前編
冬の女王、スノゥは季節を巡らせるための塔に入るたびに孤独を感じていた。
なぜなら、他の季節の女王たちには妖精がいたから。
妖精とは、各季節のどれかの能力を持っている存在だ。
春の季節に生まれた妖精は春の女王、チェリィが使える能力を持つことができる。
そして、チェリィに仕えている。
夏や秋についても同じで、夏に生まれた妖精は夏の能力を持ち、秋に生まれた妖精は秋の能力を持つ。
そして、彼らは夏なら夏の女王サニィに仕え、秋なら秋の女王フルゥに仕える。
だから、彼女たちは塔の中に入っても寂しくないのだ。
一度、塔の中に入れば季節の終わりまで塔を出ることは出来ない。
彼女たちは塔の中で過ごす。
その季節の終わりまで何日も何日も……。
だが、スノゥには妖精がいない。
1人寂しく、心が凍りついた状態で塔の中に入り、役目を果たす。
そこには、暖かさなんてない。
今回も、その孤独に冷たさを感じながら過ごす、季節の塔に入るのだ。
しかし、この時は思ってもいなかったことが起こるなんてスノゥでさえ知らなかった。
春が訪れの時期になり、スノゥとチェリィとが塔の中を入れ替わる時に大きな問題が起こった。
チェリィがスノゥに交代を告げても、何一つ返事がなかったそうだ。
チェリィは困り、国の偉い人、国王イズシン53代目に事実を伝えた上で相談をするが、彼らも困り果ててしまう結果となった。
スノゥが塔の中に出ないことを彼らは早急に対処しようとするが、全て失敗に終わってしまう。
その概要は……。
「スノゥ様、もうすぐ春の季節にしなければなりません。 どうか出てきてはいただけませんか?」
「出てこられない理由がございますのでしょうか?」
「スノゥ様……。」
それらを問いかけても返事は返ってこない。
彼ら、イズシン王国の城で働く使用人たちは困り果て、顔を見合わせたが、数秒後には行動を移していた。
使用人たちはどこからか斧を持ち、塔の扉を破壊しようとする。
スノゥを塔から出そうと考えた末のことだろう。
彼らはやる気に満ちた表情をしている。
「よし、壊すぞーー!!」
彼らはその掛け声を合図として、斧を振り上げ扉に振り下ろす。
もちろん、鉄製の斧のために斧に魔法が使われていた。
だが、次の瞬間には斧が凍りつき、人もカチカチに凍ってしまっていた。
それは、使用人たちが斧を振り下ろす時で止まっていたものだから、あとで扉を壊そうとしたことを怒られたそうだ。
ところ変わって、陽の光が入り、部屋の中心が照らされている一室。
そこには、1人の女性と真っ白でフワフワしているキツネがいた。
その女性は白いキツネを膝枕し、その背を撫でている。
気持ち良さそうな表情をしていたキツネが女性の方を向き、問う。
「ご主人様、いいのですか? 塔の中を出て、春の女王様を入れて差し上げなくて……。」
ご主人様と呼ばれた女性は笑みを浮かべた。
「いいのよ。 だって、せっかく私の眷属である妖精が生まれたのだから。 消えて欲しくないもの。」
「ですが、春が来なければ……。」
女性はそこに人々がいたなら震え上がるような笑顔を顔に貼り付けてキツネの問いに答える。
「春が来てしまったら、ユキが消えてしまうわ。 私は知らなかったのよ。」
何かを耐えるような声で続けた。
「冬の能力を持つ妖精は他の季節になると消えてしまうなんて……。 ユキに聞くまで、しらなかったの。」
一筋の涙が彼女の頰を伝う。
ユキと呼ばれたキツネは彼女の肩に前足を乗せ、励ますように涙を小さな赤い舌で舐めた。
伝っていない涙を何度も何度も……。
しばらくして、ユキは澄んだ声を出した。
「ご主人様が気に病むことではありません。 私たちは短い生命しか生きることはできません。 ですが、次に生まれる妖精に繋いでいくのです。」
「何をですか?」
彼女は複雑な表情をしていた。
なんともなさそうに繕っているが、目は悲しみや辛さそんな色んな感情を物語っている。
そして、さまよった手でユキを再びユキを撫で始める。
「冬の女王様、スノゥ様のお傍に行き、少しでも寂しさを紛らわせることを、ご主人様が元気でいることを願っているのです。 ここで言う、あなた様のお傍は心のことです。 あなた様の心を照らし、守ることです。」
だが、ユキの言葉が届かなかったのか、スノゥは悲しみに囚われたまま本音を言った。
「願いや心の守りよりも実際に傍にいて欲しいの。 1人は寂しくて死んでしまうわ。 1人はもう嫌なのよ。 だから、ずっと……傍にいて……。 そのために私はココにいるわ。 一生居続ける。」
“誰かを困らせることに、なろうとも……。”
国中の犠牲に決意を固めてしまったご主人様をユキは見て、自分が姿を見せて近づかなければ良かったのではと後悔した。
彼女を深い孤独から救ってあげたかった。
悲しそうに外を見る彼女の癒しになればと思った。
でも、彼女を孤独から救えても本当の意味では孤独から救えていない。
なぜなら、彼女は誰かを困らせた上で得ようとしているものであり、責務または役目を放棄しようとしている。
ユキはスノゥをどうにかして説得しようとしたが、それは叶わない。
何を言っても聞く耳を持たなくなってしまったから。
心を閉ざしてしまったから。
ご主人様の近くにいる私もご主人様の近くにいない冬の妖精も守ろうと必死になり、塔を出て行くことを一層嫌がった。
心からスノゥ様に冬の妖精について語ったことを後悔する。
戻らない時間が戻って欲しいと願うほどに……。




