらない。

 数羽の鳥が巻き添えになった。ジョニーとチェイサーが作る剣風が、鳥の羽毛を巻き上げていく。

 剣と剣の衝突によって、金属音が生じる。一種の音楽を奏でるかのようであった。ジョニーの心臓を興奮で揺さぶった。

 舞い上がる羽毛の中で、ジョニーは、自分が笑っていると気づいた。

 チェイサーも笑っている。

 楽しい。

 まるで、示し合わせて、いけない遊びをしているかのようだ。どちらかが一つでも間違えれば、首や腕が吹き飛ぶ、危険な遊び……。

「待て! ……いったん休憩しよう」

 アイシャに止められた。声に、動揺と不安が入り混じっている。

 ジョニーは、恋人同士の密会を邪魔されたような気持ちになって、アイシャを睨んだ。同時に、チェイサーもアイシャを睨んでいた。

 アイシャが、狼狽うろたえている。

 アドバッシュが、かばうようにアイシャの前に立った。 

「キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン! ……と長い間、打ち合っていただか。しばらく動きが止まったかと思ったら、また、キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン! ……見ていたら、疲れただか! おめえらは良くてもだな、見ているらを休ませろ!」

 両手の人差し指で、剣を打ち合う仕草を見せ、妙な擬音語で、剣を打ち合う音を再現した。 兵士たちが半笑いになり、空気をなごんだ。

 アドバッシュの和平工作に負けて、ジョニーとチェイサーは剣を下ろした。お互いに背中を向ける。

 よく見れば、剣の刃が摩耗し、変形している。

 アイシャとアドバッシュが、ジョニーに駆け寄ってきた。

「どうだか? チェイサーに勝てそうだか?」

 アドバッシュが水筒を差し出してきた。

 ジョニーは水筒の水を飲み干した。

 思った以上に、疲れている。

「まるで、鏡映しになった自分自身と戦っているみたいだ……。奴の動きは読みやすい分、こちらの攻撃をすべて読まれている」

「走り方も、一緒だっただか。……おめえら、実は、幼なじみとか、生き別れた兄弟とかじゃねえだか?」

「まったく記憶が無い。兄弟にしては、顔が違いすぎる」

「……世の中には、自分に似た奴が七人はいるっていう話を知らないだか? ま、剣術も余計な動きをなくせば、一つの完成形に向かって、似てくるのかもな」

 アドバッシュが、軽く笑った。

 この男には、屈託がない。どこか人を和ませる魅力がある。ジョニーはアドバッシュが好きになっていた。

「このままでは、二人とも死んでしまう……」

 隣でアイシャが心配している。初対面の頃と比べ、優しくなった。

 ジョニーは、チェイサーを眺めた。

(俺と同じタイプか……。)

 チェイサーが周りに集まるヴェルザンディの兵士たちや霊骸鎧組と話をしている。

 休憩が終わると、アイシャが次の指示を出した。

「剣術では決着が着かん。次は、体術で勝負だ」

 ジョニーは、刃こぼれをした剣を捨て、チェイサーと素手で組み合った。

 だが、これもまったく勝負がつかない。

 二人とも地面に転がり、土だらけで汚れ、自慢の技で相手を締め上げようにも技の返し方も熟知しているので、お互いに決定打がない。

「もう良いだか。わかっただか」

 地面の上で、蛇のようにもつれ合ったジョニーとチェイサーを、アドバッシュとデビアスが引き剥がす。

 ジョニーは全身の砂埃を払った。

「どうしてだ? 寝技でも引き分けだぞ? 俺は俺の強さを証明できていない」

「……チェイサーは、らの中で一番の天才だか。だれもチェイサーに武芸で引き分けた奴なんて、これまで現れなかっただか。“貝殻頭”、おめぇは強さを、証明しただか」

 アドバッシュが優しく応える。

 ジョニーは周りを見回した。

 ヴェルザンディの兵士たちから、反発や疑いの表情は消え去っていた。ある者は敬意を示し、ある者は畏怖の表情を浮かべている。

 デビアスですら、敵対心がなくなっている。

「……おめぇとチェイサーが、一緒に稽古さ積めば、もっとヴェルザンディは強くなれるだか! 楽しみだぞ、“貝殻頭”! ようこそヴェルザンディに来てくれただか!」

 アドバッシュが、嬉しそうに、ジョニーの肩を抱いた。

「まだだ」

「まあだ」させろ

 ジョニーとチェイサーが反対した。

 二人には、共通の心残りがあったのだ。

「霊骸鎧での勝負が残っている」

       2

「霊骸鎧で勝負する気だか? だめだか。“貝殻頭”、チェイサーは“蛹子ピューパ”から、もう一段階変身を残しているだか」

「やはり、奴は、チェイサーはまだ力を隠しているのだな。アドバッシュ、貴様のように一人で二体の霊骸鎧に変身できるのか?」

 アドバッシュは、“竜爆神ジェットルーラー”から“アンカー”に変身できる。「少し違うだか。霊骸鎧に変身する状態を、“霊力開放オーラドライブ”と呼ぶのは知ってるだか? 我が“竜爆神ジェットルーラー”から“アンカー”に変身する状態を、“霊力転化ドライブチェンジ”と呼ぶだか。まったく違う霊骸鎧に変身する。いうなら、“横”の変化だか」

 アドバッシュは、地面に横棒を描いた。

 背中に円筒エンジンを背負って、飛行する“竜爆神”と、海の底で船をつなげる“錨”とは、形状も用途も違いすぎる。

 これが、“霊力転化ドライブチェンジ”なのだ。

「チェイサーの変身は、“霊力超開放ハイパードライブ”と呼ばれているだか。“蛹子ピューパ”から、さらに強力な霊骸鎧に変身するだか。つまり、“縦”の変化だか」

 アドバッシュは、縦の棒を書いた。

「“霊力超開放ハイパードライブ”。意図的に昇格クラスチェンジするようなものか? クルトが“鉄兜アイアンヘルム”から“銀兜シルバーヘルム”になるようものか」

「その通りだか。おめぇとこの“鉄兜”は雑魚だったが、“銀兜”になると、どえらいほど、強くなっただか。チェイサーの霊骸鎧は、とんでもなく強くなるだか」

 霊骸鎧の中には、多段変形する種類がある。

 さらに多段変形に関しては、まったく別物に変身する“横”と、原型を残してすべての能力が底上げされる“縦”の二類型があるのだ。

「“貝殻頭”、おめえは変身係数を知っているだか?」

「知らん」

「単純な掛け算だか。生身の身体能力に、霊骸鎧の性能を掛けた数字が、変身したときの能力になる。たとえば、腕力が一〇〇ある奴が、腕力を二倍にする霊骸鎧に変身すると、腕力が二〇〇になる」

「その二倍が、変身係数なのだな? 変身者の状態コンディションで生身の腕力が半分になれば、変身後は二倍になる」

「そうだか。おめえもチェイサーも生身の身体能力は同じだっただか。いや身体能力どころか、剣の太刀筋までも、同じだか」

「あとは、霊骸鎧の性能差……変身係数によって、勝負が決まるな」

「“貝殻頭”。おめえの霊骸鎧は弱すぎるだか。ひょっとして我が見た霊骸鎧の中でも最弱だか。変身係数がかなり低い」

「俺の“影の騎士(シャドーストライカー)”が最弱で悪かったな。……変身係数は、能力値ごとに違うだろう。腕力は二倍でも、素早さは変化しない場合もある。どれか俺の“影の騎士”が一つくらい勝っているはずだ」

「ない。……一切ないだか」

 アドバッシュは、口を結んで応えた。そこまで言い切らなくても、とジョニーは思ったが、アドバッシュは心配してくれている。

 だが、ジョニーは俄然がぜんと興味が湧いてきた。

 自分でも愚かな真似をしている、と思う。

 勝利のために、いつも自分にとって有利な条件で戦ってきた。

 だが、チェイサーに関しては、もっと戦ってみたい。もっと知りたい。

「そんなにチェイサーの霊骸鎧が強いのなら、見てみたい」

 ジョニーは、チェイサーと目が合った。

 チェイサーは、ジョニーの心情を理解したかのように、立ち上がった。

「やらおう。ただし、条件がある。わつぃgあかzねに変身するまで、なて。もうてぃとる」

「なんて?」

 ジョニーには、チェイサーの発言が理解できない。アドバッシュに通訳をお願いした。

「“蛹子ピューパ”から“霊力超開放ハイパードライブ”ができるまで、時間がかかるから、待って欲しい。……もう一つ条件がある」

 アドバッシュが言葉を足して通訳した。

「わつぃの攻撃を三回耐えれば、お前の勝ちとする」

 チェイサーが指を三本、ジョニーに見せた。

「俺の攻撃を三回受けきったら、“貝殻頭”、お前の勝ちだか」

 アドバッシュが通訳する。

「それは分かる。俺は構わんぞ。三回で充分だ」

 ジョニーは事もなげに応えた。

 アドバッシュやデビアスの“悪鬼大王ゴブリンキング”よりも強いのなら、まともに戦えば負ける。

 チェイサーの霊骸鎧を知る。それが、最大の目的だ。

 三回も攻撃を受けるなら、どんな霊骸鎧か充分に見極められる。

 チェイニーが“蛹子ピューパ”に変身をした。白い霊骸鎧が、繭を出し、自分自身と周りを白い糸で固めていく。

 昆虫……。

「俺は俺の剣を使わせてもらう。アイシャ、俺の剣を返せ」

 アイシャは兵士を呼んで、箱を持ってこさせた。箱の中には、“羽音崩し(ワームスレイヤー)”とセレスティナのペンダントがあった。

「セレスティナ……!」

 思わず、所有者の名前が口から漏れた。

「だめ!」

 アイシャが、ペンダントをひったくった。胸に隠す。

「ご主人様、まだあの人が好きなの……? 皆の前でフラれたのに?」

 アイシャは、驚いた。両目を潤ませている。

「そうだ。俺は、フラれた。だから、もう関係のない相手だ」

 ジョニーがもう一度、ペンダントに手を伸ばす。アイシャはペンダントを自分の胸元に隠した。

「……だめえ。ご主人様は僕と結婚するの!」

 ジョニーはペンダントの回収を諦めた。

 背後の“蛹子ピューパ”から音が鳴ったからだ。

「前回は操船に専念していたから、完全体にはなれなっただか」

 白い繭は、卵の殻のように硬質化していた。雛のように中から霊骸鎧が、殻を破って現れた。

「あれが、チェイサーの霊骸鎧、“聖兜王ビートルロード”だか!」

 目や鼻のない、表面が何もない黒い顔をしている。

「俺の“影の騎士”に似ている」

 違いがあるとすれば、額から二股に分かれた角が生えている。カブトムシを思わせる、頭部をしている。騎士を思わせる甲冑を身に纏い、全身から青白い煙を放出している。

「霊力が溢れるほど、大量にあるのか……?」

 ジョニーは“影の騎士”に変身した。

 ヴェルザンディの兵士たちがどよめいた。

「そっくりだ……! チェイサー殿の“聖兜王”と、“貝殻頭”の霊骸鎧が、まるで双子のようだ」

(霊骸鎧までそっくりだとは、なにかの冗談みたいだな)

 ジョニーは自分の剣から、異常を感じた。

 刀身が、白く輝いている。

「“羽音崩し”は、昆虫型の霊骸鎧に威力が上昇する……だったな」

 カブトムシに似ている“聖兜王”は、昆虫型の霊骸鎧であった。

 チェイサー……“聖兜王”は片手を高く掲げて、指を鳴らす。

 天から、流れ星が振ってきた。

 轟音を鳴らして、地面に突き刺さる。

 流れ星の正体は、一振りの剣だった。

 突き刺さった地面は隆起し、巨大な岩となった。

“聖兜王”が、隣の兵士に、剣を抜け、と仕草で命じる。

 兵士が剣に触れるが、抜けない。他の力自慢の兵士に抜かせるが、無理だった。

“聖兜王”が仕方ない、という仕草をして、剣を片手で岩から引き抜いた。

「あれは“神王の剣(エクスカリバー)”だか」

“聖兜王”が触れると、“神王の剣”に青い炎が燃え移った。“神王の剣”が白く輝いている。

「“神王の剣”は、悪魔、死者、それに闇属性の霊骸鎧に特効だか! 気をつけろ! おめえの霊骸鎧にとっては弱点武器だか!」

 アドバッシュが声を張り上げた。

(持っている武器まで条件が一緒だとはな……!)

 ジョニーは、自分の“羽音崩し”から、光を感じながら、構える。

“聖兜王”は、左右に動いた。体重を全く感じられない。意思を持った紙切れのような速度である。

(速い……ッ)

 だが、評価している間に“聖兜王”が目の前に現れた。

「いっ」

 予測不能の事態が出ると、変な言葉が出る。ジョニーは咄嗟に防御行動……上段斬りに対する防御を取った。

“聖兜王”の伸ばした片脚が、ジョニーの腹に食い込む。

 巨大な杭を打ち込まれたような衝撃が背中まで走った。ジョニーは、宙に吹き飛ばされていた。

 ジョニーは霊骸鎧の中で、血を吐いた。

 吹き飛ばされながらも、空中で回転し、着地した。

 視界が薄らぎ、見えている情景が赤くなる。全身から煙が吹き出てきた。

“影の騎士”が、危険水域だと、警報を鳴らしている。

(今の一撃で体力の半分を奪われたぞ。一撃? いいや、触れただけだ。ここまで変身係数が違うとはな……。ところで、奴は、どこだ?)

 ジョニーは“聖兜王”を見失った。ジョニーは背後に殺気を感じた。

 振り返ると、“聖兜王”が腕を組んで立っている。

 ジョニーは後ろに飛びずさり、距離を取った。

(奴の能力は、超スピードか?)

“聖兜王”がエクスカリバーの刀身に青い霊力を宿らせた。

 その場で素振りをすると、青白い霊力が、刃物のように飛んでくる。

 ジョニーは“羽音崩し”で斬り払った。腕が千切れそうになるくらい、重さがある。霊骸鎧に変身しても、まったく意味がないくらいだ。青白い剣圧が跳ね返され、あらぬ方向に飛んでいった。

(これが、奴の能力か……? 剣速も重さも比べものにならない……)

“聖兜王”が剣を地面に突き刺して、肩をすくめた。

 勝負にならない、と呆れているのだ。

(生身の姿では互角であっても、変身する霊骸鎧は、完全上位互換であったな)

 ジョニーは痺れる腕と、痛む腹で、構えに戻ろうとした。

「“貝殻頭”、もう止めるだか。もう、おめぇに勝ち目はないぞ。なぜなら、“聖兜王”の能力は……」

 アドバッシュが、声を張り上げた。アドバッシュの足下に、鳩が立っている。ジョニーを不思議そうに見つめている。

「“時間停止タイムストップ”だか!」

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