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第36話 ミロルの街

繋ぎ的な話になってしまいました。

 ジンたち一行がゴブリンの襲撃から救った村はロポアという名の村だった。ロルシエ王国北東に位置するこの村は果樹の栽培が盛んで比較的裕福な村であった。主な名産はオレンジで、収穫はすでに終わっておりジンたちはオレンジにありつけなかった。

 ジンは村長からリウル士官候補生の情報をできる限り集めた。

 村長の憶えている限りだと、大きな背負い袋を背負い、全身黒ずくめでジンと同じような服を着ていたという。

 クロスボウのような武器を使い先端から魔法の矢のようなものを出して戦うらしく、その戦いぶりを目にした村人の話では猿のように木々を飛び回り、時には空を飛んだという。目にも止まらぬ動きで妖魔たちを翻弄し、あっという間に倒してしまったという話だ。

 言葉が全く通じなかったため会話にならなかったが、村が出した料理を美味そうに平らげたそうだ。特に甘いものに目が無かったようで、出したハチミツに大層喜んでいたらしい。一晩、村で過ごすと西の街道に沿って歩いて行ったそうだ。


「ふむ。ようやく近づいた感じじゃの」


一緒に聞いていたラウロが髭を扱きながら頷いた。


「村長、近くにレンデンブルグ砦があると思うのじゃが、道を教えていただきたい」


 ヴォルフラムはドワーフの砦に用があるらしい。普段ならば船でロルシエ入りし王都から北へ向かうだけであったが、今回はロルシエの東、ゼノア側からアプローチしているため道が分からないという。


「私も詳しくは分かりませんが、この村より西に一日の距離に領都ミロルがございます。そこでなら詳しくわかると思いますよ」


「うむ、忝い。ジン殿、次はそこを目指すとしよう。車ならばそう時間もかかるまいて」


「いま いく?」


「ふむう。流石に今出ても着くのは夜半過ぎになるであろう。村長、今宵どこかの軒下をお借りできぬか」


「ええ、ええ、どうぞ。今日は我が家にお泊り下さい。質素な村ですが宴など用意いたしましょう」


そう言うと村長は奥さん連中に軽く指示を飛ばす。誰も嫌な顔をしないあたり、この村は裕福な方なのだろう。



◇◇◇



 その夜、村長はヤギを一頭潰してジン一行をもてなした。この世界の人族には"ドワーフを見たら酒を奢れ"という(ことわざ)があるらしく、"当たり前のことをする"、"当然のこと"、という意味らしい。諺に倣い、村人たちが各家の秘蔵の酒を持ち出しヴォルフラムに捧げた。ドワーフの中でも特別な聖戦士に酒を注ぐなど、彼らからしてみれば末代までの語り草にできるらしい。

 宴は村を上げての祭りとなっていた。ジンはその片隅でハチミツ酒を冷えた井戸水で酒精が分からぬほどに薄めた物をちびちび舐めていた。元のハチミツ酒が相当甘いのだろうか、極端に水で割った物であったがそれでも十分に甘かった。


「なぁ、あんた妖精族だったのか?」


そんなジンの元に一人の男がふらりと現れ声をかけてきた。


「ジン アースぞく」


「俺のこと覚えてるか?」


その問いにジンは小首をかしげる。


<コルテアの風呂屋でマスターの荷物を盗んだ男です>


ジンはさっぱり忘れていたがイルが補足してくれる。


「どろぼうさん?」


男は自嘲めいた笑みを浮かべると、後ろ頭をガシガシと掻いた。


「そうだ。あの時はすまなかった。きちんと詫びておかないと、と思ってな」


 ジンに徒手格闘を思い抱かせた事件でもあった。未知の技術は人に良からぬことを考えさせる。あの事件以来、人前で銃を使うことは控えている。


「いまは?」


「今はこの村でまっとうに働いてるよ。もうコソ泥はやめた。あの後、追放令を食らった俺は幸運に恵まれた。神に導かれてると思ったぜ。気がつけばこの村で仕事を見つけて、普通の農民になることができた。そんな村を救ってもらってあんたには感謝してるんだ。」


男は右拳を鳩尾に当てるフェリエラ式の礼をするとジンの前に跪いた。


「この村を救ってくれてありがとう。ガキどもを助けてくれてありがとう」


「がんばる いいことある」


 男の肩をポンポンと叩くと、男は鼻水を垂れ流し泣き崩れた。この男にどれほどのことがあったのかジンに想像することはできなかったが、その光景にドン引きしたジンは静かに男のもとを去り、豪快に酒を呷っていたヴォルフラムの陰に隠れた。ここなら余計なちょっかいを出す者もいないだろう。夜は賑やかに更けていった。



◇◇◇



 翌朝、一宿一飯の礼を村長に告げると村を後にした。言われた通り西の街道を進むと、昼前にミロルの街が見えてきた。高い壁に囲まれたその街はコルテアを思い起こさせた。遠目に見ても賑わっていることが分かる。

 街の門が見えてくると衛兵たちが慌てて飛び出してくるのが見える。馬なしで走る馬車を見たら慌てるのも無理はない。転動、暴走しているとしか考えられないだろう。

 駆け寄ってきた兵たちの前で車を止めて見せると彼らは目を白黒させて驚いた。理解が追いついていない彼らにさらに追い打ちをかけるように屋根から黒い鉄塊が飛び出してくる。


「出迎えご苦労である。我は聖戦士ヴォルフラム。街に入る許可をいただきたい」


「せ! 聖戦士殿ですと!」


何人かは右拳を左胸に当てるロルシエ式の礼を取り跪いたが、慌てた者の中には土下座や五体投地の者もいた。


「そこまで畏まらんでもよいぞ?」


 さすがのヴォルフラムでも引いていた。兵たちは馬なし馬車のことも忘れてヴォルフラムを案内する。こういう時に聖戦士の肩書は無敵だ。彼らにとっても聖戦士はあこがれのヒーローであるらしい、興奮が隠しきれていない。

 門の事務所のようなところに通されると、ヴォルフラムとラウロは領主と面談する流れになったらしくエッダを連れて別室に通された。

 残された者は先に宿の手配をするという名目で解放されている。宿は兵たちにこの街で一番の宿を指定された。

 宿についてみると話が通っていたらしく、宿の従業員が出迎えてくれたが馬なし馬車に言葉をなくしていた。本来であるならば貴賓の馬車は従業員が厩舎に入れる手はずだったらしいのだが、彼らにこの馬車の動かし方は分からない。ジンは自分で駐車スペースに車を止めると、案内された部屋に荷物を置きに行く。彼らに用意されたのは従者用の簡素な部屋であった。高級宿など縁のなかった彼らは少々落胆したが、逆に安心もしていた。

 荷物を置いて一段落するとロビーに集まり今後のことについて話し合う。

 冒険者組は食料の買い出しと情報収集に分かれる。ジンは久しぶりの鍛冶屋巡りである。

 今回こそは板金鎧(プレートメイル)を見つけたい。ヴォルフラムが着ているので存在することは分かっている。しかし、彼の鎧はミスリル製なうえに厚みや構造が人間用には参考にならない。

 今回も鍛冶屋を巡っていては見つからないかもしれない。しかしジンには少しだけアテがあった。ゼノア王都を彷徨っていた時に王城跡で多数のプレートメイルの残骸を発見したのだ。そう、プレートメイルは城にある。ジンは姿を消すと一路、この街の北区画にある領主の城を目指した。

評価頂きました。ありがとうございます(人´∀`*)


仕事で数日家を離れるため、次回の投稿はいつになるかわかりません。

なるべく早めに投稿しようと思います。

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