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第37話 VS姫騎士

 光学迷彩で姿を消したジンは領主の城の前に立っていた。一〇メートルほどの高さの壁に囲まれた城は虚飾を排し質実にして剛健な佇まいを見せていた。

 広域スキャンで探りを入れると壁の中には広場のようなものがあるようで、そこには大勢の人がひしめき合っているようだ。

 城門から堂々と中へ入ると、人込みを避け兵舎のような建物へ近づく。スキャンの結果、この建物の一階部分と地階に武器庫があるようだ。この建物内にも人はいるようだが、光学迷彩を頼りに内部に侵入する。

 中には食堂があり、その先には長い廊下が続いていた、その廊下の左右にはたくさんのベッドが並んだ大部屋がいくつかあった。

 その廊下を抜けると倉庫のような部屋に出た。目的の武器庫のようである。剣に盾、槍に弓が並んでいた。ひと際ジンの目を引いたのは台車に乗せられた大きなクロスボウ、所謂弩砲(バリスタ)である。

 想像していたより小さいので携帯型であろうか。それでも全長は成人男性の背丈ほどはある。台尻にあるハンドルを巻くことで弦を張るタイプのようだ。


「イル、これを巻き上げるのに回転魔法陣はいくつぐらい必要?」


<三個必要です>


 回転型の魔方陣は送風機を動かす物をコピーしている。一つが扇風機のモーター一つぐらいのパワーだ。それを積層に重ねることによりトルクが上がることが分かっている。単純に足し算と言う訳ではないようなので計算はイル任せである。


「巻くのを自動化するぐらいなら構わないかな」


誰に言うともなく一人呟く。どこまでこの世界に影響を与えてよいものか、未だジンの中にその基準ができていなかった。


 倉庫の壁の向こうからガヤガヤと人の話し声が聞こえる。この倉庫の向こうは広場のようである。近くの壁には大きな扉がある。いざというときはこの扉から武器を持ち出すのであろう。今は内側から閂がかけられ外から開くことはできない。


 ジンは倉庫内を見渡すと奥に地下へと降りる階段を見つけた。階段の幅は広く、大人が三人並んで降りられるほどだ。地下にも人が数人いるらしい。相手が人であるならば光学迷彩で気づかれることは無いだろうと降りてみることにした。


 抜き足差し足で地下へと降りると複数の人の話し声が聞こえる。


「――ぶん減ったな。」


中にはランタンの明かりに照らされて三人の兵士がいた。


「ええ、まだ今の人数なら二ヵ月は持つと思いますが、これ以上増えますと場所の確保が難しく――」


「ん? 誰か来たか?」


一人の女性兵士がジンの気配に気づいたのか、階段の方に視線を向ける。

その声を聴き男性兵士の一人が階段まで来て見上げる。


「誰かいるようには見えませんが?」


「いや、誰かいる!」


「ちょっと怖いこと言わないでくださいよ」


 勘の鋭い人族がいたようである。今までで初めての体験である。ちなみにジンはその女性の足元にいる。

 部屋の中は麻袋がたくさん積み上げられていた。スキャンの結果、ほとんどが麦であるようだ。奥の方にあるのは細々した備品であろうか、外からスキャンしたときに反応した金属反応はこれだったのだろう。


「そこか!」


女性はすらりと剣を抜くとジンの真横に剣を振り下ろす。


「ちょ、危ないですって!」


 部下であろう男性兵士が慌ててその場を飛びのいた。女性は油断なく周りを見渡している。

 これ以上ここにいると見つかりそうな気がしたジンは早々にこの場を立ち去ることにし、抜き足差し足で階段を目指す。


「そこか!」


次に振り下ろされた剣はジンの脳天を捉えていた。蒼い燐光が飛び散ったのを見て残りの二人も剣に手を添える。


「妖精か!?」


「精霊術に姿を消す術があると聞いたことがあります! エルフの手の者かもしれません!」


 ジンは脱兎のごとくその場を逃げ出した。しかし幼児の足ではすぐに追いつかれるようだ。階段を上りきったところで背中から袈裟懸けに斬りつけられる。

 シールドに守られ無傷ではあるが、光学迷彩を見破られたことにジンは動揺していた。彼女は勘だけで攻撃しているのだ。こんな人間が存在することにジンは驚いていた。


「相手は小さい! 風の民(ハーフリング)か!?」


「ハーフリングは精霊術は使いませんぞ」


「ん? よく見ろ! 何か動いてるぞ」


三人の目がジンの腰あたりを見つめる。ジンはその視線を追って自分の腰を見る。どうやら銃をみているようだ。ジンは銃を抜くと左右に振る。すると彼らの視線も左右に動いた。


 ジンの頬を大粒の汗が伝う。今、銃に差さっているマガジンはこの星に降りた後に作ったものだ。彼らにはこのマガジンが見えているに違いない。マガジンキャッチを押すとするりとマガジンが抜け地面に落ちる。ジンを見ていた三人の視線も地面に落ちるマガジンを見つめていた。

 やはりこの世界で作ったものは光学迷彩に対応していないらしい。ジンは銃をホルスターにしまうと、落ちたマガジンを拾う。


「そこだぁああ!」


三人が同時に斬りかかってきた。ジンは防御をシールドに任せ、慌てずマガジンをポーチにしまう。彼らが斬りかかるたびに蒼い燐光が舞った。


「ぜぇ、はぁ、我々はいったい何を斬っているのでしょうか?」


「わ、分からんが、曲者には違いない!」


「斬れぬとあらば!」


 女性兵士は剣を収め中腰に構えると、両手を広げて飛び掛かった。

 ジンはオリジナルのマガジンを装填しなおし、彼らに見えていないかどうかチェックしようと顔を上げる。次の瞬間、ジンは女性兵士にがっしりと掴まれてしまった。


「確保ーっ!」


ジンはジタバタと暴れてみるが幼児の力ではかなわないようだ。


「こら! 暴れるな!」


ジンを抱きすくめる力が一層増す。相手はこちらが見えていないのでどのような体制になっているか分からないのだろうが、もし見える者が見ていたら幼児を抱きかかえて頬ずりしているようにしか見えないだろう。

 ジンは色んな意味で慌てていた。なにせこの女性兵士、言動は荒っぽいがかなりの美人さんなのである。ダーティブロンドの髪をきっちりクラウンブレードに編み込み、チェインメイルにサーコートを着込んだその姿はまさに姫騎士のようであった。そんな女性に頬ずりされてはどう対処してよいのやら分からなかった。

 しかし、このままと言う訳にもいかない。ジンは抱き上げられた状態でしばし思案すると姿を現した。ヘルメットを収納し女性兵士の耳にふぅ~と息を吹きかける。


「ひゃう!」


 彼女はかわいい悲鳴を上げると思わずジンを手放してしまう。ジンはこの機を逃さず、着地すると一気に駆けだした。

 倉庫から広場へと通じる閂のかかった扉まで駆け寄ると自分が通れる大きさの穴をクラフターで開けると広場へと飛び出す。


 そこに広がる光景を見てジンは息をのんだ。広場を埋め尽くす天幕の下には多くの負傷者がいたのだ。その光景はさながら野戦病院のようであった。だが、負傷している者たちは兵ではない。どう見ても一般人にしか見えない。老若男女、あらゆる人が傷つき、うめき声をあげていた。

 そんな中に見知った顔を見つけた。ヴォルフラムである。彼は負傷者に手をかざすとその手に光をまとう。


治癒(キュア)


 その光に当てられた部分から傷がみるみると塞がっていく。聖戦士の聖の字は伊達ではなかったようである。ジンは初めて見る聖術に目を見開いて驚いた。

 その時、ジンの背後からガコンと閂が外れる音が聞こえると、扉を壊さんとする勢いで蹴り開けた女性兵士が姿を現す。


「曲者だ! ひっとらえよ!」


 ジンは一目散にヴォルフラムに駆け寄るとその背後に隠れる。権威シールド発動である。


「おお、ジン殿もこちらに来られておったか」


脇からちょこんと顔を出すジンを覗き見るような格好になっているヴォルフラムを兵たちが取り囲む。


「聖戦士様、曲者です! 精霊術を使うようですお気をつけください!」


「おお、そうか。ジン殿の御業は精霊術であったか。なるほど、そういえば精霊と話しておったのぅ」


 ジンは小首を傾げるだけにしておいた。詳しく突っ込んで聞かれても説明できない。ならばこの波に乗っておくのが楽そうだ。


「せ、聖戦士殿、ひょっとしてお知合いですか?」


「うむ、連れのジン殿である。ワシらを探しに来られたか」


 本当は不法侵入であるが、乗る波は見過ごさない。コクコクと頷いて見せる。

 曲者ではないと判断されたのか、兵士たちは剣を収めるとそれぞれ持ち場へと戻っていく。女性兵士だけはまだ納得いかないようで腕を組んでジンを睨みつけていた。




「ぼるぼる これ なに?」


ぼるぼるとはヴォルフラムのことである。ジンは広場を埋め尽くす負傷者たちを指して聞いた。


「うむ、付近の村でマンティコアが出たようじゃ」



久しぶりの投稿です。

次の投稿もいつになるかちょっとわかりません。

なるべく早く投稿できるように頑張ります(;´Д`)

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