第16話 ハーブティー
短いです。
※2017/7/23 エッダのキャラクター性を元気キャラからお嬢様キャラに変更しました。(当初の予定よりも大幅に話数を削ったことにより、登場人物にキャラ被りが発生してしまいました。そのためセリフ数の少なかったエッダを変更することにしました。)
ラウロに案内され、彼の自宅へと招かれた。家は出会った場所からすぐ近くで、集合住宅ではなく一軒家であった。木と石でできた切妻屋根の二階建てで、住居は通りに面した側のみ、その奥は人の背よりも高い壁に囲まれた小さな庭を備えていた。
家に入ると小間使いであろうか、一人の少女がいた。ラウロはその少女に来客と茶の準備を伝えると、中庭に面したウッドデッキへと案内する。
ウッドデッキにはロッキングチェアと、テーブル、椅子があった。
ラウロはロッキングチェアに座り、ジンにはもうひとつの椅子を勧めた。
「まずは、何から……、そうじゃの、ワシの事から話すとしますかの。ワシは以前、王立の魔術院で講師をしておりましてな、今はしがない隠居の身にて商家の子弟たちなどに読み書きなどを教えて暮らしております。
まぁ、暇人ですなぁ。暇にあかしてこうして旅の人などを捕まえては話をせがんでおる次第です」
次はジンの番とでも言うようにチラリとジンに視線を送る。
「アースぞく おひとりさま ほし そら せいかつ」
「ふむぅ、アース族とは星空の世界で一人で暮らす種族という事ですかな?」
その言葉にブンブンと首を横に振る。
「ジン さいご おひとりさま アースぞく」
「それは、ジン殿がアース族最期の一人ということですかな」
今度は首を縦に振る。
「失礼だったら申し訳ない。ご家族やその他の人はどうなられたので?」
「しんだ さいがい」
口にして、孤独というものを実感した。
今まではどこか他人事であった。
見知らぬ土地に来て浮かれていたのかも知れない。この星に降り立って、見慣れぬ街並みを歩き、見慣れぬ人々と会話し、見慣れぬ森をさまよった。
孤独を実感した途端、家族、親しかった友人などの顔を思い出し、頬を一粒の涙が伝う。
それを見たラウロは慌てた。相手は外見から年齢を推し量るのが難しい妖精族とはいえ、それでも小さい。それは子どもであることを示していた。そんな子どもがどんな地獄を見てきたのだろうかと心を揺さぶられた。
「こ、これは不躾な質問でしたな、申し訳ない。この通りですじゃ」
そう言って頭を下げる。
そこへ、先ほどの少女が剥いたリンゴを載せた皿を持ってやってきた。
「お師匠様! こんな小さな子泣かせて何してらっしゃるのですか!」
リンゴをテーブルにドンと置くと、やおら師匠を叱り始める。弟子に叱られしどろもどろの師匠。
「だいじょぶ」
ジンはそう言うとリンゴに手を伸ばす。リンゴを両手で持ち、小さな口でシャリシャリと高速で食べ始めたジンの頭を少女はそっと撫でる。
「お茶、もうすぐ沸きますのでもう少しお待ちくださいね」
そう言うと少女は静々と去っていった。
「いや、誠に申し訳ござらん。歳を取ると童心が戻るのか好奇心が勝ってしまっての、いかんいかん」
額をピシャリと叩くと顎鬚を一撫でする。
「それで今はどのように過ごされておられるのかな? どこか寄る辺はおありか?」
「たび とちゅう たすけて よぶ あいず? きく」
断片的な言葉にラウロは髭をしごきながらししばし思案した。
「助けを呼ぶ合図を受けて旅をしている、ということかの?」
その言葉にジンは何度も首を縦に振る。今ので伝わるとは思っていなかったのでちょっと嬉しかった。
「と、言う事はお仲間が生きているかもしれぬと」
「あいず ウスぞく アースぞく ちがう ほしのたみ」
「おお、星の世界には複数の種族がいるという事ですな。実に興味深い」
「ふく ウスぞく ふく おなじ みた?」
対環境防護スーツを引っ張りながらウス族の情報を探ってみるが、最初に話しかけてきた時に見慣れぬ装束と言っていたので期待はしていない。
「いや、見たことも聞いたこともござらんな、力になれず申し訳ない」
そこに先ほどの少女が戻ってきて二人の前に銅製のコップを差し出す。立ち上る湯気からほのかにレモンの香りがする。お茶を配膳すると彼女は自分も椅子を持ってきて、輪に加わる。
「私は弟子のエッダと申します。よろしくね妖精さん」
軽くカーテシーをきめると柔らかく微笑み着席する。しっかりと躾けられたどこぞの御令嬢なのだろうか。
「ジン アースぞく ほしのたみ」
「それでは、ジン殿はそのウス族の方を探して旅をなさっているのですな」
ジンは何度も頷くことで返事を返した。
それからラウロにはいろんな質問をされた、星の世界での生活、どうやって地上に降りたのか、他にはどんな種族がいるのか。
答えられることには答えたが、他は知らないと素直に答えるか、言葉がわからない振りをして誤魔化す。しばらくラウロの質問ばかりを受けていたが、一段落すると次はジンが攻勢に転じる。
「まほう! まほう!」
「ほほう。魔法に興味がお有りかな? よろしい語ってしんぜよう」
髭を一撫ですると、しばし思案する。ジンの幼さ、地上のことを知らぬ様子から察して世界の成り立ちから語ることにした。
長くなりそうなのを察してか、エッダは夕飯の準備に席を立った。
本当はかなり長かったので分けました。次回が長いです。




