第11話 星の妖精
※句読点などおかしなところがあったので修正しました。
食事を終えると奥さんのダリアさんを見舞う。イルの診断によるとまだ余談を許さぬ状況であるらしい。
「あら、ジンちゃんいらっしゃい」
ベッドのそばに寄ったジンの頭を優しく撫でる。呼吸は落ち着いており、その後は昏睡状態になることもなかった。しかし、その手は冷たい。
治療法は見当がついていた。ダリアの顔を見て決心する。先にも医療行為をしていて今更だが、なんとなく人体実験みたいで嫌だったのだ。
ヘルメットを展開すると、ダリアの手とベルナの手をとる。
「イル、ベルナからダリアに輸血は可能か?」
〈はい、可能です。しかし、一瞬で移動させられませんので時間がかかります。〉
「拒絶反応とか、不都合はない?」
〈調整できます。スキャン中、シュミレーション終了。問題ありません〉
「時間がかかる旨を、伝えてくれ」
「私は行います、治療。かかります、時間少し」
二人は顔を見合わせたが、何度もジンの治療は見てきた。頷き合うとジンに身を任せる。
〈実行します〉
しばらく三人は身動ぎもせずじっとしていた。
「ベルナに健康被害が出ない量にしてくれよ」
〈はい〉
五分ほどで終了した。今のところ変化は見られない。ベルナの手を離しダリアの手を両手で握る。
「長い時間、休息、お願いします」
ヘルメットを収納するとダリアの掛け布団をかけ直す。
「ありがとう。あら、凄いわ、頭痛が嘘みたいになくなったわ」
「きゅうしょくおにえがぁいすまー」
「あら、声が変わったわ」
「こっちがホントの声だって。妖精さんだから人族語苦手なのかな?」
その後、冒険者ギルドで三人が落ち合う予定であることを伝え、町の探索に戻ることにした。
はじめから姿を消して外に出ると大通りを目指す。
人の多い場所を選びその会話に耳を傾ける。少しでも言語を習得するためだ。
せめて挨拶ぐらい自分の口で言えるようなりたかった。道行く人がなんと言っているか、単語の意味などをイルに解説してもらいながら頭に叩きこむ。
生前はかなり物覚えが悪い方だったが今はするすると頭に入ってくる。ル・アトが肉体も強化したと言っていたが、その効果なのだろうか。しばらく続けていると聞き取れる会話も出てくる。
日が陰りはじめるまで言葉の勉強を続けた。自分でも驚くほどの成果だ。しかしそろそろ飽きてきたのでまだ夕方には早そうだが冒険者ギルドに行くことにした。
顔を晒して冒険者ギルドに入る。中はむくつけきおっさんたちで溢れていた。その足元を掻い潜りエッツィオを発見した。完全に酔いつぶれ、テーブルに臥していた。テーブルには三つのジョッキがありビールのようなものが入っていたが、泡はなく時間がたっているように見えた。
死んだ仲間の分なのだろう。
彼のテーブルには誰もおらず、周りの人も気を使っているようだ。
ジンはその空いた席に静かに座る。
「おい、嬢ちゃん、その席は――」
髭面の戦士風の男が声をかけてきたが、ジンが人差し指を口に当て、シィーッと言うと男は一つ頷いてそれ以上は何も言わなかった。
高さが合わずテーブルの天板の上からは、目から上しか見えない状態でじっと時がすぎるのを待った。
それから一時間ほどしてダニオがやってきた。ジンは椅子の上に立ち上がり手を降る。
「いやぁ、遅くなって申し訳ありません」
その声を聞くとエッツィオは、ガバリと起きる。あぁ、寝ちまってたかと独りごちると両手で顔をこすり、それでどうなりました? と先をうながす。
「山賊の件、意外な結果になりましたよ!」
と、ドンと革袋を出す。大きさは小さいが重量感がある。ダニオは静かに袋から中身を出す、硬貨がじゃらりと積み上がる。その光景を盗み見ていた他の客から囃し立てる声が上がる。
「金貨が一五枚、中銀貨五枚、小銀貨三枚、大銅貨五枚になりました。武器とその他雑多な物は買い叩かれてしまいましたが、以外にもジン殿の作られた袋が金貨五枚になりました。
編み方が特殊だったらしく鍛冶屋がその製法を知りたいと言い出しまして。それなら織物屋に持ち込むのが筋ではというと、誰も知らない技術を最初に知りたいとか言い出しましてね。
現物があるんだから作り方を知ってる人がいるはずなんですが。まぁ、ふっかけてやりましたよ」
「そりゃまた……。しかし分けにくくなりましたね」
そこでですね、とまず金貨を五枚づつ三つに分ける。
「残りはジン殿ということで如何でしょうか?」
「なるほど、それなら異存はありませんね」
様子をうかがっていた周囲がざわつく。
ジンはそれを聞いて首を振る。そして、硬貨の山から中銀貨二枚をダニオの方へ置く。
「ダリア、ベルナ」
さらに二枚をエッツィオの方へ置き、飲まれることのないジョッキを指さす。
「んっ」
そして、残りを両手で自分の方へもってくる。
「こ、声が違う!?」
「ふっふっふっ。私は娘に聞いて知っていましたぞ。しかし、それでは今まで話していたのはどなたなのです?」
ジンはこうなることを予想して対策を立てていたが、このタイミングは想定外だった。山分け話はどこへ行った。
「イル あいさつ」
「こんばんは。私の名前はイルです」
ダニオは、おぉと声を上げ、エッツィオぽかんである。
「イル ほしの せいれい アースぞく ほしのたみ」
新設定爆誕である。
「ひと ことば しりません イル しります」
この状況を想定して単語は調べていたがまだ流暢には話せない。そういうことでしたか、としたり顔のダニオ。エッツィオぽかん。
こっそりと聞き耳をたてていた周りの冒険者たちは、精霊の声を聞ける日が来るとはと騒然となる。
「おかね! おかね!」
テーブルをバンバン叩く。早くこの話を切り上げないと、浅い設定ゆえに深く突っ込まれると答えられない。
「おお、そうでした。私はいただけません。命まで助けていただいたのに」
「そうだぜ、俺なんか本当に何もしてないからな」
「だめ!」
そこからは平行線だったが業を煮やしたか、カウンターにいた親父がジンの味方をしてくれて二人は折れ、ジンの提案通りに受け取ってくれた。
その後は解散となり、ジンはダニオ家に一泊することになり二人で家路についた。
お金をついに出してしまいました。
武器やキャンプ道具などの値段は海外製TRPGを参考にしています。
ドル表記なのでさらにそれをあれこれして、さらにそれを国ごとに変動させていくつもりです。
まぁでも買い物とかするのは最初だけだと思われます。後半になると……。




