表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/45

第33話 次の国へ

 王都ゼノアを出発したジン一行は街道跡を辿りながら一路西に向けてひた走っていた。


「ガハハ! 早いのう!」


屋根の上にどっかりと胡坐をかいて座るヴォルフラムはワインを(あお)りながら豪快に笑う。

 実際には時速三〇キロメートルほどしか出ていない。ジンにしてみれば原付ぐらいの速度なのだが馬車にしてみれば早い方である。通常の馬車で時速二〇キロメートルも出せれば早い方である。また、馬車ではなく馬に騎乗した場合、馬や状況にもよるが時速六〇キロメートルは出せる。決してジンの車が早いわけではないのだが、馬車にしてみれば早い方なのであろう。

 しかも、荒れ放題の街道を整地しながら走っているのである。ジンたちの前には鬱蒼と茂った森が広がっているのだが、彼らが進む眼前にはモーゼの海割のように森が割れ、在りし日の街道が現れていく。

 ジンのバイザーにはクラフターによってスキャンされた旧街道跡が色分けされて写されており、ジンはそれに沿って車を進めるだけだ。車体の耐久性をある程度度外視しても車を制作した理由がこれだ。道が良ければそこまで耐久性は気にしなくて良い。道が無ければ作ればよいのである。

 この車自体はまだまだ速度が出せそうなのだが今はまだ様子見である。ブレーキ性能など検証が必要な部分が多く残されている。


「む」


ジンはバイザーに表示された情報に目が留まる。ゆっくりと車を止めるとサイドブレーキを引き駐車。直後、車を取り囲むように壁がせり上がる。


「現れおったか」


ヴォルフラムは斧と盾を構えると斧の石突を屋根にドンと叩きつける。


「やめて こわれる」


ジンはちょろりと天井に登ると叩きつけたられた天井を摩る。


「ぅおお。すまぬ」


 一行はぞろぞろと車を降りると取り囲む壁に作られた足場に登り外を睨む。集落跡が近いのであろう。王都ゼノアを出発してすでに三度目の戦闘である。未だグールの支配域からは脱していなかった。



◇◇◇



 時は少しばかり遡る。

旅立ちを決意したジンたち一行は軍の先遣隊や冒険者たちの前に車に乗って現れた。

 ラウロはジョゼフを呼びつけると書簡を渡す。


「ジョゼフ殿、我らは先に進まねばならぬ。コルテア卿にはこの書簡をお渡しくだされ。今回の件の顛末が(したた)めてござる」


「先へ進むとは? ひょっとして先ほど我らの野菜を集められたのは……」


「うむ。ワシらは故合って旅立たねばならぬ。子細は今は語れぬ。じゃが、いつか必ずお話いたすとコルテア卿にお伝えくだされ。ワシらは今後もこの先の村々を解放しながら進むじゃろう。そちらにも人を割くようお頼み申す」


ラウロの頼みにジョゼフは右拳を鳩尾に当てる礼で返した。次はヴォルフラムが彼の前に進み出る。


「ゼノアを放って行くのは後ろ髪の引かれる思いじゃが、この後にドワーフの戦士団も到着するのであろう。奴らを存分にこき使ってくだされ。ワシが帰るまでゼノアを頼み申したぞ」


「はっ! 必ずやゼノアを守り通して見せます」


ヴォルフラムは彼の肩をたたき、満足そうに頷くと御者台を伝って天井によじ登った。

 ラウロは冒険者たちを集めると、報酬の件などを話し合った。それが一段落すると冒険者の数人が御者台に座るジンの所に集まってくる。


「ジン、短い間だったが世話になったな。俺たちは今回の件で莫大な報酬を得ることができた。これもみんなジンのおかげだ。ありがとう」


ジンはにぱーと笑うと彼らに黙って手を振った。こいつ誰だったったけ? と思っていたのは秘密だ。


「俺たちはこの金を元手に人を雇って、途中通って来た廃村をそれぞれ立て直そうと思ってるんだ。そしたら俺、村長だぜ。また村で田畑を耕す生活ができるなんて思ってなかったからな。本当にお前さんには感謝してるんだ。機会があったら村に立ち寄ってくれ」


 彼ら冒険者は妖魔や魔獣の被害にあった孤児たちがほとんどだ。村を追われ、親を亡くした子どもたちが辿り着く受け皿と言っても良かった。彼らは在りし日を取り戻すことを夢見ていたのだ。

 ジンはこの星に辿り着いて初めて立ち寄った人里、ボザ村を思い出していた。ゴブリンの被害にあっていたとは言え、田畑を耕す人々、草をはむヤギ、土をつつくニワトリ、楽しそうに走り回る子どもたちの姿がそこにはあった。彼らの村もいずれあのような姿を見せてくれるに違いない。そうなれば、この一月近く彷徨った戦いの日々も無駄ではなかったと思えた。


「むら つくる このさき おすすめ かべ つくっとく」


 ラウロも車に乗り込み、全員が揃ったのを確認すると、彼らの未来に幸多からんことを祈りつつブンブンと手を振り、車を発進させた。



◇◇◇



 グールたちを一掃した後、集落跡に入ったジンはまず集落の外円をぐるりと回る。バイザーに表示されたルートに従って進むと集落を綺麗に円形に取り囲む高さ一〇メートルほど壁が出来上がる。

 車があれば早い。あとは東西南北をつなぐ十字の道を作ると、その中央に井戸を掘った。元々村は井戸を中心に作られることが多かったようで、穴を掘ると水脈にあたったようだった。底を眺めているとジワリと水が染み出し、しばらくすると水面に自分の顔が映っていた。

 そこまで作業を終えると夕飯ができたと声がかかる。ここまで作っておけば人が入ってもすぐに村づくりに取り掛かれるだろう。ボザ村の光景を目の前の荒れ果てた集落跡に重ねながらみんなの元に駆けだした。



◇◇◇



 王都ゼノアを発って一〇日後、彼らはネルデ川と呼ばれる大河のほとりまで進んでいた。この川を越えればロルシエ王国である。しかし、彼らの背後にはグールが迫って来ていた。さすがにグールの数も減り、その数は三〇ほどである。

 グールたちを隣国に招き入れることはできない。ジンは素早く橋を作ると川を渡る。橋を作りながら、渡った端から橋を落としてゆく。途中作った橋げただけは残しておいた。

 渡りきると車を止めて先ほど作った橋げたに細い橋を再びかける。その橋は以前作ったように転げ落ちるような仕掛けを施してある。

 グールには大きな弱点があった。泳げないのである。頭まで水に浸かった瞬間、電撃にでも撃たれたかのように動かなくなり溺死してしまう。ネルデ川ほどの大河であれば彼らは絶対に渡れないのだ。

 橋を架けなおすと対岸に風車と連動した音を鳴らす仕掛けを作る。ここから先はゴブリンとコボルドの争う土地らしい。いずれ彼らに破壊されるかもしれないが、ゼノアのグールを減らすぐらいの働きはしてくれるだろう。


 彼らは溺れるグールを尻目に新たな土地へと足を踏み入れた。



10万字突破(゜∀゜)!


次の投稿は29日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ