誤解
1
ジョニーの操る“動く石像”が、走った。“柔らか石像”とは、操作方法が違う。
ジョニーの思考と連結している。
頭の片隅に、“動く石像”の姿が見える。“動く石像”が歩いている様子と想像すると、“動く石像”も歩き出すのである。
自分の間合いに入ると、“悪鬼大王”の頬を殴る。ジョニーは、自分と思想信条が同じの“動く石像”を、愛おしく思った。
不意打ちに近い先制攻撃に、“悪鬼大王”は膝を屈した。
「……悪鬼死すべし!」
ジョニー/“動く石像”は、“悪鬼大王”の顔面に、飛び膝蹴りを喰らわせようとした。
だが、“悪鬼大王”は、歴戦の勇者である。冷静さをすぐに取り戻し、膝蹴りを躱し、ジョニー/“動く石像”と組み合った。
力比べが始まった。
ジョニー/“動く石像”が押されている。後退する足裏には、火花が散っている。
「“悪鬼大王”は、“動く石像”よりも出力が強いのか? なんという奴だ」
組み合った“悪鬼大王”の腹部に、膝蹴りをめり込ませた。
“悪鬼大王”の全身が動揺している。飛び道具は効かないくせに、直接攻撃には弱い。
(飛び道具に対してのみ、強い耐性を持っているのか?)
組み付いては不利とばかり、“悪鬼大王”は、ジョニー/“動く石像”を突き飛ばし、大ぶりな横殴りをしてきた。
“悪鬼大王”は、攻撃の対象を変えた。
ジョニー自身である。
ジョニー自身が、“動く石像”の頭部から、剥き出しで、ジョニー/“動く石像”にとっての弱点なのである。
「逆手にとらせてもらうぞ」
ジョニー/“動く石像”は低く屈んで、床を蹴った。
ジョニー自身も、“悪鬼大王”の拳を、紙一重でかいくぐった。ジョニー/“動く石像”は右肩で、“悪鬼大王”に体当たりを喰らわせる。“悪鬼大王”の浮き上がった片脚を抱えて、体勢を奪う。
地面に叩きつけると、轟音と砂煙を上がった。
「……霊骸鎧の性能に頼り切りで、自分と同じ体格の奴と喧嘩した経験はないようだな!」
ジョニー/“動く石像”は、“悪鬼大王”に跨がった。“動く石像”の体重と下半身の力だけで、起き上がりを阻止する。
ジョニー/“動く石像”は左右の拳を、“悪鬼大王”の顔面に、鉄槌のように振り下ろし、叩きつけた。
“悪鬼大王”が、にらみ返してくる。だが、お構いなしに、打楽器のように顔面に集中攻撃をし続けた。
“悪鬼大王”の頭部が変化していく。
このまま倒せる可能性もあるが、ジョニーは、背後から危機を察知した。
「すべてを捨てなければ、俺が死ぬ……!」
ジョニーは、“動く石像”の頭を蹴って、空高く飛んだ。
乗り捨てたのである。
飛んだ後に、皿が割れた音を鈍くしたような音が聞こえる。鎖付きの分銅が“動く石像”の頭部を消し飛ばしていたのだ。
(“悪鬼大王”め、俺が殴っている間に、鎖付き分銅をたぐり寄せていたのだな。クルトのときといい、鎖付き分銅の扱い方が、技巧派だな)
空中から、頭部を失った“動く石像”を見下ろした。
ジョニーは“雷帝の籠手”を突き刺したままにしておいた。 青白い電流が、首の付け根から、脊髄部分に通っていた。“雷帝の籠手”は行方不明だが、まだ霊力が、“動く石像”に残っている。
首から上を失った“動く石像”は、“悪鬼大王”に組み付いた。頭部を失っても、電力……霊力さえあれば、稼働するのだ。
突然の事態に、“悪鬼大王”が慌てて振り払おうとするが、“動く石像”が絡みついて離れない。
“悪鬼大王”の背後で、プリムが静かに飛んでいる。
相手の死角を突く巧みな飛行法で、“悪鬼大王”に気づかれていない。
「頼もしい! 今、行くぞ、プリム!」
“空中二段跳び”で宙を蹴り、“悪鬼大王”の頭上を越える。
“悪鬼大王”は“動く石像”を自分から引き剥がしているが、難航している。
「デビアス! 上だ! 奴は、貝殻頭は、上だ! まだ死んでいないぞ?」
と、アイシャが怒鳴る。
“悪鬼大王”が辺りを見渡したが、完全にジョニーを見失っている。
ジョニーが飛んだ先には、プリムが両手を重ね合わせて、待ち構えていた。
「自分を蹴って、反動で“悪鬼大王”に飛びかかれ……という意味だな? 貴様は天才かもしれんぞ?」
ジョニーは、プリムの戦術眼を賞賛した。
いちいちプリムに掴まって、攻撃の準備をしていては、時間と手間が掛かる。“悪鬼大王”に気づかれていない今こそ、最大の好機である。
ジョニーは、プリムの重なる両手を蹴った。プリムの“螺旋機動”は蹴られた瞬間、揺れたが、すぐに元に戻った。
跳ね返ったジョニーは、“悪鬼大王”の項に、飛ぶ。
暖かくて甘い光に包まれた。
セレスティナの視線を感じた。横目で、観客席を見ると、目を閉じたセレスティナが指と指を絡ませて、祈っている。
セレスティナの祈りが、神々しい光が放出され、ジョニーを満たしてくれている。
(セレスティナが俺に霊力を送ってくれている……!)
ジョニーは自分の両目に涙が溢れていると気づいた。霊骸鎧だから、外部に漏れる恐れはない。
戦っているというのに、胸が高鳴る。
神聖な気分になった。そして何よりも、元気になった。
身体の捻りから来る、得意の空中回転斬り……“落花流水剣”を“悪鬼大王”の項に斬りつけた。
いつもであれば、一回転だけの、浴びせ斬りである。だが、今回は駒のように加速がついて、もう一回転、斬りつけた。
二回攻撃できる“羽音崩し”のおかげか、セレスティナに祈ってもらえた効果か、いつもより多めに回っている。
“悪鬼大王”の装甲に深い亀裂を与え、ジョニーは、手応えを感じた。着地した瞬間、“悪鬼大王”が緑色の煙に上げて、巨体を失っていった。
“悪鬼大王”は、生身のベラヒアム・デビアスに戻った。
デビアスは自分の項に手で触れ、苦痛に満ちた表情を浮かべている。流血はしてはいない。 ジョニーはデビアスの胸元に“羽音崩し”を突き出して、デビアスを降伏させた。
黒い煙が、地面から湧いてきた。デビアスにまとわりつく。
「なんだ、これは?」
ジョニーは煙を脚で払った。
黒い煙は、触手のようにデビアスの全身を絡め取り、縄のように縛り上げた。
「やめろっ。“悪鬼大王”を離せっ」
ジョニーが剣で煙を斬りつけたが、すり抜けるばかりだ。デビアスを縛り付ける実体があるのに、剣が効かないのである。
デビアスの巨体を、上空に引き上げた。
悲鳴を許さないほどの速度で引っ張られる。
誰もいない、来賓向けの観覧席まで連れて行かれた。
アイシャがいる観覧席と同じ構造をしている。アイシャの観覧席とは反対側にあった。
観覧席の周りには、十字架が並んでいる。
十字架の一つに、デビアスが架けられた。黒い煙が、縄に変化して、デビアスを拘束する。「デビアス! お前は負けを認めたな? 降参した者が、十字架に架けられる規則を忘れたであるまいな? ……父上に申し上げねばならないぞ。憶えとけ」
アイシャが、叱責する。
ヴェルザンディ同士の内輪もめに、ジョニーは気を留めなかった。
「クルト、クルトは無事か……?」
変身を解いたジョニーは、すぐにクルトに駆け寄った。
自分の命を二度も救ってくれた恩人である。
ダルテがクルトを起こし、フィクスが木の実を食べさせていた。“癒やしの木”から採れた木の実だ。
「最後の一個だ」
クルトの顔から、苦悶の顔が解けた。
両腕を失ったクルトはもう、戦えない。いや、たとえシグレナスの生活に戻っても、以前の生活には戻れない。マミラとの生活を想像すると、気の毒に思えてきた。
フィクスとシズカが、クルトの腕に包帯を巻いている。
「すまん……。二度も救ってもらえて……」
ジョニーは、頭を下げた。クルトは、熱っぽい表情で、目を閉じている。上手く伝えられただろうか? 喧嘩に明け暮れ、仕事もせず生きてきたジョニーにとって、感謝など、初めての経験であった。
ましてや喧嘩ばかりをしていた相手に感謝など、それこそ夢に見た記憶もない。
クルトの他に、気になる相手がいる。
「セレスティナ……」
ジョニーは、観客席に近寄った。セレスティナは観客席と闘技場を分け隔てている柵の前に立っていた。
鉄の柵は、ジョニー数倍もの背丈がある。闘技場に飛び込んだとき、怒りで視界に入ってこなかったが、鉄柵の先端には槍先のような返しが付いていた。
ジョニーの姿を見ると、セレスティナの表情は、一瞬にして、晴れやかになった。笑顔から、穏やかな霊力を放っている。
ジョニーは、胸の奥から霊力が強く反応していると感じた。霊力が優しく燃えて、ジョニーの全身が癒やされていく。
セレスティナが、鉄の柵を手で触れている。
ジョニーは、セレスティナの手に重ねたくなった。鉄柵に手を伸ばすと、青白い格子が宙に現れた。
電流に似た感触で、手を弾かれる。
「中からは外に出られない仕様だったな……」
ジョニーは自分の手を見て、呟いた。
セレスティナが、柵の隙間から、か細い腕を伸ばしてきた。白い手に、ジョニーは手を合わせた。
柔らかい。
ジョニーの背中が、爆発したかのように脈打った。
セレスティナの手から、ジョニーの背中に向かって、莫大な霊力が流れ込んできたのである。暖かい、煌めいた細かい粒子の光が、ジョニーを酔わせた。
ジョニーは、あまりの喜びに、声を漏らしそうになったが、耐えた。
太陽の陽が差し込んできた。セレスティナの笑顔を照らした。
火口内部に建てられた闘技場は、まるでセレスティナのために建てられた、舞台装置のようであった。
2
「う……わ」
プリムが叫んだ。ジョニーとセレスティナは、同時に手を引っ込めた。
外から内側には戻れない。セレスティナが手を引っ込めたら、腕が切断されないか心配になったが、セレスティナは無事だった。
「こ、こいつら……!」
プリムは息を切らして、ジョニーたちを指さした。
「こいつら、こうびしたんだ!」
プリムが泣き叫んだ。
「……交尾? 交尾とは、なんだ?」
ジョニーは、首を捻った。意味が分からない。 ボルテックスが、大笑いをした。
「やめなさい。証拠もないのに、そんなこと口走るんじゃありません」
と、プリムの頭に手を乗せる。
「だって、だって、リコがきていたマントを、あいつが……セレスティナが、きてるんだぞ……」
喉を詰まらせている。
「違う。セレスティナは寒がっていたから、俺が貸しただけだ。やましい行為は一切していない」
ジョニーが慌てて弁解した。交尾の意味がよく分からないが、自分に不利な言葉だとは分かった。
「だまされるな。ならば、どうして、おまえらは、べつのふくにきがえている?」
プリムが、ジョニーとセレスティナの服を交互に指さした。
「どういう意味だ?」
ジョニーはセレスティナを見た。セレスティナは下を向いて、誰にも視線を合わせない。 耳が真っ赤になって、汗をかき、震えている。
ボルテックスを見る。
ボルテックスは腕を組んだまま、黙っている。覆面からでは表情がよく分からない。
ありのままを伝えるしかない。
「セレスティナの服が、事故で燃えたのだ。俺の服を貸してやった」
ジョニーはプリムに弁解をした。どうして弁解を求められているのか、よく分からない。
「じこってなんだ? ふくだけもえる、そんなのあるか? セレスティナは、どうしてマントをきたままなんだ?」
矢継ぎ早に聞かれてくる質問のうち、ジョニーは最後の質問にのみ応えた。
「セレスティナが、俺の服を汚したから……」
マント云々の話は、セレスティナの都合である。
「ほらな! くるしまぎれのうそだとおもったら、はくじょうしやがった! うわあああ」
プリムが、またもや泣き出した。
ジョニーは困った。
プリムは何について泣いているのか、自分に至らぬ点があるのか、あったとして、どうすれば許してもらえるのか、さっぱり分からない。
「ボルテックス、プリムがおかしい。俺たちは何もしていないのに、よく分からん疑いを掛けてくる。少し落ち着かせてやってくれ」
ボルテックスに助け船を求めた。
ボルテックスは腕を組んで、わざとらしい態度で咳払いをした。
「確実にヤっているな、これは。女が男の服を汚すほど、激しい交尾だ」
「そうだ、げきせん、げきせんにつぐ、げきせんく……!」
納得するボルテックスに、プリムが追従した。
「だが、マントを着させている理由が分からん」
ボルテックスが疑問を呈した。ジョニーの反論を事前に打ち消すかのような態度である。
「マントをきせて、まーきんぐしてる。じぶんのにおいを、おんなになすりつけてやがる」
と、プリムがすかさず分析した。ジョニーの知らない領域で話が展開している。
「なるほど。この女は俺の所有物だ。ゆえに、誰も手を出すなよ。目印として、俺のマントを着させてやったぞ……と」
「リコ……。みかけによらず、さくし……! むっつりのどすけべ。おれはみそこなったぞ」
「汚れた服は、証拠隠滅で燃やした、と。話は全部つながった。あーはいはい。これは完全に交尾をしておりますな」
「しておりますな」
ボルテックスとプリムは、拳と拳を当てて、意見の一致を喜んだ。
「なあ、リコ。たしかに、チュウしろとは指示したけどよ、まさか、最後まで行くとはな。さすが、俺たちの撃墜王だ。わっはっはっは……!」
ボルテックスは肩を揺らして、大笑いをしている。
「ちがう……。交尾とは、なんだ? 貴様らは何を話し合っている?」
ジョニーは理解できない。
フィクスが軽蔑したような冷たい視線を送ってきた。
「剣士リコ。お前は、獣だ……! 畏れ多くも、皇帝陛下の勅命を下賜給う立場でありながら、何をしている? 見損なったわ」
フィクスは顔を隠して、肩で泣き出した。ダルテがフィクスの肩を優しく撫でて慰めている。
「仕方がないですね。自然の摂理ですから、こればかりは誰も止められません」
と、サイクリークスが間に入ってきた。理解者であるかのようだが、何一つ理解していない。「衣変え 兵どもが 夢の跡」
シズカが、扇子に筆で、自分の言葉をしたためている。異国の文化だと思われるが、ジョニーはまったく理解できない。
セルトガイナーは、何も口を開かなかった。顔を合わせようはしない。顔を青ざめさせ、ジョニーとは関わりたくない様子だ。
無言が一番、辛い。
フリーダは十字架に貼り付けられている。
そういえば、野蛮人のゲインの姿が見えない。
セレスティナは、さっきまでいた場にいなかった。意味不明の叫び声を上げ、階段を駆け上がっている。焦った後ろ姿からは、両耳は赤く、汗をかいている。
「にげた。はんこうを、みとめた。これは、ゆうざいはんけつ、かくてい」
プリムは腕を組み、頷いた。
セレスティナが逃亡した今、無実を晴らす者はいない。
「俺は何もやっていない……」
ジョニーは、頭を抱えた。理由は分からないが、頭が痛い。
ボルテックスが笑うと、仲間たちは一斉に笑った。
3
だが、仲間たちの笑いはすぐにかき消された。
「シグレナスの同志諸君! 交尾だのなんだの、穢らわしい話は、やめたまえ!」
アイシャが玉座から立ち上がった。
白い顔を真っ赤にしている。唇が怒りに震えている。
ヴェルザンディ語で、部下たちに命令をした。
「誰か、セレスティナを殺せ。……奴が司令塔だ。恐れる相手は、“貝殻頭”でもなければ、ボルテックスでもない。セレスティナ、あの女だ! あの女はいずれ我らの国ヴェルザンディに害をなすだろう。次の戦いに出る者以外、飛びかかれ!」
不参加者たちの数人が、ぞろぞろと歩き出す。誰もが疲れていた動きをしていた。数人がアイシャの周りに残った。
次戦不参加組の中で、肌が黒く、角刈りの髪型をした女……バニラ・ターキエが、最も反応が良かった。ターキエは、全身が刃に包まれた霊骸鎧……“刃の鎧”に変身した。
「そうだ、殺せ! ターキエ、お前一人で充分だ! 観客席であれば、闘技場の掟は発動しない。十字架に逃げられないぞ!」
アイシャが興奮した身振り手振りで命令をしている。よほどセレスティナを危険視しているのだ。
「セレスティナを殺せ、だと? ……ふざけるな、貴様!」
ジョニーは、腹の奥底から、怒りと不安が入り交じった苦い汁が湧き上がった。アイシャは、そのときの思いつきで規則を勝手にねじ曲げる。簡単に人を殺す命令ができる性格に、ジョニーは怒りを隠せなかった。
「セレスティナ、こっちに来い!」
セレスティナは、ドレスの裾を挙げて、上った階段をまた下り始めた。段差があって、上るよりも下りる方が辛い。
“刃の鎧”が身をかがめて、小走りで追いかけてきた。
生身の少女と霊骸鎧とでは、走力が違いすぎる。
セレスティナは、鉄柵に掴まった。以外と身体能力は高い。鉄柵を上っていく。
鋭い槍の穂先を思わせる返しに手をかけようとした瞬間、“刃の鎧”は、“円月輪”を投げてきた。
セレスティナの手元のそばを掠め、鉄柵に跳ね返った。
セレスティナは悲鳴を上げ、滑り落ちた。
ジョニーは、飛んだ。槍の返しに手をかける。だが、青白い格子が浮かび上がり、電流が放たれたように、ジョニーの手は弾かれた。
「闘技場から観客席には行けない……!」
ジョニーは、着地して唇を噛んだ。
「無駄だよ。帝国の黒い貝殻頭くん。戦いが終わるまで、君たちは、そこから出られないのさ」
アイシャは、腕を組んで、嘲笑した。動揺するジョニーを見て、喜んでいるのだ。
起き上がるセレスティナの背後に、悠然とした態度で“刃の鎧”が近寄ってきた。
「やめろっ。卑怯者っ」
ジョニーが睨みつけるが、“刃の鎧”は、立てた人差し指を横に振って、応じない姿勢を見せた。
肩に付着した円盤形の刃……“円月輪”を取り外し、投擲の構えをする。
だが、黒い影が、間に入ってきた。
両腕の長い霊骸鎧、“振動”グリフ・ゲインだった。
ジョニーは、救われた気分になった。
「ゲインっ。セレスティナを助けろ。“刃の鎧”を倒せ!」
だが、ゲインは立ち向かわなかった。黒い煙となって、中から、野蛮人の姿をした、生身のゲインが現れた。ゲインが変身を解いたのだ。
「なぜだ、ゲイン? どうして変身を解いた?」
ゲインは、何も応えない。
ただ、苦渋にまみれた表情を浮かべていた。




