表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/170

火吹き竜

        1

「誰も死ぬなよ、殺すなよ」

 変身が完了する間際に、ボルテックスの声が聞こえた気がする。

 ボルテックスは“光輝の鎧(シャイニングアーマー)”となって、輝いた。

 前方で、いくつもの炎が降り注いでいる。

 焚き火が、空中から落ちてくるようだ。

 どれも、“龍王ドラゴン”が吐いた火である。無作為に落ちた焚き火が、周囲に延焼していった。

 無関係な小屋の屋根に飛び火して、藁葺きを燃やしていった。

 中から、農家の夫婦が、子山羊こやぎを抱えて、飛び出てきた。

「一般人まで巻き込んで、俺たちを炙り出す気か……!」

“龍王”の残忍さに、ジョニーは気分が悪くなった。

 仲間たちが、次々と霊骸鎧に変身する。

 拳銃に変身したセルトガイナーは、サイクリークスに持たせた。

 シズカの“キラーホエール”は海中にしか変身できないので、シズカは変身しなかった。ジョニーと同じ、生身である。

「つっぱるが……」

 シズカの隣で、ゲンロクサイが“火車ファイアーホイール”に変身した。ゲンロクサイの背後に、“自動二輪オートバイ”が現れた。

 ゲンロクサイの“自動二輪”は、派手な赤や青の蛍光を発しながら、警告音にも似た音を立てている。

「ゲンロクサイ、目立つから音と光を止めろ」

 ジョニーがたしなめめると、ゲンロクサイは“自動二輪”のスイッチを押し、電光と音声を消した。

 肩を落としている。ゲンロクサイなりに矜持プライドがある、とジョニーは分かった。 シズカが、ゲンロクサイの背後に回り込んで、“自動二輪”の座席にある隙間スペースまたがった。

 ゲンロクサイから渡された丸兜ヘルメットをかぶり、両腕をゲンロクサイの腹に回して、ゲンロクサイの背中に顔をうずめた。

「これが、“ニケツ”じゃ」

 シズカがおどけた声を出す。

 ジョニーは、ゲンロクサイの背中とセレスティナの胸とが密着している様子を想像して、気分が悪くなった。

「セレスティナに“ニケツ”させなくて正解だったな」

 仲間たちが、ジョニーの前で、一列に並んだ。

 ジョニーの指示を待っている。

「サイクリークスとクルト、ゲンロクサイとシズカは二人一組になれ。ボルテックスは一人だ。俺を中心に、それぞれ反対方向に散らばれ!」

 ジョニーは指示をした。

 ジョニー自身、“影の騎士(シャドーストライカー)”に変身しなかった。できなくもないが、長時間、維持できるとは思えなかったからだ。

(……俺は、指揮官とデコイに徹する!)

 口が塞がっていない分、指揮官が適任である。

 仲間たちが、“龍王ドラゴン”とは反対方向に走り出したのに対して、ボルテックスだけが“龍王”に向かって、突撃した。

 アイシャの注意を引いて、仲間たちを標的にさせないつもりだ。

「ボルテックス、無茶をするな!」

 ジョニーの制止は無視された。人に死ぬな、殺すなと命令しておきながら、自分が死に近い行動に出ている。

“龍王”が、輝くボルテックスを見て、高度を下げた。

 突然の低空飛行に、草原が悲鳴を上げ、生い茂る草木が全身を折り曲げていく。

 ボルテックスは途中できびすを返し、“龍王”に背中を見せて逃げ出した。

“龍王”が、口を開いた。獲物を前にした、蜥蜴とかげわにといった獰猛な爬虫類のようである。

 ボルテックスが、黄金の霊力に包まれた。

光輝の鎧(シャイニングアーマー)”の能力、“体力増強ストレングス”だ。光そのものになって、“龍王”の連続噛みつきを、間一髪で回避していった。

 草原にある小屋に、飛び込んだ。

 農家の家畜小屋である。

“龍王”が火を吹いた。息の長い、火炎放射である。炎には粘度があり、溶岩に近い。

 小屋が炎上し、中から火を纏ったボルテックスが、燃え上がった牛たちと一緒に飛び出てきた。

 炎に包まれた牛たちのうち、ある牛は、燃え上がったまま柵に体当たりをして、またある牛は、力尽きて倒れ、生きたまま焼肉ステーキになった。

 火を振り払うボルテックス目がけて、“龍王”は口から、火球が連続的に吐き出した。

 火球は地面に着弾すると、火柱となって、残り続ける。

「霊骸鎧というより、災害と呼ぶべきだな。剣とか槍とかでどうにかなる相手ではない」

 当代最強、いや、史上最強、と呼ばれた霊骸鎧である。

 火祭りにされたボルテックスは、逃げ惑うしかない。

「シズカ、早く撃て。このままでは、ボルテックスが焼け死んでしまうぞ……?」

 ジョニーは、シズカの様子を見た。

“自動二輪”が小高い丘の上に停車している。

 座席の上からシズカが、両脚を揃えて降りた。

 弓……サルンガを手に構え、シズカは目を閉じた。

 シズカから放出された水色の霊力が、サルンガに、霊力が集まってくる。

 サルンガの霊力は、陽光のように強い輝きを放った。

 輝きは、シズカの霊力とは別物である。

「シズカの霊力が、太陽の霊力に変換している……?」

 サルンガは、“サールーンの日輪弓ボウ・オブ・サン”の略称である。名前の由来が、ようやくジョニーに理解できてきた。

 矢をつがえ、弦を引くと、弓に集まっていた太陽の光が、矢を包みこんだ。

 シズカが、ジョニーに向き直った。

「リコよ。わらわは準備完了じゃ……! 後は撃つのみ。いつ撃つのか、そなたが妾に指示せよ」

 ジョニーは、ボルテックスを見た。

 ボルテックスは燃えたまま、地面に突っ伏して、倒れていた。

“龍王”が、地面に降り立つ。

 餌を見つけて喜ぶ小鳥のように、小さく跳ねて喜んでいる。

 ジョニーはシズカに、指示するために、剣を振り上げた。

 剣を振り下ろして、シズカに合図をしようとしたが、不思議な感覚に包み込まれた。

 命令を取りやめた。

 不思議な感覚の正体は、暖かく、優しい霊力である。

「ボルテックスは、もう戦えません」

 セレスティナの言葉が、ジョニーの脳裏に甦った、いや、直接声が聞こえた、という感じもする。

 ジョニーは、我に返った。一瞬だけ寝落ちしかけた状況に似ている。

「駄目だ、まだ撃つな。ボルテックスを巻き添えにしてしまう!」

と、シズカに慌てて指示をした。

 どうして、そんな指示を出したのか、よく分からない。自分でも不思議なくらいだ。

 ただ、セレスティナがいれば、同じ指示をしていた、とジョニーは思った。

「クルト、サイクリークス! “龍王”をできるだけ、ボルテックスから引き離せ!」

 サイクリークスが進み出る。

 片腕から発射した蔦を、“龍王”の尻尾に絡ませた。

「クルト、電磁鞭だ!」

 クルトがサイクリークスの手に自分の手を重ねて、自らの電撃を、蔦に走らせた。

 青白い電撃が、音を立てて放たれる。

 電撃に包まれる“龍王”から、眩しさと爆発的な音が放出されて、ジョニーは顔を背けた。

「ゲンロクサイ、ボルテックスを助けろ!」

 ジョニーの体内に、霊力が流れ込んでくる。流れ込んでくる霊力を感じると、勝手に言葉が口からできた。

 セレスティナだ。

 セレスティナは、気を失いながらも、遠方から支援をしてくれているのだ。

 ジョニーの指示に、ゲンロクサイは“自動二輪”を走らせた。

 ゲンロクサイが“自動二輪”から身を乗り出して、片手でボルテックスを引き上げ、“ニケツ”させる。

 ボルテックスの意識があり、ゲンロクサイの身体に太い腕を絡ませている。

「むむ、リコよ。そなた、したたかな采配じゃ! これほど的確な指示を出す指揮官であれば、セレスティナとボルテックスの人選に間違いはなかったのう!」

 シズカが褒めた。

 ジョニーは嬉しかった。セレスティナの補助があると分かっていても、少しだけ、指揮官としての面白さを理解できた気がする。

“龍王”を見る。

 クルトは、電撃を続けていた。霊力のすべてをつぎ込むつもりなのだ。

 長時間、“龍王”は、青白い火花に晒されていた。身動きもせず、ただ、じっと電撃を暗い続けている。

「やったか……?」

        2

 電撃が終わると同時に、クルトが倒れる。

 霊力を使い果たしたのだ。

 だが、“龍王”は、そよ風でも吹いたかのように、平然としている。

「なんだと……? “龍王”が、感電していないのか?」

 ほとんどの攻撃を無効化してくる、“竜爆神ジェットルーラー”ですら、電撃に苦しんでいた。大抵の霊骸鎧は、金属製なので、電撃は有効打になる。

 ジョニーの鼻に、透き通った手が撫でた。セレスティナの霊力だとジョニーはすぐに理解した。 

「サイクリークス、射撃をしながら、クルトを回収しろ。回収したら、少しずつ後退して、“龍王”と距離を取れ……!」

 ジョニーは作戦を変更した。

 シズカのサルンガに、望みを掛けるしかない。

 サイクリークスは、倒れ込むクルトを片腕で引きずり、もう片方の腕で、拳銃型の霊骸鎧“火散(ファイアーガンナー)”……セルトガイナーの霊骸鎧……を連射した。

 だが、鉛の弾丸が、小石のように、竜の鱗を模した装甲に跳ね返っていく中、“龍王”は、涼しげな態度をしている。

「サイクリークス、セルトガイナーをクルトに手渡して、蔦を木に巻き付けて逃げろ!」

 ジョニーの指示に、サイクリークスは素早く従った。

“龍王”の“火炎の息(ファイアーブレス)”が、サイクリークスたちのいる場所を一気に燃え上がらせた。

 だが、サイクリークスはクルトを抱え、宙に逃れた。

 遠くにある木に絡ませておいた蔦を、一気に縮めたのである。

 獲物を失って、“龍王”は辺りを見渡した。

 ジョニーと目が合った。ジョニーは、“龍王”が、口角を上げて、邪悪な笑みを浮かべているかのように見えた。

 一番仕留めたかった獲物を見つけたかのようだ。

“龍王”が、両方の鉤爪を振りあげる。

 ジョニーは、鉤爪の軌道を見上げた。

「速いっ」

 振り下ろす速度があったが、ジョニーはあえて微動だにしなかった。殺気がなかったからである。

 衝撃とともに、ジョニーの両隣が土ごとえぐれた。

 生身の状態で、一度でも受ければ絶命するほどの威力である。

「わざと外した。……いつでも殺せる、というつもりか」

 ジョニーは顔をしかめた。だが、恐怖はなかった。弄ばれて、舐められた怒りや屈辱が勝ったのである。

“龍王”は羽ばたき、空に向かって飛び上がった。

 ジョニーは、爆風に吹き飛ばされた。地面に“羽音崩し(ワームスレイヤー)”を突き刺し、突風をしのいだ。

「戦力に差がありすぎる! 生身の人間がどうにかなる範疇レベルを超えているぞ」

 災害を具現化したような“龍王”が鉤爪を光らせ、ジョニー目がけて急降下してきた。

「そうだ、俺を狙ってこい……!」

 ジョニーは突風から解放され、地面に両脚で立った。

 剣を振って、挑発でもしてやろうかと思ったが、そんな余裕はない。

 空に向かって、剣を突き立てる。

「シズカ、今だ! 撃てぇ!」

 剣を振り下ろした。

 シズカは、矢を放った。

 弦が、風を切り裂く音よりも速く、天と地を二分するほどの光が、ジョニーの頭上遥か上空に轟いた。

 直線的な光が、遠方の山を白昼のように照らし、岩や建物が爆散したかのような音が、空気を震わせた。

 光は、消滅した山の一部を、一瞬だけ照らして消えていった。

「地形を変えるほどの威力だと……?」

 サルンガの威力に、ジョニーは思わず叫んだ。

 シズカが、すべての霊力を解き放って、崩れるように倒れた。慌ててゲンロクサイが“自動二輪”とボルテックスを捨てて、シズカに駆け寄ってきた。

 シズカを抱き起こすと、シズカはゲンロクサイの腕を握った。

“龍王”がいたはずの場所に、白い煙が立っている。

「シズカは無事だ。……アイシャは、殺してしまったか?」

 白い煙から、落下物が飛び出してきた。生身のアイシャである。

 腕を組んで、足を組み、右手の親指を噛んでいる。いらついた表情だ。

 落ちてい割には、余裕の態度である。

 アイシャはもう一度印を組み、“龍王”となった。

 巨大な竜型の霊骸鎧“龍王”が上空に向かって、再浮上する。

「サルンガを食らって、変身が解けたのではない。アイシャは、自分で解いたのだ……! “龍王”自体が、巨大な的になる。それならば、飛び道具を喰らう前に、変身を解除すればよい。……充分な対策を、アイシャはしてきたのだな」

 ジョニーは、ゲンロクサイに向かって走った。

 ゲンロクサイは、気を失ったシズカとボルテックスを、抱え、一カ所に寝かせた。

 ジョニーは走りながら、考えた。 

「サルンガしか攻撃は通らない。だが、そのサルンガを“龍王”に避けられる。ならば、サルンガを当てる工夫をしなくてはならない」

 ゲンロクサイが、サルンガと矢筒が落としていた。

 矢筒には、矢が二本しか残っていない。

 ジョニーは弓矢を拾い上げると、二本ある矢のうち、一本が練習用の矢だと気づいた。

 練習用の矢は、鏃に柔らかい素材ができている。

「これだ……! “龍王”、いいや、アイシャの倒し方が、分かったぞ!」

        3

 空を見上げると、“龍王”が、円を描いて、優雅に羽ばたいている。ジョニーを見下し、煽っているのだ。

 ジョニーはゲンロクサイに近寄った。

 大弓サルンガに、矢をつがえる。

「ほぼ、一発勝負だな」

 ゲンロクサイは、シズカの頭を愛おしそうに、抱き寄せている。黒髪が露のような輝きを

見せていた。

「ゲンロクサイ、“自動二輪”を出せ。……“龍王”をおびき寄せる」

 ゲンロクサイが首を振った。シズカを見捨てられないのだ。

 ジョニーは、自分でも残酷な命令をしている、認識はある。

 だが、ジョニーには、仲間たちを生き延びさせる義務がある。

「大丈夫だ。奴の狙いは俺だけだ。“龍王”から、シズカをできるだけ、引き離せ。ここにいても、まとめて焼き殺されるだけだ。だったら、俺たちが囮になり、誘った場所で奴を倒してしまえば良かろう」

と、ジョニーはアイシャを倒す考えを示した。

 ゲンロクサイが手を叩いて、賛同した。“龍王”アイシャは主筋だが、アシノ国の王女シズカこそ、ゲンロクサイにとっての主なのである。アイシャよりもシズカの生命が優先されるのだ。

 ジョニーは、ゲンロクサイが乗る“自動二輪”にまたがった。噂の“ニケツ”である。

「ゲンロクサイ、音と光を出して良いぞ。なるべく目立て。目立って、“龍王”に注目させるのだ」

 ゲンロクサイに、背中越しに指示を出した。

 ひときわ派手な音と光を立て、“自動二輪”から爆音が鳴り響く。

 意外と速度が出る。

 重力がかかり、ジョニーは引き離されまいと、ゲンロクサイの背中にしがみついた。

 爆走中に、背後から“龍王”が迫ってくる。

“龍王”の羽ばたきは、突風に近く、近寄られただけで、“自動二輪”が浮き上がった。

 だが、ゲンロクサイは巧みな運転技術で、体勢の安定を図った。

 ジョニーは、ゲンロクサイに命を預けるしかない。

“龍王”が、“火炎の息”を放出した。

 ゲンロクサイは、得意の蛇行運転をした。背後にも視覚が及んでいるかのように、炎を確実に回避していった。

 ジョニーは、炎にあぶられられず、多少の熱気を肩で感じる程度で済んだ。

“龍王”は高度をあげ、姿をくらました。

「どこに行った……?」

 ジョニーは辺りをうかがった。

 だが、月夜は消え、辺りは暗く前が見えない。

“自動二輪”が前方を照らす灯火のおかげで、どうにか障害物に倒されずにすんでいる。

「“龍王”め……、闇に紛れる能力を持っているな……!」

 ジョニーは目を閉じて、たが、“星幽界アストラルワールド”を呼び起こす。

“龍王”の位置を探る。すぐに、“龍王”の視線に切り替わった。下を見ると、ジョニーとゲンロクサイの姿が見える。

“龍王”には暗視能力があり、ジョニーたちの遥か頭上で、二人を追いかけているのであった。

「ゲンロクサイ、あの小高い丘の上に止めてくれ」

 ゲンロクサイは“自動二輪”を止め、ジョニーは座席から降りた。

 サルンガに霊力を込めるため、弓を引いた。

 意識を集中する。ジョニーの霊力が一度、身体の外に放出され、光り輝く太陽の霊力となって、弓に集まってくる。

 気を散らすと、変換した霊力が、すぐに元通りになる。

 引っ張っているうちは伸びるが、手を離すと、巻き戻っていく紐のようだ。

(“龍王”はどこにいる?)

 ジョニーは目を閉じ、“星幽界アストラルワールド”を展開した。

 巨大な黒い影、“龍王”は、ジョニーたちを周回している。

 徐々に距離を縮めてくる。

 ジョニーは突風を感じ、目を開いた。

 羽ばたく音と突風を残して、“龍王”は黒い闇に紛れている。

「ゲンロクサイ、光を強めろ」

“自動二輪”の放つ蛍光色の光に煽られ、ときどき姿の一部を表す。

 位置関係が分かってきた。

 だが、ジョニーはサルンガから霊力を感じなくなった。

“龍王”に気を捕らえられすぎて、太陽の霊力が霧散していたのだ。

 意外と操作が難しい。

(シズカは、かなり練習してきたな)

 一発勝負のジョニーにとって、このままでは、サルンガはただの大弓に成り下がってしまう。

 一度へその奥側に溜めた霊力を全身から放出する。

(“星幽界”に入るときや、霊骸鎧に変身するときと同じだ)

 だんだんとコツを掴めてきた。

“龍王”がジョニーたちを取り囲む円を狭めてきた。

 自分にはサルンガが効かない、飛び道具が効かない、と自負しているのである。

 ゲンロクサイが霊骸鎧からでも分かるくらい恐怖で、震えている。

「ゲンロクサイ、問題ない。このまま逃げると、逃げた先で、“龍王”は、狙い撃ちをしてくるだろう。だから、俺が許可するまで、飛び出すな」

 ジョニーは、ゲンロクサイを安心させ、サルンガに霊力を再び込め始める。

 ジョニーの頬が、誰かに触れられた。

(よくできました。一緒に“龍王”をやっつけよう。サルンガの管理は、こっちでするから、いつ撃つか、どこを狙うかは、君に任せます)

 セレスティナの声が聞こえた。声は同じなのに、口調は、普段と違いすぎる。

 だが、ジョニーは嬉しかった。涙で視界がぼやけた。遠くにいても、セレスティナが守ってくれる。

(本来なら、セレスティナを守るべきなのに、俺が助けてもらってどうする?)

 そっとセレスティナの手が、ジョニーの手に触れる。

 一瞬にして、太陽の霊力がサルンガに集まった。

 サルンガが熱くなる。

 持ちきれないくらい熱くなり、ジョニーは矢を放った。

 霊力が急速に奪われていく。発射するときにも霊力を消耗するとは思わなかった。

 光が轟いた。

 シズカよりも弾道が太く、力強い。セレスティナの補助があったので、ジョニーは素直に喜べなかった。

 ジョニーは目眩を起こしたが、踏ん張った。

 空中でアイシャが、人間の姿に戻っていた。

 アイシャはジョニーを見て、高笑いをしている。

「甘いぞ、シグレナスの黒い“貝殻頭シェルヘッド”同志。この“龍王ドラゴン”に、飛び道具は効かないのだ!」

 笑い声には、勝利を確信した、邪悪な響きがあった。

(次は、何をするか知っているよね?)

 セレスティナの優しい声が聞こえる。

「もちろんだ!」

 ジョニーは矢を継いで叫んだ。

「俺は待っていたぞ、アイシャ! この瞬間を、貴様が生身の本体を出すときを!」

 最後の一本……練習用の矢を放った。

 霊力を込めなくても良い、威力は無くて良い。

 ただ、当たりさえすれば良いのだ……!

 練習用の矢は、印を組もうとするアイシャの左肩に当たった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ