第5話 串盛り五人前
飯テロ回です(ニヤリ
※中盤以降に残酷な描写があります。
「こうなると分かってたら昨日のワニさん、もったいなかったね」
〈そうですね。生物からなら塩分の分離も期待できます。有害物質も分離が可能ですのでほとんどの生物は捕食できると思って下さい〉
「捕食て……。まぁ、今日から積極的に狩りなんかもしていきましょう。イルも動物とか見つけたら教えてね」
〈それでしたら、現在この建物の周囲に人間サイズの生物が二〇体ほど存在します〉
えっ、と驚いて小屋の出入り口からそっと外を窺うと、人間の子どもサイズの二足歩行の生き物が見える。
「囲まれてますやーん!」
赤や緑や青い肌を持ち、腰ミノ一つにボディペイントを施したオシャレ上級者さんたちが、石斧や石槍を振りかざしグギャグギャと騒いでいる。
〈ゴブリンと呼ばれるこの星固有の知的生命体です。
道具を使うほどの知能はありますが、動くものなら何でも食べようと襲いかかりますので注意してください〉
「どっかで聞いたような名前なんだけど……あれ、食べれるの?」
〈スキャン中。可能です〉
「殺害した場合、法的には問題ない?」
〈正確にはわかりません。この星には複数の国家及びそれに準ずるコミュニティーがあり、それぞれに法を定めておりますが詳細な情報がありません〉
先程からカランコロンと音がするので、そっと覗くと石槍をなげるゴブリンの姿が見える。
「うあ、殺意高いなー」
〈この星には複数の知的生命体が存在します。管理者によって創られた種族と、その後に発生した種族です。元々は人類を含めた前者のみの世界でしたが、現在は後者の種族に生存圏を圧迫されているようです。彼らゴブリンは後者の種族であり、人間を好んで捕食します。人類にとっては敵といえるでしょう〉
「嫌な第一村人発見だなぁ。どうしよう。逃げる?」
〈スキャンの結果、あまり感覚器が発達していない種族のようです。光学迷彩機能を使えば感知されずに逃亡が可能と判断します〉
「よし、それでいこう。光学迷彩を実行して」
全身から色が失われていく。
念のため、ホルスターから銃を抜くと、そっと小屋を出る。
ゴブリンたちはそれに気づかず小屋を睨んでグギャグギャ騒いでいる。
そのうちの一匹に銃口を向ける。昨日と違いヘルメットをしているため、銃口から赤い光線が一筋伸びていた。これはわかりやすいなと思いながら、狙いをつけたままそっと移動する。
気づかれたた様子はなく距離をとることができた。
〈彼らの集落を探すことをお勧めします〉
「ちょ、何を言ってるの?」
〈彼らは食料として人を攫います。彼らの集落には人が捕らえられている可能性があります。人里を目指すならどこにあるか情報が得られるかもしれません〉
「う、あ、マジかよ」
〈光学迷彩は連続使用でもでも三〇日は継続できます。三キロ圏内に集落を捉える事ができればスキャンして人間が捕らえられているかどうかもわかります。人が捕らえられていなければそのまま撤退することもできます〉
「そ、そうだね。でもどうやって集落を探すの?」
〈先ほどのゴブリンたちの来た方角をスキャンで痕跡を探り、割り出します。実行。終了。彼らが来た方向がわかりました。ガイドを開始します〉
バイザーに矢印が表示される。陣平はそれに沿って、物音を立てないように移動を開始する。
森を歩くことも素人だが、隠密行動も素人の陣平にはかなりの労力が求められた。自分の足跡を辿ってさっきの奴らが追ってこないかが心配だった。
どのくらい歩いたのだろうか、朝食も取っておらず腹の虫が鳴り続けている。スーツ内の温度は体温を感知して自動的に調節してくれる。今はかなり低温になっているが、それでも汗が止まらない。汗が目に入らないようにクラフターが顔の汗を分離してくれた。
〈集落を探知しました。もう少し接近してください〉
さらに木々の間に生えた下草をかき分け、ルート表示に従って進む。
〈発見しました。人間が五人います〉
歩くのをやめ、考える。
唐突に言うのはやめてほしかった。ここまで来たは良いものの、ここからどうするかなど考えてもいない。さっきのイルの言葉がそのままなら、そこにいる人間はゴブリンの食事になるのだろうか。それとも独自に交流を持つことに成功した人間かもしれない。ゴブリンだって知恵があるなら人間と仲良くすることだってできるかもしれない。
希望的観測が頭をもたげるが、最悪の事態も考慮に入れろと自分に言い聞かせる。
「こ、この目で確認する」
ゴブリンたちの集落に入っていくことを決意する。今以上に慎重に行動しないと見つかるかもしれない。自分にできるのか、いや、やらなくちゃいけない。と、いろんな考えが脳裏を渦巻く。
集落を目視できる位置まで来ると、大きく集落を一周回る。
集落は朽木や枝葉で作られたバリケードのようなものでぐるりと取り囲まれ、中の様子を窺うことはできない。小学校のグラウンドほどの広さで出入口は三ヵ所。それぞれに見張りが二匹いる。バリケードに阻まれて中の様子は窺えないが、中央から煙が立ち上っていることから火を焚いていることは想像できる。
意を決して入口に近づく。気づかれた様子はない。二匹の見張りは地べたに寝転び寛いでいる。その間をそっと抜けると近くの物陰に隠れる。
中は枝や葉っぱで作られた建物が無秩序にひしめいている。中央には広場があり、大きな焚火が煙を上げていた。
ゴブリンたちは思い思いに寛ぎ、子どもの世話をしているメスも見受けられる。石と石をぶつけているのは、打製石器を作っているのだろうか。朝に遭遇したゴブリンたちも石器で武装していた。
木の棒で何かの木の実を砕いているゴブリンもいる。ゴブリンにも生活があるのだ。
人間の反応があるポイントは、中央の広場を挟んで反対側だ。広場の焚火では数匹のメスが食事を作っているようだ。主なメニューは串焼き。豪快に串に刺された肉がたき火を取り囲み油を滴らせている。
段々慣れてきた陣平は空腹も手伝って、どんなものが焼かれているのか見てみることにする。
最初に見つけたのはネズミか何かだろうか、だが大きい。小型犬ぐらいの大きさはある。それがお尻から口にかけて一突きにされ焙られていた。隣に刺さっているのは犬だろうか、頭だけが串刺しにされ焙られている。これは火が通るまで時間がかかるだろう。順にみていくと隣は何の肉だろうか、一度は食べてみたいような大きな塊肉である。ヘルメット越しでは匂いがわからないが、おいしそうに油を滴らせている。次の串は手のようだ。五本指で大きさは人間ぐらいだろうか。
その隣には人間の頭、次は足。さっきの肉塊は胸か腹だと言うのだろうか。
腹の底に重たいものが流れ落ちたような感覚に襲われる。血が全部下に向かって流れていくようだった。強烈な吐き気を覚えるが隠密行動中であることを強く意識し、ぐっと堪える。
目に見える景色がすべて遠く感じた。何が起こっているのかわからない。苦悶の表情で火にあぶられている人と目があった気がした。
立ち尽くす。頭が真っ白になった。
通りがかったゴブリンがぶつかり、陣平は腰をついてしまう。我に返った陣平は素早く転がって距離をとると近くの物陰に潜む。
訝しんだゴブリンはあたりの地面を足で探るが、一度首をかしげるとどこかへ行ってしまった。
まずは生存者を確認しないと。陣平は物陰から出ると人の反応のあるポイントに急いだ。
ストック分を読み直しているとどうにも展開のテンポ感が悪いので、全体的に修正しようと思います。今後は更新がちょっと遅くなるかもしれません。