第41話 レンデンブルグ砦
リユー村の一件より三日後、ジンたち一行はレンデンブルグ砦と呼ばれる所に来ていた。そこは各国に最低でも一か所、エルフの森を睨むように作られたドワーフたちの駐屯地の一つである。
そこには岩の民をはじめ、様々な種族が出入りしているようで人間こと壁の民、風の民、そしてジンとしては初めて見る火の民たちがひしめく様に暮らしていた。レイブンは褐色の肌に笹穂耳、すらりとした長身で線が細く、美男美女ばかりであった。
ジンは砦と聞いて物々しいところを想像していたが、本来訓練でも行われるはずの広場には所狭しと市が立ち多くの商人が出入りしていた。
「驚いたであろう、砦と言っても物作りに長けたドワーフとレイブンが中核になっておるからな、工廠は職人どもの魔窟となっておる。自然と商人も集まりどこの砦もこのように賑わっておるのじゃ」
ヴォルフラムはニヤリと笑うとサムズアップ。この握りこぶしに親指を立てる動作はこの世界に無かったのだが、ジンがよくやっていたもので自然とこの一行に浸透してしまっていた。
「レイブン もの つくる?」
「うむ、あ奴らは火の扱いに長けておる故、金属の加工が得意でな。力仕事は無理じゃが細工物はドワーフよりも得意ときておる。エルフとの戦いは弩が中心となることが多い故、そのような複雑な武器をあ奴らが担っておる。ドワーフが鍛えた鉄でレイブンが組み上げるといった具合にの。昔からワシらドワーフとレイブンは気がつけばいつも一緒におるのじゃ」
ヴォルフラムは心底愉快と言った風にガハハと笑った。
「さて、ワシはここの責任者に挨拶してくる。はて、今は誰が責任者だったかの。まぁ良いか。お主らジン殿がまた飛び出さんようにしっかり手綱を握っとくんじゃぞ」
「お任せください」
そう言うロドヴィコの手には一本のロープが握られており、二メートルほど先はジンのガンベルトに括り付けられていた。
「ワシも一緒に挨拶してくるでの。ヴォルフラム殿、参りますかの」
髭コンビが揃っていなくなると残された面子は途端に手持ち無沙汰となった。
「とりあえず市でも冷やかそうか。いい武具があるかもな」
カルロの提案に、一行はぞろぞろと広場を目指した。そこに立ち並ぶ露店は、店と言うよりも職人の展示ブースと言った風合いを見せていた。大中小のバリスタが飾られていたり、ドワーフたちが使うクロスボウも各種取り揃えて展示してあった。
弓使いのニコロはドワーフ用のクロスボウが気になったのかその展示ブースに近づくと店番であろうドワーフに声をかけた。
「こんにちは。ちょっと気になったんですが、ざっと見た限り、弓を展示している所が無いようなんですが、弓は使われないんでしょうか?」
その問いに暇そうにしていたドワーフが誰が見てもわかるほどに嬉しそうな顔になる。
「おおお、ウォールマンの兄ちゃん、冒険者だな。良い所に来た。暇で死にそうだったんだ、色々教えてやるからちょっと付き合え。
そうだな。弓が無いってのはドワーフが弓を引くには体形が合わないってのが一番の理由だ。いや、引こうと思えば誰よりも強弓を引けるんだがな。腹やら髭やらが引っ掛かって苦手なんだよ。だがクロスボウなら俺らの体形でも使いやすいんで、ドワーフが遠距離って言ったら専らクロスボウになっちまうのさ。
へへ、その顔はドワーフに遠距離って言葉が似合わねぇって顔だな? 確かに俺らの美学的にもエルフのなまっちろい顔にゃ斧か槌を叩き込みたい処だがよ、・・・・・・当たらねぇんだ。あいつら猿みたいにぴょんぴょん飛び周りやがって斧の間合いにゃ入ってこねぇんだ。だからクロスボウが戦場の主役になるのさ。
お前さんたちウォールマンだってエルフと戦おうと思ったら必ずクロスボウを持っていくんだぜ?あいつら精霊術で風の妖精を操って矢を避けやがるからな。だが流石に精霊でもクロスボウの矢は避け難いみたいでな、あ、ライトクロスボウ程度なら避けるからな。持ってくならヘビーにしとけ。
それにだ。俺たち妖精族なら精霊術にも一定の抵抗ができるがお前さんたちウォールマンはてんで弱いからな。精霊術の射程ってのが精々が三〇メートルだ。直接的な攻撃精霊術なら一〇メートルぐらいだからな。間違っても近寄っちゃ駄目だぜ。
まぁ、そんな具合でな。エルフと戦うことを目的にしている俺たちとしたらクロスボウばっかりになっちまうのさ」
よっぽど暇だったのだろうか、彼は一気にまくし立てた。ジンとしても精霊術の前に苦い敗北を味わったばかりだったので彼の話は天啓のように思えた。
「つくる みたい」
展示台の下からにょきっと顔だけ出すとドワーフの店員は驚いたのか椅子から腰を浮かせた。
「おおう。そこにいたのか。気づかなかったぜ。工廠なら誰でも入れるが邪魔はしないようにな。レイブンたちゃ何も言わないだろうがドワーフは怒りっぽいからな。工廠は建物の中だぜ」
その言葉を聞くや否やロドヴィコの握ったロープがピーンと張る。
「よーしよしよしどうどうどう」
ロープの先では駆けだしたジンがカルロに捕まって頭や顎やらを撫で繰り回されていた。
「おお、お前さん。その恰好、あいつの知り合いか?」
展示台の陰から飛び出したため、はじめてジンの全身を彼は見たのであろう。ジンの服装を見て彼は目を丸くしていた。
嗚呼、時間が取れるっていいですねぇ(´∀`*)




