第25話 痕跡
※脱字を修正しました。
ヴェーリア跡からほとんどのグールを一掃したジンは、イルの広域スキャン結果に従い、街中からグールの卵を一掃するべく探索を続けていた。
途中、鍛冶屋跡を見つけては残された鉄屑から剣やチェインメイルを作り捨てたり、民家の台所から岩塩の塊を見つけたりして遊んでいた。
居酒屋跡に立ち入ったとき地下から酒樽を見つけ、ワインを一口飲んでみたが、ワインの味がわからないジンには美味しいと思えずすぐさまその場を後にした。
商店跡に立ち入ってはお金を漁る。金貨や銀貨を見つけては拾い集めていたが、あまりに重くなったため金貨を三〇枚ほど腰ポーチに押し込むと残りは置いてきた。
広場を通るたびにグール穴から魔石を集めゴルフボール大にしていたが、これもあまりの重さになってきたので纏めて捨てた。
一通り卵を潰し終えたときには日はとっぷりと暮れていた。夜空には蒼い月が煌々と輝いていた。
そう、この世界の月は蒼いのだ。イルによると成層圏外で観測された月は蒼くないそうなのだが、地上から見上げた月は蒼く輝いていた。おそらくアストラル層とかいう不思議空間がいたずらしているのだろう。
その後、ジンは屋根の抜けた民家を見つけるとそこの竈を借りて夕食を作る。火事を起こしては嫌なのでわざわざ屋根の抜けた家を探したのだ。メニューはここ最近おなじみになってきたパン粥だ。いい加減飽きてきた。そろそろ米と味噌が恋しいが西洋丸出しのこの世界では期待薄である。
食後は日課になりつつあるカンフーごっこを楽しんだ後、今日戦った鐘楼跡に登ってそこで就寝。
夜が明けるとともに街を後にした。
◇◇◇
街を一通り探索したラウロ一行は広場に宝の山を積み上げていた。一番のお宝は大玉の魔石である。広場の隅でラウロの弟子エッダが発見した。これだけでも一財産である。
「この武器、きっとジンだね」
剣を手に取ってニコロが呟く。真新しい鉄製の剣は鍔から柄まですべて一体だ。
「ラウロさんよ、一応集めちゃみたがコレどうするよ? 揉めるぜ?」
カルロは両手を頭の後ろに組むと積みあがった武具を軽く蹴り飛ばす。その言葉に他の冒険者も集まって来てラウロに注目が集まる。
「ふむぅ。そうじゃのぅ。まず魔石は皆で分けよう。先に帰した三人の分も数に入れておこう。今後帰ってもらう者がまた出て来るやもしれぬからの」
「武具はどうする? できれば貰いたい物があるんだが」
他の冒険者たちからも声が上がる。
「武具も欲しいものは持っていこう。しかしあまり重くなると動きが鈍ろう。ほどほどにせよ」
その言葉に戦士たちがチェインメイルに群がる。サイズが合う者、合わない者がいるらしくみんなで合わせてみては交換している。数は十分にあるので奪い合いも起きなかった。
「皆さん、武器は持って行かないんですか?」
山のように積まれた武器に誰も見向きもしないので弟子のエッダは不思議に思った。その疑問には近くにいた冒険者が答えてくれた。
「また森の中を行軍するとなると鞘とかあった方が良いんだけど、ここに無いからな。売ったら良い金になるんだろうが、爺さんが言ったように動きが鈍るのは怖い。命は惜しいからな。できるとしたら今持ってるのと交換だな。もっと小さなダガーか短剣があれば良かったんだが」
「もったいないですねぇ」
エッダは近くに転がっていた両手持ちの大剣を持ち上げてみてはフルスイングして剣に振り回されていた。
「どこか、雨風の当たらぬところに隠しておけばよかろう。帰りに回収するとしよう」
ラウロの一言に歓声が上がる。
「金は金貨だけ分けてしまおう。残りは帰りに回収じゃ。ただし、コルテアからの派遣軍が接収するやもしれぬ。その時はあきらめるのじゃぞ」
冒険者一行は金だけでも念入りに隠そうと話し合い、隠し場所を探して散っていった。
残ったもので野営の準備を始める。形が残っていて頑丈そうな建物を見つけると、そこにバリケードを築き拠点を作り、竈を作って夕食の準備に入る。
「おい! 良いもの見つけたぞ!」
一人の冒険者が酒樽を抱えて帰ってきた。
「ほほぅ。これは年代物になるのう。皆が帰ってきたらヴェーリア解放を祝して乾杯じゃの」
◇◇◇
ラウロ一行がヴェーリアを発って二日後、農村跡を発見していた。この村の中央にも大穴が開いており中にはグールがひしめき合っていた。ただ、今回は風鈴ではなく風車に鈴が付いており軽やかな音を立てていた。
「むぅ。この罠は、ほんに有効なようじゃのう」
冒険者たちは燃えそうな木々を集めると穴に投げ込み火をつける。これはヴェーリアでも行った。グールは息の根を止めておかないと、この穴の中でも繁殖する恐れがある。
「お師匠様、ジンさんにとって、もはやグールは脅威になりえないのでは?」
「ふむ。ワシもそれは考えておった。しかしのエッダ。この穴の大きさ、ヴェーリアと変わらぬ気がするのじゃ。ひょっとするとこの大きさがジン殿の作れる限界やもしれぬ」
「大きさに限界があるとして、問題があるのですか?」
「ジン殿の進んでいる方角じゃよ。……まっすぐゼノア王都を目指しておる」
「……! お師匠様はこの穴を埋め尽くすほどのグールがそこにいるとお考えなのですか?」
「わからぬ。ゼノア王都がグールの大群によって飲み込まれて三〇年。グールは短命じゃからの。さすがにその数を養いきれるほどの食糧がいつまでもこの森にあるとは思えん。現にここまでの道のりでも野生動物を多く見かけておる。……しかし、グールはしぶといことでも有名じゃからのう」
大穴から煙が立ち昇る。髪の毛を燃やすような嫌な臭いが鼻を突いた。
「ジンさんが王都に到着する前に追いつかないといけないのですね」
「ふむ。急がぬと、かなり引き離されておる。もし王都まで行かねばならぬ危険を考えると、諦めて引き返すことも考えねばならぬ」
立ち昇る煙を見つめていた二人のもとにニコロが駆け寄ってくる。
「ラウロ師、報告があります」
「うむ。何かあったかの?」
「ジンの行き先を探っていましたが、どうも行き先を変更しているようです。西北西ではなく西に向かっているようです」
◇◇◇
ジンが農村跡でグールたちを一掃した後、イルから一つの報告を受けていた。
<マスター、付近より微弱ながら電波が発信されています>
「電波?」
<はい。何らかの信号を発信していますが、かなり微弱で内容まではわかりません>
西の空は赤く染まっていた。この時点で動くとすればすぐに夜になってしまうだろう。森のただなかでグールに取り囲まれるのは遠慮したい。奴ら相手に夜を明かそうと思うならしっかりとした拠点が欲しいところだ。
「行こう」
すぐさま行動に移る。いざとなったら穴でも掘って、地中で一泊でもすれば良い。
信号を辿り森を進む。陽はとうに沈み、暗視装置を頼りに道なき道を進む。
そしてそれを発見する。
森の中にぽっかりと開けた空間の中央に五メートルほどの大きさの円筒状の金属塊が蒼い月あかりに照らされ、斜めに突き刺さっていた。
<脱出ポッドです>
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