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第17話 世界と魔法と

ちょっと長いです。

 老魔導士は向かいに座る小さな生徒に語る。


 この世界の歴史は遡れるのは七〇〇〇年から八〇〇〇年ほどになる。しかし歴史はそれよりも更に古いことがわかっている。


 この世界は、始祖神によって創られる。始祖神は大地を創り、太陽を創り、空と海を、森を創った。次に獣を創り、妖精を創り、人を創った。

 始祖神は人や妖精に知恵と言葉を授け、彼らを導く新たな神々を最後に生み出すとしばしの眠りにつく。


 その世界は楽園ではなかった。その世界の中で、人はとても弱かった。爪や牙は獣に劣り、精霊の力を借りる妖精にはとてもではないが敵わず。世界の片隅で身を寄せ合い細々と生きながらえていた。人は神にすがり、その奇跡を顕現する技によってのみ生き残っていた。神の御技は誰しもが使えるものではなかった。神の教えに従い、神に認められたものだけが使うことができた。


 ある日、目を覚ました始祖神は人に道を示した。

それは試練を乗り越えれば力を与えるというものだった。始祖神は各地に試練の迷宮を創り再び眠りについた。

 人は迷宮に挑んだ。迷宮はそれまで見たことがない怪物に溢れ、数々の罠が仕掛けられていた。制覇したものは現在に至るまで一人も出ていないが、そこで人は力を見つけた。"力ある言葉"、それは迷宮の随所に刻印として見られた。

 壁に刻まれた光り輝くその文字を撫でると、読み方と意味を知ることができた。この"力ある言葉"は他の人に教えることでその人も使うことができた。

 これが魔法であった。


 人はその力により栄華を極めた。獣を追いやり妖精たちと戦を繰り返した。

 人はその力に奢り禁忌を犯す。命を歪め魔物を、妖魔を作った。そして、その罪を償う時がやってくる。

 人はより効率良く魔法を使えるようになるために自らの肉体に手を加えた、これが滅びの原因とされている。一説には無限の魔力を得ようと魔力炉というものを作り上げ、それによりくみ上げられた魔力が人の許容量を凌駕し死に至らしめたと言われている。自らの肉体に手を加えていた魔法使いたちは、ある日を境に突如として消えた。

 彼らの悲劇はそこで終わらなかった。次に訪れたのは妖魔たちの暴走である。強大な魔力を持った魔法使いが消えた世界で妖魔たちを抑え込める者などいなかった。

 

 そこからおよそ一〇〇〇年ほど空白の歴史が訪れる。


 人が再び歴史を刻みだしたとき、多くの"力ある言葉"を失っていた。


 迷宮に残された光を失った刻印は再び人に意味を教えてくれることはなかった。


◇◇◇


 そこまで語ったとき、家の中から夕飯の準備ができたと声がかかる。

 日は傾き、夜の帳が降りようとしていた。


 招かれた夕餉の席は今まで見た中では豪華であった。テーブルの真ん中にはパンが盛られた籠があり、席の前には豚のステーキと野菜のスープがあった。

 ジンはこの世界に来て初めてフォークをみた。二股にわかれたそれは、カトラリーとしては大きくオタマやフライ返しのサイズだ。並んでいたナイフもステーキナイフなどといった優しいものではない。人でも殺せそうなほどの大きさだ。

 パンもこの世界では珍しい柔らかいものだった。

 ラウロは豚肉をナイフで切りわけるとパンに挟んで食べる。ナイフとフォークは肉を切るときにしか使わず、あとは手掴みで食べるようだ。

 ジンも真似てやってみる。一口ふくむと口いっぱいに油が広がる。豚に塩コショウを振っただけのものだが、シンプル オブ ベスト、これこそ完成形である。

 パンは地球のものには敵わない。大麦だかライ麦だかのもので大味だ。今のジンには邪魔者でしかなかった。最初に手にとった一切れのパンを片付けると肉に集中する。ビールかオン ザ ライスか、ないものに思いを馳せる。

 スープはキャベツ、カブ、タマネギ、ニンジン、ベーコンが具沢山に入っていた。味はシンプルにコンソメ風味だ。あっさりしていてこれも美味しかった。


 一通り口をつけたタイミングに先ほどの話で気になったことを聞いてみる。


「ちからあることば? まほう?」


「んん? ああ、力ある言葉の事をなぜ魔法と呼ぶかであるかな?」


 通じたことが嬉しく、何度も首を縦に振る。


「これは人の空想の産物から来ておる。昔から天使と悪魔という考えがあっての。

 天使は神の御使いとして、正しき行いをした人が死んだ時、その魂を神の御元へ案内してくれると言われておる。

 対して悪魔は、人が正しい行いができるかどうか、人に試練を与える御使いとして描かれることが多い。

 "力ある言葉"を授かる以前から神の御技を顕現する"神聖術"または"聖法"があった。それに対し"力ある言葉"は試練の果てに得られるものであったため、試練を与える御使い、悪魔にあやかって悪魔の御技、すなわち"魔術"または"魔法"と呼ばれるようになったのじゃよ」


 この世界では悪魔は天使の親戚か何からしい。日本でも地獄の鬼などは獄卒として描かれていたし、それに近いものだろうか、とジンは考えていた。


「まぁ、歴史上、神を見たというものは時折り現れるが、天使と悪魔を見たというものはおらんらしくての、それゆえ空想の産物と考えらておる」


◇◇◇


 食後にお茶を飲みながら、今度は魔法の使い方の話になった。


「ふむ。まずは魔法がどのようにして現れるか、から話さなければの。

 魔法とは手紙のやり取りに近い。人がこの魔法を使いたいと、アストラル層に語りかける。それを受け取ってアストラル層から魔法が送られてくる。

 このように考えられておる。聖法や精霊術も対象が変わるだけで似たようなものと考えられておる。神か精霊か星に語りかけるかの違いじゃの」


「アストラル こわい」


「おお! 空の上から来たのじゃったの。アストラル層を通ったのじゃな?」


「しぬ おもた しろい」


「具体的にどんな所か教えて下され! まだ誰も到達した者はおらぬ筈じゃ!」


「しろい しろい おちた からだ ばらばら」


 流石に伝わらなかったらしくイルに解説を頼む、ここでも精霊と話せるとは、と驚かれた。


「アストラル層は惑星外縁部にありながら呼吸可能な大気層であり、約三キロメートルほどあります。

 その空間内部は全ての光が交じり合い、あなた方には白い空間としか認識できないでしょう。しかし更にその外側と地上からではアストラル層の存在を確認することができないように隠蔽されているようです。

 この層はあなたが言うように膨大な情報を蓄積しており、この惑星において魔力と呼ばれるエネルギーで構成されています」


 えらく達者に喋り始めたイルにジンは驚愕した。裏切りである。学校の長距離走大会で一緒に走ろうと言い出した友人がゴール目前で猛ダッシュを決めたくらいの裏切りである。これでカタコトは自分一人になってしまった。


 ラウロは狼狽えて羊皮紙とペンを持ってくると、今の言葉を記録する。


「ほっほっほっ! 大興奮じゃのう! して、先ほど気になる言葉があった、体ばらばらとは?」


「はい。はっきりと原因はわかりませんが、マスターに何らかの攻撃があったものと推測します。

 この際、管理者、いえ始祖神の干渉により一命を取り留めました」


「始祖神とお会いしたと申されれるか! むぅ。しかし、ただ侵入すると危険ということかの?」


「断定はできません。私にはなんの影響もありませんでした。

 アストラル層は始祖神の個人的な空間と捉えており、我々の規定により始祖神の許可無く詳細な調査はできない状態です。

 現状でアストラル層に対する情報は以上です」


 それからしばらくラウロの質問攻めが続いたがこれ以上の情報は出てこなかった。

 ジンはそのやり取りを聞きながらひとつ気づいた。

イルはアストラル層に関しては以上と言ったがアストラル層から得られた原語データなどの情報には触れていない。

 単に聞かれなかったから答えなかったのか、理由があって話さなかったのか。狡猾なのか融通が利かないのか。


 しばらくすると話が本筋に戻る。


「申し訳ない、魔法をどうやって使うかの話じゃったの。盛大に逸れてしもうたわい。」


 オホンとひとつ咳ばらいをすると再び語り始める。


「アストラル層に語りかける言葉が"力ある言葉"なんじゃ。このとき、顕現させたい魔法により体内より魔力が消費される。また、魔力を体外に放出される際、媒体を用いることにより魔力の消費を大幅に減らすことができる。これは魔銀(ミスリル)に代表される魔法金属か魔物からとれる魔石が良いとされる。」


 そう言うと懐からガラス玉のような小さな石を取り出す。


「これが魔石じゃな。ゴブリンなどの妖魔から採ることができる。一説によると妖魔たちはこの魔石を採るために生み出されたと言われておる。魔石は魔力を込めることもできての、その魔力を使い魔法を使うこともできる。込められる魔力量が大きさによって変わるでの、大きい物ほど込められるので高値で取引されておる。

 ただ、一度魔力を込めると込めなおすことができんでの、しかも日がたつと魔力が抜けてしまう。込めた魔力が抜けてしまうと砕けてしまうので要注意じゃ」


「お師匠様、また話が逸れてますよ」


「おお、いかんいかん。そうじゃな、魔法を使うにはあと二つ。

 次の話に行くとしよう。次は"力の円環"じゃな。これは僅かな魔力を放出しながら宙に円を描く。これでアストラル層とつながる。その後に正しく機能するように"力ある言葉"を唱える。このとき、消費する魔力量を指定して威力を上げたり、射程距離を伸ばしたり、対象を増やしたりもできる。

 これで大凡(おおよそ)魔法は顕現する。

 だか、一番大事なことがある、これで最後じゃ、これこそが重要。魔力を練るという話じゃの。

 人は誰しも魔力を持っておる。じゃが、自分の魔力を操って放出するとなると簡単にはいかん。これには己が魔力に気づき、研ぎ澄まし、鍛え、そして初めて放出できるようになる。これができて初めて魔道の入り口に立ったといえよう」


「まりょく ねる?」


「修行のやり方に関しては簡単に教えてやることはできなんだ。これで食っておる者たちから睨まれるでな。勘弁してくだされ」


「ざんねん」


「修行には時間がかかるでの、生活費など余裕があるものでないと魔法使いにはなれぬというのも、数が少ない理由じゃの」


 冒険者のときもそうだったが、ジンのこの世界の感想は"世知辛い"の一言だった。

 基本的な世界設定をまとめました。

くどくならないようにと思ったんですが、難しいですね(´-ω-`)

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