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第6話 救出


残酷な描写があります。




 広場を抜け、人間の反応のあったポイントを探す。

それは外周に近い場所のあった。倒木や枝を蔦で組んだだけの粗末な檻であった。

 中には人間が五人。どう見てもゴブリンと友好関係にあるとは思えない。男が三名、女が二名。初老の男性、中年の男性、若い男性、中年の女性、まだ少女と言っても良いぐらいの女性。内、二人が負傷。若い男性は全身血や泥にまみれぐったりとしている。中年の女性は左脛に裂傷があるらしく、包帯代わりにまかれた布が真っ赤に染まり、意識がないようだ。負傷者二人は一刻を争うように見える。


 今、檻を破壊して逃げても全員無事に逃げ切ることができるだろうか。陣平は考えるが良い案が浮かばない。

 銃を握る手に力が入る。思いついた作戦はゴブリンの殲滅。他にいい案が思いつかない。陣平は一旦、集落を離れることにする。


 集落を出ると少し離れた場所に隠れる。


「イル、彼らを助け出したい。何か案はないか」


〈負傷者二人はすぐにでも治療が必要と思われます。光学迷彩機能は他者には効果を表しません。対象を救出するにはゴブリンが多すぎます。ゴブリンたちを別の場所に移動させる必要があると思われます〉


 集落のゴブリンを誘い出して救出しても、外回りをしているゴブリンと鉢合わせする可能性もある。だが時間がない。助けを呼ぼうにもどこに呼びに行けば良いかもわからない。

 片膝をつき銃に両手を添えると俯く。

 やれるだけのことをしよう。陣平は決意し、顔を上げた。




 カーン、カーンと乾いた音が森に木霊する。

 見張りについていた二匹のゴブリンは何事かと顔を見合わせると、音の聞こえたほうに歩きだす。

 集落を離れ少し歩くと、いつもは鬱蒼と木々が生い茂っていた場所に広々とした空き地が広がっていた。油断なく周囲を窺い広場に近づく。剥き出しの地面が広がる以外に変わった点が一つだけあった。広場の中央には一本の棒が刺さっているのだ。

 しばらく周囲を観察した後、足元の地面を石槍の柄でつつきながらその棒に近づく。特に罠が仕掛けられている様子もない。二匹で用心深く周囲を窺い待ち伏せに備える。

 広場の中央につき刺さった木の棒を石槍でつつくが特に変わった事はない。思い切って引き抜いてみるが何の変哲もない木の棒である。二匹は顔を見合わせると首をかしげる。その時であった。

 一匹の太ももに激痛が走る。


「グキャァアア!」


悲鳴を上げて倒れこむ。足からは大量の血が溢れ出る。必死に手で抑えるが出血も痛みも治まらない。もう一匹は石槍を構え周囲を見渡すが誰の姿も見えない。

 次の瞬間、傷ついた方のゴブリンの肩から血が噴き出す。それを見たもう一匹は槍を投げ捨て逃げ出した。


 木の上から陣平はその光景を見ていた。広場の中央では傷ついたゴブリンが一匹で悲鳴を上げていた。陣平は待っていた。ゴブリンが増援を引き連れてやってくるのを。

 陣平に罠を作るような知識は全くない。手元にある武器は銃とレーザーブレードだけだが、接近戦はできる気がしない。実質、使えるのは銃だけだ。

 そうなると陣平に思いつくのは狙撃ぐらいしかなかった。幸い射線を表示する機能もあったし、バイザーにはズーム機能もあった。

 そこで思いついたのが戦争物の映画でよく見るやつだ。傷ついた仲間を助けようと寄ってきた他の仲間を狙撃する。そのためには開けた場所と、その真ん中に撒き餌となる者を呼び寄せる必要があったのだ。開けた空間はクラフターで周囲の物を分子レベルまで分解して作った。クラフターで直接敵を分解できないかと尋ねると直接生命を奪うことにはプロテクトがかけられているそうだ。

 そして、木の板を作って打ち鳴らし作戦を実行に移した。

 しかし誤算が一つあった。片割れは傷ついた仲間を助けようとしないのだ。何とか逃げ出してくれたが、いつまでも槍を構え仲間には目もくれず、戦おうとしていた。このまま見捨てて誰も来ないのではないかと不安がよぎる。


 ほどなくして騒ぎ声が聞こえる。増援が来たのだ。数はちょうど三〇らしい。クラフターでスキャンすれば自分で数えなくても教えてくれる。

 しばらく広場に入ってこなかったがリーダーっぽいゴブリンに槍の柄で小突かれた一匹がびくびくしながら入ってきた。

 まだだ。そう自分に言い聞かせると機会をうかがう。なるべく射線の利く広場に多く集めたい。

斥候が中央までたどり着き周囲を窺う。しばらくしても何もないため続いて三匹が広場に入ってくる。

 まだ、まだだ。と自分に言い聞かせる。

しばらくすると安全だと思ったのかさっきのリーダー格のゴブリンが取り巻き連中に取り囲まれて入ってくる。

 全員が広場に入った。リーダー格が傷ついたゴブリンの傷を検める。痛がるのもお構いなしだ。やはりこいつらに仲間意識は薄い。陣平は確信した。当初は助けに入る者を一匹一匹倒す予定であったが、こいつらなら見捨てかねない。それならば射線の利くところに纏まってもらってそこに乱射した方が効率が良いはずだと作戦を切り替える。


 一匹が頭から血を噴き出して倒れた。皆、それを見て固まる。理解が追いつく前にもう一発撃ちこむ。二匹三匹と倒れるとやっと攻撃されていることに気づいたのか騒然となる。

 そんな彼らを一喝し、リーダー格は自分を中心に円陣を組ませる。綺麗に整列してくれたら陣平の思うつぼだ。並んだ順に銃弾を撃ち込めば良い。

 リーダー格は自分を守らせながら集落への撤退を決めたようだが、移動を始めたその先頭に撃ち込むと、崩れ落ちた仲間に躓き数匹が巻き込まれ転倒する。そこで動きを止めた者にさらに打ち込む。

 こちらの位置が特定されないというだけで、一方的な展開に持ち込むことができた。

最後は一丸になって走り始めたため狙いが付かなくなったがリーダー格だけは背中から打ち抜いておいた。

 一段落すると陣平は木から飛び降りた。着地は半重力発生装置にお任せである。登る時は梯子を作って登り、その後分解していた。

 まだ息がある数匹に止めを刺しているとイルから金属反応があると言われる。リーダー格の死体を調べると鉄の剣とナイフを持っていた。ナイフをバックパックにしまうと、剣は近くの茂みに隠した。


〈金属があれば弾の補充も可能です〉


「そうなの? そりゃ、地表に降りて一番の朗報だね」


 まだ、この星に降り立って二日というのにマガジンの残弾は五〇発まで減っていた。ヘルメットを被っていると視界の端に残弾が表示される事にも気がついていた。今日一日で銃の扱いが大分上手くなったものだと思い苦笑する。


 次は集落に取り掛かる。先ほどの取りこぼしもあるが、さすがに戦えるものの数は減っているだろう。メスと子どもは戦力に数えていなかった。

 集落に辿り着くとゴブリンたちはみな武装していた。陣平は一匹一匹に近寄ると近距離からヘッドショットを繰り出す。なるべく障害物を挟みながら処理を続ける。

 初めからこうしておけば良かったかと少し後悔する。それほど簡単なのだ。この銃が静穏性に優れているとは言え、それでも音はする。しかし、ゴブリンは未知の攻撃に全く対応できないでいる。

 途中、人間の捕らわれている近づくとナイフを投げ込んでおいた。ナイフはに気づいた中年男性はゆったりとした動作で服の中にナイフを隠すと努めて平静を装うが目だけはキョロキョロと忙しなく動いていた。まだ解放はしない。檻自身が彼らを守ってくれる城になるはずだ。

 一通り集落から戦えそうな者たちを一掃すると、檻の入り口をクラフターで分解する。


「ありがたい! 逃げるぞ!」


中年男性は中年女性をかつぎ老人は若者をかつぎその後を若い女性が追う。


 ここで問題が発覚する。言葉がわからないのだ。

では、先程の言葉はどうしたかと言うと、視界の下の方に字幕が表示されたのだ。

ヘルメットを脱ぐと言葉がわからなくなるのでは、と考えるが今はそんな悠長に構えている暇が無い。人間の脱走に気がついたゴブリンたちが集まって来たのだ。

 今度はメスや子どものゴブリンも集まってくる。皆その手に武器を握りしめている。未知の攻撃には対処できなかったが餌が相手では違うらしい。

 陣平は迷った。先ほどまでの平和な集落の姿が一瞬脳裏をよぎる。だが歯茎をむき出しにし唸りを上げて人間に襲い掛かってきたその姿を見て思わず撃った。一度撃ってしまうとタガが外れたように次々と撃ち込む。もう女子どもなど関係なかった。彼らとは住む世界が違うのだ。群がる藪蚊に殺虫剤を撒いたとしてどれがオスかメスかなど気にする人は少ないだろう。串焼きにされていた人の顔を思い出しながら、陣平はそう思うように自分に言い聞かせた。


 ゴブリンたちを片付けながら人間たちを誘導する。顔を見せる相手がゴブリンなら女子ども関係なく撃った。選んでいる余裕など全く無い。こんなことになるならはじめから皆殺しにすれば良かったと後悔するが後の祭りだ。

 二つ目のマガジンの残弾が三〇になったところでゴブリンの波が途切れた。人間たちはこの隙を見逃さす脱出に成功する。

 集落を出たところで急いで先ほど隠した剣を茂みから回収し、彼らの前に放り出す。剣は老人が回収した。


 三〇分ほど逃げたところでみんなへたり込んでしまう。


〈怪我人の消耗が危険域に達しています。治療行為を行なってもよろしいですか?〉


「良い! 良い! 行なって下さい!」


まず四人とも全身の汚れが消え、怪我も裂傷が塞がっていく。


〈応急処置はできましたが失った血を回復させる素材がありません、しばらくは安静にさせて下さい〉


 そこではじめて姿を見せることにし、水筒のキャップを開け中年男性に渡す。

一行はいきなり現れた黒ずくめの幼児に飛び上がって驚いたが、おずおずと水筒を受取る。中は出発前に周囲の植物から水分を集めたので満タンのはずだ。再び姿を消すと見えない距離まで離れて近くの樹木から簡単な水筒を四つ作り両腕で抱えて帰る。


「どうしよう。まだ、ここは安全とは言えないよ。どうやって伝えよう?」


〈私が翻訳して外部スピーカーで伝えますので、マスターは普通に話してください〉


 彼らの前に水筒を置く。


「おお、何から何までありがとうございます」


「この場所は危険です、まだ」


幼児から聞こえてきた大人の女性の声に一同は目を丸くする。


「私が守ります、帰宅」


「そ、そうですな、お礼もしたいですし、ここはもう少し頑張るとしましょう。バルトロさん、村までの道はわかりますか?」


聞かれた老人は深く頷く。


「方向だけならわかる。しかしもうすぐ夜になる。無理はさせぬぞ」


「ええ、ええ、慎重に行きましょう。さぁ、ベルナもう少しだ、頑張ろう」


 再び一行は怪我人を背負い歩きだす。

 途中、若い男性が気がついたので水を飲ませ、全員に非常食を渡す。眉根を寄せながら食べていたがやはり美味しくなかったのだろう。もう夜も更けてきたのでそのままここで夜を明かすことにする。バルトロ老人は獣避けに火を焚くか迷い、ゴブリンを警戒して火は起こさなかった。


 こうして、異世界生活二日目は終わりを告げた。



投稿初日にブクマ1件頂きました。

未だに1件だけですが、これ嬉しいですねぇ(´∀`*)

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