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第40話 後悔

繋ぎ的なお話になってしまいました。




「ワシのことが分かるか」


 太陽は西の空にその姿を隠し始めていた。深い木々に覆われた森では今の時間が何時頃なのか推し量ることができなかった。

 そして、今ジンの前にはヴォルフラムがいた。兜の角は折れ、左腕は二の腕の中ほどから先が失われていた。ジンの背丈に合わせて膝立ちになり、残った右腕はジンの頭に乗せられている。失った左腕からは止めどなく血が流れ、止血するそぶりすら見せない。


「お主が飛び出した後、すぐに追ったのじゃがな。ワシの足では遅くなってしまった。すまぬ。」


 そう言って立ち上がると、はじめて右手で傷口を抑える。零れ落ちる赤い飛沫がジンの頬に飛んだ。

 その頬に飛んだ血を拭おうと右手を動かしたことで、ようやく理解が追いついてきた。右手には銃、左手にはレーザーソードが握られている。慌てて周囲を見渡すと離れたところにエルフの死体が一体、オーガの死体も転がっていた。そしてすぐ近くにはヴォルフラムの盾が両断され落ちており、その陰に隠れるように彼の左腕も落ちていた。

 ジンは急いで落ちていた腕を拾い上げるとヴォルフラムに駆け寄った。


「くっつく はやく」


「むむ、落ちた腕をつけようというのか?」


「できる イル!」


「可能です。傷口にあてがって少々お待ちください」


 ヴォルフラムが訝しみながらも言われるがまま左手を受け取ると傷口につける。


「おお、本当につながり始めたぞ。おお、これは、位置を修正しておるのか」


 自分の腕が繋がる様が珍しかったのか、それとも癒しの術を使える者としての興味からか冷静の状況を分析していた。

 そんなヴォルフラムを見ながらジンはこの男が本当に強い戦士であることを再確認していた。額には大粒の汗が浮かんでいる。痛いのであろう。だが、そんな様子を微塵も見せることは無い。それに、その左腕を落としたのはジンなのであろう。しかし、そのことについて一言も言及が無い。


「おお、繋がった。うむ、動く。今は痺れておるが時期に調子も戻るであろう」


「失血していますので、しばらくは安静にしていてください」


ジンはヴォルフラムの盾を修復して差し出した。


「ぼるぼる こめんなさい」


ヴォルフラムはまだ痺れる左手で受け取ると、残った右手でジンの頭をくしゃりと撫でる。


「よい、よい。そなたが無事でよかった。しかし、飛び出すのはいかんぞ。ロドヴィコたちがまたかと呆れておったぞ」


 そういうとヴォルフラムは周囲を見渡す。


「それにしても、今回の一件はエルフが絡んでおったか」


 ジンは残されていたエルフの死体に近寄る。死んでいたのは操縦者のエルフであった。その近くにはおびただしい血痕が森の奥へと続いていた。逃げた二人もそれなりの負傷があるようだ。


「これ」


 操縦者の死体は未だ独鈷のようなものを握りしめていた。サークレットもそのままである。回収する暇が無かったのであろうか。その独鈷のようなものを奪うとヴォルフラムに差し出した。


<マスター、オーガの死体をスキャンした結果、体内の魔石に加工した痕跡がありました>


ジンの手元にころりと魔石が現れた、オーガから分離したのだろう。その魔石はビー玉ほどの大きさであったが、その内部には極小サイズではあるものの魔方陣が刻まれていた。それらをヴォルフラムにも見せる。


「ふむ。神域ダンジョンにて似たようなものがあると聞いたことがある。操り人形を操って課題を解かねば先に進めぬというものじゃ。その時にこのような小さな杖と冠を被らねばならぬらしい。エルフどもはその技術を再現する術を手に入れたということか。それにしてもこの魔石、いかようにすれば内部に彫刻ができるのであろうか。魔石自体が脆い故、刃をあてがうのも難しいと言うに」


 ジンにはこの技術に思い当たる節があった。アクリルやクリスタルグラスなどに使われる3Dレーザー彫刻である。地球であるならば百円ショップでも見ることができる。


 車の回転魔法陣にも使用している魔方陣の主な材料は魔石である。魔石を加工して特定の魔方陣を作ればその効果を発揮する。ならば魔石自体に彫刻することでも効果を発揮できるのであろう。しかし、このオーガの魔石は体内にあった。体内の魔石を取り出すことなく加工したのか、一度取り出し、加工した後に体内に戻したのであろうか。


「ふむ。疑問は尽きぬが今は一旦村に戻るとしよう。じきに日も暮れよう」


二人はエルフの死体を含め持てるだけの物証を抱えて村に戻ることにした。


◇◇◇


 リユー村に帰り着くと村の中は兵馬が走り回っていた。ミロルからの増援であろうか、彼らは到着したばかりのようで、生存者を馬車へと運び込んでいた。

 スキャンの結果、村内では未だ瓦礫の下に生命反応が見られる。ジンは最初に見つけた地下室へと向かうことにした。近くにいたニコロの裾を掴むと無言で走った。


「おい、ジン。どうしたって言うんだい?」


 ニコロの問いかけに応えることもなく地下室のある場所に辿り着くと急いで跳ね上げ戸を開けた。中には衰弱してぐったりとした子どもが四人倒れていた。


「こ、これって。……おーい!生存者だー!」


 その光景を目の当たりにしたニコロは力の限り叫ぶ。その声が届いたのか遠くから兵たちが走り寄る音が聞こえた。ジンは再びニコロの裾を引くと走り出した。ニコロもジンのやりたいことが分かるとともに走り出した。


 その後さらに六人の生存者を発見した。いずれも幼い子どもばかりで近くには親であろう大人の死体が転がっていた。その光景を見ながらジンはエルフたちの言葉を思い出していた。


「この人たちが何したって言うんだ。なんで殺されなきゃいけなかったんだ」


絞り出すように日本語で呟かれたその言葉は、誰に聞かれることもなく夜空へと吸い込まれていった。





ブックマークありがとうございます(人´∀`*)

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