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第43話 ジン自重をやめる

難産過ぎました(;´Д`)




 カーン、カッカーン、カーン、カッカーン。


 高い鐘楼の上から、一定のリズムを刻む鐘の音が砦中に響いた。


「おっと、戦が始まるようじゃの」


露店の番をしていたドワーフはいそいそと片づけを始める。


「お前さんたちも砦の中に入るんだ。商人たちと一緒に地下の避難壕に入りな。ああ、お前さんたち冒険者だろうが、間違っても戦に加わろうとするんじゃねぇぞ。戦ってのは兵士の役目だ。冒険者の戦いとは勝手が違うからどうしても邪魔になる。おとなしく地下に籠っておけよ?」


ジンは先ほど彼が言った"あいつ"という言葉が気になったが、戦と聞いては急がないといけない用事がある。


「なぁおっさん、さっきのあいつって誰のことだよ?」


そんなジンの気も知らずカルロが口を開く。


「ああ、そりゃあ。いやいやはよ急げ! いつまでもこんなところにおったら邪魔になるだろうが! 正面入り口から入れ、あとは案内に従うんだ!」


そう言うとそのドワーフは持てるだけのクロスボウを抱きかかえると近くの扉から砦内に入っていった。

 どうしようかと、残された面々は顔を見合わせる。そこにラウロが現れた。


「おお、お主らここにおったか。エルフどもが攻めてくるようじゃ。ワシとエッダとヴェラは魔術師として参戦するぞ。他の者はワシらの護衛じゃ。ついてまいれ。……ん? そういえばジン殿はどこじゃ?」


「ジンならここに……」


ロドヴィコは手に持ったロープを引き寄せるがその先には黒い服だけが残されていた。



◇◇◇



 砦の中は兵や避難する民間人などでごった返していた。


「イル、工房の場所は分かる?」


<はい。作りかけのクロスボウなどが大量に存在する場所があります。おそらくそこが工房でしょう。現在、耐環境防護スーツが無いため視覚によるガイドができません。音声によるガイドを開始します。正面、三〇メートル先を左です>


 ジンはガイドに従って走り出す。

 もちろん全裸である。

 股間のゾウさんを元気に左右に振りながら、ごった返す人たちの足元をすり抜ける。


「こらこら、そっちに行っちゃいけないよ」


商人風の男がジンを捕まえようとするが、その手をスルリと抜けジンは走る。

 目的の部屋に辿り着くと扉は開け放たれており中にはドワーフやレイブンたちが太矢(ボルト)を樽に詰め兵士に渡す作業をしていた。

 誰に話を通すとスムーズに事が運ぶだろうかと見渡していると、一人のレイブンの男性が歩み寄って来て優しげに微笑むとジンの頭をそっと撫でる。

 ジンは彼の行動に何事かとポカンとしてしまった。そんな彼らに気がついたのか他のレイブンたちもジンの周りに集まってくると、皆そろってジンの頭をそっと撫でる。

 褐色の肌に笹穂耳、皆スラリとした長身にイケメン揃いである。そんな彼らに取り囲まれて無言で頭を撫でられているという現状にジンは軽くパニックになってしまった。


「お、お前さんたち、今は戦の準備中だろうが。ほら仕事した仕事した」


異変に気付いたドワーフの職人が近寄ってくると手をパンパンと叩いてレイブンたちを追い散らす。


「おお、なんだ坊主」


レイブンの囲いの中から顔を出した裸の幼児にそのドワーフはぎょっと目を見開いた。


「もしかして迷子か? 参ったな」


 ドワーフの登場で正気を取り戻したジンは素早く工房内を見渡すと、奥に加工前の資材が山積みになっているのを発見する。鉄のインゴットや堅い木材などクロスボウを作れるだけの材料があることを確認すると目の前にいるドワーフの脇をすり抜けてその資材の山に向かって駆けだした。


「おい! ここは遊び場じゃないんだぞ!」


慌ててそのドワーフもジンを追って駆けだすが、幼児とは思えないスピードで走り抜けるジンに全く追いつけない。


「イル、ここにある材料でアレ、作れる?」


<魔石がありません。アポーツでバックパックを取り寄せますか?>


「よっしゃ、アポーツ!」


すると一瞬でジンは耐環境防護スーツとバックパックを身に着けた姿になる。バックパックの中には一握りの魔石をいつも入れていた。馬車に戻ればヴォルフラムが飲み干した酒樽に、ぎっしりと詰められた魔石が数樽あるのだが、今は一握りあればいい。


「作ってくれ」


その一言を言い終わると、周囲の資材の一部が滲むように姿を消し、代わりにジンの前に一丁のクロスボウが姿を現す。


「ぼ、坊主! いつの間に服を着た!」


やっと追いついた先ほどのドワーフの職人がいつの間にか服を着ていたジンを見て目を白黒させる。そんな彼に向かってジンは目の前のクロスボウをポンポンと叩いて見せた。


「ん? なんじゃそのクロスボウは」


そのクロスボウは以前にカルロ用に作ったクロスボウ同様、ストック付きであった。しかし今回のストックは平たい板状の直銃床であり、サムホールを開けたピストルグリップ式である。そしてトリガーの前には箱が取り付けられていた。


 ジンはゼノア王都を旅立ったころからこのクロスボウの開発に取り掛かっていた。しかし、ジンには迷いがあった。人を傷つける技術を彼らにもたらして良いのか、だからと言って何もしないでいると、ともに旅する仲間がいつか倒れる日が来るのではないか。そう悩みながら何度も作っては分解してを繰り返していたため、その完成度は高い物となっている。確実に人を殺す力を持っている。

 今まで悩み続けていたが、エルフたちとの戦闘を経てジンは決断した。


「確保ォォオオオオ!」


万感の思いを込めて新型クロスボウの説明をしようとしたところにヴェラが頭から飛び込んできてタックルされてしまう。


「ジンちゃん! あれほど勝手に飛び出したらダメって言ったでしょ!」


ヴェラは腰に手を当てておかんむりである。


「ヴェラ いいとこ きた」


タックルを食らい地面に張り付けられたジンは埃を払いながら立ち上がる。そして怒り心頭のヴェラを尻目に、ジンは新型クロスボウのストック後部をカパッと開くと単一乾電池ほどの六角柱形の物を取り出す。


「ジンちゃん! 聞いてる!? ん? 魔方陣?」


六角柱形の上下の底面には回転の魔方陣が見えていた。この魔法陣は魔石部分が金太郎飴のようになっており厚みのある陣になっていた。


「まほうじん きどう よろしく」


ずいっと魔方陣をヴェラの方へ向けると、また変なの作ったなと呆れながらも人差し指の先を魔方陣に当て軽く魔力を流す。魔方陣の起動を確認したジンはそれを新型クロスボウに戻した。


「おお、ここにいやがった!」


そこにカルロを筆頭にぞろぞろと旅の仲間が集まってきた。


「カルロ いいとこ きた これ もつ かまえる」


「ん? クロスボウか? ひょっとしてまた変なの作りやがったな?」


そう言いながらも興味津々と言った風を隠せずにそのクロスボウを手に取ってみる。

普段からジンが作ったストック付きクロスボウを使っているからか、自然に構えてみせる。


「なにか うつ まと」


先ほどからクロスボウに目が釘付けになっているドワーフの職人の裾をジンは引っ張る。


「おお、おお。的だな、すぐ準備する」


ジンの言葉に素直に従うと少し離れたとこの木箱の上に太矢を詰めていた空樽を乗せる。


「これでいいか?」


準備が終えるころには彼らの周りを職人たちが取り囲み、作業の手を止めてジンたちを見守っていた。


「カルロ げん ひく」


言われるがまま鐙に足を入れると弦を両手で掴むと腰の力を使って一気に引く。


「カルロ ひきがね ひく」


「まだ矢を置いてないぞ?」


「いい ひく」


カルロもジンのやる不思議なことには随分と耐性がついてきている。すこしワクワクしている自分に気づきながらも、ジンに言われるがまま再び構えなおすと樽に狙いをつけて引き金を引き絞る。

 すると、引き金を引き切ったタイミングで弦は素早く勝手に引かれ、ジュバッと音を立てるとともに元の位置に戻っていた。


 ゴトリ。


 鈍い音を立てて的にしていた樽が木箱から転げ落ちた。先ほどのドワーフの職人が慌てて駆け寄ると樽を持ち上げ確認する。そこには片面を貫通しもう片面に目元まで突き刺さった、長さ十五センチほどのすべて鉄で作られた矢が刺さっていた。


「もいちど まと おく こんど おちない する」


「お。おう、ちょっと待っとれ」


ジンの言葉を受けてそのドワーフは部屋の外に駆け出ると、砂の詰まった土嚢袋を持って帰ってきた。それを樽の中に入れると再び木箱の上に置いた。


「普段、試射の的にしてる土嚢袋だ。たぶん大丈夫だろう」


そう言うと彼は素早くその場を離れた。


「カルロ つづけて うつ」


「あ? あ! ひょっとして!」


カルロは気がついた。そのクロスボウが"連射ができる"ということを。


 ジュバッ! ジュバッ! ジュバッ! ジュバッ! ジュバッ!


 弓鳴りの音が響くたびに樽から木片が飛び散り、引き金を引くたびにクロスボウから矢が放たれた。その光景にざわついていた周囲の職人たちも無言になり目を見開き固まっていた。

 十本の矢を射った所で弦が中途半端な位置で止まり、引き金を引いても再び弦を引くことは無かった。


「カルロ ひきがね まえ いた まえ おす」


カルロはその言葉で引き金近くに目をやるとトリガーガードとその前につけられた金属の箱との間に金属の板が下向きに出ていることに気づく。ジンの言葉に従いその板を前に押す。すると金属の箱がストンと落ち、弦が元の位置に戻る。


「これ つける」


ジンの手にはいつの間にか作ったのか、新たな矢が詰まった金属の箱、マガジンが握られていた。

 カルロはマガジンを受け取るとクロスボウに差し込む。再び鐙に足を入れ弦を引くと、的に向かって連射して見せた。


 今回ジンが作ったクロスボウは地球時代に触れた電動エアーガンを参考に作っている。回転魔法陣から生み出される回転力を歯車を使い弦を引く力に変えている。

 そして今回はフルオートを見送り、セミオート仕様にしている。引き金を引くと離れていたクラッチが繋がり弦を引く。弦が元の位置に戻ったときに弦自体がクラッチにつながる軸を押し戻し回転魔法陣からクラッチが離れ、引き金を元の位置に戻さないと次矢が放てないようにしている。最初はフルオートにしようと思ったのだが中途半端なタイミングで引き金を戻すと中途半端な位置で弦が止まり、その位置によっては給弾不良を起こしたのだ。結局この問題を解決できずにセミオートを採用した。


「カルロ わたす」


ジンはカルロからクロスボウを受け取ると、地面に置きいつの間にか作ったマイナスドライバーを使いねじを回すと、クロスボウをパカッと二つに割り内部構造を職人たちに見せる。


「精巧な作りだな」


「仕組み自体は理解できる」


「矢は軸から羽根まで鉄製か」


「や おもさ ふつう や おなじ いりょく ちかい」


「細く短くても重さを今までの矢と同じぐらいにすれば、威力は普通の矢と同じぐらい出せると言ってます」


「てつ せいどう どう いける おもう」


「鉄でなくても青銅や銅でも大丈夫みたいですね」


「なるほど」


「矢の軸が四角なのは羽の位置が傾かないようにするためか」


「どのくらい飛距離が出るかが知りたいな」


「我々でも再現可能か?」


「しかし回転の魔方陣ですか。あれは私たちには作れませんよ」


「魔方陣に頼らんでも、ハンドルでもつけて回せばこの矢を送り込む機構だけでも有効に使えなくはないか?」


職人たちが思い思いの感想を口にする。ときどきジンの言葉をヴェラが通訳したりしながら意見を交換した。まだまだ続きそうな彼等を尻目にジンはカルロの裾を引く。


「カルロ ませき ばしゃ もてくる」


「もてくる、じゃなくて持ってくるな」


「もってくる」


「そうそう。よし、ロド、ニコ、手伝ってくれ」


「わかった行こう」


「急がないとね。忙しくなりそうだ」


 彼らは取り囲んだ職人たちの間を潜り抜けると馬車へと急いだ。

 三人が部屋を出るのを見送ると、ジンは資材の山に再び目を向けぶつぶつと日本語で呟く。

 するとジンの足元に三丁のクロスボウが現れる。


「ボルトアクション レバーアクション ポンプアクション」


 それぞれの使い方を先ほどまで付き合ってくれていたドワーフの職人と近くにいたレイブンの職人に教えて、彼らに使わせてみる。

 結果、ボルトアクションはレイブンでは引けず、ドワーフではボルトハンドルを破壊してしまった。

 レバーアクションは両者とも使えたがマガジンが上から差し込む形にしたため、装弾数が半分の五本に減っているうえ、狙いがつけ難くなるのではという声が上がった。しかし魔獣狩りには有効ではないかとレイブンが気に入っていた。

 ポンプアクションはボルトアクション同様、レイブンには引けずドワーフは軽々と引いて見せドワーフはこちらを気に入ったようだった。


「この、ポンプなんとかはドワーフの戦い方が変わる気がするぞ。仕組みも簡単だ。これならエルフに攻撃が届く」


 しばらくして冒険者の三人がラウロと騒動を聞きつけたスローディンを引き連れて帰ってきたときには部屋中にポンプ式クロスボウがズラリと並んでいた。










 お待たせしてしまい申し訳ありません。

 クロスボウの機構を文章にしようとして圧倒的語彙力の無さに苦しみました。

 別に詳しく書く必要もないんじゃないかと悩みましたが、あっさり書く方法も見つけきれず、このネタ自体やめてしまおうかとも思いました。

 図解してしまえば良いのでしょうけど、それじゃなんだか負けな気がして時間ばかりがたってしまいました。はたしてこの文章で伝わっているのやら不安で仕方ありません。


 ブックマーク増えてました!ありがとうございます(人´∀`*)

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