第31話 故郷
※2017/7/23 第16話のセリフの一部を変更しました。エッダのキャラクター性を元気キャラからお嬢様キャラに変更しました。詳細は活動報告の方に書かせていただきました。
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「さて、色々有耶無耶になってたけど、シールド君出ておいで」
翌日、酔っ払いどもの屍転がる広場の片隅でジンは一人で呟いていた。
<ようやくお呼びかね>
どことなく機械的な男性の声が聞こえてくる。
「詳しいことを聞いてもたぶん理解できないので、できることを聞いておきたいのよ」
<む。君には分からん単語を羅列して遊ぶ気満々だったのだがね。噛み砕いて簡単に説明しよう。シールドは特殊な粒子により作られたフィールドで攻撃を防ぐものだ。その粒子を加速、射出することにより極、単距離ではあるが粒子砲に近い効果を得ることができた。また収束させることにより対象を切断させることもわかっている。だが切断が目的であるなら私よりも腰のレーザー加工機を使いたまえ。そちらの方が効率的だろう>
ジンはレーザーブレードの存在を完全に忘れていた。この星に降りた当初は近接戦闘など考えられなかったので使わなかったのだ。しかし、今となっては生き物を殴り殺せるまでになっている。もう、どれだけの命を奪ったかもわからない。殺すことに慣れてしまっている自分に気づいて寒気を感じる。
「銃もそうだけど、あまり文明の離れた物を人目にさらすのは怖いんだ。これを奪おうとよからぬことを考える輩も出てくるだろうからね。それは冒険者四人とゴブリン退治した時から考えてたんだ。
で、ここに来て素手に見せかけて攻撃できる手段ができたわけだ。これなら奪おうとする気を起こす者もいないんじゃないかなって考えたわけさ」
<なるほど、理解した。今後はこの地の武器を使用した際にもそれらしい効果を付加するように心がけよう。だが、しばらくの間は私も機能を検証しながらになるので注意してくれたまえ。なにせこの機能で攻撃するようには設計されていないのだからね>
「わかった。なるべく検証も早くやろう」
<あと、本来ならば私は君とコミュニケーションをとることも設計されていない。呼ばれなければ私から出てくることは無いと思ってくれたまえ>
その言葉を聞いて、ジンの脳裏に閃くものがあった。
「ひょっとしてクラフター先生も人工知能があったりするの?」
<なぜクラフターが先生呼ばわりか分からぬが、もちろんあるとも。ただクラフターは私よりもかけられた制限がはるかに厳しい。コミュニケーションをとるのは無理だろう>
「そうか、残念だ。いつもありがとうって伝えてくれる?」
<伝わっているよ>
◇◇◇
ジンは日が暮れるまで町の修復をしながらシールドの機能検証にいそしんだ。
まだ、軍は到着しないようだ。あまり時間がかかるようならばこちらから迎えに行くことも考えはじめていた。
日が傾きはじめ、広場に戻る。広場からはおいしそうな匂いが漂ってきていた。今日の晩御飯は鹿のすね肉の煮込みらしい。昨日から煮詰められたすじ肉はきっとトロトロに柔らかくなってくれているだろう。
「おう、ジンどこ行ってたんだ? せっかく一緒にダンジョン潜ろうと思って探してたんだぞ」
ジンを見つけたロドヴィコから声をかけられた。
ダンジョン! ジンの心が躍る。この街にもダンジョンがあるらしい。一度見てみたかったのだ。
「だんじょん! いく!」
「今日は遅いから明日な。もう何人か行ってコレ、取ってきたんだぜ」
そういうと布袋から黒い小さな木の実のようなものを手に取って見せてくれた。
「黒胡椒だよ」
ジンはポカンと口を開けている。なぜダンジョンに黒胡椒があるのかが全く分からない。
「こしょう だんじょん?」
「ああ、ジンは知らなかったか。大体の国の首都ってのは食料生産ダンジョンの上に出来てるんだ。この国のダンジョンの特産は香辛料だったんだ。フェリエラのダンジョンでは胡椒は長胡椒しか取れないからな。他でとれる国とは海を渡らないといけなかったから、これを持ち帰ればフェリエラの人たちは喜ぶだろうな」
遠くでヴェラが寸胴鍋の側面をたたいている。パンが焼き上がったので夕食にするらしい。小麦も少量だがダンジョンで作られていたようだ。
◇◇◇
翌日、王宮の地下にあるダンジョンに入った。
ジンはダンジョンと言われロールプレイングゲームのような迷宮を想像していたがここのダンジョンは予想と全く違っていた。
そこは広い倉庫のような施設で、ずらりと並んだ棚には数種類の植物が水耕栽培で育てられ、マネキン人形のようなものが動き回り世話をしていた。
「ゴーレムには攻撃するなよ。食料ダンジョンの魔法生物は襲ってこない」
カルロがダンジョン初心者のジンに教えてくれる。
一行は生産区画を抜け倉庫区画に入る。そこもまた広大なエリアで麻袋が大量に積み重ねられていた。中には数人の冒険者がすでにおり、麻袋を少し開けては中身を確認していた。袋の中身に何が入っているのか分からないので、今有用なものが無いかを確認しているのだ。
ジンにはこの食品がいつの物かが気になっていた。湿度や気温を管理できてもいくつもの種類の物を一か所に集めて長期保存が可能とは思えなかったのである。
「くさる しない?」
「ん? 食べ物も人もそうだけど、高い濃度の魔力を浴びると腐りにくくなったり人だと寿命が延びたりするんだぜ? だから妖精も寿命が長いし、人も魔法使いとかは寿命が長いんだ。ラウロの爺さんも二〇〇歳はいってるんじゃないか? だからここは魔力が他の場所より高いらしいぜ。俺たちにはそこんとこよくわかんないけどな」
カルロは頭の後ろに手を組んで何気なさそうに解説してくれた。
「だから貴族は魔法を学びたがるのよ。とくに貴族の女性は必死よね」
隣にいたヴェラが補足してくれる。この世界での魔法とは健康法でもあり美容法でもあるようだ。
◇◇◇
その後、手分けして袋の中を確認する作業が続く。ジンはクラフターでスキャンすれば良いので、スキャンした端から内容を袋に印字していった。
「イル、ここに使われてる照明とかだったりスキャンしてるか?」
このダンジョン内には天井に光の球が浮き、生産区画では水が循環し、ファンのようなものが回り空気も循環していた。
<はい。すべて再現可能です>
「まじで? あのファンの回転機構だけは押さえておきたかったんだよ。モーターがあるなら乗り物も作れるかもしれない」
その時、麻袋に印字されたこの世界の文字に目が留まった。その下に表示された字幕がジンの脳裏を電流のように駆け巡る。
「米! 米だぁぁああああ!」
倉庫中にジンの声が響き渡った。
慌てて袋を開くと中身を確認する。その見た目は細長く、ジンの知っているものとはかなり違った。
ジンの声を聴き冒険者たちが集まってくる。中には緊急事態かと剣を抜いているものもいた。
「おこめ! おこめ!」
ジンは両手に米をすくうと天高く掲げていた。
「ジンちゃんお米が食べたかったの?」
ヴェラの声にジンは壊れたおもちゃのように何度も頷いた。
「じゃ、昨日のスープの残りでお昼はお粥作ってあげるね」
満面の笑みで飛び跳ねて喜ぶ姿に冒険者たちからも笑い声が上がる。
すでに時間も昼に近づいていたことから、皆作業を切り上げ食事にすることとなった。
久しぶりに食べた米は想像していた日本米とは全く違い、スープに溶けることもなくしっかりとした弾力を残しており甘みもなくお世辞にも美味しいと言えるものではなかった。しかしジンにとっては間違いなく米であった。
ジンは一口噛み締める度に頬から熱いものが流れるのを止めることができなかった。
場つなぎ的な話になってしまいました(´-ω-`)
ブックマーク5件に増えました。ありがたや(人´∀`*)
次回の投稿は23日の予定です。
↑間違いです。次の投稿は25日の予定です。申し訳ございません。




