王族
1
「ターキエ、殺せ! そいつ諸共殺してしまえ!」
アイシャが叫ぶ。
だが、ゲインは、怯まなかった。腕を組み、セレスティナの前で胡座を掻いた。
「殺したければ、殺してみろっ!」
反らして背中から突き破って出てきたような怒鳴り声が、闘技場に響き渡った。
ゲインの迫力に圧され、アイシャは黙った。
「ヴェルザンディの王女、アイシャ殿下に申し上げる。殿下は、我が娘バニラに、父殺しの罪を着させるおつもりか?」
「なんだと? ゲインとターキエは、親子だったのか?」
ジョニーは衝撃の事実に転びそうになった。
「俺は、サイバリア公国ジョティス・サイバリアの遺児、グリフィス・サイバリア! 今では、グリフ・ゲインと名乗っているが、すべては父親の汚名のためだ。……アイシャ王女殿下、我が父親の汚名を、ご存じだろう? シグレナスのみならず、ヴェルザンディ、いいや、世界の至る場所にまで知られているからな!」
野蛮人ゲインが腰巻きから短刀を取り出し、おもむろに自分の顎髭を剃り始めた。
「……サイバリア。存じておるぞ。シグレナス皇帝から怒りを買い、家を取り潰しにされたシグレナスの王侯だったな。皇帝の女を他の国王と取り合った、だとか。君は、そこの王子だったのかね?」
アイシャが、意外そうな表情をした。ジョニーにとっても意外であった。
皇帝の女。
ジョニーはセレスティナを見た。
帝の御前で、二人の国王がセレスティナを奪い合った。国が滅んだとか、セレスティナが“国滅の美女”と呼ばれているだとか、そんな話を聞いた記憶がある。
「いかにも。帝の逆鱗に触れ、我が家は取り潰し、一家は離散となった。本来であれば死罪を免れないところ、帝の御温情があって恥ずかしながらも命を長らえさせていただいている。娘は、ヴェルザンディにある、妻の実家に預けてあったのだ」
ゲインは、髭を剃り終えた。
やぶにらみの両目が、本来の位置に戻り、精悍な顔つきになった。猫背の姿勢はなくなり、まっすぐに背筋が伸びている。
ゲインは、いつもの野蛮人とは違う、別人であった。
威厳が溢れる、王族の人間であった。
「情報量が多すぎる。あのゲインが王族で、しかも、ゲインの父親が、セレスティナ事件の当事者だったとは……!」
頭を抱えるジョニーは、サイクリークスに声をかけた。
「知らなかったんですか? 結構、有名ですよ? リコさんも知っている、と思っていました」
と、サイクリークスが、呆れた声を出した。
周りを見渡した。
だが、仲間たちは、誰も驚いていない。
「なんだ、みんな知っていたのか……」
ヴェルザンディ側にも驚いている者もいるが、どちらかといえば、自分たちの仲間であるターキエが、敵国の王女だった事実に驚いているのだろう、とジョニーは分析をした。
ゲインは短刀を放り捨て、話を続けた。
「だが、俺の経歴や経緯など、どうでも良い。今、俺は、俺の娘に殺されようとしている。……ヴェルザンディのアイシャ王女殿下、貴方様の命令によって、だ。ヴェルザンディに娘を預かっていただいた恩義はあるものの、親殺しなる大罪を命令をするとは、看過できません。それとも、久しぶりに再会した親子に、殺し合いをさせるおつもりですか? いいや、そもそも試合をしていたのに、どうして無法な殺し合いをするのでしょうか? 僭越ながら申し上げますが、アイシャ王女の命令は、どれも道理に反する行いです。それでも、セレスティナ皇帝代行を殺したければ、どうぞ私を殺しなさい。不名誉な男が、不名誉な死に方をするとは、さぞ、後世の笑いぐさになるでしょうな! さあ、沖が住むのなら、早く我が娘に、父殺しの罪を着せなさい!」
ゲインが語気を荒げて叫んだ。
王族として、父親として、いや、一人の男としての叫びであった。
全てを語り尽くすと、目をつぶり、死を覚悟した様子を見せた。震える両肩が、死に対する恐怖ではないと、ジョニーには分かった。
“刃の鎧”ターキエは、変身を解いた。
ゲインの隣に、力なく、座った。
ターキエは涙を浮かべていた。生き別れた父に巡り会えたのだ。その父が命を賭して守るべき者を守ろうとしている。理不尽な命令によって殺されようとされている命である。
アイシャは、唾を呑み、口元を戦慄かせていた。ゲインの気迫に呑まれているのか、罪悪感に苛まされているのか、ジョニーには分からない。
「もうよい、退け。ただの戯れだ。忘れろ」
アイシャは、手を振って、部下たちを撤退させた。
ただ一人、ターキエだけが、ゲインのそばに留まった。二人は手を取り合っている。
「あの護衛ならば、近寄っただけで八つ裂きにされるな」
と、ジョニーは、頼もしく感じた。
セレスティナが、ターキエの肩に優しく触れた。
ターキエからは涙が消えた。
次に、セレスティナはゲインの髪を愛おしく撫でた。ゲインは静かに泣き出した。これまで耐えてきた時間で溜め込んだ涙を流すかのように。
2
「では、次の戦いを始めよう」
アイシャは、咳払いをして、仕切り直した。
頭部を失った“動く石像”や障害物は床に吸い込まれ、代わりに、船が浮き上がる。
「どうして地下に船が?」
味方たちがざわついた。
闘技場の中央から、巨大な柱がせり上がった。
柱の上部が開口して、四方に水を放出し始めた。
放水は滝のように勢いを増し、ジョニーたちの足下を濡らし始めた。
「諸君らには、海上の模擬戦をやってもらう。今、海水を放水している。どうやってこんな山奥まで海水を引いてきたのかは知らんが、せいぜい船から落ちないようにしたまえ! 闘技場が満水して、戦いの準備ができ次第、開戦といこう」
アイシャは腕を組んで、冷たく笑った。
「……海水だ! 船に乗れ!」
霊骸鎧にとって、塩水は天敵である。霊骸鎧は塩水に触れると、変身が解けるからだ。
ボルテックスの掛け声とともに、ジョニーたちは次々と船に乗った。
アイシャが声を張り上げる。
「出でよ、トルトオク・ゼルエム、ターメン・ロイテ、トーマ・アドバッシュ、そして、クリムゾン・チェイサー! ……我らヴェルザンディの力を、見せつけてやれ!」
アイシャの両脇から、四体の影が飛び出し、闘技場に侵入した。
近くの船に着地する。
四人が同時に変身した。
だが、影のうち一体だけが留まらず、もう一度、飛んだ。
高速で宙を突き進み、ジョニーの横に着地した。
煙を出して、変身を解いた。
ジョニーたちが身構えると、煙から出てきた若者は、慌てふためいた。
「待て待て、まだ試合が始まってねえだか。挨拶に来ただから、喧嘩しに来たわけじゃね。我は、トーマ・アドバッシュっちゅうだか。よろしくなっ? なっ?」
生身のトーマ・アドバッシュが、焦った顔つきで挨拶をした。
新しい友人の輪に入るような態度だ。
「あ、おっめえが、帝国の黒い“貝殻頭”だか。なかなか面構えの強いやっちゃだな。……すっげえだかな、おめ」
アドバッシュが両目を輝かせて、ジョニーの顔を眺め回した。
まるで珍獣を見つけたかのような、いや、新しい友だちを見つけたかのような、子どものようだ。
喧嘩をふっかけてくる不良や、明らかに敵意を向けてくるアイシャとは、まったく違う。ジョニーにとってしてみれば、初めて出会う存在であった。
「我は、おめと試合をするの、楽しみにしてただか。まさかデビアスにも勝つとは、思わんかったぞ。すげえぞ、おめ。あの、ほれ、岩石お化けが、ガッシーンガッシーン動いて、連邦のモビルスーツかと思っただかぁ。……おぅおぅ、握手させてくんれ。なあ、遠慮するなっぺ。ほらほらほら」
アドバッシュが一方的に話しかけてきて、一方的に握手を迫ってきた。
ジョニーは、素直に受け入れ、握手を握り返す。
周囲も驚いているが、警戒心のない自分に対して、ジョニーは、意外に思った。
アドバッシュからは、何も邪気が感じられない。
まるで暖かい風が、ジョニーの頬に触れ、全身の強ばりを緩ませた。
「うっはあ、握手してもらっただか。いっつかおめ、有名人になるぞぅ。それも、すっげーすっげー奴になってそうだ。今のうちにサインをもらってもいいだか?」
アドバッシュが船の上で飛び跳ね、犬のように喜んでいる。
ジョニーは、吹き出した。我慢できずに、口元を隠して笑った。
ここまで好意を見せてくる相手は、初めてである。まるで、昔からの友人に再会したかのようだ。
「俺と握手をして喜ぶ奴は初めて見た。俺は、貴様らヴェルザンディにとっては、憎き邪魔者だろうに」
「邪魔者ぉ? そんなん、おめ、おめが最高に強くてかっけえから、誰も邪魔者だとは思わんっぺ」
アドバッシュが、ジョニーの肩を叩いた。そのまま、自分の顔に引き寄せる。太い腕からは、血管が浮き出ている。
「うちのアーちゃんが、イキリ倒して、おめらが不快なんかは分かるだか。でも、アーちゃんはアーちゃんで、お姫様としての立場でやってるだから、しかたないっぺ。割と心が弱くて、傷つきやすいだかよ」
「アーちゃん? 傷ついている?」
「おおっと、そろそろ満水だかっ。またな、帝国の黒い“貝殻頭”! せっかくの試合だっぺさ、楽しい時間にすっだかよ!」
ジョニーの疑問を無視して、アドバッシュは、霊骸鎧“竜爆神”に変身した。背中に、円筒を二本、背負っている霊骸鎧であった。
金属製の翼を生やし、ジェット噴射をして、飛んでいった。
「あいつが、“竜爆神”トーマ・アドバッシュか。厄介な奴が紛れ込んでいるな、リコ?」
いつの間にか、ボルテックスが隣に立っていた。
「知っているのか? ボルテックス?」
「アドバッシュは、インドラ……ヴェルザンディ王家の傍系だ。アイシャとは、血のつながっていない従兄弟か又従兄弟に当たる。あれでも王族なんだぞ」
「蛇女と親戚とは思えないほど、良い奴だ。まかり間違えて、アイシャではなくアドバッシュがヴェルザンディの大将だったら、俺たちは今頃、全滅だった。……アドバッシュといい、ゲインといい、やたらと王族が多く出る日だな、今日は」
「そりゃそうだ。霊骸鎧に変身できる奴らは、みな祖先が、“魔王”討伐のとき、シグレナスに味方して、王侯貴族に取り立てられたからな」
「クルトやフリーダが貴族の末裔とは、思えないな。だが、ボルテックス、その理屈だと、お前も王族になるぞ……?」
ジョニーはボルテックスを見た。
覆面越しに見える、ボルテックスの両目に動揺が走っていた。
「奴は、アドバッシュは、“十二神将”の一人で、二刀流だ。二種類の霊骸鎧を操る。空を飛ぶ霊骸鎧と、海水に潜る霊骸鎧だ」
ボルテックスは、話題を変えた。声がうわずっている。ジョニーにとっては冗談のつもりだったが、ボルテックスには気まずい話題なのだ、とジョニーは感じた。
「霊骸鎧は一人につき一体だと思っていたが、そうではないのだな。空を飛び、海を潜る。どこにでも移動ができて、強いな。どちらも、この海戦には向いているな。……他の奴らについても教えろ。ゼルエム……あのモヒカン野郎は知っているから、あと二人だ」
「あの、顔が四角い霊骸鎧を見ろ。奴が、“爆合装甲”ターメン・ロイテだ」
ロイテの“爆合装甲”は、顔の部分が盾になっていて、隙間から覗き穴が見える、霊骸鎧だ。、胴体の部分も盾、膝当ても盾、であった。どこからともなく、巨大な弓を取り出した。手首の力で回転させながら、ジョニーたちに向けて弓を引いた。
「“爆合装甲”を剣で攻撃するなよ? 全身が爆弾に覆われて、攻撃を食らうと爆発するからな。遠くから飛び道具で霊力を削るしかない。だが、奴自身は、槍と弓の名手だ。近寄ると槍を振り回してくるが、遠くにいても、弓矢で攻撃してくるぞ」
「壁役兼、射手か。クルトとサイクリークスの良いところを併せ持った、ゼルエムに似たタイプだな。アドバッシュが水上を高速移動して、ゼルエムと、ロイテが援護をしてくる……バランスの取れた、層の厚い編成だな。一人くらい俺たちの仲間にいてくれればいいのに。……最後の一人は誰だ?」
「さあな……? クリムゾン・チェイサー? 初めて聞く名前だ」
ボルテックスは首を捻った。
若い男。
ヴェルザンディ十二番目の男、クリムゾン・チェイサー。
ジョニーと同じくらいの年齢で、髪を短く切っている。一般兵の中に紛れていてもおかしくない、どちらかというと、地味で、無口で、特徴の無い男である。
ジョニーと目が合った。
人間ではない、無機質で苦い感覚が、ジョニーの喉元を通ってきた。
(デビアスやアドバッシュよりも強い……! 戦い方次第では、アイシャよりも強い)
ジョニーには、チェイサーから滲み出る強者の雰囲気を感じ取った。
「強い……。デビアスよりも強いかもしれん」
ジョニーの意見に、ボルテックスは気にも留めていない。
「サイクリークス。サルンガは、いつ直る?」
「もう少し時間をください」
サイクリークスが、弦を張り直している。揺れる船上では、作業が遅れている。
ジョニーは周りを見た。無人の船が、三隻ほど、闘技場の壁際に停泊している。
「まだかね……?」
苛ついた口調で、アイシャが号令をしたがっている。
「アイシャ同志。もう少し待っていただけますか?」
ボルテックスがアイシャに懇願する。サルンガを修復する、時間を稼ぐためだ。
「いや、もう待てない、今から始めろ! ……戦え!」
アイシャの号令とともに、ヴェルザンディの船が、動き出した。
3
ヴェルザンディの船上で、“竜爆神”アドバッシュが、巨大な両手持ちの剣“竜牙刀”を高く掲げた。剣の周囲を覆っている、鞘が翼を広げたように広がると、刀身を露わにした。
チェイサーが、白い霊骸鎧“蛹子”に変身をしていた。
“蛹子”は、全身には不釣り合いなくらい、細くて小さい両手両脚をしている。 身を縮こまらせて、その場で倒れ込んだ。
どこからともなく白い糸を放出し、自分自身を白い糸で巻き始めた。
「何を始める気だ?」
ジョニーは不審に思った。
“蛹子”が白い繭にくるまった。白い繭から、白い触手が四方に伸び、船に絡みつく。ヴェルザンディの船が動き出した。
「伝え忘れていたが、その船は、霊力で動く。船は壊れるたびに、新しい船が用意されるから、壊れても遠慮無く使ってくれたまえ!」
アイシャが補足説明をした。
「奴は“原動機(モーター役)”なのか? たしかに霊力はありそうだが、奴の特殊能力が予測できない……」
船の後ろには、黒い石盤があった。
シズカが手に触れると、石盤が光る。船が揺れだした。
「俺たちの中で、一番霊力が高いシズカちゃんなら、巨大な原動機になれるだろう」
と、ボルテックスが言葉を残して、身した。仲間たちが追随して、変身をする。ジョニーは最後に変身したが、シズカとクルトは変身しなかった。クルトは、体調的に変身できないが、シズカはあえてしなかった。
船には一応、櫂があるが、霊力で動く以上、手動は必要ない。
ジョニーたちの船が動き出した。
爆音とともに、“竜爆神”が飛び込んでくる。衝突を避け、シズカは船を減速させた。
「飛行型の霊骸鎧は、飛び道具が弱点……!」
ジョニーは銃型の霊骸鎧“火散”に変身したセルトガイナーを構えて、発砲した。
連発式の銃である。ジョニーは一度に何度も引き金を引いた。
銃弾が夜空に散りばめられた星座のように、“竜爆神”に向かって襲いかかる。
だが、“竜爆神”が弾道を、くぐりぬけた。高速移動をしながらも、弾丸を一つずつ見切っているのだ。
(……こいつ、飛び道具に慣れてやがる! 対策をしているな!)
“竜爆神”が、“竜牙刀”を下に構えた。
ぎりぎりまで低空飛行をして、ジョニーたちの間を通り過ぎる。爆音と火花の後には、甲板に亀裂が残った。
「俺たちの船を破壊する気だな……!」
ボルテックスが、“竜爆神”を掴まえようと、船の端まで追いかけていったが、まったく間に合っていない。悔しげに、空高く旋回する“竜爆神”を眺めている。
“光輝の鎧”ボルテックスの肩に、鈍い音がした。
ボルテックスは、足を滑らせ、鈍い水音とともに、水中に呑み込まれていった。
黄色の煙と泡を上げ、霊骸鎧が消滅していく。船が進みすぎて、船から置いてけぼりにされた、ボルテックスが浮き上がった。
困惑するボルテックスに黒い触手が、伸びてくる。
掴まったボルテックスは、アイシャの背後の十字架に張り付けられた。
「馬鹿な、この俺が……! くっそ~、やられた」
縛られながらも、悔しがっている。ジョニーは内心、ボルテックスが死なずにすんで、安堵した。
両腕は、逆噴射で、持ち主である“砲拳”トルトオク・ゼルエムに戻っていった。
「でかした、ゼルエム。この調子で一人ずつ叩き落としていけ……!」
アイシャが手を叩いて喜んだ。
この戦いでは、相手を船から落とせば単純に倒せる。
“爆合装甲”の矢が飛んできた。ジョニーは“羽音崩し”で矢を切り払い、その姿勢のまま、セルトガイナー……“火散”を撃ち返した。
「そんな馬鹿な? 防御行動の次に攻撃を取るとは? 奴は剣と銃を同時に扱えるのか?」
アイシャが驚く。
だが、全弾は、“爆合装甲”の周りで爆発して、“爆合装甲”そのものには、傷を一つも付けなかった。
「無駄だよ。そいつには銃弾も武器も効かん」
アイシャが笑った。
「“悪鬼大王”といい、“竜爆神”といい、銃弾が効かない奴が増えてきたな」
“爆合装甲”が、構えた弓から、矢を放った。
矢は放物線を描いて、生身のシズカを狙った。
“四ツ目”モルアート・ダルテが、シズカをかばった。
ダルテは膝に矢を受けて、膝を突く。
「馬鹿な、普通の弓矢だぞ? サルンガでもないのに、どうして、そんな距離で威力が出るんだ?」
磔になっているボルテックスが、叫んだ。
霊骸鎧には、一般の兵士が扱う通常兵器が通用しない。霊骸鎧そのものが霊力で守られているからだ。
霊骸鎧同士の戦いでは、“羽音崩し”といった霊力で加工されている武器でもない限り、通常兵器に霊力をまとわせて攻撃する。
飛び道具は、飛距離とともに、霊力が減衰して、威力が落ちてくる。
セルトガイナー自身が霊骸鎧である“火散”は、弾丸そのものが霊骸鎧扱いなので、距離による減衰はされない。
ダルテの膝に突き刺さった矢から、霊力が漂っている。
「ただの弓矢でこれほどの霊力が残っているとは、霊力の扱い方が上手いのだな……」
ジョニーは、“爆合装甲”が、戦闘経験の豊富さを感じ取った。
「今だ、ゼルエム! もう一匹をやれ!」
膝を突くダルテに、“砲拳”の両腕が襲いかかってきた。